終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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 みんな大好き詠唱の時間だいやっほおおぉぉぉぉぉぉおぉぉっぉぉうい――――――――!!!!!!!

………テンション上げとかないと死ねる(後で死なないとは言ってない)






創造

 

 誰もが希望を抱けぬ暗黒の世界で。

 自分こそが正義を為して道を切り開くのだと、信じていた―――。

 

 

 

 英雄。

 

 深海棲艦の跋扈する中一万八千の大移動を完遂し、危うい均衡の上とはいえ現在の安定した状況を築き上げた立役者。

 なるほど言葉にすればなんと立派なことか。今や実態を知らぬのが大多数なれば尊敬の念で自分を仰ぎ見る者らも分からぬではない。

 

 それでも厳島龍進は、その言葉と視線を向けられる度に背に重い何かが積み上げられる感覚が打ち消せないのだ。

 

……そもそもあの時は移動というよりは形振り構わずの撤退戦、それも足手まといと“絶対に傷つけてはならぬ”護衛対象を庇いながらのそれに、英雄という言葉にまつわる華々しさなどありはしなかった。

 遅々として進まぬ集団移動、いつどこから襲ってくるか判らぬ怪物達、そして日に日にやりくりに支障を来たす物資。

 

 それでも提督や艦娘の数自体が今ほど揃っていなかった時代、“あの元帥を除けば”当時ほぼ唯一異能を持っていた厳島が、その根拠となる固い信念の下リーダーシップを取りなんとか生きる為に前へと進んでいた。

 燃えるような正義感を胸に、あまりに多過ぎる人々をそれでも守るのだと魂に誓って。

 

 だが、皮肉にも進軍の最大の障害は内側にあった。

 極限状況にあって、人は己の理性と善性を試される。

 特に組織だった集団の中では、時に獣よりも醜い理論を振りかざす。

 

 老人や子供、弱い者から分配された食糧を恐喝する者がいた。

 過酷な歩みに体調を崩した者に、苛立ち紛れに暴力を振るう者がいた。

 諦観から愚痴愚痴と怨嗟や後ろ向きな発言を垂れ流し、士気を下げるだけの者がいた。

 

 もちろん厳島はじめ志ある提督達は、まずそれらを抑えようとは試みた。

 だが提督という絶対的な暴力を持つ者に逆らうものはいなくとも、目の届かぬ影での悪行は止まらない。

 また提督の本業は深海棲艦への対処であり、こんな“守られているだけの者達”が起こす面倒にかかずらわされることにフラストレーションが溜まっていく。

 

 澱んだ空気と蔓延する負の感情。

 遠からずこの大集団は崩壊する―――それは厳島にとって予感ですらなく、予測の域であった。

 

 だから、彼は自分を曲げざるを得なかった。

 

 

 全体の一割、それでも二千に及ぶ“下から数えた”問題のある人間の足を切り、化け物共の釣り餌にした。

 

 “足を切った”のも、“釣り餌にした”のも、正真正銘文字通りの意味で。

 

 

 効果は覿面だった。

 

 殺戮衝動に任せた陸上種が手近な獲物に夢中になり、残りが少しでも遠くまで進む時間を稼ぐのも。

 少しでも身勝手に振る舞えば次ああなるのは自分だと、人々が集団の秩序を順守することに実に熱心になったのも。

 

 実に効果があり――――だから仕方なかった。

 見捨てないでくれという懇願、悔恨に塗れた悲痛な謝罪、駆けて逃げようとすることすら出来ずに漏れ出たほぼ発狂した悲鳴。

 それら一切を耳から排除して置き去りにし、恐怖で民衆を統制した外道の所業は、仕方ないことだったのだ。

 

 

 

―――――そんな訳が、ないだろう!!!!!

 

 

 

 そう叫ぶことは立場が許さなかった。

 己自身を責め苛む正義感の落としどころとして、全てがひと段落した時、せめてもの禊として自裁することを決めていた。

 

 そんな彼に人々は………笑顔で感謝した。

 助けてくれてありがとう、あなたは沢山の人の命を救ったのだ、誇るべきことをしたのだ。

 

 そう言ってくれる人々の。

 悪意の無い笑顔が――――彼を壊した。

 

 正義とは、その程度のものなのか?

 

 結果さえ良ければ行動の是非など思惑の所以など善悪の如何などどうでもいい、そんなぶれて折れ曲がる柔な代物が、己の根底を支える『正義』だったとでもいうのか。

 

………。

 

……………否。断じて否だ。

 

 自分は知らなければならない。

 こんな結果に左右されるような代物ではなく、どんな現実にも曲げず屈せず、仕方ないなどという戯言をどこまでも砕いて真っ直ぐに貫き通せる、本当の『正義』を知らなければならない。

 

 その渇望が、厳島を導き次の位階へと押し上げた。

 

 

 

【――――光よ、暗黒の海原に標を示せ】

 

 島風が、雲行き不吉な空に詠唱(うた)を響かせる。

 視界には数えるのも億劫な大小様々の敵影、生理的嫌悪を掻き立てる濁った黒もここまで海を埋め尽くすと地獄そのものだ。

 

【――――輝きに偽りあらざれば、掲げた剣が応(いら)えを兆す】

 

 大して傍に控えるはまだまだ新人の域を出ない春也と姫乃、そしてその艦娘達。

 厳島と島風にはそれで十分だった。

 友からもせいぜい楽しんでこい、という餞と共にそう判断されてこの戦線の一角を任されている。

 

【――――盾は要らず。その刃、遮光遍く斬り伏せる】

 

「深海棲艦共とも違う。なんか、空気が……!?」

 

「提督さん、今から起こることをしっかり見ていて欲しいっぽい。そしていつか夕立を……」

 

 そして人々を脅かす異形の撃滅、それすら今の厳島にとって瑣末事だった。

 本命の、おそらく見極めの最後のチャンスになるだろうと覚悟して目をつけた伊吹春也に、進化の可能性を見せつける。

 

 その代償に、見せてくれるか、教えてくれるか。

 正義をただの快楽と言い切りつつも、人々の生命の為に全霊を懸けるお前なら。

 迷いも理不尽も一切を砕く、本物の『正義』を貫くということの意味を――――。

 

【――――猛りて退かず。鬼神の理にて妖光の煌めきを貪り喰らう】

 

 

「創造〈つきぬ〉けろ、島風!」

 

【“衝貫・勇往瞬神〈Lightning-bringer〉”―――――!!!】

 

 

 本当の正義を知りたい。

 

 その渇望が、霊式祈願転航兵装たる島風を媒介として表出するのを飛び越え、理として世界を侵蝕する。

 漏れ出た祈りが異界の法則となって世界を塗り替える。

 

 この場この時に限り、世界を支配しているのは『餓鬼道愚現天』でも『■■□□□□▽□』でもなく、厳島龍進の渇望である。

 その支配者の恩恵を与る唯一の存在である島風が、厳粛に降りた帳のような閉塞感の中で―――、

 

 

 

「あれ?どこ見てるのー?」

 

『『『,,,,,,,,,,,,,gg?』』』

 

 

 

 消えた。否、海を埋め尽くした深海棲艦の壁を挟んで、真反対側に佇んでいた。

 そして先ほどまで彼女がいた場所と現在地を結ぶ線上の物体、その一切合財が。

 

 捻り断たれ捩れ軋み暴れ狂い揺れ飛び弾け散り轟き荒れ塞ぎ砕け凍え混じり分かたれ腐り震え反発し燃焼し―――――破壊され、消滅する。

 

「く、ぉぉぁっ!?」

 

「司令官さん、こっちです……!」

 

「きゃ、ぅ……っ!!?」

 

「姫、掴まって!!」

 

 海が啼いた。波が我を失った。空が断罪に喘いだ。

 そんな意味不明の隠喩で無理やりに表現しなければならないくらいに、轟音と共に全てが乱れる。

 

 風も水も、温度も圧力も、空間も時間すらも一定の秩序の中に安住することが許されなかった。

 暴風と爆風と旋風と、そして高波一つにさえ翻弄される春也達と、直だ中に在って消し炭すら残せない有象無象の深海戦艦、そして何食わぬ顔で平然と佇むのは厳島と島風のみ。

 

――――“創造”された世界の恩恵を一身に受ける今の島風は最速に他ならない。

 

 正義は速さ、そして速さとは破壊力。

 

 どんな障害にも負けない真っ直ぐな本物の正義を知りたい、その祈りは直線上の万象を薙ぎ伏せる力を島風に与える。

 いまや距離と言う目に見えない障害物をもぶち抜き、目的地に誰より先に辿り着く彼女は光速すらも超えていた。

 そして“破壊”の力でそれを為した結果空間や時間がどうなるかなどどんな物理学者にも想定し得ないだろうが、配慮も制御も投げ捨てた一つの結果例が確かにそこにあった。

 

 島風はただ移動しただけ。

 その余波で、たかだか“移動した”そのついでで、深海棲艦の軍勢にずたずたの裁断線が走る。

 

 それでも数を揃えた異形の軍勢は、動けるものならば一割も削れていない。

 だが、ただの一跳びで悪夢のような被害を叩き出した島風とて消耗など鼻で笑う程度のものだ。

 

 

「よし、それじゃあひとっぱしり、付き合って!

 

――――行こ、連装砲ちゃんたち?」

 

 

 あどけなく、無垢に、そして残酷に島風がワラう。

 虚空から彼女の周囲を囲むように顕現した艤装は、二つ連なった砲と砲台に愛嬌のある顔が描かれた灰色の物体、その数、四。

 弾丸より速い彼女に砲撃は必要ない、ただ島風同様に全てを消し飛ばしながら“かけっこ”してくれるだけでいい。

 

 形無き破滅を置き土産に、線条が全てを射ち貫いていく。

 

「反撃らしい反撃は来ない……“姫”や“鬼”は居ないか、居てもこれに抵抗できるような個体ではなかったということか」

 

 五条の暴虐が戦場を草刈り場へと変える光景の中、表情一つ動かさずに一人ごちる厳島。

 立っているのにも困難であるにも関わらず、運よく水中などで辛うじて死滅を免れた生き残りが“逃げる前に”容赦なくトドメを刺すように羽黒に指示することを優先する伊吹春也を暫し見つめて、そして視線を戦いにならない戦いをしている島風に戻す。

 

 “最速”の彼女と彼女の操る艤装達で敵軍を薙ぎ払うのに大した時間はかからない。

 あまり待つこともなく、不完全燃焼気味で不満そうな表情をしながら島風は動きを止めた。

 

 そして一瞬戻ってくる静寂の中、不平を響かせる。

 

 

「あれ?どいつももう逃げ出すことさえできなくなってるの?

 

――――むー、みんな、おっそーい!!」

 

 

 その理不尽な言いがかりは、果たして幼稚と形容するべきか。

 あるいは傲慢と評するべきか。

 

 春也達は撃ち漏らしの掃討を羽黒が終えて一息ついているし、姫乃達は鎮守府最強の実力を目の当たりにしてへたり込んでいる。

 数多く居た異形達は、残骸が残っていればこれ以上ない幸運という有り様。

 そんなくだらない問いに答える者は、この場に存在しなかった。

 

 

 

 





☆設定紹介☆

※創造(術理)

 現時点での春也の形成位階の一つ上、将官が辿り着いている位階。
 ごく僅かな理の改変ではなく、己の祈りによって周囲の世界そのものを侵蝕することによって異能の力は飛躍的に高まっている。
 以前形成での異能を映像の加工編集に例えたが、創造では映像をフルCGに置き換えているようなものであり、その難易度も影響力も当然ながら段違いである。
 型月でいう固有結界みたいなもの………とは微妙に違うか。

 その威力は本文の通り、島風の場合進路上の一切を空間ごと消し飛ばしながら瞬間移動し、歪んだ空間はガン放置の為その反作用で局所的な“天災”を巻き起こす――が、一応彼女をこの作品のこのレベルでは肩書通り最強格として設定してるので悪しからず。
 結果「迷惑テレポート娘」「こんな仮面ライダードライブは嫌だ」と化してるのはご愛敬。
 そしてギリギリまで島風コスの長門にして「みんなおっそーい!」とか言わせてネタに走ろうか迷っていたのは内緒。

 対処法?マキナの拳とぶつかったら流石に死ぬんじゃないかな(投遣)

 そして最後に重要な点――――発動時に † 詠 唱 † がある。


…………ふう。さて。


 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろっっっっ!!!!!!()

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