俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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再び104番道路

「―――ふいー、よーやく抜けたわ。あー、疲れた……しばらく休みたい所だわ」

 

 トウカの森のカナズミシティ側の入口付近に到着し、もう森のポケモン達が追ってこないことを確認しつつ、ナチュラルの護衛に回していたダビデを自分の肩の上へと戻しつつ、ボールの中へとスティングを戻す。”森”という環境で誰よりも強く、そして自由に動き回れるのはスピアーがベースとなっているメガスピアーのスティングだ。その為、ウインディがいなくなってからは迎撃だけの為に動かし、近づいて来たポケモンだけを倒した―――必要以上の殺しはしない。ウインディがいなくなった今、殺意は薄れて行く。少しばかり時間はかかるだろうが、それでもまたトウカの森はあのウインディがヌシになる前の状態へとゆっくりと回帰するだろう。

 

「……お、森を抜けてきたのか!?」

 

 トウカシティ側に入口がある様に、カナズミシティ側の入口前にもキャンプ地がある。そこには待機していたトレーナーなどの姿が見える。軽く横目でナチュラルの姿を確認し、無言で立ち尽くしているのを確認してから軽く前に出て、そしてトレーナー達とトウカの森の状況に関して報告しておく。態々自分達がトウカシティ側に戻る必要もないだろう、ここで報告してしまえば後はここの人間か、向こう側へと行こうとするトレーナーが空を飛んでか、テレポートで向こう側へと状況を伝えてくれるだろう。

 

「―――ま、後2、3週間は入らない方が安全だわ。ヌシは消えたけど簡単には頭は冷えないから、放置してりゃあその内正気を取り戻して何時も通り、ってな」

 

「助かった、本当に助かった!」

 

 握手してくるトレーナーにいやいや、と言って、手を解放してもらったら大きく背中を伸ばし、そして青空へと視線を向ける。白いロングコート、結構気にいってたのだが、完全にお釈迦にしてしまった。これはカナズミシティで新しいのを購入しなきゃダメだなぁ、と思いつつ、腰のボールからポケモンを繰り出す。

 

 筋肉隆々で、黄色く、そして背筋を伸ばして敬礼を取るつぶらな瞳のピカチュウフェイス。

 

「ただいまボス」

 

「おかえりピカネキ」

 

 そしてさようならシリアス。完全に人語喋ってるじゃねぇか、というツッコミはきっと入れてはいけないのだろう。見ていた人間が一瞬でフリーズし、ピカネキがシャドウボクシングで威嚇し始める。と思ったらそのままブレイクダンスに移行する。どうやらトウカの森でハジケられなかった分、若干テンションを持て余していらしい。蹴り飛ばしてやろうか、コイツ。

 

 ピカネキの姿を見て錯乱し始めたトレーナー達がバケモンだと叫ぶのを無視しつつ、視線をナチュラルへと向ける。それに気が付いたナチュラルが視線を返してくる。片手を上げて本当に大丈夫かどうかを確認すると、ナチュラルが小さく笑みを零す。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫さ」

 

「いやね、撤退中に呪いでも喰らったのかとね。なお、俺は経験がある。じわりじわりと体力が削り殺される感覚、薬をガブ飲みしながら体力を回復して元凶をぶっ殺すまで解除されないから酷い数時間だったわ」

 

「本当に壮絶な経験をしているなぁ、君は! いや……まぁ、それぐらい経験してなきゃ君の様にスレる事もないか。まぁ、僕の事はそこまで心配しなくてもいいよ。確かにショックなのは事実だけど、それで心が折れる程じゃないし。現実を思い知ったというだけの事だから」

 

『……嘘はついていない様だぞ』

 

 ナチュラルも助けられてばかりの子供ではない、という事だろうか。そう思いながらナチュラルから視線を外し、視線をキャンプ地へと向ける。そこではみんなのアイドルピカネキがポーズをキメながらメロメロを発動し、周囲のトレーナーやポケモンをメロメロにするテロを行っており、発狂した一部のトレーナーが湖の中へと身投げを行っている。手綱を握ってないと好き勝手やるなぁ、自分が巻き込まれている訳ではないので遠くから眺めていると、ナチュラルが小さく笑う。

 

「結局、姿形が違うだけで中身はそう変わらないものなんだね」

 

「人間をぶっ殺すポケモンがいりゃあ、ポケモンをぶっ殺す人間もいるって話だわな。今時、珍しくもないだろう」

 

「……そうだね、それはそれとしてあのテロは止めなくていいの」

 

「面白いから放置で」

 

 無人のキャンプの中央で勝利に拳を掲げるピカネキの姿を確認し、無言でモンスターボールからナタクを繰りだす。無音で移動するナタクがピカネキに気付かれる事なく接近し、そのままみねうちを叩き込んでピカネキを一撃で大地に倒す。その姿をナタクが片手で足を引きずり、連れてくる。その姿を見て、頷き、

 

「しばらくはそのまま引きずる方向で」

 

 

 

 

 カナズミシティ側トウカの森出口とカナズミシティの間には巨大な湖があり、その上を橋がかかっており、これを渡る事で簡単にカナズミシティへと向かう事が出来る。だが、実際は湖を直接波乗り等で渡ったりする方が時間を半分までカットする事が出来る。その為、波乗り許可の出ているトレーナーであれば普通に波乗りをしてわたってしまえば良い。何時も通りナチュラルに野生のポケモンとの交渉を行わせた結果、ハスボーの集団を説得する事が出来た。ハスボーの集団を並べ、その上にイカダの様に乗り、ゆっくりと湖上を進んで行く。

 

「―――しかしあんなトモダチが出現するなんて、一体どういう事なんだろうね。イッシュ地方では一切ダークポケモンを見かける事はなかったし」

 

 ナチュラルがそんな事を呟く。ハスボー達の横でクロールで波乗りをしているピカネキの姿を眺めつつ、そうだなぁ、と呟く。

 

「バランスが狂ってるんじゃないかねぇ」

 

「バランス?」

 

 ダークポケモンなんてものは一種の突然変異で生まれてくる存在だが、そもそもからしてダークポケモンは”人工的に付与された特性”であって、自然に生まれるものではないのだ。つまり、本来ダークポケモンなんてものは存在しない。自分も始めてダークポケモンと出会ったときはかなり驚いた―――それは7,8年ほど前、カントーが主人公達とロケット団との衝突によって大荒れしていた時の話だ。ナチュラルへと視線を戻し、問いかける。

 

「デルタ種を知っているよな?」

 

「本来とは違うタイプを持ったトモダチ達の事だよね」

 

「あぁ。デルタ種ってのはかなり珍しいポケモンなのはホロン地方にしか存在しないからだ。だから今、トレーナーが保有しているデルタ種のポケモンは全てホロン地方で捕まえたのか、或いはホロン地方から流れてきたデルタ種を捕獲したもんだ。まぁ、このデルタ種ってのだけどホロン地方の独特な磁場が影響して、卵にいる間のポケモンのタイプが狂う事で発生する事なんだ。近年じゃあ卵の間にポケモンを意図的にデルタ種にする、なんて実験も成功している」

 

 つまりデルタ種は”ホロンフィールド”の影響を受けているから生まれるポケモンなのだ。ちなみにだが進化の時にホロン地方にいてもデルタ種として進化する場合がある。つまり、ポケモンは環境に適応する様に、或いは環境に影響されて進化する生物なのだ。10年前までは存在しなかった進化が5年後には種族全体に広がっているのはそういう環境の影響などがポケモンの間で概念として共有されているからかもしれない。

 

「―――つまり君はトモダチ達は環境と密接にリンクされている訳で、イッシュ地方などは乱れていないからダークポケモンが出現しない、だけどバランスが崩れているホウエン地方ではダークポケモンが生まれる環境が出来上がってる、って言いたいんだね」

 

「流石ナチュラルくん、頭良いなぁ」

 

「―――で、それがホウエンへと来ている理由に繋がるわけなんだ」

 

 そう、マグマ団とアクア団が活動し始めている。まだ目立つ動きはないし、環境への影響もない。だがホウエン地方へと上陸した直後から、嫌な目に合っている―――フーパの存在だ。どっかにいるだろうとは思ったが、アレとホウエン到着直後にエンカウントするとは一切思っていなかった。というかホウエン地方に到着した直後にエンカウントしたのだ。という事は、”もうホウエンにいた”という事であり、

 

 此方に悪戯をする前に、既にどっかで悪戯をしていてもおかしくはない。

 

 或いはあんなピンポイントで接触してきたのだ―――裏で誰かが使役しているのかもしれない。

 

 フーパ―――更にヤバイのは解き放たれしフーパの存在だ。通常時でさえ伝説種を自由に召喚師、暴れさせるぐらいの実力は持っているのだ。その力が解放された場合、ほんとうにシャレにならない事態が待っている。間違いなくグラードンとカイオーガはまだ眠っている。それは断言しても良い。グラードンとカイオーガは一種のマップ兵器だ。目覚めたら解らない訳がない。アレは起きているだけで滅ぼす災害そのものだ。

 

 だけど他の伝説種は違う。パルキアやディアルガ、カロス地方の伝説種はそこまで広範囲へと影響する様な能力ではない。ぶっちゃけた話、連中がこっそりフーパに召喚されていたとか言われても不思議じゃない。まぁ、その場合の目的が全く分からない訳だが。それに現状、捕獲が確認されているルギア、ホウオウ、ギラティナ以外の伝説はミュウツー、デオキシス、カントー三鳥―――そしてゼクロムのみだ。

 

 キュレム、レシラム、ディアルガ、パルキア、ゼルネアス、ジガルデや某ヤケモン神等の伝説に関しては確認が取れていない。こっそりフーパを通して召喚されており、回収されていたりしたらまさに大惨事にしかならない。―――しかし、色違いの天賦ダークポケモンなんて属性がてんこ盛りの化け物、それこそ人工的に生み出されるか、

 

「自然か環境のバランスが狂ってなきゃあんな化け物も生まれねーわ。流石に俺でもあそこまで訓練されているわけじゃねぇのに殺意の高いポケモンは初めて見るわ。あの感じ、俺が取った手筋は確実に覚えられたからやり方変えなきゃ殺られるわ」

 

「……なんというか、ホウエン到着直後から色々と前途多難だね」

 

 そうだなぁ、と答える。もう、なんというか、これがインフレの上限だと思いたい、そう言う気持ちが非常に強くある。数年前のジョウトでも凄まじいインフレを経験したが、今回ばかりはグラードンとカイオーガが相手になるのかもしれない。普通に戦う分にはまず戦闘にすらならない。相対するだけで死ぬのがこの二体の伝説の特徴だからだ。

 

 ―――その対策がカノンだ。

 

 天候”デルタストリーム”はまだ完成していないが、それでもグラードンとカイオーガと戦う大前提として必要になってくる。記憶が正しければ間違いなくゲンシカイキしてくるのだ、デルタストリーム以外にそれを破る方法はないし、フーパが出現している今、レックウザ―――メガレックウザを信頼する事は出来ない。場合によっては敵に回る可能性があるからだ。

 

「BREAK進化を実用化できればなぁ……」

 

「僕は君のその知識が一体どこから出てくるかが不思議だよ」

 

「良い男には秘密があるのさ」

 

 真実を伝えることは誰にもできない。だから世界の真実を自分が墓場まで持って行く。だけど、それもここまでだ。ここで、このホウエンの地でゲンシグラードン、ゲンシカイオーガ、そしてフーパをどうにかすれば、もう、未来に怯える事もない。義理からも義務からも解放されて、好き勝手生きる事だって出来る。

 

「もう考えたら俺も28か……ガキの一人か、後継者の一人でも作らないと駄目だなぁ」

 

「そんな事を考えるには早いんじゃないか? 僕から見たらまだまだ若く見えるし」

 

「馬鹿野郎、何時死ぬか解らない世界にいるんだから早めに色々とやっておいた方が良いに決まってんだろ……まぁ、もうちょっと真面目に夫婦仲に関して考えても良いとは思うけどな。仮面夫婦のままじゃぁちっと寂しいだろうしな」

 

 今度エヴァに逢ったらデートにでも誘うかねぇ、と呟きつつ、バタフライで泳ぐピカネキがいい加減ウザイのでボールの中へと戻す。

 

 段々と暮れて行く夕陽を眺めつつ、

 

 遠くに見えてくるカナズミシティの街並みへと向かって、真っ直ぐ突き進む。




 このポケモン二次には
・擬人化(萌えもん)
・デルタ種(ポケモンカード)
・BREAK進化(ポケモンカード)
・リアルファイト(ポケスペ)
・ガチ殺し(ポケスペ)
・ダイレクトアタック(ポケスペ)
・特殊能力(ポケスペ)

 要素があると考えると割と凄まじいカオスなミックスになってる。それにしてもポケスペはやっぱり凄いなぁ……。

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