俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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トウカの森

 暗くなる頃にはトウカの森の前にまでは到着した。ここをキャンプ地にし、そして明日は朝からトウカの森へと入り、暗くなる前に抜けてカナズミシティへと向かおうというプランだ。どこでも言える事だが、夜という時間帯は夜行性のポケモン、そしてポケモンバトルには関係も興味もない、ガチのハンティングな方のポケモンが出現する。その為、夜番もなしにキャンプしていると、襲撃されたりする。トウカの森に限らず”森”という環境はそういう、ハンターなポケ生を送っているポケモンが存在する。レベル100の手持ちを保有しているとしても、それで安心してはならない。隙さえあれば襲いかかってくるのが”野生”というものだ。

 

 野生の相手は非常に面倒である為、トウカの森は明るい内に通り抜けてしまおうという計画だったのだが―――どうやらそう上手く行かないらしい。トウカの森の前へと到着した所で、トウカの森前の広場に、少なくはないテントの数が張られており、キャンプ地が形成されていた。少々珍しい光景に首を傾げながら近づき、様子を窺おうとしたところで、トウカの森の方から出てくる姿が見える。

 

「ダメだダメだダメだ! どいつもこいつも殺気立っていやがる。俺じゃあちょっと無理だわ」

 

「ダメかぁ……」

 

「こうなって来るともっと強い人に頼まないと駄目だなぁ。カナズミへと飛べる奴いるか?」

 

「いないからこうやって足止めされてるんだよ。あー……良し、トウカジムに新しくジムリーダーがきてるし、ジムリーダーに頼もう。それしかねぇ」

 

 困ったような様子で立っている集団が見える。言葉を拾って繋げてみれば、どうやらトウカの森でなんらかの事件か事態が発生しており、そのせいで通行する事が出来なくなっている様だ。これは面倒事の気配だなぁ、と思いつつモンスターボールを取りだし、ピカネキを一旦ボールの中へと戻す。流石に真面目な話をする時に外に出ていると話が進まないので一旦ご退場願う。それを見てナチュラルが心の底から安堵しているが、お前、そこまで嫌だったのか。

 

「おーい、そこ、いいか?」

 

 声をかけながら歩いて近づくと、どうするか話しあっていたグループが此方へと視線を向けてくる。軽く帽子を持ち上げて挨拶しつつ近づく。此方の存在に気づいたかどうかは、とりあえず判断できないが、それでも迎える雰囲気はある。

 

「トウカの森、通行止めになってるのか?」

 

 予測を口にしながら接近した所、トウカの森から出てきた男があぁ、と頷きながら返答してくる。

 

「たぶんだがトウカの森の”ヌシ”が世代交代したのか、或いは殺されて奪われたのかもしれない。じゃなきゃここまでトウカの森が殺気立ってる理由にはならないわ。野生のポケモンが殺しにかかる様に襲い掛かってきて本当に困るわ。お蔭で並のトレーナーじゃあ入れなくなってる―――俺とかな!」

 

 サムズアップを向けてくるトレーナーの言葉に小さく笑みを零し、集団から視線を外してナチュラルの方へと視線を向ける。ナチュラル自身、既に視線をトウカの森の方へと向けており、無言で闇の先を見つめていた。自分も視線を森の中へと向け、そして気配を澄ませてみれば―――感じる、巧妙に気配を隠しながら視線を向けている存在がいるのを。此方を窺っている存在がいるのを、確かに感じられる。ふむ、と小さく声を零すと、

 

「……何か、強い感情を感じるよ。怒り……殺意……人間に対する強い負の感情だね。絶対殺してやるって言ってる」

 

「んー……」

 

 頭の後ろを掻きながら小さく声を零す。

 

「こういう時に月光がいりゃあ軽く森の調査を任せられるんだけどな……」

 

『ないもの強請りしてもしょうがないだろうよ』

 

 ナイトの言う通りだ。ないもの強請りをしていても仕方がない。トレーナーという生き物はなかったら調達する、或いは代用するのが常だ。持てる手札でどうにかするのは自分の得意分野だ。コートの内側へと手を差し込み、その中から短刀とハンドガンを抜き、弾薬をハンドガンに装填する。対ポケモンを想定した対ポケモン弾がロードされているのを確認し、そして体の調子におかしな所がないのも確認する。

 

「ナチュラル、どうする?」

 

「僕に世界を見せてくれるんだよね? だったら新しいヌシに会わせてほしいな」

 

「あいよ」

 

 短刀とハンドガンを一旦しまい、ナチュラルにキャリーケース等の荷物を一旦ここに置いて行く事を指示しておく。スペアボールからフーディンを繰りだし、ここに置く荷物の見張りを頼む様に指示する。頷いたフーディンが文句を言う事なくナチュラルからキャリーケースと鞄を預かり、荷物番をしてくれる。その様子を見ていた他のトレーナーたちがおいおい、と口を開き始める。

 

「話を聞いていたのかよ?」

 

 心配する様に森の中から出てきたトレーナーが言うが、勿論話を聞いていたさ、と返答し、帽子を被り直しながらその言葉を続ける。

 

「―――この程度で止まる様ならチャンピオンやってないのさ」

 

 

 

 

 ―――夜だ。

 

 完全に夜の暗闇が支配し、月が天に浮かんでいる。昼間でさえ薄暗いトウカの森だが、夜という時間帯は更にこの闇を深く、そして見づらいものへと変えて行く。対策もなしにこの中へと踏み入った者は突破するのに相当苦労する事だろうが―――平時であればそこまで問題ではない。トウカの森は比較的に安全なエリアだと認識されており、実際に虫取りを目的とした少年が入って、網でポケモンを捕まえられる程度には安全なのだから。だが今は違う。今、踏み入ったこのトウカの森は、

 

 闇の底から獲物を狙うような、そんな視線が突き刺さっている。肩の上にはダビデが乗っており、ダビデが威嚇する様に周りへと気配を放っている。そのおかげか、襲いかかってくるポケモンは存在しない。ダビデは小さく、そして能力に関しては直接的な戦闘向きではない、ボルトチェンジで交代、麻痺撒き、削り効果、そういう性能のポケモンだが、それでも100レベルだ。成長の限界と言われるレベルに到達している。50レベル程度のポケモンが十体群れようが、ダビデに勝てはしない。だから、ダビデが目を光らせている間は大人しくしているのだ。

 

 まだ襲ってきはしない。

 

 まだ。

 

「流石にこの状況でピカネキを出して遊んだら喰われるな」

 

「僕もいる事を忘れないでよ」

 

 無論、言葉通り物理的に餌にされるという意味だ。ポケモンがポケモンを喰らう、肉食であるならばそれは珍しい事ではない。野生のポケモンならではの事だ。ともあれ、育成途中のピカネキでは流石に実力が足りない。奇襲を受けた場合、そのまま落とされるだろう。となると奇襲に対応できる、育成済みのポケモンが重要―――。

 

 そう思考を作った瞬間、高速で跳び出してくる姿がある。それに素早く反応したダビデが肩の上から電磁波を放ち、動きを鈍らせた瞬間、袖の中にしまっていた短刀をワンアクションで手の平の上へと出しながら体を加速させる。ポケモンの動きを真似る。亜人種のポケモンが動かすように体を動かし、

 

 人間の生身電光石火を繰りだし、背後へと周りこんでナイフを振るう。

 

 草むらの中から跳び出してきたのはマッスグマだった。首裏へ短刀の柄の一撃を叩き込み、それでマッスグマの動きを止めてから蹴り飛ばし、肩から飛び降りたダビデが雷を落としてマッスグマを無力化する。そのままステップを取り、ナチュラルの横へと移動し、短刀を構えたまま周りへと視線を向ける。相変わらず視線は多いが、それでも襲いかかってくる様な存在はない。どうやら襲いかかってきたのは今のマッスグマだけだったらしい。短刀を構えたまま、ダビデを迎える。周りへとエレキネットとクモのすを吐いており、接近するポケモンが存在すれば確実に足を取られる様にしてある。

 

「殺した……のか?」

 

「いや、瀕死にしただけ」

 

 殺すのなら首裏に刃を突き刺して始末している。ナチュラルがいる以上、必要以上に殺生を行う事はない。しかしトウカの森の中へと入ったところから完全にマークされている。これは一旦隠れた方が動きやすいだろうと判断する。

 

「ポケモンのいない場所、解るか?」

 

「うん。ここにいる皆は心を開いてくれないけど……それでも気配は解るよ。トモダチが教えてくれる」

 

 そう言ってナチュラルは腰のボールに触れた。どうやらやっこさんは今日に限っては非常に協力的らしい。となると機嫌が良い内にさっさと移動した方が良いだろう。ダビデをボールの中へと戻し、その代わりにカノンを繰り出す。夜の闇の中でも遠慮なく輝く彼女は闇の色を吸収し、タイプを変質させ、そして闇に適応する様にその光を消失さえ、また同時に夜の闇を深くして行く。

 

「アタシ参上ッ! 寧ろ惨状と言っても過言ではないわね! ふふふ、じゃあ活躍してあげようじゃないかしら!」

 

「―――二律背反」

 

「仰せの通りにヘイ、カモン!」

 

 夜空を覆う様に暗雲が発生し、雨が降りだす。また同時に濃霧が発生し、完全に光が遮断される。トウカの森を覆う様に発生した暗雲と濃霧は完全にポケモンの嗅覚と視覚を潰す為の物であり、また雨音によって聴覚も潰す。相当近い距離にいない限りは此方を捉えることなどできないだろう。カノンをボールの中へと戻し、それと入れ替わるようにナタクを繰り出し、そしてナタクとナチュラルの手を握る。ナチュラルなら場所が解るし、その探知はナタクが行えばよい。

 

 これで徹底してポケモンを回避し、調査を行う事が出来る。濃霧と雨の影響で体がかなり濡れてしまっているが、そんなものは今更だ。濡れる事を気にしてしまったポケモントレーナーが旅をできるものか。息を吐き、ナチュラルが示した道をナタクに先導させる様に、一瞬先が全く見えない暗闇の中を、確実に、そして安全に進んで行く。

 

 ―――なおこの作業全て、月光がいれば彼女一人で済む上に踏み込む必要すらない。

 

 フィールドワークという点において、彼女の有能さが解る。

 

 草木の間に体を隠すようにトウカの森を進みながら、この森に発生してしまった異変について考える。この異変に関してだが―――大体その原因を予測する事が出来る。この状況、そして情報から想定する事の出来る可能性は四通り存在する。

 

 その一つ目が普通にヌシの交代だ。前々から人間に対して悪感情を持っているポケモンが存在し、そして殺意を持っていた。ヌシの交代をきっかけにトウカの森を支配し、そして人間に対してなわばりを主張しながら危害を加える様になった、というケースだ。現状、この可能性が一番低い。もしこの可能性だったら、事前にセンリか、或いはカナズミジムのジムリーダーのツツジが何とかしていそうだからだ。となるとこの事態は突発的な可能性が高い。

 

 となると考えられるのが二つ目と三つ目のケース、誰かが意図的にポケモンをここへと放逐し、そしてこの事態を引き起こしている。この二つのケースはマグマ団とアクア団が原因である場合と、そしてフーパが原因である場合に分けられる。あの組織が原因だった場合はトウカの森に目を引きつけている内にカナズミシティで何かをやらかすのが目的、フーパが原因なら恐らくは愉快犯になってくる。

 

 だが正直、一番高い可能性は他にあると思っている。

 

 つまり四つ目のケース―――デボンコーポレーションが原因である場合だ。

 

 ”(むげんだい)エネルギー”の話だ。

 

 ポケモンの生態エネルギーを、命を燃料として生み出されたエネルギーだ。もしその事実を知ったか、或いは”燃料”が逃げだしたとしたら―――実に解りやすい事になるだろうとは思う。まぁ、この可能性ではない事を祈るばかりだが、人間に牙をむくという現在の状況を考えるに、どうにかしなくてはならない。

 

 このホウエンの旅、ナチュラルに∞エネルギーの話を聞かせ、見せるというのもまた目的の一つだ。

 

「……ま、なる様になるか」

 

 誰にも聞こえないように呟きながらトウカの森の深部へと向かって突き進んで行く。

 

 恐らく、この事態はヌシを殺すまでは終わりがないのだから。




 前作では野戦が少なかったし、今回は対悪の組織を意識して野戦若干増えるかなぁ、という感じで。なおちゃんとジム戦と四天王は全部制覇予定です。チャンピオンならスパーリングって名目で勝負の予約できるからね。

 こういう野戦状況で輝くのが月光ちゃん。攪乱、援護、調査、備考、攻撃、撤退、何でもできる。

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