俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsツツジ B

「―――さて、状況は5:4でこちら有利だ。このままリードを維持するぞ」

 

「させません、少々驚きましたがここから巻き返させてもらいます!」

 

 カナズミジム、ジム内のフィールドでツツジと正面から相対する。こっちはピカネキが落ちた代わりに、ダイノーズとユレイドルを葬る事ができた。先発という役割はバトルを引っ掻き回し、そして次のポケモンへとつないでアドバンテージを稼ぐ事を役割としている。あのダイノーズの性能がどういうものかは解らなかったが、それでも早期に潰せたという事は出番を考えなくてもいい、という事だ。リードは取っている、ならここから詰める勝負だ。

 

「行け、ミクマリ―――」

 

「リッパァ―――!!」

 

 ミロカロスのミクマリを繰り出すのと同時に、ツツジがフィールドに繰り出したのはカブトプスの姿だった。ただ、普通のカブトプスではなく、その両手の鎌はもっと禍々しく、殺傷する事に特化して鋭く、そして歪な形をしていた。原生の変異個体だろう。おそらくはカブトプスが切り裂く事に特化して生まれた個体―――初見、見たことのないポケモンだ。おそらくは隠し手の一つだろう。が、それでもやることは変わらない。

 

「さぁて、新人が働いたのよ。プロフェッショナルとしてはビューティフルにやらないとダメね。そのために自分を売り込んでこのステージに来たのだからね」

 

 ミクマリの登場と共に天候が雨天へと変更し、降り注ぐ雨がアクアリングへと変質してミクマリの姿を強化する。水のヴェールがあらゆる脅威からミクマリを守りに入る。それに対して登場したカブトプスは息を吐き、殺意を凝縮しているように見える―――必殺タイプのポケモンだろうか。

 

 ―――一手見る。

 

 無言で指示を繰り出す。それに呼応する様にミクマリが守りに入り、直後、カブトプスが一瞬で踏み込んでくる。その動きは”武術”の動きだ。人間が上位の存在を狩るために使用する動き、それを使いやすい様に部分的に盗み、組み合わせ、そしてそれでカブトプスは一瞬でミクマリに踏み込み、そしてすれ違う様に斬撃を繰り出した。繰り出された美しい斬撃はミクマリのまもるを破壊し、その向こう側で身を守っていた体に斬撃を突き通す。必殺の一撃、守り貫通の刃がミクマリの体を切り裂き、

 

「―――首の皮一枚って所ね……!」

 

 首の皮一枚でミクマリが耐え抜いた。即座に食べ残しとアクアリングでミクマリの体力が回復して行くが、それでもカブトプスの次の一撃には耐えられないのは目に見えていることだった。だが最低限、雨乞い起点とアクアリングの設置だけは完了した。それだけ仕事をすれば十分だ。流れる水に乗ってミクマリがボールの中へと戻ってくる。ボールをスナップで交換させながら次のボールを手に取り、ノータイムで繰り出す。

 

「氷花」

 

 氷・ゴーストというタイプを持つ氷花と入れ替わり、天候が雨から霰へと変化する。そのまま攻撃を続行する予定だったカブトプスの動きが一瞬だけ硬直し―――次の瞬間にはストーンエッジを繰り出すために岩の刃をその鎌に纏う。

 

「一手目」

 

 金縛りの閃光が響く―――カブトプスの切り裂くが封じられるのと同時にストーンエッジが氷花に突き刺さる。だがヨロギのみによってその威力は削がれ、軽減される。そしてその状態から氷花が先手を奪って鬼火を浮かべ、それをカブトプスへと叩きつけた。

 

「これで機能停止ですね」

 

 二撃目のストーンエッジが氷花に突き刺さり、氷花が倒れる。だがやけどに金縛りを受けたカブトプスは完全に機能が停止していると断言しても過言ではない。

 

『ラムのみじゃねぇ? やっぱラムのみは”ゲンシプテラ”の方に回しているのかもしれねぇな。機能停止したけど一応解析完了したんで言っておくけど、あのカブトプスは”きりさく”に特化してる。追い打ち効果、まもみき貫通、身代わりも貫通してくるから守りに入るのは下策っぽいぞーまぁ、もう関係ないけど』

 

 メインウェポンを封じて火傷を与えた今、カブトプスは詰み起点として使える相手だ。相手も同じことを考えるだろう、だからここは相手も引く。これを利用して、こちらから攻める一手を差し込んで行く。そろそろ”頃合い”だろう。モンスターボールが興奮と戦意に揺れているのだ―――求めているのであれば是非もなし。

 

「戻ってくださいリッパー―――行きます、ボス!」

 

 相手がボールからポケモンを繰り出すのと同時に、氷花を戻し、そして掌の上にボールを置く。アクアリングは解除されたが、まだ天候はこちらが握っている。

 

「さあ、競技の舞台では初登場だ。力を示せ―――ツクヨミ」

 

 掌の上に置いたボールがはじける。反物質の理を身に纏って、その本来よりもはるかに弱体化したが、それでも”超級”の領域に立つ、伝説のポケモンが出現する。闇色のオーラを纏い、切り裂きながら黒と白に包まれた金髪の女が出現する。伝説種・ギラティナ、シンオウ地方において”やぶれたせかい”に封印された反物質の女王、その伝説級の力を封じ、一般のポケモンと戦えるレベルまで弱体化した、その姿がそこにはあった。対する彼女と相対するのはボスゴドラの亜人種、全身を鋼色のプロテクターを装着した姿をしており、その眼はまっすぐ闘志を持ってツクヨミを睨む。

 

 オリジンフォルム、大人をモデルとした本来の姿、その姿で登場したツクヨミは首元の鎖を揺らしながら笑う。

 

「天候? 相性? 上昇差? 小賢しいぞ。何かを支配するのであればいちいち細かく握るな、支配するなら世界を支配せよ! 出でよ我が世界! 我が異界! 来たれやぶれたせかいよッ!」

 

 フィールドに足音を響かせる事もなく、一切の衣擦れの音を響かせる事もなく、ポケモンとしては異様とも言える雰囲気を、オーラを纏ってツクヨミは登場した。その美しさは既存のポケモンの範疇を超え、登場するのみで圧倒し、そして魅了する。だが同時に天候が飲み込まれ、そしてフィールドが変質して行く。ジムという環境が、フィールド全体を飲み込んで、逆様の理によって支配される、反物質の世界へ、

 

 フィールドが”やぶれたせかい”によって上書きされた。

 

 それがこのフィールドを支配するルールとして定着された。

 

「レギュレーションのせいで天候と同様に50秒(5ターン)のみとなっておるが、蹂躙するには十分すぎるであろう?」

 

 返答の代わりにボスゴドラが接近してくる。そして一定まで近づいたところで飛び退き―――そしてゆきなだれを呼び寄せる。虚空から出現したゆきなだれがツクヨミのドラゴンタイプの弱点を的確に穿ちに来る。その前にツクヨミは片手を持ち上げ、そして天に掲げる。”竜星群”が呼応する様にやぶれた世界の中を割くように天から落ちてくる。だが、それよりもボスゴドラの動きの方が早く、

 

 ゆきなだれが衝突する。

 

 的確な弱点への攻撃、しかしそれは、

 

「悪いが―――今一つだ……!」

 

 ”こうかはいまひとつ”に変換され、そしてそれに驚愕した直後のボスゴドラにりゅうせいぐんが衝突する。本来は今一つのタイプ相性。だが、

 

 フィールドを支配するのはやぶれた世界の法則。

 

 バトル用に調整されたそれは単純に法則を切り替える。

 

 つまり、効果抜群を今一つに、今一つを抜群に、一方的にそのルールを押し付けるのだ。本来であれば”あまのじゃく”の効果も付与しておくのだが、それは少々やりすぎだと判断されたため、相性掌握の効果にのみ留められた。が、それでも、擬似的にさかさバトルを挑んでいるのと同じような効果になるのだ、元々それ用にパーティーを組んでいないのであれば、対処はほぼ不可能に近い。

 

 そして、

 

 りゅうせいぐんを放った反動を利用して逆様の理をツクヨミが支配する。その姿は大人の姿から子供の姿へと―――オリジンフォルムからアナザーフォルムへと変化する。攻撃的形態から防御的な形態へと変化し、そしてボスゴドラと相対する。攻撃後に発動するフォルムチェンジ能力。相手よりも先に動くことができれば、交代を絡めて攻撃後の隙を潰すことができる。

 

「ヘイ! カマン! ばつぐんは通じないからタイプ一致でチマチマ削るといいよ! ヘイヘイヘーイ!」

 

「うるせぇ、はよオリジンに戻れ」

 

 アナザーの時はやかましいのが弱点だなぁ、そう思いつつボスゴドラへと視線を向ける。りゅうせいぐんの直撃を受けたボスゴドラの体力はほぼ蒸発し、消滅している。いまひとつ相性に見えるそれがこのフィールド効果で強制的に抜群扱いに変化されたのだ、それもそうなる。ではここからどうする?

 

 ―――たっぷり脅威を見せたら、”是が非でも落とさなくてはならない”と思う。

 

 特に、初見の脅威が相手では。

 

「―――若いな」

 

「しまっ、ボス―――」

 

 迷うことなくツクヨミをボールに戻し、そしてメルトを繰り出す。ボスゴドラのアイアンヘッドがメルトへと叩きつけられ、ボスゴドラのなんらかの持ち物を破壊し、ダメージを受けた反動でそのままボールの中へと戻ってくる。そのままメルトが戻ってきた反動に合わせて再び、ツクヨミを繰り出す。バトン効果によって物理的な攻撃力が上昇する。ボールに戻ったことでフォルムがリセットされたツクヨミの姿はオリジンフォルム―――攻撃的な形態に変化している。繰り出されたツクヨミが登場と同時に影を纏う。

 

『―――速度はこっちの方が上だ、一撃で落とすんだ!』

 

 ボール内からナイトのてだすけが入る。加速され、威力の入ったノーチャージのシャドーダイブがボスゴドラの真下から決まり、その姿を大きく吹き飛ばす。フォルムチェンジが発動し、アナザーフォルムへと変化しながらツクヨミが着地する。

 

「私ってば最高ね!」

 

「そこまでにしておけよ、この程度ならスティングが余裕でこなす」

 

 展開されたやぶれたせかいを悠々と泳ぎ進み、ツクヨミがボールの中へと戻ってくる。これで状況は3:4でこちらリードだ。ただしメルトは毒を受けて、ミクマリは体力が大分ヤバイ。ナイトはタスキを持っているが、攻撃も防御もするタイプのポケモンではなく、ボールの中から支援するのが仕事だ―――つまり、ツクヨミのみが純粋なアタッカーで、ツクヨミが落ちれば詰みなのだ。そう考えるとあまり楽観できる状況ではない。今までの戦い方からツツジが居座りタイプのトレーナーであることは把握した、だったらこちらで読んで攻撃を止めつつカウンターを挟み込めばいいのだ。

 

 ……次辺りでメルトのオボンが消費されるな。

 

 場合によってはそのまま落とされるかもしれないが―――恐れていてもしょうがない。

 

「ミクマリ」

 

「流れを一気に変えます―――お願い、私のエース―――!」

 

 ミクマリを繰り出すのと同時に、ツツジがポケモンを新たに繰り出す。やぶれたせかいが時間経過によって解除され、法則が通常のものへと戻り、雨乞いによって雨が降り始める。その中、雨を”静電気”によって弾き飛ばしながら出現したのは―――プテラだった。そう、通常のプテラではなく、全身に微弱な電流を纏うプテラ、おそらくはデルタ種のプテラだった。去年のリーグで使用した時のデータなら持っているが、今の環境だと、

 

「メガシンカ―――!」

 

 プテラがもっと細身で鋭利な姿に、そして全身からはじけるオーラを纏いながら進化を果たし、デルタメガプテラへと変化する。エースにはふさわしすぎるほどの貫録とそして圧力を兼ね備えている、そんな原生種が出現した。はじけるオーラを纏ってはいるが、おそらくまだテラボルテージには届いていない―――かたやぶりレベルだろうが、それでも特性の無視は凄まじく辛い。

 

「んー、対面不利ねぇ」

 

 メガプテラが雷を纏いながらミクマリへと突進してきた。それをまもるで無効化しつつ、食べ残しとアクアリングで回復を行い、天候のバトン効果によってアクアリングと上昇効果を次へと引き継ぐためにボールの中へと水流と共に流れて戻って行く。ボールをスナップさせ、ミクマリからツクヨミへとボールを切り替える。

 

「さて、どちらが先に切り札を切るか、という所であろうな」

 

 アクアリングと水のヴェールによって姿と体力を保護され、ツクヨミが場に出る。ツクヨミとメガプテラが睨み合うのは一瞬。速度で圧倒するメガプテラが一瞬で先制を奪い、ツクヨミへと接近する。その姿へと向かって伝説種のオーラが動きを奪う様に放たれるが、

 

「ギャァァァォォォゥ!」

 

 かたやぶりがそれを打ち砕く。

 

『やぶれたせかいの展開が少し早かったかもな―――受けたら痛いぞ、避けろ!』

 

「解ってるわ」

 

 メガプテラのストーンエッジをナイトの回避指示によって回避しながら、ツクヨミがシャドーダイブを放つ為に一瞬だけ影の中へと潜り込む。その瞬間、メガプテラが浮かび上がりながら全身からスパークし、光で部屋を満たす。シャドーダイブから出てくるための影を潰すための行動だったが、法則性を無視する様に虚空、メガプテラの背後に影が生まれ、そこからツクヨミが出現した。

 

「元祖であるがゆえに、多少こういう芸当もできる」

 

 一気にメガプテラを叩きつけ、地面へと向かって落下させる。が、メガシンカしたことで得る圧倒的な種族値はその命を救う。攻撃の影響で緩やかに落下して行くツクヨミへと向かってデルタプテラが視線を送り、そして迷うことなくツクヨミへと向かって雷を纏いながらストーンエッジを振う。フォルムチェンジによってアナザーフォルム化したツクヨミでそれを受け止め―――アクアリングで回復しつつ耐え抜いた。そのままの勢いで着地し、

 

『―――タイプは岩・電気だ! ついでに言えば”しゃかりき”でもあるぞ』

 

「なるほど―――なら潰せ、ツクヨミ」

 

 ツクヨミとメガプテラが正面から相対する。相手のタイプを解析したことによってツクヨミ最後の武器が解禁される。迫ってくるメガプテラを正面から睨みつつ、反物質を収束させ、サーチされたメガプテラのタイプ相性を反転させ、弱点でのみ構成されたタイプの黒い、不定形の靄の様な、影の様な刃を生み出す。大きく片手で振るうそれをメガプテラへと向けて振りかぶる。

 

「ヒャッハー! はんぶっしつのつるぎだぁーい!」

 

 後の先を奪い、メガプテラの呼吸の合間を縫ってツクヨミが優先度を奪い、割り込むようにはんぶっしつのつるぎを振るう。サーチされたタイプ―――すなわち電気・岩タイプに対してもっとも効果的であるタイプ、地面タイプをメガプテラ自身のタイプを逆さに反物質で表現することで生み出した。はんぶっしつのつるぎは当たり前の様に抜群の威力をメガプテラに対して発揮し、その姿をフィールドの壁へと叩きつけながら気絶させた。

 

 その反動で再びフォルムチェンジが発生し、葬り去った勢いでくるり、とスカートを軽く広げる様に体を回転させる。

 

「さも恐ろしきは競技のために技を磨くという概念やの。強い技を放てばいい……そう思ってしまう野生には絶対存在しない概念よねぇ……さて、次の相手は誰かしら」

 

 挑発的に笑みを浮かべるツクヨミの姿の前にツツジはメガプテラをボールの中へと戻すが、そこで動きが止まる。数秒間、ポケモンを繰り出すわけでもなく、目を閉じて考える様にしぐさを取り、そして目を開く。

 

「詰み、ました……負けを認めます……」

 

「ふぅ、お疲れ様」

 

 ツツジがギブアップしたところで、この試合が終了した。勝因は間違いなく序盤でペースをもぎ取ったことだろう。

 

 すなわち、

 

 ピカネキMVP。




やぶれたせかい
 受けるばつぐんをいまひとつに、与えるいまひとつをばつぐんにする。当初は天邪鬼搭載予定だったがアームロックと共に”それいじょういけない”のコールで自重された。5T継続1試合1回。

はんぶっしつのつるぎ
 相手のタイプが判明している場合、対応する弱点のダメージを与える。数値的には威力200の命中100、反物質なのでタイプ一致扱いというバグ技。1試合1回。公式試合には出してもらえない理由その2。

 この試合分のデータだけ再作成終わったので、キリがいいところまで執筆ってことで。

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