終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 怪物になってしまった人間をなんとかして元に戻すのがスーパー戦隊。
 怪物になってしまった人間をなんとかして蹴り殺すのが仮面ライダー。

 別にどちらがいいとか本当のヒーローとかって断言できる話じゃないんだけど、平成二期以降は基本的に仮面ライダーも前者寄りになっちゃったなあ………。
 そんな中虚淵がんばった鎧武が平成二期では色々言われてるけど一番好き。

 あ、本編とは特に関係ない話題ですよー()




五章 真相連環編
屍鬼


 

 

 何の力も持たぬ者、提督でない者に明日の命の保証は無い。

 別段提督だからと言ってリスクが減るだけだが、この世界で人々に課されたルールとしては最も残酷で最も当然のルールになっていた。

 

 そして今日もまた、命が散っている。

 

 『神社』から歩いて数日といった山中にひっそりと隠れる寒村。

 鎮守府の庇護を受けられない追放民の村において、奇怪な黒の異形がばらばらに引き千切った元ニンゲンの骸を地面に摺り潰し戯れていた。

 

 とは言ってもここで死んでいるのは只人ではなく、野良の提督だった――――そうでない者は、この村をかつて訪れた伊吹春也と夕立、その主従が去った翌日に皆殺しにされている。

 

 罪の無い人々を虐殺し、己の父親すらも手にかけてその死体を兵器として弄んだ。

 幾人もの提督をその手に掛け、その練度と言う名の魂喰らいをそっくり自分のモノにした。

 業深き少年は、それが報いだと誰かが願ったかのような死に様でその濁った眼玉を眼窩から吐き出していた。

 

『報イ――――ソウ、報イダ』

 

 それは、彼が己の意思で生み出した筈の死体人形から発せられていた。

 人型の空母級をベースに雑多な深海棲艦の骸を張り付け、圧縮。

 辛うじて二腕二脚の人型だと判別できるが、その形すら視認が難しい程に体表の黒はおぞましく光を吸い込むものとなっている。

 常人が見ればそれだけで発狂する毒の肌の内側には何十何百という数の深海棲艦の瘴気と怨念が内包され、砲塔など備えなくともそれを漏れ出させるだけで周辺一帯を死地へと変える力を持っていた。

 

 そんな自らの異能で生み出された“混沌種”、その屍人形だった筈の存在を何故か上手く操ることが出来ず、『瑞鶴』を退けた彼は苛立ちながら自身の塒(ねぐら)にしていた生家跡で試行錯誤を繰り返し――――“その甲斐あって”バケモノの中のバケモノは暴走を始める。

 真っ先に怨念の牙を向けたのは、当然すぐ傍にいた少年提督。

 

 死体から捏ねた殺戮人形に意思を持って反抗されることなど予想だにしていなかった彼は、そうでなくても碌にできない抵抗をする間もなく喉を抉られた。

 痛みを絶叫で吐き出すことを封じられ、その上で皮を削がれ、肉を捩じ切られ、肋骨ごと臓腑を抉りだされ、その血と髄液を口に突っ込まれてこの世ならざる不快な味と激臭に気絶すらも封じられる。

 

 恨みの極まった暴虐に彼の命がそう長く保たなかったことが僅かな慈悲だっただろうか。

 

 そんな自らの主の死を見届け、繋がりが切れた反動と混沌種の近くで瘴気に触れたというだけで己も消滅が確定したのを感じた艦娘の少女は、掠れた声で呟いた。

 

 

「だから………やめて、って言ったのに。くそ提督……」

 

 

 まるで道化のまま生涯を閉ざした少年の異能の詳細とその祈りについて語る価値もないだろうが。

 それでも、少年をそのレベルに引き上げる程度には相性が良かった艦娘だ。

 

 そんな彼女が主の蛮行を窘める理由が――――良心による弾劾ではなく、主が為を思う警告としての忠言だったと伝わっていれば、あるいは結末は違っていただろうか?

 

 

 否。

 

 

「綺麗さっぱり記憶からポイしてた夕立はともかく、『瑞鶴』の話を聞いてやっとこの村の事に思い当った時には、もうここに誰も生きちゃいないだろうって思ってたけどさ。

――――ああ、人殺しだって分かってれば、あんなゴミ、あの時潰しておくんだった」

 

「え……?、あ」

 

 ぐしゃ。

 

 自分の主に逆らえなかった―――“その程度の”理由で人殺しに加担した艦娘<ゴミ>を踏み潰してトドメを刺し、少年の因縁の相手である伊吹春也が遅ればせて舞い戻る。

 母親を護れなかったという弾劾に感じた気まずさはあっさりと霧消していて、そんな彼と遭遇していればどのみち少年はあっさりと処分(そうじ)されていただろう。

 

 そんな春也が当然に敵意を持つのは、作り手を殺して尚も動き続ける屍の異形。

 死体だろうが人を殺すのなら微塵も残らず消し飛ばす。

 

「司令官さん、これ何か違います…っ」

 

「警戒して!明らかにケタ違いの相手っぽい!?」

 

 羽黒と夕立に言われずとも、『瑞鶴』が「会えば逃げるしかないと分かる類」と評し実際に逃げ帰ってきた程の存在の危険さは肌で感じ取れていた。

 だが、それを分かっていながら春也に躊躇いや恐怖は微塵も無い。

 

「ゴミが粗大ゴミだからってそれがなんだ。ぶち転がすぞ、夕立、羽黒ッ!!」

 

「「――――承知!!」」

 

 主の号令に一切の疑義を差し挟まず、二人の艦娘も応える。

 そして春也達を認識して少年提督のなれの果てから振り返った混沌種も、その本能と何より意思に従い殺意と憎悪を爆発させた。

 

『ニンゲン……マトモナ、ニンゲン。

 憎イ、憎イ、憎イ憎イ、憎イ、憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎いいいいいィィィっィィッ!!!』

 

「………っ!」

 

「ぐぅ、――――かふっ!?」

 

 咆哮。

 

 いや、叫びという“声”ではなく、それは魂に直接響くような暗黒の波動だった。

 触れたモノ全てを黒く染めるような邪悪な瘴気を纏い、存在そのものを腐食させるようなこれは“声”というより――――むしろ“祈り”。

 

 提督と艦娘の繋がりによる感覚共有にも似たぼんやりした何かが、雑多に春也達の心(なか)を駆け廻った。

 

 

 それは記憶。

 それは悲劇。

 それは懇願。

 そしてそれらは断末魔。

 

 

 無造作に焼きつけられる膨大な“何か”は、その中の光景―――建築物や人々の衣服―――の多様さから、洋の東西問わず全世界の様々な人々の最期の記憶だと春也は理解できた。

 

 ある労働者は喧嘩に負けパブで荒れに荒れて呑んだくれ、そして気付けば居合わせた店員も客も皆殺しにしていた。

 ある政治家は突如邸宅を襲ってきた怪物に愛する妻を殺され、そして気付けば妻の死体を更にぐちゃぐちゃにした後自分も怪物と共に民衆を皆殺しにしていた。

 ある部族の青年は大人になる為と言って木から自分を飛び降りさせようとする奴らを、気付けば全て振り回しては地面に叩きつけ皆殺しにしていた。

 ある兵士は敵兵を殲滅し無事に勝利して、殺す相手がいなくなったので気付けば味方の奴らも皆殺しにしていた。

 

 

 怒り、憎しみ、謀り、蔑み。疑心拒絶嫉妬傲慢残虐さ粗暴さ。

 汚いものを抱える存在に、そんな綺麗な人間の皮は必要無いだろう?

 だからその相応しい姿を解き放てよ、それが『神』の渇望ならば、祝福を持って寿ごう――――!!

 

 

 餓鬼道愚現天。

 

 

 現在とすら比べ物にならない程の正真正銘の地獄として、かつてこの世界を支配していた法則の名だ。

 人間の悪意に反応しその持ち主を絶対悪の異形として覚醒させる、そしてそれが撒き散らした惨劇によって悪意は拡散し、世界を醜い化生の巣窟と化す。

 

 その元人間だった化生が現在では何と呼ばれているか――分からない訳はないだろう。

 

 

 

――――伏線はあらかた撒かれているんだ、後はただ答え合わせの時間だ。

 

 この世界のどこか深淵、あるいは限りなく表層にて、その法則を過去のものにした“誰か”が笑う。

 憐れむように、しかしどこか愉しそうに。

 超越者はかく語りき。

 

――――例えば、提督と艦娘が練度を得るのに狩る魂が深海棲艦のものでも人間のものでも関係ない理由とか。

 

――――例えば、深海棲艦が爆発的に数を増やしていた頃、同じかそれ以上のペースで数を減らしたのが何だったかとか。

 

――――例えば、艦娘の材料が深海棲艦なら、深海棲艦の材料は何か、とか。

 

――――伊吹春也、君は頭がいいからもう大体のことは……少なくともこの程度のことには気付いていたんじゃないのかな?

 

 次元を超えた視線が、波動をその身に受けて固まった春也を捉える。

 俯いていてその表情は見えないが、その視線の主はお構いなしに誰が聞く訳でもない独り語りを続ける。

 

――――もしかしたら、怖ろしくて気付かない振りをしていたとか?

 

 そんな春也に、混沌種の影が迫っていた。

 背丈ならば大して彼と変わらないだけに一層不気味さを増すその異形は、誰にも感じられない訳がない悲憤と嘆慨をその腕に乗せて振り被る。

 

 邪神の法則が打ち倒されても、醜く変化した姿は戻らない。

 本能に刻まれた悪意が人を殺せと喚いている。

 遣る瀬無さとこれ以上バケモノにならなくて済む普通の人間たちへの妬ましさがそれを後押しする。

 退行した理性に元は人間としての尊厳などある筈もなく、ならばどうしようもないじゃないか。

 況して死んで解放されたかと思えば、骸すらも弄ばれてお仲間と合一した惨めな姿を曝し続ける。

 ああ、憎い、何もかもが憎い!!

 

 

 

「どうでもいいわ。散り果てろゴミカスが」

 

 

 

――――そうだよね。“深海棲艦が元々人間だった事実(そんなこと)”なんて、大した問題じゃないから気にしてなかっただけだよね。

 

 

 大振りの一撃を躱した春也の拳が、混沌種の一応人間ならば顔面に当たる部分にカウンターとして突き刺さった。

 

 

 






☆設定紹介☆

※餓鬼道愚現天

 今明かされる衝撃の真実ゥ~、というよりユグドラシル絶対許さねえ!

 そのままであれば人類絶滅まったなしの、人間という種に対する嫌悪感が形になったような悪辣非道の理。
 マイナスの感情を一定以上心に抱いた者は人間の皮を脱ぎ棄て怪物として理性を失い、暴虐の限りを尽くすようになる。
 それに巻き込まれて親しい人を失くしたり自分が死にそうな目にあって怒りや憎しみに呑まれてもアウト、怪物の仲間入り。

 なんでこんなもんが世界を包んだのか、そしてどうして世界がいまだ破滅してないのか、艦これじゃない方のクロス元知ってる人には丸分かりだけどまたおいおい本編と並行して触れていきます。

…………そういや割と分かり易くはしてた気がするけど、深海棲艦=元人間っていう設定、どれくらいの読者が気付いてたんだろう?

 なお、この小説における世界観設定等は作者独自のものであり、原作とは一部を除いて無関係ないし矛盾する部分もございます(今更)


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