俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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カイナシティ

 ゆっくりと、雲が流れて行く。

 

 欄干に腰かけるように体重を乗せながら、背後に広がる大海原へと視線を向ける。大海原へと視線を向ければ悠々と泳ぐ水のポケモン達の姿が見える。その中でもひときわ目を引くのがホエルコとホエルオーの群れだろう。超巨大なポケモンで有名なホエルオーが集団となって泳いでいるのだ、圧巻と表現できる光景がそこには広がっている。友好的なホエルオーの群れなのか、此方へと視線を向けてきたホエルオー達は勢いよくしおふきで挨拶をしてくる。それに返答する様に、此方も被っていたボルサリーノ帽を取り、軽く頭を下げてから被り直した。まぁ、あのホエルオーがなぜあんな行動を取ったのかは解る。彼らは野生のポケモンだ。

 

 彼らには敬意を抱くべき存在がある、それだけだ。

 

 静かにホエルオーが敬意を払いつつも下がって行く姿を眺めながら、軽く欠伸を漏らす。ホエルオーの姿が見えたという事は、大分ホウエン地方に近づいて来たのだろうか。未だに大海原にはホウエンの大地が見えてこない。さっきまで部屋の中で眠っていたのに、暖かい春の陽気に当てられて、大分眠くなってきてしまった。まぁ、船旅というものは大体暇な時間の方が大きいのだ。眠くなるのも仕方がないという話だ。しかし毎回、船に乗る度に眠い思いをしている気がする。

 

 まぁ、自分の人生を振り返れば、常にマグロの如く走り回ったり、鍛錬してばかりの人生だ。一か所にとどまるというのは予想以上に眠気を誘うのかもしれない。改めるべきなのかもしれないが、時間は待っていてくれない。のんびりしている間に状況は動くのだ。そう考えるとどうしても体を動かしたくなってくるのだ……ある意味、マグロで正しいのかもしれない。

 

「しゃぁねぇ、もうひと眠りでもすっか……?」

 

 そう思ったところで、聞き覚えのある音が少し離れた位置から聞こえてくる。今現在は大型客船の二階外周部分、その欄干に寄りかかる様な形で時間を過ごしていたが、その更に上、広場部分から音が聞こえてくる。自分が実によく知るその音に耳を傾け、そして良い暇つぶしになるだろうと判断し、音源へと向かって歩いて行く。欄干に沿って通路を歩けば、上へと続く白い階段が見える。それを上がって、階層を二つほど上へと移動すれば、オープンデッキへと到着する。スタジアム程ではないが、それでも広大なスペースを保有しているのはポケモンバトルをする為であり、金持ちの多くはポケモントレーナーであるという事実があるからだ。

 

 なにせ、ポケモントレーナーは儲かる、勝てれば非常に儲かる。勝てれば、という前提があるが。それでも大規模な大会では優勝賞金は余裕で数百万から数千万というレベルに到達する。そしてそれだけの金額がポケモンの育成、企業への還元、育成環境の構築等で消費されている。なのでポケモントレーナーは金遣いの荒い職業であり、プロのトレーナーであれば一財産築くのも難しくはない。その為の配慮を高等遊民向けの施設に組み込むのは決して間違いではない。そういう訳で、この客船にも無論、ポケモントレーナーに配慮したバトルフィールドが用意されている。

 

 上へと上がっただけでそれが見えてくる。バトルフィールドの上では二人のトレーナーが相対しており、中央にはポケモンが二体存在している。どちらも原生種だ。相対するのはピカチュウであり、ハヤシガメ。電気タイプのピカチュウと、草タイプのハヤシガメでは相性が見えている。

 

『見た感じ、レベルはピカチュウが21、ハヤシガメの方が20でほぼイーブンというところですね』

 

「解析、早くなったな」

 

『ずっと一緒にいますから、そりゃあ覚えますよ』

 

 くすくすと笑う声をボールから聞きつつも、くり広げられるバトルを見る。ピカチュウが正面からハヤシガメへと接近し、電光石火を繰りだし、それを受けたハヤシガメが耐えた所から至近距離ではっぱカッターを繰り出す。それを受けて吹き飛ばされたピカチュウはぼろぼろになる。やはりレベルが低いと耐久力も低い。

 

「レオン!」

 

「そんな雑魚潰してしまえ!」

 

 トレーナーの心配する声にピカチュウが奮起し、立ち上がる。素早く繰りだしたでんきショックを受けてハヤシガメは一瞬だけ怯むが、直後にはっぱカッターがくりだされ、ピカチュウを吹き飛ばし、倒す。そのままピカチュウは起き上がらない。瀕死の状態になっているからだ。勝負は付いた。ピカチュウのトレーナーらしき若い少年と、ハヤシガメのトレーナーの若い少年は二人とも姿がスイミングトランクスだが、何処となく身なりの良さを”気配”に感じる。どっちもそれなりのボンボンかねぇ、と十歳前後の二人の少年を眺めていると、ハヤシガメのトレーナーの少年がピカチュウのトレーナーの方に近づいて行き、

 

「やっぱ進化させてないピカチュウなんて雑魚だな! タイプ相性さえも見極められないんだから駄目だよお前! ピカチュウがかわいそうだしトレーナーなんてやめちまえよ!」

 

「う、だ、だって……」

 

「勝ちたかったら進化させるか相性をもっと良く考えろよ!」

 

「う……うん……」

 

「まぁ、ピカチュウなんて種族値が腐ってる雑魚を使っても勝てないけどな。勝つためには強いポケモンを使わなきゃ勝てないんだ」

 

「それ、カリンがガチギレしそうな言葉だよなぁ……」

 

 まぁ、流石にこんな間違った考えを持って育つのは心苦しい。溜息を吐きながら前に出る。一応は有名人だ。帽子を深く被って顔を隠すように前に出る。白いロングコートが軽く海風に揺れ、それが横を抜ける人の視界に映り、此方へと視線を向けられる。何人かが此方の姿を見て軽く動きを止めるのは、自分が誰であるのかを把握してしまったのからだろう―――サニティチェックをどうぞ。ともあれ、軽く二人の少年の間に立つように割って入る。

 

「まぁ、ちょっと落ち着きなされ少年よ。この超偉いお兄さんが一つ授業してやろうじゃないの」

 

「うるせぇよオッサン!」

 

「お、オッサン……」

 

 地味にショックな言葉だ。いや、恰好は、こう、若干イケてる中年? をイメージしているし実際は28になってるし? オッサンと言えばオッサンなのかもしれないが、肉体的にはピーク時、つまりは二十歳前後の状態をキープしているし、今でも外見年齢は18と間違われるこの俺がオッサン、だと、

 

『子供の言う事ですよ……』

 

 まぁ、そうなのだが。

 

 とりあえず、ポケットの中に適当に突っ込んである”げんきのかたまり”を取り出し、それを抱きかかえられているピカチュウの口の中に押し込み、食べさせる。直後、今までボロボロで元気のなかったピカチュウが目を開き、そして元気になる。その視線はすぐさま此方へと向け、頭が軽く下げられる。可愛らしいそのピカチュウの頭を撫でる。

 

「ま、最初に何を言おうが聞きやしないよな。良し少年。今から俺がこのピカチュウを使ってお前のハヤシガメを倒す。倒せたら俺の講義に強制出席して貰うぜ」

 

「え―――」

 

 ただし、と付け加えながらもう一度ポケットの中に手を突っ込み、そして今度は手の中に飴玉を五つ取りだす。緊急の瀕死回復、戦力調整用に何時も持ち歩いているものだ。それを見た瞬間、文句を言おうと口を開いていた少年の動きが止まる。

 

「俺に勝てたらこの”ふしぎなあめ”を五個やろう」

 

「おー、やるやる! またピカチュウ如きぼっこぼっこにしてやるよ! 来いハヤシガメ!」

 

 報酬に釣られた少年がハヤシガメを連れてフィールドの反対側へと移動し、そしてそこでかいふくのくすりをハヤシガメへと使い始める。あのレベルだったらいいきずぐすり程度で十分だろうになぁ、と苦笑しながらピカチュウを抱いている少年へとすまないね、といいながら視線を向ける。

 

「いやぁ、悪い悪い。余計な事だと解ってるんだけどお兄さん。お兄さん! お兄さんな! は、ちょーっとピカチュウに対して思い入れがあってね、雑魚扱いされるのは許せないものがあるんだよ。まぁ、そんな訳で少しだけ、ピカチュウのレオン……オスか、レオン君を借りるよ」

 

 笑顔を浮かべてそう言うが、少年は不安そうな表情を浮かべ、

 

「む、無理だよぉ! 今だって半分も体力を削れずに負けちゃったし……また戦っても負けるだけだよ……」

 

「お前がそう思うならそれはそれでいいのかもしれないけど、レオンくんを見てみろよ」

 

「ピッカァ!」

 

 少年の腕から抜け出して飛び降りたピカチュウは両頬から電気を見せ、やる気がある事を少年に対して証明する。少年は諦めていたのかもしれないが、このピカチュウは違った。まだ戦いたい、まだ戦える、勝てるという事を証明したがっているのだ。それを見て、少年は黙ってしまう。その間に軽く観客の中へと視線を向けると、此方へと頭を下げてくる男女の姿が見える。たぶん、この子の両親だろう。ボディランゲージですいません、と表現すると向こうも必死に頭を下げてくる。これは両親から許可を取れたという事だろうか。まぁ、そう思っておく。足元のピカチュウも割と気合が入った姿を見せている。

 

 再び少年へと視線を向ける。

 

「で、どうよ。ここで断られたら俺、物凄く恥ずかしい訳なんだけど……」

 

 少年はピカチュウへと視線を向け、しばらくしてから顔を持ち上げる。

 

「お願い……します……!」

 

「良し来た」

 

 少年の頭を軽く撫でて、そしてピカチュウへとしゃがんで、視線を合わせる。片手を前へと出せば、迷う事無くピカチュウが手を握り、握手して来る。やはりやる気は十分らしい。まぁ、本来であれば今の勝負はそれで終わりでも良かったのだが、あのまま勝負を納得させて終わらせると、双方悪い影響が残ったままになってしまう。それは大人として、どうにかできるのに見過ごしておくのは間違いだろう。いや、大人としてではなく―――。

 

 自分も、ハヤシガメのトレーナーの様に相対側のフィールドに立ち、そして正面にピカチュウを立たせる。勝負の間は勉強にもなる為、少年の事は横に立たせ、見学させる。反対側へと向けると完全回復したハヤシガメの姿があり、バトルの準備が完了している。

 

「おい、始めようぜオッサン!」

 

「……まぁ、しゃぁねぇか。うっし、気合入れていくぞレオン。指示を出すから心は預けなくても良い、この時だけは俺に体を預けて動け。勝たせてやるさ」

 

「……ピカ!」

 

 気合十分な返答が得られたところで笑みを浮かべる。

 

「行け、ハヤシガメ!」

 

「さて、始めようかレオン」

 

 ハヤシガメとピカチュウ”レオン”が同時に飛び出すようにフィールドに立つ。速度は圧倒的にピカチュウの方が早い。だが指示を繰りだし、ピカチュウの動きをワンテンポズラす。その結果、ハヤシガメが先制を奪う。

 

「はっぱカッター!」

 

「よけろレオン」

 

 繰りだされたはっぱカッターが一斉にレオンへと向かって放たれる。だがはっぱカッターの軌道を見るのは三度目だ。そしてその全ての動きが一緒である。故に軽くレオンへと指示を繰りだし、はっぱカッターの回避に成功する。それを感覚としてレオンに指示を通して叩き込み、体に覚えさせる―――この試合に限っては、改善しない限りはっぱカッターが当たる事はないだろう。

 

「ポケモンバトルってのはトレーナーとポケモンが揃って初めて成立するもんだ。ポケモンが弱いなら、それを補うのがトレーナーの仕事だ。こんな風にトレーナーが相手の動きを見切ったなら、指示を通して確実に避ける様に仕向ける事が出来る―――レオン、でんじは」

 

 はっぱカッターを回避したレオンがでんじはを放ち、ハヤシガメの動きを封じ込める。海風に飛ばされないように帽子を片手で抑えながら、繰りだされてきたすいとるの軌道を見切り、レオンへとその動きの軌跡を覚えさせる。まだまだ未熟なトレーナーだ、技の軌道を変える事なんてものはエリートトレーナーの様には出来ない、ワンパターンな攻撃だ。これなら一度見切れば以降も回避し続けられる。

 

「まぁ、トレーナーの能力ってのは様々でな。指示を通してポケモンを効率的に動かし、勝利させるタイプってのがいりゃあ―――俺みたいに育成するのが得意って奴もいる。俺ほど極めた人間なら―――」

 

 レオンがハヤシガメへと一気に接近し、呼吸、重心の置き方、意識の仕方を叩き込み、そしてレオンをバトル中に育成させ―――アイアンテールを限定的に習得させる。等倍でダメージが発生するアイアンテールがハヤシガメへと叩きつけられ、ダメージが発生する。また指示の差によって急所への一撃を確定させ、ハヤシガメへと大ダメージを通す。

 

「―――まぁ、こんな風に成長する余地のあるポケモンなら潜在能力を引きだすくらいは出来るし、その場で技の一つや二つ、覚えさせる事だって出来るさ。そうさ、ポケモンバトルは”ポケモンが強いだけじゃない”んだよ、少年」

 

 レオンへと素早く指示を繰り出す。ハヤシガメの必死なたいあたりを回避し、すれ違いざまにアイアンテールを確定急所で叩き込みながら、一気にハヤシガメを沈める。そうやって残ったレオンは無傷であり、その状態で勝利していたのだ。まさか先程余裕で勝利した筈の相手に負けるとは思わなかった少年が呆然と立ち尽くしており、レオンも状況が軽く信じられないのか、自分の姿を眺めながら呆然と立ち尽くしている。

 

「いいか、諦めるな。拘りを持て。カスミ風に言うならポリシーを抱けって奴だ。未進化のポケモンでもどうにかなるんだよ、トレーナーさえちゃんと扱ってやれば。だから1回負けた程度で諦めんな。悔しかったら勉強しろ。ポケモンと一緒に強くなれ、男の子だろ?」

 

 今までコートの下で眠っていたポケモンが目を覚まし、もぞもぞとコートの下から動きだし、肩の上へと上がってくる。肩の上に乗っかるのは大きさが10cm程の黄色い体毛に覆われた、蜘蛛の姿のポケモン、バチュルだ。そのふさふさの姿の足を軽く撫でてやり、目を細める姿を見てから視線を少年へと戻す。

 

「どうよ、勉強になったか」

 

「え、あ、う、うん……でも、お兄さん……誰?」

 

 少年の素朴な疑問に笑顔で答える。

 

「―――通りすがりのポケモンマスターさ!」

 

 

 

 

『―――乗船ありがとうございました、カイナ、此方カイナシティとなります―――』

 

「んっん―――! あぁ、久しぶりのホウエンだわ。懐かしさがあるなぁ、やっぱ。どうよ、ダビデ? ……そういえばお前、ホウエンは初めてだったな。目を輝かせやがって、何とも愛い奴め。ここか、ここがいいのか!」

 

 バチュル―――ダビデの足を軽く掻く様に撫でる。基本的にバチュルという種族は頭や腹などよりは足の方を撫でられるのが好きらしく、こうやって肩の上に乗っているバチュルのダビデの足を撫でてやると、嬉しそうに鳴き声を零すのだ。10cmという大きさしか持たず、それでいて未進化であるダビデはただのマスコットにしか見えないが、これでいて今季のパーティーのサポーターを務めているのだから、見た目でポケモンは侮ってはいけない。

 

「何をやっているんだか……邪魔になってるよ」

 

「ん? あぁ、すまんすまん」

 

 さっさと乗っていた客船から下りて、そして邪魔にならないように桟橋の端へと寄ると、荷物であるバッグとキャリーケースを引きずる青年の姿がやってくる。無造作に伸びる緑髪に帽子を被る、不思議な雰囲気の青年は今にも悪態を吐きそうな表情を容赦なく此方へと向けているが、そんな注文は受け付けない。アシスタントに人権はないのである。数年ぶりとなるホウエンの大地へと桟橋から進んで到着しながら、海の方からやってくる風を感じる。

 

「うーん、ホウエンだねぇ」

 

「解るの?」

 

「解ったような態度をしているのが風流人っていうもんさ」

 

「聞かなければよかった……」

 

 心底後悔した様な表情を浮かべ、溜息をアシスタント兼ブリーダーとしての弟子が吐いている。その姿を確認して軽く笑い声を零し、そしてカイナシティの浜辺へと視線を向ける。軽く見渡せば浜辺に沿って開いているレストランの姿もある。時間も丁度良い頃合いだ、

 

「軽く食いながら今後の事を話そうか。ホテルには予約入れてあるし、ちっと遅れても問題ないだろ」

 

「旅慣れてるなぁ」

 

「世界中回ってるからな、こう見えて」

 

 アシスタントを連れてそのまま適当に浜辺のオープンレストランへと行き、開いている席へと座る。そこから街の方へと視線を向ければ、船の中でバトルをしていた二人の少年が両親達と一緒に町の中へと消えて行く姿が見える。親と手をつないで歩くその姿を少しだけ眺め、曲がって消えたところで視線を外し、メニューから適当に腹に溜まりそうなものを選ぶ。カイナシティといえばミナモシティに並ぶホウエンの玄関とも言える街だ。その関係で新鮮な魚介類が運び込まれている為、海鮮パスタなんて大いに期待できるんじゃないか? と思っている。

 

 料理を頼めば飲み物の方が直ぐに来る。冷たいアイスコーヒーを口の中で転がしつつ、一息を吐く。

 

「ふぅー……ホウエンか……」

 

「確かここにいる伝説は大地の創造者”グラードン”と、大海原の創造者”カイオーガ”、そして天空の支配者”レックウザ”だっけ」

 

 そうだなぁ、とアシスタントの声に答える。

 

「このホウエン地方は割とめんどくせぇ土地でな、伝説種が三体存在している。お前の言った通りグラードン、カイオーガ、そしてレックウザだ。その上で、だ。幻のポケモンとしてラティアスとラティオスの目撃例がアルトマーレに続いて高いのがここ、ホウエンだ。それに付け加えるとホウエン地方にはグラードンとカイオーガが暴れた場合のセーフティとして古代人が用意したレジロック、レジアイス、そしてレジスチルが眠ってやがる。だからホウエン地方は他の地方と比べてめちゃくちゃ伝説、準伝説級のポケモンが多い。それに加えてグラードンとカイオーガは”敵対関係”にある。クッソめんどくせぇ土地だ」

 

 ……アレ、ジラーチもホウエンだったか? デオキシスは……違うな。記憶が若干曖昧だ、メモを確認した方がいいかもしれない。

 

「……伝説レベルが敵対だなんて、良く滅ばなかったね」

 

 いや、まぁ、ホウエンは過去に滅びそうになったのだ。ほんとうに古代の話だが。

 

「グラードンとカイオーガは戦闘力よりも侵略性が凄まじく高くてな、ぶっちゃけ”戦う領域に踏み入れられない”というのが現実なんだよ。まともに戦えればグラカイに勝てる可能性だってあっただろうよ? だけど誰が海すら蒸発させる日照りの中で戦い続けられる? 島を沈没させる程の大雨の中でまともなバトルが出来るか? と、まぁ、そこらへんが答えっつーわけだ。古代人たちはこの問題を解決する為にレジロック、レジスチル、レジアイスというカウンターを用意したわけだが」

 

「失敗したんだ」

 

「おう」

 

 レジ三種では不足だったのだ。これがレジギガスだったらまだ何とかなったのかもしれない。だがホウエン地方に用意されたレジ三体ではグラードンとカイオーガの暴威に抗う程度しか出来なかった。レジ三体の尽力によってホウエン地方は滅びを回避した。しかし問題は解決できなかった。だから、

 

「古代人は祈ったんだ。助けを。そしてそれに応じたのがレックウザだった。レックウザの”エアロック”―――いや、”デルタストリーム”か。ありゃあ天候殺しっても言える能力でな、全ての天候に対する干渉を無効化して、正常化させるって能力なんだよ。古代人の祈りに応じたレックウザはメガレックウザにメガシンカ、その力でゲンシカイキしたグラードンとカイオーガの力を抑え込み、戦いを止め、そして眠りにつかせた。ホウエンはそうやって救われました、めでたしめでたし」

 

「改めて君は物凄い事を知っているよね。学会にでも発表すれば受賞ぐらいされそうなものだけど」

 

「んなもん興味ねぇよ。そんなものに興味あったらチャンピオンなんかやってないって」

 

「それは……そうだね」

 

 溜息を吐きながら軽く空を見上げ、そしてホウエン地方の未来を考え、そして再び溜息を吐く。

 

「……まぁ、知っての通り、俺の目的は”伝説種が暴れない未来を作る事”なんだわな、これが」

 

「ホウエン地方の伝説達の居場所は全部把握しているんだし、先回りして僕が説得してもいいよ? 話しあえばトモダチだし」

 

「その為にお前を拉致って世界を見せてるようなもんだけど―――残念ながらそれは不可能なのである。アズにゃん王がいてくれれば心強いんだけどなぁ、今回はモロに世界の闇を覗き込む様なハメになりそうな気がするし……」

 

 まぁ、それはともあれ、色々と無理な理由がある。

 

「まず第一にグラカイの二匹が手だしできない場所にいる事。グラードンは溶岩の中で眠ってるし、カイオーガは深海の底の底、ダイビングでさえたどり着けない闇の世界で眠り続けてる。レックウザはオゾン層を音速で飛び回ってる。俺にどうしろってんだ!!」

 

「どうどう」

 

 カイオーガだけはジョウトからワダツミ―――ルギアを呼び寄せればまだなんとかなるかもしれないが、それを利用されたり、カイオーガだけが目覚めた結果グラードンが連鎖反応で目を覚まして暴れ始めたらやってられないってレベルじゃない。レックウザは常に”巣”にいるわけじゃない、世界中を移動し、オゾン層で活動しながら休む為に戻ってくるのだから、運命力が低すぎてエンカウントできない可能性の方が高い。となると確定で接触できるのはレジ三種ぐらいだろうだが、正直役に立つとは思えない。ジョウトの方から伝説を三人とも呼び寄せた方が良いだろう。

 

「藍色の球と紅色の球もなぁ、アレって人間の精神をハッキングするから運命力低いと拒絶されて乗っ取られるだけだからなぁー。クソ、レッドがバトルフロンティアやサブウェイの沼にさえ飲まれていなければなんとかなったものを……!」

 

「で、結局どうするんだい?」

 

 そうだなぁ、とアシスタントの声に答えると、丁度料理が運ばれてくる。それが目の前に並べられるのを確認しつつ、フォークをイカスミスパゲティに通す。

 

「だから暴れる理由であるマグマ団とアクア団をどうにかしよう、って話になるんだわ。組織の方を潰しちまえばどうとでもなるからな。前来た時はまだ組織の方が結成前でボスの足取りもつかめなかったら手出しができなかったけど―――最近、ホウエン地方でマグマ団、アクア団の活動が見られ始めたし、それに合わせてこっちでも活動の開始が出来る。サクっと組織を潰しちまえばそれまでの話さ。グラードンもカイオーガもおねんねを継続できるって訳よ」

 

「なるほどね。……ん、美味しいねこのパエリア」

 

「マジか。俺のスパゲティとちょっとだけ交換しようぜ」

 

 予め店員が用意しておいた取り皿にお互いの料理を少し乗せて交換し、試食してみる。どう美味しいかを表現するのは難しいが、美味しいと断言できる。やっぱり旅はこうやってゆっくりする時も必要かもしれないなぁ、何て事を思いながら、

 

 ―――ナチュラル・ハルモニア・グロピウスの姿を見る。

 

 イッシュ地方でゲーチスによって洗脳させられていた青年だったが、プラズマ団を滅ぼすと決めた時にゲーチスに腹パンし、そのままやぶれたせかいに投げ捨て、拉致って獲得したのがナチュラル君である。Nの城に開幕流星群を連打する作業は実に楽しかった。ハーブを大量に口の中に放り込みながら流星群64連打なんて中々みられる光景じゃない。

 

 まぁ、そんな訳で拉致ってしまったナチュラル青年だが、彼がこのまま成長した場合、非常に環境というかイッシュ地方に対して危険だ。放置していても黒と白の主人公が解決するかもしれないが、ナチュラルの能力―――ポケモンの言葉を理解し、声を聞くというものは非常に有能な能力である為、どうしても確保したく、拉致ってしまったのだ。

 

 最初に言うが、この世界、”ポケモンの言語は7割解析されている”のだ。

 

 たとえばバンギラス等の”かいじゅう”グループのポケモンの怪獣言語、これは完全な解析が完了されており、勉強をすればちゃんとバンギラス等の怪獣グループのポケモンが話している言葉を人間の言葉へと翻訳する事が可能だ。

 

 ただそれでも絶対に解析できない言葉が存在する。

 

 そもそも言葉を発さないポケモン。

 

 人間の言葉を語らない伝説種。

 

 新種のポケモン。

 

 人工的に生み出されたポケモン。

 

 こういう存在に関してはナチュラルが存在するだけで交渉のステージに乗る事が出来るし、俺だって全ての解析済みポケモン言語を習得している訳ではない。万能ポケモン翻訳機だと考えれば、ナチュラルの価値はかなり高い。ちなみにかなり突出した”能力型”と”育成型”の才能を保有している。その為、洗脳解除の為に世界の良い所、悪い所を両方見せながら周り、ポケモンの育成の仕方などを教えている。

 

 最初は対立したりもしたのだが、

 

 こうやって時間が経過すれば、段々とナチュラルにも現実が伝わってくる。

 

 まぁ、そんな訳で、今はナチュラルくんもほぼ洗脳解除が終わり、優秀なアシスタントとして活躍してくれている。

 

「∞エネルギーねぇ……」

 

 まあ、食用のポケモンがあるんだし、個人的にはそこまで思う事はない。それでも、ナチュラルからすれば違う風に感じるだろう。まぁ、それはそれとして、

 

「うまうま」

 

「んー、また来たくなる美味しさだなぁ」

 

 やはり美味しいご飯を食べるのは良い、と思う。お腹も、そして心も満たされる。

 

「で、これからの活動はどうするんだい?」

 

「まずはカナズミに行ってデボンコーポに顔を出す。新しいポケナビの受領と、あそこならダイゴの居場所を把握している人がいるからな。それが終わったらミシロタウンへと向かってオダマキ博士に挨拶して、そっからマグマ団とアクア団の足跡を追う感じかねぇ」

 

「結構忙しくなりそうだなぁ」

 

「そりゃあそうさ、誰かを何かを助けるのが楽な訳ねぇじゃん」

 

 当たり前の話だよなぁ、何て事を思いながら軽く笑うと、砂浜の方に直感的に何かが出現したのを感じ取る。砂浜へと素早く視線を向ければ、砂浜の中央に見た事のない、光の輪っかが出現するのが見える。見た事のない現象に動きを止め、観察していると、その向こう側から新しい姿が出現する。

 

 それは子供の様に小さく、そして紫をベースとした色を持った、原生種のポケモンだった。

 

 その姿を見て軽く首を傾げ、

 

 光の輪っかを見て軽く首を傾げ、

 

 ―――そして思い出す。あ、やべぇ、と。

 

「フ―――」

 

 そのポケモンの名前を口にしようとした瞬間、

 

 ―――光の輪っかの向こう側から、咆哮が響き、そして荒れ狂う様に大量のポケモンが出現した。




 オニキスさん(28)
  赤帽子とコンビを組んで悪の組織に腹パン(流星群)を喰らわせて回っているチャンピオンな人。今日もサカキに貰った黒い帽子を被ってかっこつけてる、”黒帽子”。

 レッドさん(16)
  バトルフロンティアとバトルサブウェイという沼に飲まれて帰ってこない。

 ナチュラルくん(20)
  城が流星ラッシュされたと思ったら異次元腹パンがゲーチスに突き刺さってやぶれたせかいに飲みこまれた哀れな犠牲者。プラズマ団は犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな……。組織の残骸はジュンサーさんが美味しく逮捕しました。

 このお話はポケスペ+萌えもん+ORASという変則的な内容になってます。ORASにおける伝説出現地点の光輪を某ポケモンの責任としてシナリオを組んでいるので、大体想像通り、何時も通りなんじゃないかなぁ……。(帰国準備進めつつ

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