俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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トウカの戦い

 ―――たとえば月光がいたら、今回の件、物凄く楽になっていただろう。

 

 ”裏”に関する事で月光ほど鍛えられたポケモンはいない。トウカの森の中へと踏み込む段階でもポケモン達の目を外し、派手に動かなくても静かにウインディの下へと到着できただろうし、ウインディに気付かれずにある程度罠を張った状態で戦闘を開始する事が出来ただろう。それだけ、彼女は優秀だった。特にこういう野戦状況だと。或いはクイーンも良いだろう。彼女の色違い、そして天賦に対する殺意は、殺害能力は絶対だ。ダークタイプが存在していたとしても、関係なく耐性を削り、命を抉り、そしてその体をばらばらの八つ裂きにしただろう。蛮であれば真正面からウインディと殴り合えたかもしれないし、サザラやアッシュだったら勝率0%の状況を覆すだろう。つまり、チャンピオンとなった時のポケモン達は、その性能は非常に凶悪、現状のレギュレーションだとほんとうに”ギリギリ”ラインになっている存在ばかりだ。

 

 故に、頼る事は出来ない。

 

 ”読みが粗い”。

 

 そう感じたのはサカキに負ける”前”からの話だった。そう、読みが粗いのだ。時々ポケモンの事故死が発生する。だがそれは読み負けたからではなく、自分が手筋を間違えたからだ。その結果、アドバンテージをロストしてしまった試合が何個もある。そのたびにミスをリカバーする様に、ポケモン達が頑張ってきたーそう、彼、彼女達は非常に優秀であり、極悪と呼べる性能を保有している。それゆえに、どうにかなってしまう。無理矢理にでもどうにかしてしまうのだ。それを理解して、頼る事は出来ないと解ってしまった。それゆえに、今のパーティーが存在する。

 

 徹底された役割。

 

 代理する事の出来ない性能。

 

 相手を理解し、考え、そして選出するポケモン。

 

 今の手持ちは徹底して”読む”事を強要してくるパーティーだ。サイクル戦を組むとして、このパーティーの大前提は相手の動きに読み勝つ事であり、これが成功している間は封殺でさえ可能な面子になっている。もし、チャンピオンになった頃の自分と、今のパーティーで勝負し、読む事で勝利すれば、バトルでも勝利さえできる。そういうパーティーだが、逆に言えば事故死でも起こそうものなら一瞬でサイクルが崩壊する、確実に読んで、そして最初から用意していた自分のビジョンに当てはまる様に試合を運ぶ―――そういう鋭い読みの能力を必要としたパーティーだ。

 

 アデクやサカキ、ヤナギ、ああいう経験から次の一手どころか三手四手を予測し、確実にアドバンテージを稼いでくる怪物染みた読みの能力を持っているトレーナー向きのパーティーであり、自分の様な凶悪に育成して、それでゴリ押す様なトレーナーのパーティーではない。だけど敗北し、そして鍛え直す必要があった。

 

 だから”強すぎる”仲間には頼れない。

 

 今の、ガラスの刃の様な仲間たちで―――鍛えるしかないのだ。

 

 そして次世代の、理想の、”完成”を目指すのだ。

 

 だからたとえ月光がいなくても、彼女が出来た事、その役割を分担して遂行する。クイーンの様な圧倒的なメタ能力を持っているポケモンが手元にはいないが、それでも似た様な事は計算しながら行動すればできる。安易な一手を選ぶのではなく、真剣に、思考を加速させて考え、そして確実に勝利する為の一手を選ぶ。ポケモンを信じるのではなく、お互いに助け合って信じ合うのが理想だ。

 

 それが、今の自分(オニキス)だ。

 

 

 

 

 ―――故にウインディと相対した一手目で、選ぶ選択肢は決まっていた。

 

「逃がさん―――」

 

 ナチュラルを押し倒したダビデがその背の上から迷う事無く背を向けて神速で逃亡しようとしていたウインディの行動をクモのすで阻害する。それが成功し、森の中へと逃げ込もうとしていたウインディがこのキャンプ跡地から逃げられず、足を停止させられる。ダビデを出している間はクモのすを継続させられる。交代禁止、逃亡禁止。必要な事だ。

 

「賢しいな」

 

 なぜならこの相手は”賢い”からだ。馬鹿な野生のポケモンではない。考え、学習し、そして判断して動く天賦なのだ。だから一番効率的に此方を殺す方法を理解している。

 

 ―――数の暴力だ。

 

 森の中に隠れ、監視しながら圧倒的なポケモンの数で蹂躙する。十匹なら余裕で対処出来るだろう。三十匹でもまだいける。四十、五十となってもまだ対処できる自信はある。だがこれが百、二百という数がコンスタントに襲いかかってくる様になると、話は変わってくる。ポケモンには体力の限界があるし、物量で攻められると攻撃を避けられなくなってくる。そうなると終わりは近いだろう。それをウインディは野生の狩猟者として良く理解している―――だから逃げ、時間を稼ぎ、仲間を集めて圧殺する。

 

「その前に潰す、氷花」

 

「―――御傍に」

 

「呪え!」

 

 氷花が体力を捧げてウインディを呪おうとした瞬間、ウインディの咆哮が木魂する。空から超高速で音を割りながら登場したオオスバメがウインディとの間に割り込み、ウインディの代わりに呪いを喰らい、体力を抉られる。素早く氷花をボールの中へと戻しながら横へと到着し、オオスバメのつばさでうつを回避しつつ、目の前から飛びかかってくるウインディにボールを向ける。ボールの中から繰り出されたメルトがウインディの前に立ちはだかり、しんそくを崩し、素早くボールの中へと戻しながら入れ替える様にナタクを繰り出す。ナタクを見た瞬間ウインディが大きく後ろへと跳躍して距離を取る。

 

「殺せる可能性を感じ取れましたか……同じ天賦、警戒に値する、という事でしょうか」

 

「自己評価が低いなナタク。格の違いを見せろ。コートを捨てるハメになった報いは受けてもらわないとな」

 

 ウインディへと向かってナタクが一気に踏みこむ。

 

『気を付けろ―――こいつ、”ダーク技”を使えるぞ』

 

 ナイトが看破によって得た情報をすかさず此方の耳へと届ける。故にナタクが踏みこんだ瞬間、迷う事無くナタクに猫騙し―――ではなく守らせた。直後、漆黒(ダークタイプ)の炎がウインディを包む様に燃え上がり、守っているナタクに襲いかかるが、守っている故にそれは届き切らない。それが途切れた瞬間、ナタクがウインディの下顎へとはっけいを叩き込み、そのままあてみなげを大地へと体を回転させるように持ち上げて叩きつける。

 

「―――硬いッ!」

 

 大地へと叩きつけられたワンバウンドしたウインディがほとんどダメージを発生させていない状態で跳ね上がったのを見たナタクの声が響く。それもそうだ。ダークポケモンは”全てに対して耐性を保有している”、極悪なタイプなのだから。それでいてダーク技は全てのタイプに抜群相性でダメージを通す事が出来る。これが反則じゃなければ一体何が反則なのだろうか。だけどそれもダメージが発生するだけ、理不尽ではない。ナタクが前へと追撃を繰りだす為に攻撃を繰り出す。

 

『しっかり狙えナタク。俺が背中を押してやる』

 

 ボールの中からナイトがおさきにどうぞとてだすけを発動させる。それによって支援されたナタクの動きが一瞬で先制を奪い、相手を上回る速度で刹那を駆け抜ける。接近した飛び膝蹴りがウインディの顔面へと叩き込まれ、その姿が浮き上がる。その姿を落とさぬように神速の連撃が発動する。

 

 ―――その前にナタクをボールの中へと戻す。

 

 直後、エナジーボールと破壊光線とりんしょうがナタクのいた場所を穿っていた。片目を森の中へと向ければ、最も足の速い幾つかのポケモンがここへと到着している。守る様に、そして妨害する様にウインディに合流している。数の暴力―――増えられるとどうしようもなくなってくる。ツクヨミを呼び出して強引に滅ぼすなんて手段はかっこ悪すぎてやりたくはない。だからここで勝負を仕掛けるしかない。

 

「ミクマリ」

 

「んー……その殺意、ビューティフルじゃないわね」

 

 ミクマリが出る。本来であれば炎と水で相性はミクマリが優っているが、ダークポケモンであるウインディに通常の相性関係は全く意味をなさない。が、それでもミクマリが出現するのと同時に大地が鳴動し、亀裂が生まれ、そして水が吹き上げる。そのまま、波乗りを発動させたミクマリの津波の一撃が全てを洗い流すように放たれる。それに向かってウインディは迷う事無くトウカの森から吠えて部下たちを呼び出し、

 

 ―――津波にたいあたりをくらわせ、肉壁にして威力を削いだ。

 

 肉の壁を潰しながら血の道をウインディが駆けてくる。

 

「スイッチバック、メルト」

 

「グルルルゥゥゥォォォォォ―――」

 

 ウインディが前に出るのと同時に生き残ったポケモン達の鳴き声と睨みつけるの大合唱が響き、一気にメルトの能力が落とされ、喉笛を掻っ切る様な爪の一撃が―――ダークラッシュが振るわれる。

 

「―――温い、反物質法則」

 

 ギラティナの法則、即ち反物質世界の法則。全ての効果が逆転する。優先度の上昇は優先度の低下へ、弱体化は強化へ、全ての干渉能力が逆転し、集団の大合唱を喰らったメルトは瞬間的に最大の状態まで強化され、正面からウインディのダークラッシュを連続で喰らう。抜群相性のそれは木の実などでも軽減する方法が存在しないが、それでも最大強化された能力であれば耐えられる。だっしゅつボタンが発動してメルトがボールの中へと戻って行き、メルトへと衝突した衝撃からウインディの動きが一瞬止まる。

 

 動きを加速させる。

 

 思考を冴えさせる。

 

 殺意をモンスターボールに込めて、敵を定める。

 

 ―――モンスターボール越しにこころのめが屠るべき怨敵を捉えた。

 

「殺せ、スティング」

 

 メガシンカの光と共にスティングが出現した。こころのめで捉えた敵をスティングの殺意が纏わりついて逃がさない。込められた殺意が急所へと至る崩壊の一点を見出した。ルール違反を犯した愚か者を殺害すべく死を刃に乗せて動きの切っ先を制した。

 

 ―――シネ、クズガ―――

 

 ダブルニードルが逃れられない死となってウインディを貫く。

 

 その前に野生のスバメがファストガードを自身の体を間に挟む様に発動させた。スティングの死の刃がスバメを貫通してウインディへと突き刺さるが―――浅い。

 

 そして二撃目―――二撃必殺がダークタイプによって軽減され、失敗される。チ、と吐き捨てながら残像を残してブレたスティングが通常のダブルニードルをそこから五連続で、合計十連続の攻撃をすれ違いざまに叩き込み、その姿へとポケモンの群れが殺到する。

 

『目を瞑るな。殺意をセンサーにして纏え、見切れ』

 

「―――!」

 

 大量のポケモンが群れて迫ってくるその状況をスティングが的確に見切って回避し―――その先にウインディが仲間の、部下の死体を踏みつけながら先回りした。殺した同胞の血を浴びながら段々と赤黒く変色するウインディは笑い声を響かせながら黒い炎を―――ダーク技を繰りだしてくる。問答無用で抜群相性を叩きつける炎がスティングの体を焼き、

 

 受けた痛みを復讐心へ、そして破壊力へと変換する。

 

 砥がれた復讐の刃が殺意を纏って急所を抉る。

 

「穿てスティング」

 

 殺意のダブルニードルがウインディの急所を抉った。心臓へと直接叩き込まれた殺意が心臓を強制的に止め、そして二撃目の刃がウインディへと突き刺さる。

 

 殺意のボルテージは終わらない。ウインディの心臓を一瞬止めたが―――その体には傷が見えない。故に、再びダブルニードルが突き刺さる。殺意がその動きを拘束し、刃を研ぐ。

 

 殺意のダブルニードルが再び急所へと突き刺さり、執拗にその命を奪わんと必殺を確定させて突き刺さる。

 

「ッ、戻れ!」

 

 スティングをボールへと戻した瞬間、爆発する様に咆哮と炎が溢れ出し、視界が一瞬だけ黒に染め上げられる。瞬間、体を横へと飛ばしながらボールを繰り出せば、黒い炎が大地を溶解させながら抉っていた。繰りだされたカノンが雨を降らし始め、炎の勢いを鎮静化させながら二律背反と合わせ、霰を呼ぶ。雨と霰の暴威に、一定のレベルに達していない野生のポケモン達が強制的に間引かれる。それでも五十を超えるポケモンの大群が突進して来る。それが命中するだけで人間はバラバラになるだろう。ボールの中からメルトが跳び出し、竜のオーラを纏いながら大群に対して正面から衝突し―――押し勝った。

 

 が、その間にウインディは距離を大きく開けていた。

 

「氷花ッ!」

 

『……これは、無理ですね』

 

 黒尾が言わんとしていることは解る。氷花を繰りだしながら黒い眼差しとクモのすを同時に放つが、ウインディとの間に発生する三十を超える未進化のポケモン達が肉壁として立ちはだかり、技を代わりに受け、ウインディの逃亡阻止を失敗させる。その間にウインディが傷ついた体を引きずりながらカナズミシティの方角へと向かって全力で駆け抜けて行く。

 

「畜生、しくじったか」

 

『いや、ここは嘆いても仕方がないだろう。それよりも雑魚の処理をどうするかを考えなくちゃいけないぞ』

 

 ウインディは自身の劣勢を感じて迷う事無く逃げた。恐らくは、このまま戦っても負けることが見えただろうし、数の暴力で攻める前に潰されると思ったのだろう―――勝ってもウインディが戦闘不能だった場合、別のポケモンに殺されてヌシを交代させられる可能性がある。つまり、そのレベルまでスティングで弱らせたのだが、

 

 いつの間にクモのすを除去されたんだろうか。

 

「……ま、考えるのは後か」

 

 指揮するウインディがいなくなっても、ダークポケモンの殺意が感染したトウカの森のポケモン達が残っている。

 

 その殺意や狂暴性はある種の熱狂や、ウィルスだと言っても良い。

 

 死んでも消えない熱狂。

 

「頭を冷やせば良いんだが……時間が必要か」

 

 溜息を吐きながらモンスターボールを握り直す。

 

 ―――ここからは逃亡の時間だ。




 答えは肉壁を展開しつつ物量で圧殺する事に失敗して迷う事無く逃げる。

 トウカの森にはいっぱいトレーナーがいるので、大人しく盗み見すればトレーナーの戦いや、バトルでの判断が見れるのでそれを通して学習したよ!人間さえ殺せれば環境を問わないのでトウカの森に固執する理由もないしね!

 天賦(6V)とはつまりその種族におけるトップの称号みたいなもんよ。(現在厳選違法な為

 という訳でまた次回。

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