終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 テンプレだから何も考えずにひゃっはーなバトル出来ると思ってたのに、異世界モノってその世界の文化・生活様式・歴史・宗教・政治様式その他もろもろ設定して更に違和感ないように描写しないといけないってんで、意外に難しいのが分かった。
 ただでさえ設定が多い厨二モノなのに。

 前二作みたいに鎮守府から出ないならまた閉じた空間のことなので話は違ってくるんだけど………。
 特にここ二、三話ほどそのせいで文章が冗長になってる気がする。

 誰だ異世界トリップがテンプレで簡単とか言い出したの!

………え、こんな崩壊世界を舞台にするのが悪いって?




人型

 

「あ、提督さんが自覚したっぽい」

 

 必要品の買い出しを終え、宿で荷物の整理をしていた夕立が徐に顔を上げる。

 顔を見れば何を考えているのかまで大体分かる、そうでなくても互いの第六感は共有している春也の精神状態は、離れていてもなんとなく伝わってきた。

 

 春也の異端など、夕立は先刻承知だ。

 魂の渇望(いのり)を受け止めて独自の異界法則を現実に走らせる媒体である“霊式祈願転航兵装”『艦娘』である彼女には当然の話で、最初に彼が気絶するくらいに深く深く繋がった時にその魂はとうに把握している。

 

 それも含めて伊吹春也を提督(あるじ)として認め、愛したのだ。

 己が“夕立”であれば、それはかえって自然かつ自明の理だった。

 

 狂気と死臭の渦巻く戦場のただ中で気付いてしまい、動揺して咄嗟の判断を誤るアクシデントにならずに済みそうだというのがせいぜいの夕立の感想である。

 

 そんな時、戸が控えめに叩かれる音が響いた。

 

「居るっぽい」

 

「失礼するのです。電です、夕立さん」

 

 後ろ手に戸を閉めながら、見た目は夕立よりも幼い少女である電が入室してくる。

 部屋の隅に積まれた座布団を引っ張り出して滑らせると、一礼して電は行儀よくそこに正座した。

 

 荷物に囲まれながらぺたんと女の子座りした夕立がそれに向かい合う。

 なんとも言えない一瞬の沈黙の後、少し聞きたいことがあるのですが、と前置きして電が本題を切り込んだ。

 

 

「夕立さん、随分あなたの提督に懐いていますよね?」

 

「ええ、愛してるわ」

 

 

 唐突な質問の真意を知っている夕立は、大人びた妖しい笑みを可憐な顔に浮かべて即答する。

 

―――突然だが、提督とその艦娘の強さを測る要素は、三つある。

 

 うち一つ目が過去に倒した敵達の魂を取り込んだ量である練度、そして二つ目が、提督と艦娘の“仲の良さ”。

 提督と艦娘には相性というものがある。

 ある艦娘を活動励起させられたからと言って、その提督が他の艦娘も使えるとは限らないし、逆にもっと強力に活動させられる場合もある。

 

 その基準となるのは両者の共鳴可能な一定水準以上の祈りであり、艦娘ごとにまちまちなその内容を属性と呼んでいた。

 そして、属性にはタロットカードのように『表性(いい意味で言えば)』と『対性(悪い意味で言えば)』がついて来る。

 

 例えば、電の属性は『現在を肯定する者』、表性は『適応力・諦めない意思』、対性は『惰性・楽観論』である。

 航輔には当て嵌まってはいるが正にそうであると断言するには躊躇いが残る、そんな性質だ。

 

 このように渇望が艦娘の属性にそのものずばり当て嵌まるということはほぼないので、通例提督達は己に相性のいい複数の艦娘を扱える。

 “ほぼ”ない――――その例外が、ここにいる。

 

「もしかして伊吹春也さん、夕立さん以外の艦娘使えなかったりするのですか?」

 

「だって必要ないっぽい」

 

 夕立の属性は『侵略を砕く者』、表性は『守護・内側への寛容性』、対性は『排他・外側への冷酷性』。

 

 命ある者にはあの村人達のような自分勝手な奴らにすら理解を示して護ってみせ、逆に命を脅かすゴミと認定した相手に対してはその排除に容赦も躊躇いもしない。

 そんな春也と夕立の相性はまさにぴたりとはまるという表現が相応しい代物だった。

 

 でなければ、そもそも“倍加反射”のような異能など初めから使える筈がない。

 

 提督の渇望を受け止め現実に法則へと昇華させる、艦娘の真価は本来そこなのだが、異能を形成可能な提督は絶対数が元々稀少な中で更に稀少な存在である。

 しかし逆に言えばあまりに稀少な為、分かりやすい異常性は際立ってくる。

 

 一例として、艦娘の狂信とも言える提督への愛情と忠誠心。

 夕立の春也へのべったり具合を見ていた電は、その異能の具体的な詳細を知る由はなくとも、自分達の仲間として行動する二人が間違いなく大物であると見定めた。

 

「それで、電?それを知ってどうするの?」

 

「どうもしないのです、“夕立さん達は”」

 

――――しかし、“自分達は”その力を利用してうまく立ち回れるかも知れない。

 

 促されずとも、電の本音は言葉の裏に滲んでいた。

 それを汲んだ夕立は、しかし怒るでもなく興味なさげに指でとんとんと床を叩いて遊んでいた。

 

 電が伝えたのは、夕立達に直接不利益な真似を企むことはしないという誠意も含めてだから。

 あと、ついでに。

 

「でも、あの紀伊航輔ってひと、そんなに器用っぽい?」

 

「……………。訊かないで欲しいのです」

 

 電の提督に到底あくどい企みなどできそうには思えなかったので。

 それはそれで警戒されないという意味でやはり立ち回りが上手いとも言えるが、とにかく一応の合意が交わされて電の来訪の目的は達したのだった。

 

「さ、そろそろ夕立の提督さんが帰ってくるっぽい。話は終わりでいい?」

 

「もちろん。ごゆっくりなのです、また明日」

 

 丁寧に一礼してから戸を閉める電とのわずか数分のやり取りを終えた夕立は、そのまま意識をあっさり切り替えて作業に戻り、消費した時間を取り戻すように素早く荷物の整理を終わらせる。

 ナイーヴになっている春也に無邪気な少女として甘え甘えられる、そんな至福の時間がこの後待っているのだから。

 

 夕立にとって、仲間が信用できるかなど実際大した問題ではない。

 いざ戦闘になれば、それがどんな理不尽で不幸な逆境でも関係ない―――できるできないではなく“やる”だけだ。

 故に戦に関して不安を抱かないというより、不安という概念そのものが繋がらない。

 騙され裏切られてもその時はその時で、怒るのも嘆くのもそうなってからの話だ。

 だから今の夕立にとって春也とどう時間を過ごすかを考える方が電の思惑よりも万倍大事だったし。

 

――――………ただいま

 

――――おかえりなさい、提督さんっ!!

 

 宿に帰った春也を見た瞬間に喜びのあまり考えていた手筈を全て投げ捨て、輝かんばかりの笑顔を浮かべ両手を広げて飛びついたのだった。

 

 

 

 

 

 宿に布団は二つ敷いてあっても、結局野宿の時と同じように春也が夕立を抱きしめて眠った翌朝。

 

 結局春也が己の異端を理解して覚えたのは己自身への嫌悪感でも忌避感でもなく、ただの感傷だ。

 夕立と思う存分じゃれて、一夜寝て、すっきりすれば蟠りもなく割り切れたので、これ以上彼女に情けないところを見せなくていいだろう。

 

 なので、深夜ではなく早朝5時に突撃してきた変なところで素直な航輔達を、春也は常な状態で出迎えた。

 

「さあ行こうぜ鎮守府。進路、北西!!」

 

「違う。こっちっぽい」

 

「南南東だな」

 

「司令官さん………」

 

 そういう客も慣れっこなのか早い時間でも出してくれた宿の朝食を平らげ、荷物を纏めた春也達四人は歩き出す。

 昨日入ったのとは違う、大通りからの門から街を抜けて、腰くらいの高さの木柵で仕切られ延々と続く街道に沿って進めば鎮守府に着くらしい。

 

「もう山道とか行く必要ないのか?」

 

「ええ。距離的には同じくらいだけど、今回は私達の足だと日が沈む頃くらいには辿りつけるはずっぽい」

 

 荷車は中身を換金して多少軽くなったし、平らな道で転がしやすいし、段差やでこぼこ道で倒れないように気を配る回数も激減した為、倍以上の速度で往けると思われた。

 この世界の要である商業・工業・宗教拠点の“神社”と軍事拠点“鎮守府”だけに、その二つを結ぶ街道は念入りに整備されている。

 

「伸びてる街道はもう一つあったみたいだけど、あれは?」

 

「あっちは帝都行きなのです。特に用事はないですね」

 

「けっ、お上に関わったってろくなことないぜ、春也!」

 

「それは自分から軍人になりに行く奴の台詞なのか………?」

 

 そして、政治拠点の“帝都”。

 これら三つを結んだ三角形を中心として人類の生存圏が確保されているっぽいとは、当然夕立に聞いた話だ。

 実際生まれて殆ど経っていない夕立の知識も完全に正しいのかどうか分からないが、街道の管理への力の入れようを見ればおそらく事実なのだろうと思えた。

 

 上空をプロペラ音が通り過ぎる、ラジコンのような小さ過ぎる飛行機とすれ違うのは数十分に一度の話だ。

 あれはおそらく艦載機で、哨戒の為に空母系の艦娘を交代で裂いているのだろう。

 

 道の脇にある途切れなく続く木柵も、防衛力は期待していなくとも破壊されればそこから三角形の内側に深海棲艦が入った可能性が高いと分かるようにする為のものだと思われる。

 

 そんな事を話しながら、のどかに陽の差す下旅路を往く四人。

 その上を過ぎ去る飛行機がそろそろ二桁目に達しようかと言う頃だった。

 

「なあ夕立、あの飛行機、進路がちょっとおかしくないか?」

 

「……確かに、ちょっと変っぽい」

 

「そうか?気のせいだろ………って、あ、墜ちた」

 

「「―――っ!!」」

 

 宿で包んでもらった笹の葉弁当を昼食にしながら、ひとやすみと開けた場所に足を投げ出しながら座って空を見上げていた春也達。

 その視界の中で、灰の煙を上げながら飛行機が炎上して墜落する。

 

 それが地面に叩きつけられ破裂音を辺りに響かせる前に、春也と夕立は素早く立ち上がった。

 

「春也?どうしたんだ、何が起こって――」

 

「司令官も、早く立ってください。来ますッ!!」

 

 視界の隅に黒い染みができる。低い耳鳴りがする。鼻の奥がちくりと刺されているよう。空気が不味い。肌をざらついた何かに撫ぜられた気がする。

 

 五感は何も異常を検知してはいない、周囲には木柵とところどころに寂しく自生した細い木以外は何もない一面の荒れ地が広がっている。

 であれば、本来それら全ては錯覚なのだろうが―――春也と夕立は、そして僅かに遅れて電も確信していた。

 

 敵がいる―――――走って来る、途方もないスピードでッ!!

 

 

『Rhaaaahhhh!!!』

 

 

 常人には、突如上空に影が生まれたようにしか見えなかっただろう。

 そして夕立と電も、構えた砲を上に向けて狙いを定めて引き金を引く………なんて悠長なことをしている時間は取れなかった。

 

「うわあああっ!!?」

 

「こ、の――――ッ」

 

 すぐに重力に引かれ落ちて来るその影。

 反射的に身を縮めてしゃがみ込む航輔をかばうように位置を調整しながら、春也は前に躍り出る。

 そしてカウンター気味の全力の回し蹴りを影に叩きつけた。

 

 ガン、と人間が何かを蹴ったものとはとても思えない鈍い衝突音が唸る。

 やや後方に弾き飛ばされた影は、土を舞い上げながら自分から更に後方に跳んで、固まっている四人から距離を取った。

 

 その、二本の足のみで。

 

 相も変わらず気色の悪いぬめった黒の肌を持つ深海棲艦は、しかしそれだけではない。

 二足歩行で直立し、前脚は発達して太く長い腕としてその先に禍々しい鉤爪を光らせている。

 

 そして奇怪さを際立たせているのが、内股と脇腹に僅かながら他と違う、青白い肌が垣間見えることだ。

 その質感も見るからに違っていて―――艶めかしい女の柔肌のよう。

 それだけに、他とのコントラストでいっそう生理的嫌悪感が際立った。

 

 そんな己の容姿が与えるマイナス感情を自覚しているのか、深海棲艦は目をぎらつかせつつもその巨大な口の端を吊り上げる。

 

『Rha,RHAAAAA-------』

 

「ひ、人型………っ。ウソだろ!?」

 

「人型だと、なんかマズいのか。―――――確かに、そうかもな」

 

「提督さんッ!!」

 

 変なしなりを付けながら揺れる敵の鉤爪から、滴る赤い鮮血が零れ落ちる。

 交錯の際に左肩を深く切り裂かれた傷を右手で庇いながら、春也が呻いた。

 

「このっ、よくもぉぉっっっ!!!」

 

「援護するのです!」

 

『Raaaa,haah??』

 

 怒り、猛る夕立が腕に顕現させている鈍く輝く砲塔から何度も鉛の砲弾を吐き出させ、電もそれに続いた。

 だが、並はずれた脚力を持っているのか右に左にとステップを踏むだけで全ての砲撃は文字通り的外れになってその後ろへと虚しく消えていく。

 

 そんな二人をあざ笑うように、鉤爪の生えた両腕を不規則に振り回しながら深海棲艦は堂々と迫る。

 距離を詰めればそれだけ当たり易く避けにくくなるが、躊躇や恐怖といった感情などこの化け物に果たして存在するものか。

 

 頭を狙う、地を這っているのかと思うほどの冗談みたいな前のめりで避けられる。

 足を狙う、側宙というアクロバットな跳躍を捉えられない。

 腹を狙う、敵はくねらせた体の脇、腕との間の隙間に招待しながら悠々と前に前に進む。

 

 ついに至近距離で真正面の直撃コースを捉えた電の砲撃も、その左の鉤爪ではたき落とされた。

 そして、逆の腕が鞭のように斜め上方から夕立を襲う。

 

 その鋭いが荒々しくぎざついた刃の連なる爪が、その刃渡りで華奢な少女を輪切りにしてなお余ることを証明せんと煌めいた。

 

 

「―――――嘗めるなッッ!!!」

 

 

 そして、虚空へと投げ捨てるように腕の武装を消し、腰を捻りながら繰り出した夕立の拳と激突する。

 

 

 “倍加反射”……相手の殺傷性能、切れ味すらをも倍にして跳ね返すその上に、更に夕立の華奢な外見からは想像も及ばない鋭い鉄拳の威力を乗せ、ズタズタになったのは深海棲艦の腕と鉤爪の方。

 

「あまり調子に乗らないほうがいいっぽい」

 

『Rha------!!???』

 

 動揺はするのかあるいは痛覚があるのか―――ぼろぼろと崩れる腕にたじろぐ敵を、激しい輝きを宿す瞳で睨みつけ、夕立は宣告する。

 

 

「夕立は今、すっごく――――――怒ってるのよ?」

 

 

 怒りも過ぎればかえってその表情は笑っているように見えるのか。

 愛する春也(あるじ)を傷つけられた兵器(どうぐ)が、彼に負けぬ殺意をその場に噴出させた。

 

 





 一言シリーズがアレだという声があったので、ネタも尽きたことだし更に痛々しさを上げていこうか。
 振り切ってこその厨二。
 黒歴史が怖くてネット小説なんか書けるかよッ!!


☆設定紹介☆

 伊吹春也<人間・提督>

 主人公。
 スペックは高いものの親にかなり甘やかされて育った志の低い現代のダメっ子だが、崩壊世界ハードモードに急に飛ばされても何故かそこそこに適応している。
 一見理屈屋の合理主義者で本人自身もそう思っているが、本当にそういう人はいくら自分が超人になったと分かっていても、素手で深海棲艦に殴りかかったりは普通しない。
 静かにイカれている。

 命は何よりも尊いと深く深く信じている為、潜在的に人殺しが大嫌い。
 なのに異世界に来てまず見たものが人がゴミのように殺されていく光景だったことが良くも悪くもその針を超極端に振り切れさせた。

 例えそれが化け物でも人間でも、人を殺すなら彼にとって等しく世界を汚す掃除すべきゴミであり、そこにどんな事情があるのかも前話であれこれ理屈をこねくり回していた割に実はあんまり関係ない。
 現時点ではまだ本人にその自覚がないだけ。

 とはいえ、この思想は正義感から来るものではなく美意識から来るものなので、自分の感知しないところで殺人が起こっても何でもかんでも首を突っ込む訳ではない(ただし深海棲艦を除く)。
 浮浪者の少女がゴミ認定されたのは、過去に人を殺しているとしか思えないこと以上に、普通の人間なら死んでいた勢いで石でぶん殴ってきたことで「あ、こいつ人殺しだ」と認定されたのが一番の理由だったりする。

 一方で、命ある普通の相手に対しては、かなりお人好しでもある。
 日本人特有の押しの弱さも含めて、この崩壊世界の住人では考えられないレベル。


…………実は元々、『黒円卓に真っ当普遍な正義感を持って対決するオリ主を考えてみよう』から始まったキャラを艦これアレンジで流用したもの。

 どこでどんな化学反応起こしたんだろうね。

 なお、嫁は当然夕立。


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