終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 一つお休みの回。
 あと題名見て大体どの話か分かるようなサブタイ付けてなかったの気付いて、今更ながら章管理やってみました。
 けどそれで分かりやすくなったかと言えば………。

 ま、いい感じに香ばしさは増したんでいっか。

 そしてちょっと間が空いた更新なのと久々のぽいぬ登場のせいで作者が何と何の禁断症状に襲われていたかがよく分かるお話。





興行

 

 遠方の海で春也達が島風の蹂躙劇を目の当たりにし、航輔と電が和解し異能に覚醒した、深海棲艦の活性期。

 

 この期間においてはただでさえ人類を脅かす怪物達がより凶暴さを増し、さらに軍勢として活動し始めるのだからたまったものではない。

 が、実際は定期的な出来事であることから『鎮守府』ではもはや一種のバッドイベントのようなもの程度として扱われている側面があった。

 

 敵の進軍や襲撃が落ち着きはじめ、一週間ほどすれば慰労の為の催しごとが始まるくらいには。

 つまり、その準備は深海棲艦が凶暴化しているまさにその最中から始まっていたくらいには。

 

 今年はどこそこの村が滅んだ………その“程度”の被害で済んでなによりと、そんな言い草で戦友を労う提督達の笑顔があちこちで見られている。

 三日前に遠洋から『鎮守府』に帰還し、自分も夕立と羽黒を連れてその祭りにふらふらと参加している春也に、それを酷いと詰るつもりはなかった。

 

 

「いよお春也ッ!もっと盛り上がろうぜ!なんてったって俺、覚醒!!

 次の昇進でお前と同じ佐官が決まるんだからよお~~っ」

 

「立ち直ったら立ち直ったで本当うぜえなお前!?何十回目だよその話」

 

「ふっふっふ……。ちょっとばかり異能が使えるようになったからと言って電の司令官の小物っぷりが直ると思ったら大間違いなのです!

 司令官の慢心を見るのです!!」

 

「………あの、あの、それはそんなに嬉しそうに言うことなんですか…?」

 

 

 というより、脳みそ小春日和絶好調で春也に絡んで来る、同じく祭り見物人の航輔と電の相手でそれどころではなかった。

 電の過去に疑念を持ってからの今にも押し潰されそうな深刻な態度から回復できたのは喜ばしいし、その成長に最初の数回くらいは素直に祝福していたが、同じ話を何回も繰り返されてまで付き合いたくはない。ないのだが。

 

 

「でも、お前にも感謝してもしきれないんだぜ、春也。

 『瑞鶴』さんを紹介してもらったことも、色々励ましてくれたこともさ。

―――――本当にありがとう。世話になった」

 

「………ばーか。それも何十回目だって話なんだよ」

 

 

 照れくさくなるような素朴な感謝さえも何回も繰り返すものだから、本気で邪険にするのも躊躇われてしまう。

 

…………それにどうやって立ち直ったのか、その具体的な経緯は敢えて聞かなかった。

 

 『瑞鶴』から立ち寄ったどこぞの村で惨劇が起きていたことくらいは聞いたし、そこで航輔のような真っ当な人間がショックを受けていない筈がないというのは簡単に思い当る。

 それが電との仲を修復する経緯にもなったのだろうが、それからたった数日で全てを吹っ切れている訳もなく、こうして躁になっているのは無理している側面もあるだろう。

 

 それを汲んで馬鹿を言っている電同様、男友達の張った意地をほじくり返すほど無粋でも根性が捻じれているつもりもない。

 

 

「……えい」

 

「ぽひ………ぽみゅ?」

 

 

 そしてそんなことより嫁が可愛い。

 

「へーほくひゃん?~~~~っぽい!!」

 

 航輔の相手をそこそこに切り上げて、演習場に組まれた足場に腰掛けた春也の膝を椅子にして足をぷらぷらさせている夕立の頬をなんとなく突っつくと、ぽかんとしながら気の抜けた言葉を回らない舌から吐き出してきた。

 かと思えばぷくっとほっぺたに空気を入れて膨らませ、春也の指を押し返して満足そうににぱっと笑う。

 

「はいもう一回なー」

 

「もー、てーとくさんってば~」

 

 窘めているようなのは言葉上だけで、きゃっきゃという擬声が聞こえそうなくらい構ってもらえて上機嫌になっている夕立。

 そんな彼女を見て暖かい気持ちになっている春也の肩に、そっと、――――羽黒が指を添える。

 

 

「いいなぁ、夕立ちゃん………」

 

 

「拗ねんなって。ほら」

 

「あ……」

 

 じとりと、霧がまとわりつくような羽黒の慕情。

 だが慣れてしまえば嫌いではなかった。

 

 甘え下手というか甘えるという行為自体をうまく理解できていなくて、でもちょっと手を握ってやればそれだけで彼女も花が咲くような微笑みを見せる。

 どちらかと言えば庇護欲をそそられるといった感じだが、悪い気分にはならない。

 

 そんな風に時間を堪能していたところに、祭りの号令が強引に切り替えとして割り込んできた。

 

 

「さあお立会いの皆皆さま!!今回もやってきました目玉競技!

――――無差別艦娘対抗競漕ぉーーっっ!!」

 

 

「「「イエェェェーーーーーァ!!!」」」

 

 

「ノリいいなあ………」

 

 しなる髪を無造作に後ろに束ねた、くりくりとした目と活発な雰囲気でいかにも元気で好奇心旺盛な女学生といった風体の艦娘である重巡洋艦・青葉が、歓声にもかき消されずに張りのある声を演習場に響かせる。

 

 付近の陸地はところどころ険しい崖の切り立つ要害ながら、癖の無いなだらかな海底面が海岸から沖に続いているという良港でもある鎮守府の海岸部分は、見晴らしのいい半ば競技場のような演習場として拓かれている。

 いつぞやの春也の夕立と姫乃の艦娘達の演習が見世物にされたのを思い出す光景だが、今やっているのはそれに輪をかけた見せモノだ。

 

 基本的に娯楽の少ないこの世界で、祭りともなれば積極的に盛り上がるのも無理はないだろう。

 それを見越して今ここで開かれている催し物とは―――艦娘達による競技会だった。

 

 基本的に艦娘は見目麗しい美女・美少女揃いだ。

 たとえ“提督持ちの艦娘が参加できない”スペックの低い競技会だとしても、アイドル運動会とオリンピックを同列に並べる人がいないのと同じようにそれはそれで需要が高い。

 

 先程は艦娘達がそれぞれユニットを組んで海面を自在に滑りながら水上ダンスを披露などしていた。

 朝潮型で何故かエグザイルごっこしていたのを見て春也はつい笑ってしまったが。

 

 提督持ちの艦娘が参加できない理由?異能持ちが蹂躙なり暴走してしまうと収集がつかなくなるからという話。

 

「それでは競技の流れを改めて説明しましょう!

 各選手は海上の円周上に等間隔に設置された五つの旗を好きな順番で回って行き、その後開始地点の中央の旗に最も早く戻ってきた艦娘の優勝となります。

 なお、選手間での妨害は当然あり!撃ってよし、殴ってよし、組んでよし裏切ってよし、でも逃げ回るのは野次覚悟で、ね?お好みの戦術で海を彩っちゃってください!」

 

 拡声器も無いのにざわざわと思い思いに騒ぐ観衆に細かい説明を行き渡らせる青葉の声は、しかしそこまで必死に叫んでいるようにも見えない。

 まさかとは思うが、異能持ちだったりするのだろうか。

 

 そんな疑問をよそに、すいすいと海上を移動しながら青葉は海岸部に整列した艦娘達の間を進み始める。

 

「それでは登録選手の紹介です、青葉頑張ります!

 さっそく一番、甘えたくなる元気なお姉さん、そのタンクには夢がつまっている!

 重巡洋艦、愛宕―――!!」

 

「ぱんぱかぱーん!そしていっちばーん、なんちゃって」

 

「ノリが良くて何よりです!この調子で皆さんお願いしますね。

 続いて二番、ふんわりやわらか男心をくすぐる罪作りな癒し系。

 練習巡洋艦、鹿島―――!!」

 

「あ、はぁい!応援よろしくお願いしますー!」

 

「そして三番、青葉調べ悪戯したくなる系艦娘かっこただし性的な意味でかっことじる第一位。

 駆逐艦、浜風―――!!」

 

「………真っ先に攻撃したい対象が決まってしまいました」

 

「審判兼司会の青葉への攻撃は反則ですよ?

 さて、四番は来ました我らが主力戦艦、胸を張って立ち上がればあらゆる意味で敵はいないっ。

 戦艦、長門―――!!」

 

「速度だけを競うなら不利は認めるが……、殴り合いをするなら誰にも負ける気はしないな」

 

「勇ましいですねー。

 そしてここまで来て五番。ばるん、ぽよん、ばばん、ででん、そしてすとんっ!

 艦載機を扱える不思議な駆逐艦、龍驤――――!!」

 

「青葉ワレェっ!!悪意しか感じんのやけど!?」

 

「青葉は紹介の順番決めには関わってませーん。さてまだまだ行きますよー」

 

 

「RJさん………」

 

 こんな世界ですら貧乳ネタ弄りを受けている軽空母の不憫さに思わず熱いものがこみ上げる春也。

 そして興奮して喚く龍驤を無視して深雪、阿武隈、朧、霞、天城、最上、谷風、祥鳳………と何を基準にして選ばれたのかよく分からない面子を青葉は紹介していく。

 セクハラ染みた煽り文句は龍驤でオチを付ける為のものだったらしく、彼女より後には見られなくなったが。

 

「最後十四番、真打ち登場!

 居酒屋の女将として鎮守府の夜に安らぎの瞬間をくれる超弩級おかん。

 軽空母、鳳翔お母さんの参戦だあああ――――っっ!!!」

 

「鳳翔さーん、頑張ってー!」

「おかん、怪我しないでくれよ!明日店に行くつもりなのに楽しみが無くなっちまう!」

 

「いや、というより俺、なんでここにいるんですか……?そもそも俺は艦娘じゃなくて、ていと―――、」

 

「母様っ!素敵な晴れ姿、楽しみにしています」

 

「う……目立たないように、なるべくやれるだけやってみます」

 

 海上がよく見えるように、高めに組まれた足場の最前列特等席で手を振る戦艦娘・山城となにやらやり取りをしている鳳翔が最も注目選手のようだった。

 男達の野太い歓声に混ざって出番の無い艦娘達からも黄色い声援を受けてもじもじしながら、臙脂の着物を縛る襷掛けを艶やかな黒髪が踊ってふわりと撫でている。

 

「えらい人気だな、あの鳳翔」

 

「聞いたことがあるのです。提督無しの艦娘がやっている居酒屋でとても繁盛してるところがあると」

 

「あー。酒は飲まないからなあ」

 

 電達と適当な会話をしていると、一通り鳳翔への歓声が静まるのを待って青葉の誘導でスタート地点まで移動する選手の艦娘達。

 なんでもありのサバイバルレースだが、開始は全員が至近距離で団子になった状態から始まるらしい。

 開幕直後から大混戦になるのが目に見えているが、それもこの競技の見どころなのだろう。

 

 

「さあ皆さん、青葉と聴衆のみなさんが十数えたところから競技開始です。

 行きますよーっ」

 

 

「提督さん、夕立たちも一緒にやるっぽい!」

 

「よし、羽黒もいいな?」

 

「はいっ」

 

 十、九、八、七――――。

 

 観衆数百人が唱和する中、春也達三人や隣の航輔達もそれに加わる。

 祭り特有の熱気が、否が応にも心を昂らせる。

 わくわくする、こんなに楽しい気持ちになったのは、この世界に来て初めてかも知れない―――。

 

 そんな思い出を、夕立と羽黒という相棒、航輔と電という友人と共に心に刻んで。

 

「三、二、一、はじめぇっっ!!!!」

 

 

 

 この純粋に心から楽しいと思うことの出来た“最後”の時間を――――伊吹春也は、きっと永遠に忘れない。

 

 

 

…………。

 

 競技会の催しは、熱狂の中無事終了した。

 

 最後のサバイバルレースも、確かにスペックだけで言えば提督を持たないせいで陸上種の駆逐級一匹を倒せるかどうかというレベルの艦娘ばかりだったが、裏を返せば春也の夕立のような最初から反則染みた戦闘能力の明らかな地雷が紛れ込んだりはしていなかったということだ。

 

 開始直後に他の参加者から一斉に集中砲火されたその場で唯一の戦艦である長門が流石に耐えきれずにすぐに沈んだ――――示し合わせたというよりは、口火を切った何隻かに悪乗りした艦娘が残り全てだったという不憫さのせいだろう。

 ついでにどれくらいの小遣いをつぎ込んでいたのかは知らないが、長門と書かれた賭け札を握りしめた航輔も項垂れて沈んでいた。電はいつも通り以下略。

 

 その混乱の中で思い思いのチェックポイントに向かって何隻かが散らばって行こうとした。

 そうなれば速力で優位の駆逐艦勢が抜きんでる―――と思いきや、空母勢の艦載機に牽制され、巡洋艦勢との正面戦闘に縺れ込まされ、膠着しながらも逆に追い込まれていく。

 

 大まかに二つほど潰し合いの乱戦の場が生まれ、また阿武隈と鹿島、浜風と朧がそれぞれ競漕相手をど突き合いながらチェックポイントを回ろうとする。

 

 そんな白熱の展開の中、気付けば最も注目株だったのに何故か誰からもマークされなかった艦娘(?)が一人いて――――。

 

 

 

…………。

 

 気分が乗らない。

 

 そんな理由で春也と一緒に祭りに行かず部屋で引きこもっていた姫乃に追い出された扶桑は、不知火と別行動で鎮守府の歓楽街をふらふらと歩き回っていた。

 競技会が終わったばかりで浮き立った空気と裏腹に、物憂げな表情をその整った美貌に纏うのは、似合ってはいるがどこか不安定さも連想される。

 

 空が赤らみ始める中、そんな彼女の前方からすれ違う艦娘が『二人』。

 どこからどう見てもたおやかな大和撫子然とした美しい女性の軽空母・鳳翔と、扶桑の姉妹艦である戦艦・山城。

 

「本当に良かったのでしょうか、艦娘の競技で優勝なんて……。

 何度も言いますけど、俺は、艦娘ではないのに」

 

「ええ、存じてます、母様のしもべである“山城だけ”は。

 ですがあれだけいて誰も何も言わなかったどころか、祝福さえしてくれたのですから、栄冠は母様のものでいいのでは?」

 

「あんな勝ち方でも、ですか?」

 

「無駄な戦闘を悉く回避した、あの素晴らしく優雅な勝ち方で、です。

 文句はこの山城が言わせません」

 

「………くす。本当に、俺なんかにはもったいないくらいの良い子です、山城さんは」

 

「そんな!私の母様は、母様だけです……!」

 

 そんな、奇妙で温かいどこかねじ曲がった親愛と齟齬が混入した、上辺だけならば優しい会話が、すれ違う扶桑の真横で行われる。

 それに対する扶桑の反応は――――。

 

 

「…………あら?今誰かとすれ違ったような」

 

 

 “気付けなかった”。

 純粋に配下の艦娘の優しい言葉に感動する自らの提督にそっと腕を纏わりつかせながら、姉譲りの美貌から覗く双眸をどろりと濁らせ歪んだ笑みを浮かべる姉妹艦の存在そのものに。

 

 文字通り触れ合う距離で歩いている『鳳翔』はもちろん、扶桑もまだその声を聞き逃すほど離れてはいないのに。

 

 

「ふふ、あんなに慕われている母様の本当の世界は、山城ひとり、思うがまま。

――――うふふふ、ずぅっと、二人きりで、平和に暮らしましょうね。私の創造主様(かあさま)」

 

 

 その暗い高揚と愉悦のエクスタシーが底に蠢く甘ったるい声に、この世界の誰もが“気付くことができなかった”。

 

 

 





☆設定紹介☆

※『鳳翔』(おおとり かける)

 この小説の地雷の………いくつめだ?
 同作者別作品からのオリキャラゲスト出演という如何にも香ばしい暴挙パート2。

 この終末世界でも艦娘の鳳翔としか認識してもらえない、所作淡麗・家事万能・世話焼き・天然・包容力抜群のパーフェクトおかん系男の娘。
 どうしても提督と思ってもらえず『鎮守府』の所属になれなかった為、仕方なく相棒の山城共々歓楽街の居酒屋で賄いをやっていたところ、“気付かないうちに”店主がどこかへ失踪しいつの間にか女将として暖簾を乗っ取ってしまっていた。
 なし崩しで店を切り盛りしていたら、無駄にそちら方面に高いスペックを生かして超人気店になってしまった為、結果的に“気付かないうちに”戦いとはまるで縁の無い平穏な暮らしを送っている。

 完全に素ですれ違っているお艦日誌と違いこの世界の彼は一応異能のようなものを持っていて、その能力は『気付かなければならないことに気付かせない』能力。
 他人の感覚に働きかけるのではなく、見た目・匂い・触感などをはじめとして概念的なものまで含めた“ものの認識のされ方・定義のされ方”そのものを弄るので、途方もない実力差や感知に特化した異能があっても平然と欺いてしまう。
 隠蔽・偽装において他の追随を許さない………欠点があるとすれば、提督である『鳳翔』ですらその異能の存在に“気付けない”ことだが、些細なことだろう。
 きっと『鳳翔』が自分が提督であると他人に“気付いて”もらえる日は永遠に来ないが、たぶん些細なことだろう。

 艦娘側が頑張って異能を悪用……じゃなかったフル活用しているので、永遠に深海棲艦と戦闘する機会も来ない。
 どこぞの戦闘狂と同じように、なんか別の法則で動いているイレギュラーだが、そうでなくても話の本筋に関わることは(何が何でも山城が許さ)ない。

 ちなみに、実は配下の艦娘の山城さんは『鳳翔』のことがだいすき。すごくあいしてる。


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