俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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デボンコーポレーション

 デボンコーポレーションの社内に入ると、歓迎する様に社員が頭を下げてくる。その丁寧で此方に対して敬うような姿勢はポケモン協会へと顔を出すときに良く見る光景だ。まぁ、ポケモン協会によって認められたチャンピオンが二人も揃って並んで歩いているのだから、当然なのかもしれない、が、それでも窮屈なこの感じは好きではない。それでもある種、”理想的なチャンピオン像”が一般にはある為、なあなあでそれを守る為にも、軽く笑みを浮かべ、手を振っておく。遠くで見ている社員が小さく声を漏らしている。

 

 営業用スマイルを張り付けたまま、ダイゴと共にエレベーターに乗る。服装はこういう時の為に用意しておいたスペアのロングコート―――此方はダメにしたやつとは違い、旅用に多少汚れても解らない様な、暗い茶色のものだ。今朝、荷物を持ったフーディンがテレポートで合流してきた為に取りだす事の出来たものだ。やはり手持ちとは違って、移動や護衛用にポケモンと金銭や育成等の契約をしておくと非常にスムーズになるところがある。荷物番を任せたこのフーディンも、育成することを条件に、使用人として振る舞っているのだ。

 

 そのままエレベーターに乗ってデボンコーポレーションに上層へと向かい、地上三十階でエレベーターが停止する。扉を開いて向こう側に広がるのは社長室だ。大きなデスクの向こう側に座っている初老の男が見える―――大企業、デボンコーポレーションの現社長の姿だ。ツワブキ社長は此方とダイゴを見ると、大きな椅子から立ちあがり、笑みを浮かべながら迎えてくる。

 

「やあ、ようこそセキエイのチャンピオン! 君の事を待っていたよ……と、もう一人来ていると私は聞いていたのだが……」

 

「ナチュラルくんはちょっとねぇ」

 

 まぁ、あの状態で∞エネルギーの話をさせる訳にもいかないので、ピカネキを付けて部屋に置いて来た。今頃疲れてダウンしているナチュラルをピカネキがエプロン姿で看護しているだろう。ほぼ確実に午後までには復活しているだろうとは思う。ともあれ、ツワブキ社長と握手を交わす。

 

「さ、話を始める前にこれを渡しておこうか。我が社でポケモン図鑑やバトルスキャナーに対抗する為に生み出した”ポケモンマルチナビ”だ。ポケモンの情報はもちろん、コンディションや分布、他にもポケギアやポケナビにあった機能を凝縮させた新製品だ!」

 

 そう言ってツワブキ社長がポケモンマルチナビ、長方形の小型の機械を手渡してくる。サイズ的には初期のあの大きかったDSを思い出させる程度のサイズだが―――確認する機能は凄まじい。ポケモン図鑑等に対抗しているというだけはある。だが、

 

「これ、ぶっちゃけいくらぐらいしますか」

 

「……」

 

 無言でツワブキ社長が両手を広げる。

 

「10万ですか」

 

「……まぁ、コストダウンは狙っているんだけどね? 我が社はどう足掻いてもエリートトレーナー等の一線級のトレーナーを支援する体制を優先してしまっているからね? 作る製品は超一流である自負があるのだけれど、やはりどうしてもコストがかかってしまって、10万でも割とギリギリな値段なんだ……耐水耐熱耐電、防塵加工に防弾防刃も施してあるから戦いに発展しても壊れない様にはあってるんだけど……」

 

「まぁ、それぐらいやるんですけどねぇ」

 

 まぁ、10万はアマチュアのトレーナーからすれば少々高いってレベルだろう。

 

「―――アマチュアの大会で優勝すれば賞金は大体10万前後だから、そこからプロの世界へと踏み出そうとする層と、それ以上の層を狙った商品になるね。まぁ、僕らみたいに環境トップにいるトレーナーは一試合でうん百万とかギャラで入ってくるから困らない話だよね。まぁ、駆け出しのトレーナーだって一応お金を溜めれば買えないもんじゃないし」

 

「まぁ、俺からすりゃあ使えるなら高くても問題はないわ。デボンの経営方針に関しては社長さんとダイゴで決めて欲しいよ、俺、部外者だし。とりあえずポケモンマルチナビ、受領しました。とりあえずデータ整理用にポリゴンかロトムでも雇う事を考えようかなぁ……」

 

 ハピナス、フーディン、ピジョット、タブンネ、カイリュー、ポリゴン、ロトム辺りが街で働くポケモンとしてはメジャーな部類だろう。ハピナスやタブンネは福祉で、ピジョットやカイリューは移動で、フーディンは念力とテレポートを合わせて万能だし、ロトムとポリゴンはデータの管理等で非常に役立ってくるのだ。家の方には敷地の維持とかでそれなりに雇ってるし、此方にポリゴンを送るか、新しく雇ってもいいかもしれない。軽くポリゴンをこういう端末に仕込んでおくと効率が上がるのだ。

 

 なお自分の場合、給料よりも育成を求めるポケモンの方が多いのは育成を求めた場合の値段の方が遥かに高い上に、ポケモンとして能力が上がればスカウトされる確率が上がったり、他の事でお金を稼ぐ事も十分にできるからだ。そういう訳でお金を払う事よりも育成を代金がわりにしているのが自分のケースだ。それでもポケモンに対する支払いへの給料は人間が働く場合とそう変わりはしない。社会的にそこそこイコールな立場を築きつつあるからだろう。

 

「まぁ、それはともかく……デボンの方での調査、どうですか社長」

 

「うむ―――マグマ団、そしてアクア団の事だね」

 

 ホウエンと言ったら? デボン、そう言い返されるレベルでデボンコーポレーションは有名であり、ホウエン地方の各地にその根をおろしている。つまりホウエンで活動する上でデボンコーポレーションと協力することはホウエンにおける最大の味方を得たという解釈を取ってもいいのだ。そしてデボンコーポレーションの協力を得るのはそう難しくはない。マグマ団とアクア団、そして迫りくる隕石の脅威を伝えれば、それだけで対策に乗りだすのは死活問題に繋がるからだ。

 

 ただそれ以上話を広げないのは、あまり動きをマグマ団やアクア団に察知されたくはないからだ。

 

 馬鹿の様に姿を見せてくれれば、やりやすい。

 

 このサービス残業をとっとと終わらせて自由になりたい。

 

「ある程度は活動を把握しているよ。まずはマグマ団だけど、環境保護団体を含む幾つかのダミー会社を経営しているね。アクア団の方も同じようにダミー会社を幾つか経営して、組織の活動を隠ぺいしたり、資金調達しているよ―――これ、事前に両組織の事を教えられていなかったら疑う事もなかったからね、かなり手慣れた、或いはやり方を知っている人間が所属しているよ。……で、今は放置すればいいんだっけ?」

 

「えぇ、最終的にグラードンとカイオーガを目覚めさせるのが目的なら絶対におくりびやまでべにいろのたまとあいいろのたまを奪取する必要がありますからね。組織を監視するよりもおくりびやまでの活動を監視しておいた方が遥かに解りやすいですからね。まぁ、その前にちょくちょく問題は起こすでしょうけど、それに関しては俺の方で対処に当たります。デボンは―――」

 

「―――隕石の対処だね。現在直接宇宙へと飛行する事の出来るポケモンを調べているよ」

 

 流石に宇宙からやってくる隕石の対処となると、自分の領分を大きく超える。ワダツミやカグツチは地球環境に適応したポケモンだし、ツクヨミだったら地球に落ちてくるところを迎撃出来るかもしれないが、それと引き換えに地表が消し飛ぶと思われる。自分の保有しているポケモンでは宇宙空間へと出て、迎撃することは現実的ではなかった。

 

「一応僕のメガメタグロスで成層圏にまで飛ぶ事は出来たよ―――まぁ、それ以上は流石に活動が難しかったね。エアロックか、或いはそれを発展させた、環境を常に支配し続ける能力か特性でもない限り、宇宙空間に出たとしても恐らくまともに攻撃を繰り出す事は出来ないと思うよ。少なくとも宇宙へと上がろうとした僕の感想がそれだ」

 

 やはり、通常のポケモンで宇宙空間に対して何らかのアクションを起こすのはほぼ不可能に近いのが現在の答えなのだろう。

 

「―――一応テラボルテージでゼクロムをレールガンの様に射出すれば隕石を砕けるけど、完全に一方通行な上にゼクロムじゃあ宇宙空間で死ぬからな、現在の持ち主が許すとは思えねぇわ。この方法が使えるのはゼクロムだけなんだけどなぁ……」

 

「そう言われると惜しくなって来るけど、伝説を犠牲にするとなると流石に手を出せなくなって来るなぁ……まぁ、デボンの方では隕石を粉砕する為の手段を用意しておくよ。一朝一夕で成る事じゃないし、なんとか終わる前に方法を見つけておくさ」

 

「頼むよー。じゃなきゃ住所不定無職のレックウザを見つけてメガシンカさせなきゃならなくなってくるからなー」

 

「頭が痛くなるねぇ」

 

 今日も元気にオゾン層で活動中のレックウザを捕まえる事が不可能な事実その一、事実その二は伝説のメガシンカ化が相当無茶をしなくちゃ不可能な事で、その両方を考えると相当の無茶であり、超不可能な領域に見えてくる。伝説をメガシンカってなんだよ。早く来てレッドさん、そこらへんの運命力でのご都合主義アタックはおまえの仕事だろ。

 

 ともあれ、現状は研究と調査、そういう状況だ。あまり表側で派手に動く事はない。それを三人で確認した所で、ちょっとだけ気が抜ける。まぁ、当たり前の話かもしれないが、ここで終わる事はなかった。デボンコーポレーションがパパっと解決するか、或いはジラーチが発見されて終わりとか、そういう風に物語が終わってくれれば非常に楽だったのだが、そうもいかないらしい。まぁ、当たり前だよなぁ、何て事を思っていると、ツワブキ社長がさて、と話しかけてくる。

 

「セキエイチャンピオンはこれからどういう予定かな?」

 

「あー……ちょっと腰を落ち着けて育成したいポケモンがいますからね。1か月はカナズミで足を止めようと思ってます。ホテルも中々のものですし、いっそのこと部屋を借りてホウエン地方での活動の拠点にしてしまおうかと。まぁ、それで育成が終わったら―――カナズミジムに挑戦、そっから”りゅうせいのたき”へ向かおうかと思ってますわ」

 

 ツワブキ社長が首を傾げる。

 

「流星の滝へ?」

 

「えぇ、まぁ、自分の目で確かめておきたいことが幾つかあるので」

 

 ―――流星の滝の流星の民にはヒガナという伝承者の少女がいる筈だ。流石にここまで来ると記憶があいまいであり、断言できない所が苦しい。ただ流星の滝は隕石があったり、過去のグラードンとカイオーガの争いに関する話を伝承していたり、と礼儀を持って接すればおそらくは良い感じに情報を集める事が出来るだろう。ともあれ、まずはピカネキの育成だ。ピカネキのポケモンバトルに対するモチベーションは非常に高い。それこそスタメン、或いはレギュラーを狙っているレベルでのモチベーションの高さだ。

 

 これだけモチベーションが高ければ、かなり良い感じの育成を彼女に施す事も不可能ではない。

 

 ネタを抜きにしたガチガチの本気、競技用のポケモンとして鍛え上げれば、おそらくは違った世界が見えてくるだろう。少なくともあのモチベーションだ、悪くはならない筈だ。

 

「となると……最終的な対戦相手は僕なのかな? 他の地方のチャンピオンにも挑んでいるし」

 

「まぁ、事件が終わったらゆっくりと挑むさ。とりあえずは今のパーティーを調整ついでに経験稼ぎの為にホウエンジム制覇だわな。今使ってるパーティーもまだ結成して2~3か月しか運用してないしな。もっとしっかりコミュニケーションを取っておきたいところだわ」

 

「亜人種は人間に近いだけ、メンタル部分も原種の方よりも複雑だからねぇ……僕はどちらかというと原種の方が多いけど、それでもその気持ちは良く解るよ。手持ちのポケモンのメンタルケアは戦闘時の力になる時があるからね。……そうだね、僕も最近は忙しかったし、ちょっとまとまった時間を取ってコミュニケーションを取ってみるかな」

 

「ふむふむ、なるほど、チャンピオンもそこはただのトレーナーと変わらないようだね?」

 

 社長の言葉に笑う。チャンピオンというのは強いだけではなく”純粋なトレーナー”なのだ。だからそこらへんにいるトレーナーと本質は変わりはしない。強くなりたい、勝ちたい、熱いバトルがしたい。もっと、もっともっと、血が滾る様なポケモンバトルをしたい。そういうバトルに惹かれた狂人のてっぺんがポケモンマスター、そしてチャンピオンなのだ。

 

「それでは社長、ポケモンマルチナビ受領しました」

 

「うむ、確かに見届けた。デボンコーポレーションは何時だって努力をするトレーナーの味方であり続ける―――何時でも頼ってくれ、助けになろう」

 

「一勢力と懇意になっているって噂されるとシルフカンパニーがキレるんで程々に……」

 

「はっはっはっは!」

 

 カントー・ジョウトと言えばシルフカンパニーなので、あまりデボンと仲良くしすぎるとシルフカンパニーの方がキレるので、あんまり笑えない。そんな事を思いつつも、休める時は休む、

 

 情報収集を忘れないようにしなきゃな、と思いつつこれからの準備を進めることにする。




 いったい だれが ゼクロムを もってるんだ(棒

 テラボルテージでのレールガン理論を繰りだす時に使ったらモンスターボールから射出してそのまま反対側のトレーナーに突き刺さりそう。

 という訳でしばらく更新できない代わりに数話先までの次回予告
・ピカネキコミュ(という名のテロ)
・コミュ????
・涙とテロのツツジ戦

 おたのしみに(`・ω・´)

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