俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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カイナホテル

 間違いがない、光輪の向こう側には暴走状態のポケモンが多く存在し、そしてこの召喚主によって此方側へと呼び出されつつある。光輪を抜けてポケモンが解放されたら間違いなく大惨事に発展する。特にこんな、街中でポケモンが暴れる様であれば、被害は無視できない。それを高速で理解した直後には既にモンスターボールを、椅子から横へと滑り落ちながら抜き、真っ直ぐに光輪へと向けていた。開閉ボタンを素早く押して、モンスターボールの中のポケモンを一瞬で外へと叩きだす。

 

「押せ、メルト」

 

「―――」

 

 言葉と共に放たれたポケモンは原生種のヌメルゴン。ただし、そのサイズは十五メートルを超える超重量級のヌメルゴンであり、”受け”としての役割を与えられた、ホウエン遠征パーティーのサイクルの要の一つだ。ただただ単純に巨大であり、そして丈夫なヌメルゴンのメルトの巨体は光輪を超えるサイズを誇っており、出現と同時に光輪の前へと立ちはだかる様に構え、光輪から出現して来るポケモン達の姿を光輪から出す事なく、その重量から来るたいあたりで出現させるどころか一気に押し戻す。何処と繋がっているかは解らないが、レベルはそこまで高くはないらしい。

 

 そう判断し、素早くメルトをボールの中へと戻しながら、片手で砂浜の大地を叩いて体を横へと転がしながら、0.3秒でモンスターボールの交代を終える。

 

「スイッチ―――」

 

 メルトがボールの中へと戻り、その代わりに次のポケモンの入ったボールを手に取り、メルトを繰り出した時の様に光輪へと向ける。あの光輪が物理的現象ではなく、空間的な、エスパー的な干渉であれば、それを遮断すれば問題は解決するはずだ。

 

「―――氷花」

 

 メルトと交代で繰り出されるのは原生種ではなく、亜人種の姿だ。年齢は見た目で二十程、全身を白い着物に包み、地面に届きそうなほど長い赤い帯で着物を縛っている。髪色は水色で、セミロングという風体で、頭には氷の様な突起がある。砂浜を踏むその足は草鞋を履いており、登場と同時に霰が降り始める。ユキメノコ亜人種、氷花だ。

 

「穿ち断て」

 

「御意に旦那様」

 

 片手を持ち上げ、もう片手で口元を着物の袖で隠す様な仕草で氷花がシャドーボールを放つ。威力的には凡俗の領域を出ないそれはしかし、光輪に触れた瞬間にその存在を揺らがせ、キャンセルさせる。バフ、或いは特殊効果のキャンセル効果持ち、徹底的に妨害するタイプのサポーターである氷花が育成されたことで得た能力だ。ただ一回で光輪が消える事はない。やはり、能力が異質すぎるのだろう。光輪の向こう側からポケモンが出現しそうになるが、

 

「ダビデ」

 

「ちゅら」

 

 肩の上からバチュルのダビデが飛び降り、前へと出るのと同時に放電する。降り注ぐ霰に反射し、微弱な電流が乱反射し、敵対する存在が小さく感電し、僅かにその体力が削られるのと同時に、強制的に麻痺が押し付けられる。そうやって動きが鈍った瞬間にもう一度シャドーボールを叩き込み、光輪を今度こそ完全に破壊する。

 

 完了するのと同時に再度ロールから立ち上がり、軽く砂を払いながら帽子を被り直す。

 

「やれやれ、前途多難だなぁ……お疲れ」

 

 氷花をボールの中へと戻し、飛び降りたダビデを回収して再び肩の上へと乗せる。定位置へと戻って来たせいか、ダビデが軽く息を吐いて満足げな表情を浮かべている。愛い奴め、と軽く足を撫でながら、再び椅子まで戻ってくる。確認すればフーパの姿はない。当たり前だ。アレは悪戯をするポケモンだ、”どうにかなる”というのを解ってて実行したのだ。実害が生まれないことを確認してけしかけてきた、愉快犯だ。

 

 そんなわけで、

 

 被害0。

 

 周りは何が起きたのさえ理解していない。

 

 カイナシティは今日も平和である。これで良し。

 

「いや、良しじゃないから」

 

 ナチュラルへと視線を向け、フォークを握り直し、パスタにフォークを絡めながら口へと運ぶ。ナチュラルから説明を求める視線を受けているので、軽くパスタをほおばりつつも、ナチュラルへと説明を始める。

 

「フーパよ、フーパ。悪戯のポケモンの。空間を繋げる能力があってなんでも無節操に呼び出せるらしいぜ」

 

「……で?」

 

「遊び相手を求めるだけの手合いだから基本無視で大丈夫」

 

「無視した結果街が消えなきゃいいけどね」

 

 ほんとうにそれな、そう思いながらパスタを食べ進める。ホウエンへと到着したばかりなのに、既に波乱の予感で溢れている。

 

「―――ORASかぁ……」

 

 ナチュラルに聞こえないようにそう呟く。自分の記憶に残っている、最後のアドバンテージであり、”余計な知識”でもある。こんなものがあるから現在進行形で苦しんでいる、と言っても過言ではないのだ。シンオウ、イッシュ、カロスとこの余計な知識を使って早期に問題を解決というよりは”力技で潰してきた”のだが、どうやらここ、ホウエン地方ではそのセオリーが通じそうにないらしい。未だにセンリがジムリーダーとしてホウエンに来ていないことは確認済みだから”メインシナリオ”の進行まではちょい時間が残っていると考えて良い。

 

 まぁ、それでも、ここまでスピード解決をしてきたせいか、”皺寄せ”がここに集まってくる気がしなくもない。

 

 ―――たとえば今まで出番が潰されてしまった伝説大集合とか。

 

 グラードンvsカイオーガvsレックウザvsパルキアvsディアルガvsレシラムvsゼクロムvsキュレムvsゼルネアスvsヤベルタル神。

 

 まさにホウエン最後の日。帰ってくれ伝説。いや、ほんとうに帰ってくれ。そんな地獄流石に”伝説殺し”でもどうしようもない。しかし、ORASという実機環境で思い出せるのは、伝説の出現場所に存在していたのは”光輪”であり、それを通して本来の主人公は伝説と出会い、戦う事が出来たのだ。一説ではその光輪はフーパのものではないか、なんて話もあるのは、フーパは光輪を通して自由に移動や様々な物を取り寄せる事が出来るからだ―――そう、伝説さえ。

 

 ―――あ、ヤバイ、ホウエン最後の日が想像できちゃう。

 

「ま、滅亡1ドット前って状態になったらアルセウスがなんとかするって事を祈っておくか」

 

「?」

 

「いや、何でもない。それより食ったらホテルにチェックインして、明日から移動だから観光したかったらカイナから離れない限りは自由な」

 

「ん……解った」

 

 そう言って食べ続けるナチュラルの姿を見て、思う―――果たしてまだこの未熟な身で誰かに技を教えようとする自分を見てボスは、サカキは一体どんな感想を抱くのであろうか、と。

 

 

 

 

 カイナシティで選んだホテルはそこそこの高級ホテルだ―――長期滞在するわけでもないのに最高級にしてしまうと、使わない施設が多く、それなりに勿体なく感じてしまうからだ。まぁ、支払いに関しては無駄に浪費しないなら、ポケモン協会から割といい感じの給金が出ている上に、公共施設やポケモン協会と提携しているホテルであれば、チャンピオン特権という事で支払いをポケモン協会が負担してくれる。このホテルの支払いも勿論ポケモン協会側が負担してくれている。そのおかげで色々と予約や支払い作業が楽なのだ。トレーナーカードの提示だけでチェックインも完了するし。

 

 まさにチャンピオン特権。それなりの苦労があるが、相応の見返りもまた存在するのだ。

 

 ともあれ、ホテルのチェックインを完了させてからアシスタントであるナチュラルはカイナシティの観光の為に街へと出て行ってしまった。まぁ、なんだかんだでナチュラルの過去は”監禁”に始まるのだ。だからこそ、プラズマ団から、そして世界へと解き放ち、ゲーチスが見せた世界だけではなくもっと広い世界を見せている。そのせいか、最近ではナチュラルの趣味に散策、或いは散歩みたいなものが追加されている。自分の足で歩いて、新しいポケモン―――”トモダチ”と出会い、話し合い、そしてもっと知る。

 

 自分で積極的にそう取り組む様になって来たところがある。まぁ、それはいい事だ。ナチュラル自身、ポケモンを一体、十分に強いのを連れているし、襲われても正直問題はないだろうと思う。今のナチュラルだったらプラズマ団に迫られても拒否できる程度のメンタルは育っているし。あれでも二十歳の男子だ、心配するまでもないだろう。

 

 それよりも、だ。

 

 借りたホテルの部屋はスイートルームで、ベッドルームやリビングが別にあるタイプの部屋だ。それなりに広い部屋、一旦帽子を脱いで帽子掛けにコートと共に掛けて、体が軽くなったところでダビデの足を右手で軽く撫でつつ、左手で電話を取り、左耳に当てる。電話番号のナンバーを確認し、外線へと切り替えてから別地方ナンバーを入力し、ソファに沈みこむ様に座る。やはり黒尾の尻尾の方がいいなぁ、と思ってしまうのは贅沢を知ってしまったからだろうか。

 

 ともあれ、電話はすぐに繋がる。

 

『ハァァァピィィィィィィィッヒィィィィ!! ナス』

 

「ハピ子さんどうしたの? ヤクでもキメたの?」

 

『友人の芸をちょっと借りただけです』

 

 一瞬だけだが真剣に解雇するかどうかを考えてしまった。流石に薬物ヤってるメイドを育成環境に―――と、思ったが、よく考えたらタウリンタウリンブロムブロムインドメタシン! なんて歌いながらスタイリッシュにポケモンをヤク漬けにするのも育成の一環でやってるのだから、何処にも問題はなかった。今日もドーピングが世界中に溢れているが、世界は平和なので一切問題はない。

 

「んで……そっちの方は調子的にどう?」

 

 電話の先は実家―――つまりはジョウト地方のマイホームだ。基本的に、自分は育成タイプのトレーナーだ。だから手持ちのポケモンは定期的に入れ替え、育成、再育成しながら最終的なスタメンを選ぶのだ。チャンピオンになった時の面子でさえ完全なフルメンバー、という訳でもない。それでもあの面子は育成がほぼ完全に完了してある。マイホームの防衛と、そして後は知人のジムリーダーに貸し出したりで、色々と副収入に役立ってもらっている。

 

 まぁ、イブキとかワタルはスパー相手にゴンさんの貸し出しをしつこく希望して来る。それがレンタルの始まりだったりする。

 

『此方の方は―――あ、はい、ちょっと今お代わりしますね』

 

「ん?」

 

 ハピ子さんの発言に首を傾げている間に電話の受話器が手渡される音がし、直後、向こう側から聞こえる声が変わる。

 

『もしもし、聞こえる?』

 

 向こう側から聞こえるのは割と頻繁にバトルをする相手―――エヴァの声だった。

 

「お、ハニー」

 

『気持ちの悪い呼び方はやめてくれないかしら』

 

「はっはっはっは書類上ではあれ、旦那に対してこの言い分である」

 

『書類上のみね』

 

 お互い、ポケモン協会からのお見合いと結婚コールがあまりにもウザすぎる結果、書類上でも結婚だけでもしておけば回避できるんじゃないか、という結論にいたり、こんなことになっている。割とエヴァ自身、チャンピオンになった翌年に四天王を突破して見事俺にまた敗北しているので、実力に関しては文句なしのトレーナーだったし、これにはポケモン協会もニッコリの結末だった。

 

 まぁ、シロナと結託して書類上だけで結婚を済ますという手段もあったのだが、シロナに関しては”お前まだ男捕まえられないの?”って煽りたい気持ちがあったのでやめた。

 

「んで、そっちはどうなんだ」

 

『平和なもんよ。ロケット団も暴れる様な事はないし、ポケモン協会もネチネチと色々うっさいわ。チョウジジムのジムリーダーに就任しないか、なんて言われたわよ。私、育成型じゃないから正直面倒なだけなんだけど』

 

「ご愁傷様」

 

 向こうは向こうで苦労しているらしい。まぁ、此方ほどじゃないだろう。ともあれ、

 

「エヴァ、今そっちにフライゴンさんいる? ちと必要になって来たから此方に送ってほしいんだけど」

 

『あー……ゴンさんならワタルがスパー相手用に借りて行ったわ。最低で一ヶ月は戻ってくる事はないわよ』

 

「なんてこったい……」

 

 フーパの存在が確認できた今、対ドラゴンポケモン決戦兵器のフライゴンさんを手持ちに是非にとも置いておきたかったのが、ワタルが連れ去っていたらしい。嫌なタイミングで必要なポケモンが手元に来ない―――やっぱり、ここら辺運命力の悪さが影響しているかもしれない。レッドがいりゃあ確実に手元にフライゴンさんが回ってきていたと思う。パルキア、ディアルガ、レックウザ等の対策にフライゴンさんは必須レベルだったのだが……いないならしょうがない。

 

 となると、誰を送ってもらったら良いのか。

 

 アッシュとサザラは駄目だ。あの二人は”超級”のエースだ。あの二人が手札に揃っていると、無意識の内に頼ってしまう。三年前、ポケモンマスターになった時、サカキ戦はそれが原因で敗北した。超級のエースであるサザラ、或いはアッシュ、あの二人を最後に残すように敵を削って行けば、確実に彼女達が敵を倒し、勝利する。

 

 駄目だ、それでは駄目なのだ。頼りすぎは堕落を生み出す。だから手持ちのポケモンを新しくしつつ、頼らないように戦っているのだ。

 

「……じゃあナイトだな」

 

『確か受けからフルバックアシストに転向したんだっけ』

 

「おう」

 

 ナイトはヌメルゴンのメルトが加入した事で再育成し、大幅に役割を変えたポケモンの一体だ。メルトの受けとしての完成度が”高すぎた”のだ。その為、新たに受けを育成する必要がなくなり、ナイトから職を奪ってしまった。だがナイトは受け以外にも相性の良いポジションがあり、尚且つ習得技や経験、頭の回転とブラッキーとしての特異性を合わせ、新たな役割を自分自身に任命する事が出来たのだ。それは極論で言うと、

 

 場に出るのではなく、ボールの中から観察し、アドバイスし、そしてサポートする、トレーナーを補助する役割だ。トレーナーの脳の回転を補助して高速思考による疑似”タイム”を再現したり、長く観察したポケモンならある程度そのデータを解析したり、ポケモンではなくトレーナーを支援するタイプのサポーターだ。公式戦になると6枠の一つに入れないと機能を果たせない様にルールが存在するが、ルール無用の野戦、伝説戦であればそれを無視してサポートさせられる。

 

 とりあえず手持ちに入れておくべき一体だろう。

 

『んじゃボックスに今から預けてくるから、そっちで早めに引きだしてあげてね』

 

「あいよ、助かったわ」

 

『こっちだって施設使わせてもらっているしね、これぐらいお安い御用よ』

 

 エヴァとの通話をそれで終了しながら軽く息を吐き、窓の外に広がるカイナシティの姿を眺める。

 

 今はまだ、平和な街の様子だ。だがカイオーガが出現すれば”近づいただけで沈む”だろう。グラードンにしたって接近するだけで”人が干上がる”だろう。ホウエン地方の伝説、災厄とはそういうものだ。純粋な戦闘力はディアルガやパルキアの方が上かもしれない。だが殺戮者としては非常に優秀だ。

 

 文明を一つ終わらせるには十分すぎる存在だ。

 

「ま、これで最後の義務が終わるんだ。頑張りますか―――」

 

 今日一日は休息、明日からはコトキタウンを抜け、カナズミシティへと向かう、旅が待っている。




 氷花(ユキメノコ亜人種)
  霰起点で妨害型サポーター。上昇解除、付与効果解除、ダークホールとか覚えている徹底的にウザイタイプ。しかも擬似いたずらごころ完備でウザさは加速する。ある程度の特攻があるので、竜、飛行に対するプレッシャーでもある。

 メルト(ヌメルゴン)
  15m級の超重量級のヌメルゴン。攻撃力を殺した退化としてぬめぬめを防御力に転用、接触技からのダメージをある程度受け流せる上に、接触技を喰らった時限定で持ち物破壊までする。設置無視と設置解除技を覚えている。ただやはり火力は死んでいる子。ナイトのお仕事奪いました。

 ダビデ(バチュル)
  体長10cmの小さな勇者兼マスコット。場に出た時まきびしやステロの様な小規模割合ダメージを発生させる。天候が霰か雨の場合は追加で相手を麻痺にさせられる。タスキ潰し、固定削り、麻痺撒きがお仕事。なお元がバチュルなので耐久や火力はお察し、しかし才能を全て回避能力に捧げたニンジャタイプ。

 ハピ子さん(ハピナス)
  オニキス家のメイドさん。こっそりしろいハーブをヤってる。あくまでもしろいハーブであって危ない薬ではないので法律的にはセーフ。なお好物はタウリン。

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