終焉世界これくしょん   作:サッドライプ

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いくら厨二とはいえ、設定の説明祭だとアレなんで設けた目標「1話1ぽいぽい」。

危うく1話全ぽいぽいになりかけた………。




接吻

 

「こちらが伊吹“提督”のお部屋になります」

 

「おう、ありがとな」

 

「お荷物はすでに運び込まれている手筈ですので、不足等ありましたら厚生部まで申し付けください」

 

 なんとも言えない空気の中で演習場所を解散した後、春也と夕立は迎えの人員に案内されてこれから寝泊まりすることになる部屋へと案内されていた。

 建物の並びとしては海岸の防塁から最も近い位置に置かれた兵舎の一つ、火をつければよく燃えそうな木造の寮内は夜歩くのが少し怖そうな気もする。

 

 だが春也にとっては、そうなった経緯は望んだものではないとはいえ初の「自分の家」に対する高揚感があった。

 同時に、昼間のろくでもない一連の流れに対して感じる脱力感というか倦怠感がそれを打ち消しもしているのだが。

 

「厠はそちらの廊下を突き当たって左、共同浴場は一度建物を出て頂いて右手二つ隣の建物になります」

 

「トイレ風呂共同………いや、ここじゃ当たり前か。それより―――、」

 

 結果として平常通りのテンションでいる春也は、取り敢えず疑問を解消しようと案内役のその“艦娘”に訊ねた。

 

「あんたも艦娘なんだろ?ここ(鎮守府)じゃ艦娘がこういう仕事もよくしてるのか?」

 

 宿舎への案内という言い方は悪いが小間使いのような仕事。

 果たして主である提督が好んで自らの艦娘を他人の世話役に出すものだろうか、もしかしたらいずれ夕立も同じことをさせられるようになるのか。

 おかっぱに切りそろえた黒髪に帽子を乗せ、青に金の筋が入ったシックな軍服に肉付きのいい肢体を包むその少女に懸念をぶつける。

 

 穏やかな仕草を崩さないまま、彼女は答えた。

 

「はい、私は重巡洋艦『高雄』です。私がこうしているのは―――今のところ、私を扱う提督がいない艦娘だからですね」

 

「提督がいない?」

 

「はい。作られてこの方、未だに見つからず。なので、戦場に出ないところでせめてお役に立たせていただこうということです」

 

「へー。そういう艦娘、結構多いのか?」

 

「そうですね。主がいないとはいっても、ある程度普通の人間よりは頑丈ですし無茶が利きますから。労働力としてはむしろ重宝していただいているくらいですね」

 

「そういうものか……」

 

 “神社”で艦娘を造るとはいうが、その一人一人にうまく提督が割り当てられるかというとどうしても難しいとしか思えず。

 自らの提督が見つからない艦娘がいた場合果たしてどうなっているのかという疑問はあったが、その答えがふと目の前に居た。

 

 そのことで新たな疑問も色々と湧き上がるが、初対面の立ち話でこれ以上突っ込むことでもないだろうと話を切り上げることにする。

 

「ありがとう。悪かったな、変なこと聞いて」

 

「いいえ、お役に立てたなら十分です。それとも伊吹提督、あなたが私を扱ってくれるのでしょうか?」

 

 悪戯げな顔をした高雄がそっと右手を差し出してくる。

 初めて夕立と繋がった瞬間を考えれば、相性さえ一定の基準を超えていれば身体的接触によって艦娘と提督の契約は行えるようで、つまりはそういうことなのだろう。

 

 どう返したものか――――一瞬春也が反応に迷う間に、会話に参加していなかった夕立が動いた。

 

「~~~っ!」

 

 ぱしっ、と軽い音を立ててその手が弾かれる。

 先ほどの演習で彼女が自分の体重と同じくらいであろう錨を鎖で自在に振り回していたことを考えれば手加減しているのは明白なのだが、そう見えないのは拒絶の意思から来る素早さ故だろうか。

 

「夕立?」

 

「ぽしゅるるるる………!!」

 

 春也と高雄の間に割り込んでその手をはたき落とすと、縄張りを主張するように春也に抱きつきながら首だけ振り返って高雄を威嚇する。

 頬をぷくー、と膨らませる様は大変愛らしくていいのだが、果たしてその鳴き声は一体どう発音しているのだか。

 

 そんな夕立に気圧された、という訳では絶対ないだろう高雄は苦笑しながらあっさり腕を引くと、袖の皺を直しながらおどけるように言った。

 

「冗談ですよ」

 

「だろーな」

 

 根拠のないただの勘だが、春也は絶対にこの高雄とは“相性が合わない”となんとなく理解していた。

 好き嫌いの問題ではなく、『高雄という艦娘に託せる祈りが存在しない』という事実は提督も艦娘も互いに直感として分かるようになっているものなのだろう。

 

 果たして夕立の行動がその直感を共有した故かそうでない故かは分からないが、それを羨ましそうに見つめる高雄は己の役目を終えたことを確認して暇を告げる。

 

「私もいつか、そんな風に独占したいと思える自分の提督を見つけられればと思います」

 

「ああ、そうできるといいな」

 

「では、私はこれで。ごゆっくり」

 

 最後にからかうような一言を残して。

 

 そうして新たな住居となる部屋の前に取り残される二人だが。

 

「提督さん!!」

 

「ゆ、夕立?どうした?」

 

「いいからっ!」

 

 夕立は春也の腕を引っ張りながら乱暴に扉を開け閉めして部屋に踏み込むと、その間取りを感慨深く確認する間もなく一畳間の真ん中に春也を座らせる。

 その膝の上に乗っかると、少し怒った顔を近づけて来た。

 

「提督さん、勝ったごほーび欲しいっぽい!なんでも一つ聞いてくれるって言ったっぽい!!」

 

「お、おう……」

 

 確かに、演習中に応援する為に叫んだ記憶がある。

 夕立におねだりされれば春也はほぼなんでも叶えてあげたいと思うだけに、大して意味のある発言だとは思っていなかったが。

 

 それより、高雄とのやり取りに嫉妬してくれているのかと思うとにやけてしまいそうでその我慢が大変だった。

 それも夕立のおねだりの内容に驚いて、色々吹っ飛んでしまうのだが。

 

「――――ん!!」

 

…………そっと目を閉じて、顎をくい、と持ち上げて。

 

(キス待ち――――!!?)

 

 嫁嫁と言いつつ幼子かペットとじゃれる感覚で性欲を無視しながら今まで夕立といちゃついていた童貞少年に、急に次のステップが突きつけられる。

 

「ぁ、えと………」

 

 正直、夕立の仕草がそうであるとすぐに気付けただけで凄いと言える程度には異性経験が無いし興味も無かった春也には、それだけでもハードルが高かった。

 だが、頭が真っ白になって硬直する春也に焦れたのか夕立はどんどん押してくる。

 

「んー!ん~~~!!」

 

 普通の女がやるとドン引きするような顔になるくらい唇を突きだしても可愛いとしか思えない美少女が、座っている膝に乗っかった状況で迫る。

 春也の方からしなくとも、そのうちちゅっと行きそうな勢いだった。

 

 近い―――改めて意識してしまう。

 

 くりっとした瞳は閉じられ長い睫毛が濡れているように見えてどことなく色っぽいし、白く艶やかな肌には染み一つ見当たらない。

 さらさらと細い髪はふわりと少女の甘い香りとアクセントとして仄かな潮の香りが絶妙に混ざり合った陶酔しそうな匂いを纏っている。

 女になりかけ、というにはあまりに富んだ肢体の起伏が弾力をもって春也の腹や腰にその威力を訴えかける。

 

 確認するまでもなかったが――――夕立は、美少女だ。

 

 可愛過ぎて逆に気おくれしてしまうのと、そんな娘に好かれて暴走したがる衝動が春也の中でせめぎ合っていた。

 だが、大切に愛でたいという理性があろうことか後者に力を貸して押し切らせる。

 

 提督と艦娘の直感の共有―――それは夕立に春也がどれだけ夕立のことが好きかも“なんとなく”伝えてしまうし、その分だけ安心して懐き甘えねだる小悪魔のような大胆さを与える。

 そして春也も、夕立にこのままキスのみならずどのような変態偏執的な求め方をしても、そこに愛情ある限りむしろ望むところだと思っているのが、“なんとなく”分かってしまう。

 

 

 だから――――。

 

 

「んむっ!?………はふっ、ぽい~~~」

 

 

 動いた瞬間は、むしろ何も考えられていなかった。

 夕立を愛するという確かな“意思”の筈なのに、勝手に体が動いたというのがとても奇妙な感覚で、しかし接触の瞬間にその程度の感慨など木の葉同然に吹っ飛んだ。

 

 合わせた唇は、どんな和菓子よりもなめらかで柔らかくて、蕩けそう。

 儚さを覚える肌―――唇?―――触りは、なのに一瞬のキスがすぐに離れても、焼きついて離れない。

 

 ちりちりする脳がその視界を取り戻し、初めてのキスの相手を収める。

 いっそ無邪気なほどのねだり方だった夕立の白い頬が一瞬で深紅に染まっていて、そして春也は自分の顔がそれ以上に情けないことになっているのを自覚していた。

 

 今、“これ以上”に及べば、多分どうなるか分からない。

 

 脳が焼き切れるのか心臓が破裂するのか。

 

「きょ、今日はここまで、な………」

 

「ぽい……?」

 

 あれだけ女の子を積極的にさせておいて、二人きりの密室なのにキスで終わりなんて客観的に考えたらどう見てもヘタレだろう。

 春也も、もしラブシーンでそんな作品を見つけたらそこはもっと行っちゃう場面だろうと思う。

 

 だけど、愛しいその女の子は―――右も左も分からぬ世界に投げ出された春也をずっと支えてくれている夕立という少女は、笑ってくれた。

 

「嬉し、い……。夕立、提督さんと口づけしたっぽい……っ!」

 

「良かった。これからもよろしくな、夕立」

 

「!!これからは、口づけいつでも解禁っぽい?」

 

「え?」

 

「じゃあ早速!今すぐもう一回するっぽい!!」

 

「おわっ!?ま、待てゆうだ――――ちゅむっ!!?」

 

 ぱあっと顔を輝かせた夕立が、勢い余って春也を押し倒しながら唇を貪る。

 今この場に待てと言われて待つぽいぬはいないらしい。

 

 ちゅ、ちゅっと息を継ぎながら何度も何度も至福の感触が降り注ぐのを、強引に跳ね退ける選択肢を春也が持たない以上、この後の展開は一つしかなかった。

 

 『ごゆっくり』。

 

「ちゅう、ちゅっ………はむ、ちゅ、ちゅ、ちゅ~~~~~!!……はふ。ぽいー、も、ちょっ、ふむ!?ちゅううう、ちゅ、ふはっ、てーとくさん、あっ!?んちゅぅっっ!!?」

 

 やり過ぎて唇が痛くなるほどに、夜が更けるまで高雄の言う通りに二人キスに夢中になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 そんな、本来新たに正式な提督として活動し始めるので決意を新たにするとかそんな感じのイベントを挟むべきなのにひたすら夕立と春也で桃色空間を展開していた夜を過ぎ。

 翌朝、頬におはようのキスを交わしたバカップルというかバカ二人は、とても幸せですオーラを振りまきながら昨日高雄に案内された食堂へ向かう。

 

 注文の列並びと場所取りに火花を散らす、春也の学校でもあったような雑多な営みはそこでもある光景なようで、違いはと言えば厨房に間宮や伊良湖の姿が見えていることだろうか。

 他にもちらほら艦娘の姿が見えるのだが、何故か夕立が一瞬その場が沈黙する程にみな一度は注目している。

 

 昨日の演習で彼女がやらかした立ち回りを考えれば無理もないのだが、寝ぼけているのか色ボケているのかそこに頭が回らない。

 そんな春也に、声を掛けるのは当然彼しかいなかった。

 

「おはよう春也、それに夕立。一緒に飯食おうぜ」

 

「おはようございます、春也さん、夕立さん」

 

 航輔が電を連れて春也の肩にポンと手を置き、注文の列を指差した。

 

 

 

 定食壱、定食弐、パン、カレーの内からの注文で、やはり海軍ということで最初はカレーを注文してみたのだが、これがなかなか当たりだった。

 少なくとも春也の世界のインスタントのそれよりは味に深みがあり、風味もほかほかの米によく合っていた。

 

「はふっはふっ!!辛い、そして旨い!!なんだこれ、すげえ!!」

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「司令官がいつもの調子なのは、正直助かるのです。この後のことを考えると………」

 

「この後?昨日の部屋に集合だったはずっぽい。それがどうかしたの?」

 

 全員注文はカレーに統一してスプーンで食べているのだが、一人誰も取りはしないのに勢い良く掻きこむ航輔を生温かく見守りながらも、電が重い溜息を吐く。

 珍しく夕立がそれを気に掛けるが、すぐに分かるのですと具体的な答えを返さずに食事を進めた。

 

 そんな電の態度に春也は何かを忘れているような気がしたが、いまいち昨夜の夕立とのキス祭りがインパクトあり過ぎてなかなか喉から上に出てこない。

 もどかしさで微妙に気持ち悪さを覚えたが、それはそれとしてカレーを完食して後始末を終えた一行は予定通り昨日川内に案内された部屋へと連れだって向かっていく。

 

 

「―――――あ」

 

 

「…………」

 

「「………」」

 

「お、おはようございます?」

 

「……おはよう」

 

 思い出したのは、本人の姿を見て、かつ扶桑とおずおずと挨拶を交わしてからだった。

 

 能登姫乃。

 昨日夕立が大観衆の前でその自慢の配下三隻相手に圧勝してしまったエリート様が、一睡も出来なかったのだろうドス黒い隈を目元に蓄えながら胡乱な視線を入室した春也に向けていた。

 

 





☆設定紹介☆

※鎮守府の提督達が泊まる宿舎の壁

 防音には出来る限りの注意を払っている。
 理由?そりゃ、ねえ…………。


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