俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsツツジ A

 良い天気の日だった。

 

 朝は問題なくすっきりと目覚められたし、ツクヨミは我儘を言わずにボールの中に入ってくれたし、そしてピカネキも試合に向けて軽く緊張しているらしく、いつもよりも静かにボールの中に納まっていた。これから行うバトルがピカネキのデビュー戦になるのだ、そりゃあ緊張するだろう。

 

 ともあれ、準備は完了している。だから視線を前方へと向ける。

 

「今日は対戦の時間を作ってくれてありがとう」

 

「いえいえ、はるばるジョウト地方の方から来てくださってるチャンピオンに挑戦する絶好の機会です。こんなチャンスを一人のトレーナーとして、逃す事は出来ません。今日は互いに制限はゆるめなので、楽しくバトルをしましょう」

 

 カナズミジムの前で制服姿のジムリーダー、ツツジと握手を交わす。トレーナズスクールの在校生である彼女は一部授業や単位を免除されており、その代わりにジムリーダーとしての仕事に従事する事を義務付けられている。学業とジムリーダー業を両立している。この年齢でそれをなしえているのは驚愕すべき事実なのだが―――赤帽子というぶっ飛んだ例外を知っているから、”まぁできるんじゃね?”と思ってしまうのは致し方ない事かもしれない。ともあれ、ツツジと握手を交わしてそのままジムに入りつつ、ナチュラルへと視線を向ける。

 

 ナチュラルはダイゴと一緒にいる。今日は観客席側で二人一緒に見る予定だ。ツッコミ役が減るのは寂しいよなぁ、なんて事を思いつつも、そのままカナズミジムの扉を抜けた奥へと、挑戦者用のバトルフィールドへと向かう。此方が入口側に近いエリアに陣取る様に、奥の方にはツツジが陣取る。センリのいるトウカジムとは違い、カナズミジムはトレーナーズスクールが近い事もあり、かなり大きいジムになっている。フィールドもジム側有利な荒野風のステージとなっており、ジム戦を見学できる客席は結構広く、二階から見下ろすように囲まれている。

 

 まぁ、チャンピオンの情報なんてバレてナンボだ、見られる事に思う事はない。

 

 反対側に立ったツツジは自信を持った表情で立ち、モンスターボールを握る。既に準備を終わらせているのは此方だけではなく、彼女もそうなのだろう。それに無駄に言葉を飾る必要もない。トレーナーはバトルを通して語るべし。故に自分もモンスターボールを手に取る。それを見ていた審判をするジムトレーナーがフィールド外側、中央ラインの前で両側を確認して頷く。

 

「―――それではカナズミジムジムリーダー、ツツジさんとカントー・ジョウトチャンピオンオニキス氏による練習試合を行います。バトル……スタート!」

 

 開始と同時にモンスタボールを前へと投げ、ポケモンをツツジが繰りだしてくる。それに合わせる様に此方もボールを握り、”はじけるオーラ”を纏う。そしてそのまま、薙ぐ様にボールを滑らせ、素早く中にいるポケモンを前方のフィールドへと向かって放つ。そうやってフィールドに出現するのは二体の原生種のポケモンだった。相手側のフィールドに出現するのは巨大なモアイの様な、青と赤のポケモン―――ダイノーズだった。

 

 それに対して此方に出現するポケモンははじけるオーラをその身に纏い、回転しながら両足と片手を大地に付け、テラボルテージを発動させながら中指をダイノーズへと向けてからフィールドに唾を吐き、親指で首を掻っ切るジェスチャーを見せる。

 

 ―――先発、ピカネキ。

 

ゴリッ(クズめ)……ゴリゴリ(いわ・はがねとか)……生きてて恥ずかしくないの?」

 

「―――」

 

 一瞬でダイノーズがピカネキの挑発に引っかかる。というか九割の生物は大体引っかかる。というか最後の方お前普通に喋っているだろ、そういうツッコミは一切入れてはいけない。なぜならこの瞬間、ピカチュウの顔をかぶったバケモンが出現した為、ツツジの動きが完全にフリーズしてしまい、ダイノーズに対する指示が発生していないからだ。この程度のカオスで思考を止めるとはあまりにも未熟。故に、

 

「―――ピカネキ、ゴリテッカー」

 

 ノーガードの構えがダイノーズとの逃げ場のない殴り合いを呼び起こす。

 

 拳を構え、雷撃を自分の体へと落としたピカネキがゴリテッカーを纏って雷撃に輝きながら真っ直ぐダイノーズへと向かって突き進む。その動きを見て本能的にポケモントレーナーとしてツツジが動く。混乱したまま、体が勝手に理解できない存在から逃れるためにボールを出し、交代の動きへと入る。が、

 

 逃げる姿をピカネキの腕が追い討つ。

 

 追い打ちの効果が付与されたゴリテッカー、その太い腕がラリアットの様にダイノーズの鼻の下に叩き込まれ、そしてそのままモンスターボールの中へと叩き戻すように殴り飛ばす。射出される様にモンスターボールの中へと叩き戻されたダイノーズはその勢いが尽きる事無く、モンスターボールそのものがツツジの手から弾かれ、後ろへと飛んで行き、壁へと叩きつけられて動きが停止する。そこでナイトの声が聞こえる。

 

『―――ありゃぁ瀕死だな』

 

 相手にとっての理解外の完全奇襲でダイノーズを葬り去った。片手で帽子を押さえ、見られないように軽く俯きながら小さく笑い、そしてピカネキへと視線を向ける。ダイノーズの必殺に成功したピカネキが勝利の雄たけびにピカチュウの鳴き声を響かせながらガッツポーズと共にビルドアップを披露する。

 

 観客席からの阿鼻叫喚の悲鳴がピカネキを包む。

 

『完全に悪役ですわこれ』

 

『悪役じゃない、もっとひどい何か』

 

『んっんー、実にビューティフルな出だしじゃない』

 

『お、おう』

 

「ははは……テラボルテージをギリギリで詰め込んでおいて正解だったな、今のダイノーズは”がんじょう”か」

 

 相手側から戻ってくる様にバックステップを取るピカネキを確認しながら相手のダイノーズの能力について予測する。解析前に倒してしまったが、それはそれで問題はない。何せ、ピカネキのコンセプトは”先発”と”サポート殺し”なのだから。繰り出して発生する挑発による変化技封じ、そして準奥義級の威力を発揮する上に追い打ち効果が発生するゴリテッカー、回避を許さないノーガード、そして相手の特性を無視して殴り合えるテラボルテージ。

 

 次のポケモンへとつなげるためにステルスロックやまきびし、解析、天候起点、そういうポケモンが先発には好まれている。

 

 それに対する徹底的なメタがピカネキのスタイルだ。挑発の効果によって先発の環境構築の一手を封じ込め、そして温存する為に戻すようならそれを読んで追い打ちゴリテッカーでそのまま潰す。相手が不思議な守りや頑丈だなんて関係ない。テラボルテージでそこらへんを無視してゴリ押す。読んでサポートや先発相手にぶつける事が出来れば、ほぼ確実にゴリテッカーで相手を潰す事の出来る、サイクルカットが役割だ。

 

 ただそのせいか、天候適応などとは相性が悪く、天候バトンは組めない。徹底してサイクルをテロって破壊する、そういうポケモンに特化するだろう。

 

「―――そ、それ、本当に……ピカチュウですか? いや、やっぱりご、ゴーリキーですか? ゴーリキーに仮面をかぶせているんですよね?」

 

 漸く復帰したツツジがゆっくりとダイノーズのボールを回収しながら、ピカネキへと指を向ける。それを受け取ったピカネキが指を回避する様にブリッジをし、そのまま横へとカサカサと動く。

 

「ひ、ひぃっ」

 

 ツツジの悲鳴が聞こえた瞬間、ピカネキの動きが停止し、そして笑顔の状態で立ち上がる。どうやらツツジの悲鳴を聞いてテンションが上がってきたらしい。その場でスクワットを始めた。試合中なのに猛烈に蹴り飛ばしたくなって来た。

 

「え、えぇい! 悩むのは後にします! 理解出来ないことは”理解できないと理解します”、データとしてのみ認識するなら―――」

 

「おっ」

 

 流石ジムリーダー、切り替えが早いな。そう思いながらツツジが繰り出してきたポケモンは―――全身を緑と茶色のパーカーを被るように姿を隠す、背の高い亜人種の姿だった。すぐさまそれがユレイドルと見ぬき、ピカネキに指示を繰りだす。ツツジ側もピカネキを理解できない存在だと断じて理解したため、”無駄に姿や言動を考えないように考えを切り離した”のだろう、鋭い、本来の指示能力が一瞬で復活した。

 

 だが、それでも年季でもポケモンの速度でも、実力でも此方の動きの方が早い。

 

 一瞬でユレイドルへと接近したピカネキが顔面に蹴りを叩き込み、そのまま体を飛ばし、”ちゅうがえり”を繰りだした。バトン効果がないなら、交代技で素早く去るしかない。ボルトチェンジがガードされそうな状況、取れる交代技は電気タイプ以外のものだ。故にちゅうがえりでピカネキを交代させ、

 

 ピカネキをボールに戻すのと同時に次のポケモンを繰り出す。

 

「メルト―――」

 

 メルトが繰りだされ、ユレイドルが放ったどくどくをまともに受ける。超耐久のメルトを交代読みで潰しに来たのだろうか? いや、その判断はいい、メルトはそもそも露出している時間は少ないから毒の影響はそこまで辛くはない。だが喰らったのは変化技だ。これではバトン条件を満たす事が出来ないし、交代も出来ない。

 

「―――セット」

 

 メルトが吠える。天候が変化する。一瞬でジムの中が星天の輝く夜へと一気にシフトする。

 

「良し!」

 

 ユレイドルがドわすれを積む。メルトが受け役である事を事前知識から知っているのだろう、故に攻撃を繰り出さなければ交代もしないのは正しい。だが星天に適応するメルトはバトン効果が発動し、

 

「スイッチバック―――」

 

 ボールの中へと相手の行動の終わりに戻って行く。ボールの中へと戻したところでボールを転がし、スイッチさせ、そして再びはじけるオーラをボールに纏わせ、その中にいるポケモンを勢いよく繰りだす。テラボルテージを纏ったピカネキが再び中指を突きたてながらフィールドの上へと降り立ち、ユレイドルを挑発した。再び登場した異形の姿に観客席から嗚咽と涙と悲鳴がファンファーレの様にピカネキに降り注ぐ。

 

「スコアを稼げるだけ稼いでみろ」

 

 繰りだす指示に従って一直線に敵へと向かってピカネキのゴリテッカーが反動を生みながらユレイドルへと突き刺さった。が、来る事を今度は理解していたツツジの号令によってユレイドルがくいしばって紙一重で耐え―――そのまま大量の岩を流れる様に叩きつけてくる。いわなだれの前にピカネキが一瞬で飲まれ、タイプ一致によって強化された威力が一瞬で防御力も体力も低い体から気力を奪い去って行く。一瞬で瀕死になるほどのダメージを、

 

 ピカネキが根性で耐えて持ち直し、戦闘を続行する。

 

 いわなだれを突き抜けた先に見えたユレイドルへと捨て身の一撃を―――ゴリテッカーを叩き込む。テラボルテージによって特性等を無視しながら叩き込まれた雷撃と格闘の組み合わさった必殺の一撃がユレイドルの首を捉え、そしてその姿をフィールドの反対側の壁へと叩きつけるのと同時にサムズアップを天に掲げ、そのまま白目を剥いて瀕死になる。

 

「ピカチュウの概念を疑いたくなりますね」

 

「俺も悩んだ結果考えることを止めたよコイツに関しては。お疲れピカネキ」

 

 デビュー戦で先発を含めて二体落とす事に成功したのだ、大金星と評価しても間違いはない。後はここから、ピカネキが序盤に捥ぎ取ったリードを維持しつつ、中盤戦と終盤戦を制するのだ。状況は5:4、理想は6:4で中盤戦に突入する事だったが、ピカネキ一匹で敵を二体落とせたので十分だろう、それ以外の被害もメルトの毒状態で留まっている訳だし。

 

 となるとここからが本番だろう。ツツジ側としてはここで最低でも4:4のイーブンにまで状況を持ち直さないとここから先、逆転する事が出来ずにズルズルと戦いを引きずってしまう。

 

 ―――場合によってはエースの投入タイミングと考えてもいい。

 

「さて、と。お互いに次の一手を読みながら打つとするか―――」

 

「勉強させていただきますが―――負ける気はありません!」

 

 良い勢いだ。そう思いながら、自分も割と年を食っちゃったんだな、そう小さく息を吐きながら次のボールを手に握る。状況は中盤戦へと入りそうな所だ。このリードを維持したまま状況を固めるため、

 

 ―――ポケモンを繰り出す。




 ポケモンカードの技はオリジナルなものが多かったり、面白い効果のものが多くて楽しいです。たとえばちゅうがえりはボルトチェンジやとんぼがえりみたいな技ですぜ。

 ピカネキにバットを持たせたらプニキに見えねぇ? とか書いてて思った。

 さて、次回、一発目で出すのは誰でしょうかね。観戦している気分で考えると物語を更に楽しめる感じで。

 ※ジムリの手持ちは強化版PWTを多少弄ってある程度です。

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