たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生 作:osero11
タグをいろいろと整理させていただきました。今回は、暴力的だと捉えられるかもしれない場面がありましたので、警告タグに「R-15」を追加させていただきました。ご了承ください。
今回はようやく、主人公以外の転生者が登場します。また、前回はピクミンのピの字も出てきませんでしたが、今回はちゃんと活躍しますのでご安心ください。戦闘場面も出てきますので、そこの点もどうかご了承ください。
それでは、始まります。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。
ー新暦75年 管理局 ミッドチルダ地上本部ー
ピッピ、ピピピピピ、ピピピ、ピピピピピ……
「……これでよしっと。ふう、これでようやく今日の分の仕事も終わりね~」
機動六課が本格的に部隊として活動し始める日も、理央は相変わらずピクミンに関する書類をまとめていた。
書類の数はそれなりに多く、普通なら一日かかりそうなほどあるのだが、理央はマルチタスクと経験ですいすいこなしていって、仕事開始から5時間くらいで全部の書類を処理し終えていた。
さて、今日の、というより最近の理央の仕事はこの書類仕事だけなので、実質今日の理央の仕事は終わってしまったのである。
そうなると、理央が早く仕事を終わらせた分だけ、彼女が暇する時間が増えるのである。
そういう時はどっかに出かけたりするのが彼女の習慣なのだが、今日の彼女には特に行きたい場所はなかった。
「……また暇になってしまった……。最近は教導とかでミッドチルダ中をアッチコッチ行かなくていいから楽だけど、逆に書類仕事を早く終わらせ過ぎて暇になる時間が多くなるのもある意味困りものね……。
この前みたいに出かけようにも特に出かけたいところはないし……はあ~、どうやって暇をつぶそうかしら……」
おそらく誰もが、彼女はこういうことを言うんだろうなと思っているだろう。実際、前世で仕事を早く終わらせた彼女はこのように言うことが多かった。
(もっとも、彼女の仕事=世紀の大発明ということがしばしばだったので、偉い学者さんたちやらマスコミやらが彼女のところに押し寄せてきて、すぐ暇だとか言っている場合にならなくなるのだが。)
しかし、忘れてはいけないのは、彼女がピクミン馬鹿だということだ。
今世で実物ピクミンと出会った彼女がピクミンと戯れる絶好の機会を「暇」として見過ごすわけがなく、こういう時はいつも部屋に待機させているピクミンと遊んでウハウハしているのだ。
理央は仕事を終えると満面の笑顔になり、笛型デバイス「ドルフィン」を吹きながら「おいでおいで~♪」と、部屋にいるピクミンを呼び寄せた。
ピクミンはテテテ・・・とかわいらしく鳴きながら理央の方に走っていく。
それを見て理央は両手を開き、たくさんの花開いた薔薇をバックに背負っているような幸せそうな表情を浮かべ、そのまま走ってくるピクミンを受け止め抱き上げた。
ウフフフ……アハハハ……と笑いながら、ピクミンを自分の肩に乗らせたり、ピクミンを抱きしめたり、ピクミンを背中に乗せてお馬さんごっこ?をしたりする理央の様子は、まるで純粋な乙女のようだった。
そしてそのまま理央は定時になるまでピクミンと遊び続けようと……
『失礼します。アオバ一佐、緊急の連絡で……ヒィッ!?』
……したところを、突然開かれた回線によって断念せざるを負えなかった。理央は、純粋な乙女のような表情を、恋人の浮気相手の○○を切り開き、さらには恋人の○○を抱えてnice boatした少女のような表情に一変させたので、通信相手の方はおびえた声を出してしまった。
そんな表情のまま、理央は背中に乗せていたピクミンを優しく降ろし、椅子に座り直した。
「失礼しました、こちらアオバ一等陸佐です。ご用件は?」
怖い、怖すぎる。そんな目で対応されたら怖いんですけど。
相手のほうは頭部と股間の方に寒気を覚えながらも、震えた声で理央の質問に答えた。
『は、はい。じ、実は、デバイスの材料となる鉱石の密輸を行っている犯罪グループの本拠地と思われる建物に、事件を担当していた地上本部の密輸対策部隊が突入していたのですが、どうやら犯人たちの中にSランク以上の魔導師がいたらしく、苦戦しているようです』
「密輸対策部隊が? あそこの部隊にはピクミンを指揮できる魔導師がいるでしょ? Sランクの魔導師くらいならどうにかなると思うんだけど……」
理央はようやく表情を戻しながら、疑問に思ったことを聞いた。通信相手である陸士は表情が戻ったことにほっとしながら答えた。
『それが……、訓練は受けていたようですが、実戦で指揮するのは初めてだったり、
「…………」
リオは黙って頭を抱えた。
確かにピクミンが50匹ほどもいれば、魔法による攻撃の指示を
例えば、AAAランクの魔導師が張ったシールドやバリアなら50匹のピクミンたちが
逆に、岩ピクミンに張らせたシールドやバリアも、ピクミンたちがそれぞれ独立して防御魔法を発動しているのなら、Sランク魔導師が放つ攻撃に耐え切れないことが多いのである。
SランクとAAAランクの間には、大きな壁があることがこのことからわかるだろう。
しかし、理央と女神によるピクミンを強化する話し合い、『ピクミン超強化会議』で理央は、ピクミンが
その強力な魔法はのちに『合体魔法』と呼ばれ、ピクミンの指揮における理央の強さの秘訣のうちの一つとなった。
だが、強力ゆえにその扱いは非常に難しく、マルチタスクと指揮魔法に優れた魔導師でないとこの魔法をピクミンに使わせることができないのだ。
ミッドチルダでこの魔法を使用させることができるのは、理央とクイント・ナカジマ、その他十数人ぐらいである。
したがって、そのほかの指揮魔法が使える魔導師では、Sランク魔導師に対抗することは非常に難しいのだ。
まあ、Sランク魔導師の犯罪者なんてめったに現れないので、そもそもそんな事態がおこるのはとてもまれなのだが。
――時間をかけて、うまく使わせることができる魔導師が育つのを待つしかないわね、やっぱり。
理央がそんなことを思っている間に、陸士は話を続ける。
『レジアス中将が、急ぎピクミンを連れて現場に向かえとのことで……』
「……わかったわ、場所は?」
『はい、場所はクラナガン北部の……』
理央は場所を聞くなりすぐにピクミンを連れ、部屋を出た。
今、最強のピクミン使いの力の一端が現われようとしていた……。
ー同日 管理局 遺失物対策部隊 機動六課隊舎ー
理央が部屋を出る数時間前、機動六課隊舎の部隊長オフィスには部隊長であるはやてとリインの姿があった。
「う~ふふふ♪ このお部屋も、や~っと隊長室らしくなったですね~♪」
「ふふ、そやね。リインのデスクも、ちょうどええのが見つかってよかったな~」
「えへへ~♪ リインにぴったりサイズです~♪」
はやては普通のデスクに、リインは彼女の小さな体に合ったデスクに座って話をしていた。リインは自分のサイズにぴったりな机が見つかったことがよっぽど嬉しいのか、とてもご機嫌な様子だった。
二人が話をしていると、入り口の電動ドアの扉の方からブザーが鳴り響いた。これは、部屋に入る人が、部屋の主である部隊長に入室を知らせるためのブザーだ。
はやてはそれに気づき、「はい、どうぞ」と部屋の前にいる人物たちに入室を促す。
扉が開き、「「失礼します」」と部屋に入ってきたのは、二人の女性だった。
「あっ! お着換え終了やな!」
はやては椅子から立ち上がりながらそう二人に声をかけた。その女性たちは、六課の制服に身を包んだなのはとフェイトだった。
「お二人とも素敵です~」
リインもそう二人を褒めた。確かにいつもの教導官や執務官の制服ではなく、茶色を基調とした制服を着た彼女たちの姿も魅力的なものだと言えるだろう。
「あははは」
「ありがとう、リイン」
リインの言葉になのはは少し恥ずかしそうに笑い、フェイトは笑顔になってお礼を言った。
「三人でおんなじ制服姿は、中学校の時以来やね。なんや懐かし~」
はやてはそう言いながら二人に近づいていった。その言葉になのはとフェイトも嬉しそうに微笑んだ。
「まあ、なのはちゃんは飛んだり跳ねたりしやすい教導隊制服でいる時間の方が多くなるかもしれへんけど……」
「まあ、事務仕事とか公式の場ではこっち、てことで」
なのはの言葉に、はやてとリインが笑顔になったかと思うと、フェイトはなのはのほうに目配せをしながら言葉を発した。
「さて、それでは」
「うん」
するとなのはとフェイトは姿勢を正し、敬礼のポーズをとった。
「本日ただ今より、高町なのは一等空尉」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」
「両名とも、機動六課へ出向となります」
「どうぞ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
そう、これは単なる形式的な挨拶であった。親しき中にも礼儀ありというか、上司と部下という関係だからという理由があり、親友の間柄でも一応形式的な形で済ませておいたのだ。
しかしそんなとってつけたような挨拶をしたのがおかしかったのか、なのはとフェイトが笑い出し、それにつられてはやても笑い出した。
そんなほんわかした雰囲気のなか、フェイトがあることに気づく。
「あ、はやて……あの机の上に置いてある置物って……?」
「あ、アレかぁ……アレはな、理央ちゃんがこの前、部隊設立のお祝いにって送ってくれたものなんよ……」
――ピシッ!!
瞬間ッ!! なのはの脳裏には! 理央と買い物に行った時の回想が!!
『ん~、どれにしようかしら……。あっ!これがいいわね~』
『え? どれどれ? 何選んだの理央ちゃん?』
『これよこれ、この狸の置物』
『へ~、結構かわいいね。……でもなんで狸?』
『いや、なんとなく。
強いて言うなら、最近のはやてってタヌキみたいに腹黒だから、改めて自覚してもらうのにいいんじゃないかな~って』
『……え? ちょっと待って、いやほんと待って理央ちゃん。
最近のはやてちゃん、そのこと結構気にしてるとこあるから、いやほんと待ってって』
『じゃあレジ行ってくるわ』
『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!? いやほんと待ってって!! はやてちゃんほんと気にしてるから!! あ! ほら! ピクミンの人形があるからこっちにしy……き、消えた………? え!? 理央ちゃんが持ってるってどういうこと!? あ、ありのまま今起こったことを……え? 全部自分用!? はやてちゃんの分はやっぱりその狸!? いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!? もうやめて! はやてちゃんのメンタルはもう限界なんだよ!? あ、だ、だめえええぇぇぇぇ!!』
――はやてちゃんも、なにもオフィスに持ち込むことなかったのに……。
なのはは、理央によっていともたやすくおこなわれたえげつない行為に頭を痛めた。せっかくいい雰囲気だったのに、台無しである。
「そうなんだ……。アレって何の動物なのかな? アライグマ?」
「狸やよ……まごうことなき狸なんや……」
フェイトの質問に答えるはやても、どこか疲れ切った表情をしている。理央からの贈り物(という名の精神攻撃)がよっぽどこたえていたんだろう。
ちなみになのはが知る由もないが、理央の贈り物は狸以外にもう一つあったがために、はやてはこんなにもダメージを受けているのである。
気まずくなってしまったなのはに、疲れ切った表情をするはやて、そんなはやての状態に苦い笑顔を浮かべるリインに、一人だけそんな周りの状況にキョトンとするフェイト。そんな四人のもとに、とある男たちが近づいてきていた。
部屋の電動ドアが開き、四人がそちらに目を向けると、全員苦い表情を浮かべた。
そこにいたのは……
「よお! なのは! フェイト! はやて! リイン! みんな久しぶりだな!」
彼らと同じ地球出身の魔導師、
彼が保有している魔力量はSSSランク相当で、さらには所有しているレアスキルが非常に強力かつ有用なものであることから、管理局の若手魔導師の中でも注目を集めているエースである。
おまけに美形なので、女性職員の中にはたくさんのファンもいる。
彼は、かつて嘱託魔導師としてなのはたちとともにPT事件や闇の書事件を解決した魔導師の一人であり、その時に見せた魔導師としての才能の高さから管理局の武装隊にスカウトされ、小学三年生のころから管理局の本局で活躍してきた。
そんな彼がどうしてここにいるのかと言うと、その闇の書事件を通じて知り合い、小学生からの付き合いであるはやての部隊設立を祝うためにこの機動六課の隊舎に来ていたからである。
ちなみに、機動六課設立のことをどうやってか知った彼は、自分も機動六課に出向するために、部隊長であるはやてや後見人のクロノ・ハラオウンにその意思を伝えたり、機動六課への出向願いを自分の上司に提出したりとかしていたのだが、「魔導師としてのランクが高すぎる」という理由ではやてやクロノから(やんわりと?)断られていたので、出向することはできなかった。
確かに魔力量はSSSランクもあるが、魔力運用などの魔法を使いこなすための技術が低いので、彼の魔導師ランクはAAAランクにとどまっているのだが、それでも隊長陣にかかっているリミッターをさらに強くする理由となるには十分なほど高い。
これ以上のリミッターがかけられると、さすがにほかの隊長陣が前線に出たときのリスクが高くなりすぎるので、はやてたちが断るのも当然だろう。
「う、うん……。栄介君、久しぶり……」
「げ、元気だった……?」
「あはは……。わ、わざわざ来てくれてありがとなー……栄介君……」
「ウゲッ! わざわざこんなタイミングで来ないでほしいですー!」
なのは、フェイト、はやてはそれぞれ作り笑いを浮かべながら栄介に挨拶を返した。
なお、リインが率直すぎるのはしょうがない。生まれてから9年も経ってない彼女に、三人のように本心を上手く隠せと言う方が酷なのだ。
「そ、そんなこと言うなよリイン……。
……ん?
「こんな気まずい状況で来られても迷惑なだけですー! というより基本的にはいつも迷惑ですー! さっさと帰ってほしいですー!」
「そ、そこまで言う必要はないだろ……。
みんな、何があったかは知らないけど、元気出せって。せっかくのかわいい顔が台無しだぜ」
英介はそう言いながら、ニコッという擬音がつきそうな笑顔を向けた。
「うっ! ……う、うん……」
「あ、ありがとう、栄介……」
「あ、あはは……や、やっぱり栄介君はお世辞が上手やな~……」
栄介の言葉に、微妙な笑顔で返す三人。はやての横ではリインが苦虫をかみつぶしたような顔になっていた。
ここまで見ると、この神無月栄介という男は、一見イケメンな好青年(?)のように見えるが……
「ところでなのは、あの時の怪我は大丈夫か? また痛くなってないか?
ちょうど腕の立つ医者を見つけたから、今度行ってみないか? ついでに俺と食事でも……」
「い、いや! 別にいいよ! シャマルさんにいつも診てもらっているし! もう痛まないし! たぶん完治してるし!」
「そうか? ならしょうがないな……。
あ、じゃあフェイト、今度俺と食事に行かないか?
ジェイル・スカリエッティの情報を集めているんだろ? 俺が調べたことをその時にでも……」
「え!? う、ううん! 別に! 大丈夫だよ! スカリエッティに関する情報なら心当たりあるし! その人から詳しく聞くから!(身内だけど……)」
「そ、そうか……(プレシアが生きているからか……チッ)。
なのはとフェイトが行けないなら……はやて、一緒に行かないか?」
「ファッ!? い、いや私は……そう! 部隊長! 部隊長やからいろいろと忙しいんや!
ごめんな~栄介君、どうやら誰も一緒に食事に行けないみたいやで~! ほんま残念やな~!」
「一緒に食事になんて行けるわけないです! 一昨日来やがれです~!」
「そ、そうか……みんな行けないのか……。とても残念だな……。
(クソッ! どうしてみんな予定が空いてないんだ!
普通オリ主であるこの俺とのデートぐらいできる状況であるべきだろうがっ!!)」
そう、この神無月栄介という男、表面上は紳士的(?)だが、中身はハーレム願望の転生者の一人だったのだ。
彼は前世にて、リリカルなのはを原作とした二次創作を数多く鑑賞してきた。そのため、今回の転生時において、自分こそがオリ主であり、原作の女性キャラたちを次々と惚れさせてハーレムを作る権利があると勝手に思い込んでしまったのだ。
彼自身の思考自体はいわゆる「踏み台」と言われるかませ役のような人物たちと同じものだが、彼は前述したとおり数多くのリリカルなのはの二次小説を読んできたので、もちろん踏み台とされる転生者がどのような態度をとり、行動をするのかよく知っている。だからこそ、表面上はこんなにもみんなを思いやっている(?)態度をとっているのだ。
しかし、こんな感じで栄介は、出会ったころからいつもいつもなのはたちにアプローチを仕掛けてくるので、なのはたちは栄介のことを激しく嫌ってこそいないが(リインは除く)、すごく苦手にしていた。
そんな状態にも気づかずいつもの調子で栄介はアプローチしてくるので、なのはたちは彼のことが小学生のころからずっと苦手なのだ。正直、顔を合わせないことがどんなにも幸せか、とさえ思っていた。
「じゃあさ、空いてる時を教えてくれよ。俺が合わせておくからさ」
ニコッ
「え!?」
「ふぇ!?」
「なん……やと……」
「なん……ですと……」
栄介からのさらなる
一体全体どうしてここまでしつこく誘ってくるのか。あれか、やっぱり自分たちに気があるのか? でも絶対嫌だ。だって気色悪い感じが何となくするもん。というか、ニコッってするのやめろマジで。気持ち悪いだけだから。気持ち悪さを倍増させているだけだからマジで。
なのはたちが動揺しているあいだも、栄介はニコニコと笑って彼女たちからの返事を待っていた。
そんな彼の
『あ~、やっぱりピクミンは最高ですね~。
特に2なんてお楽しみ要素が盛りだくさんじゃないですか~』ウォーウォーミャーミャー
あ、この神様ダメだわ。ピクミンのことしか頭になさそうだわ。こういうのにこういうことで頼っても無理そうだわ。主に経験則で。
しかしその時、彼女たちに救いの手が……!
「やめろ、神無月」
「なっ!? ……いたのか、氷室」
いつの間にか部屋の中には、神無月栄介と同じ転生者であり、管理局のエースでもある
「ブザーも鳴らさず入ってくるとは、いつものことながら失礼な奴だな」
「それはお前も同じことだろう? ……まあ、嫌がるなのはたちを無理やり誘おうとしているところを見ると、お前も相変わらずはた迷惑な奴のようだな。
お前のようなストーカーに追いかけまわされるなのはたちの気が知れんな」
「なんだとっ!!」
「栄介君! 悪いけど、せっかくの新部隊設立の記念日なんや。今日ぐらいは騒ぎを起こさんでほしいなー」
「……くそっ、はやてのおかげで助かったな、氷室」
「ふっ、はたしてそれはどちらのことなんだろうな? え? 神無月?」
「――――――――ッ!!!!」プルプル・・・
栄介からの皮肉にまったく気にも留めず、逆に栄介を煽る正。その言葉に激昂した栄介は氷室に掴み掛かろうとするが、はやてからの一声でやめざるを得なかった。
最後に負け惜しみのような一言を正に放つが、それすらも気にせず、逆に煽る材料にして挑発してきた正に、栄介はただ怒りで身を震わすことしかできなかった。
「大丈夫だったか、みんな?」
「あ……う、うん……」
「あ……ありがとう正……」
「あー……ありがとなー正君……。
ちょっとだけ、栄介君からのお誘いはしつこいかなーて思-てたところなんよ……」
「…………」
「気にするな。いつものことだ」
なのはたちからのお礼の言葉に、正はどこか冷めた様子で返した。
この氷室正も、栄介と同じくSSSランク相当の魔力を持ち、強力なレアスキルを所持している管理局のエースだった(その割には、魔導師としてのランクも栄介と同じでAAAランクどまりなのだが……)。
彼もまた、PT事件や闇の書事件を解決してきた魔導師の一人である。
正となのはたちとの関係も小学生のころからで、そのころからこのように、しつこくアプローチしてくる栄介を正が止めてきていた。だから、彼女たちは
さて、この氷室正という男も顔が整っており、一見するとクールなイケメンに見えなくもないが……
(踏み台ザマァァァァァァwww毎度毎度懲りずに俺の引き立て役になってくれてありがとよwwwひゃっはああああああああああああ!!
これでなのはたちも俺のクールさにさらにメロメロになっただろうよwwwうひひひひひひひひひひwww)
とまあ、頭の中はこんな感じで、栄介と同じくハーレム願望を持つ転生者なのである。
ちなみに、なぜ頭の中ではこんなことを考えているのに、少しさめたような態度をとっているのかというと、彼は「クールなオリ主ならハーレム間違いなしだぜ!!」と考えているため、頭の中がどんなに煩悩いっぱいでも、表面上はクールな感じでふるまっているのである。だがまあ……
(また顔がにやけてる……いつも栄介君を止めてくれるのは嬉しいけど、なんか正君も同じ感じがするんだよね……)
(どうしてあんな顔をするんだろう……。
正には悪いけど……ちょっと、いやかなり気持悪い……)
(うわー……。あの顔、また気持ちの悪い妄想してるんやろな~……。
正直、どっちもどっちって感じや………。こんなのと同じ職場っていややわ~……。
やっぱり理央ちゃんと同じ地上本部の方がよかったかも……。いや、理央ちゃんにいじり倒されるから無理やな。ストレスマッハや)
(まったく、どうしてこの二人はこんなに気持ち悪いんでしょうか! 吐き気がするです!
なのはさんたちや理央さんのような立派な魔導師さんたちを見習ってほしいものです!)
内に秘められているはずの煩悩が顔に出まくっていて、彼女達から思いっきり引かれていたので、まるで意味がなかった。
正直、この転生者たちへのなのはたちの好感度はかなり低かった。できれば顔を合わすのは年に1度ぐらいまでに済んでほしいとまで思っていた。まあ、実際それぐらい思われても仕方ないくらい、彼らはなのはたちに劣情を抱いているわけなので、当然と言えば当然なのだが。
ちなみになんだかんだで、この四人の理央への好感度は高い。
「あ~……ごめんな~、二人とも。せっかく来てもらったのに悪いんやけど、これからそろそろ部隊長としての挨拶があるし、仕事もあるしでいろいろと今日は忙しくなると思うから、今日のところはもう帰ってもらえへん?」
はやては内心、「さっさと帰って!」と思いながら二人にそう声をかけた。
「(え? もう? ……まあ、はやてたちからの好感度も上がっただろうし、それで十分だろう。新人たちとのフラグ立てはまた今度ということで……フヒヒヒwww)
……そうか、わかった。改めて、新部隊設立おめでとう、はやて。じゃあな」
「(チィッ!! モブ野郎のせいでせっかくのなのはたちとのフラグ立てが!! ……まあいい、彼女たちは既に俺にぞっこんだから、またいつでもいいさ。いつかこのくそモブは叩き潰すとしよう)
そうか、邪魔して悪かったな。じゃあみんな、また今度な!」
そう言い残して、正と栄介は部屋から出て行った。彼らが出ていく様子を見送ったなのはたちは、ハァ~……と、重めのため息をついた。
しかし、彼女たちが話を再開するよりも前に、部隊長室の扉のほうからブザーが鳴った。
「あっ、どうぞー」
はやては部屋の外にいる人物に入室を促した。すると扉が開き、一人の男性が入ってきた。
「失礼します」
一礼しながら入ってきたその男性は、なのはたちよりも身長が高く、銀色の髪の毛を少し長めに伸ばしていて、眼鏡をかけていた。
彼はなのはとフェイトの姿を確認すると、彼女たちに声をかけた。
「あっ、高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰しています」
二人に敬礼をしながら挨拶の言葉をかけてくる青年に、なのはとフェイトは一瞬「会ったことがある人物なのか」ととまどってしまったが、すぐに心当たりが出たので、少し自信が持てない様子ではあるが、二人は確認してみることにした。
「えーっと……」
「もしかしてグリフィス君?」
「はい、グリフィス・ロウランです」
敬礼を解きながら、なのはたちからの問いかけに答える青年ことグリフィス。
「うわー、久しぶりー! ていうかすごーい! すごい成長してるー!」
「うん! 前見たときは、こんなちっちゃかったのに……」
前会った時からのグリフィスの成長ぶりに、なのははテンションが上がり、フェイトは自分の胸の前のあたりに手を浮かせながら驚いていた。
「そ、その節は、いろいろお世話になりました」
若干恥ずかしそうにしながら答えるグリフィス。
「グリフィスもここの部隊員なの?」
「はい」
「私の副官で、交替部隊の責任者や」
「運営関係も、いろいろと手伝ってもらってるです」
フェイトがグリフィスに質問し、グリフィスはそれに答えた。さらに、はやてとリインが続けて説明した。
「お母さん、レティ提督はお元気?」
「はい、おかげさまで。あっ、報告してもよろしいでしょうか」
グリフィスは表情を切り替え、はやてに聞いた。はやてはそれに頷き、「どうぞ」と促した。
「フォワード4名をはじめ、機動六課部隊員とスタッフ、全員揃いました。今はロビーに集合、待機させています」
「そっかー。結構早かったなー。
ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん、まずは部隊のみんなにご挨拶や」
「「うん!」」
そして、部隊長であるはやての挨拶が行われ、機動六課の活動が本格的に始まったのであった。
ークラナガン北部 とある犯罪グループの本拠地ー
現在この場所では、管理局地上本部の密輸対策部隊と密輸を行っている犯罪グループ、それぞれの魔導師たちによる戦闘が行われていた。密輸対策部隊のほうには、ピクミンやそれを指揮する魔導師の姿もちらほらと見られる。
「おい! まだ応援は来ないのか!」
「アオバ一等陸佐がもうすぐ来るとのことです! それ以外は、残念ながら……。」
中年の男性からの問い掛けに、20代と思われる男性が答える。今、彼らは窮地に陥っていた。
1時間前までは、ピクミンによって彼らが優位に立てていたのだが、相手側のSランク魔導師が戦闘に参加し始めてからは状況が一変してしまった。
こちらの魔導師たちの攻撃はおろか、ピクミンの魔力弾による攻撃もその魔導師の防御魔法に防がれて通じなくなり、逆に今まで向こうの魔導師たちの攻撃を防いできた岩ピクミンの防御魔法も、彼の砲撃魔法によって破られ続けていた。
部隊員たちや指揮官の指示に従っているピクミンたちは、後退したり物陰に隠れたりしてなんとかやり過ごしているが、それもいつまでもつかわからない。彼らは一刻もはやく増援が欲しかった。
「くそっ! まさか奴ら、Sランク魔導師を雇ってやがったとは!」
「予想外でしたね。こんなことになるなら、最初からアオバ一佐に応援を要請していれば……」
「すみません、隊長。私がふがいないばかりに……」
笛型のデバイスを持った、魔導師の女性が自分の無力を悔いるかのように中年の男性、分隊長に謝った。
彼女は今回の作戦に参加した中でピクミンを指揮することができる魔導師の一人で、この分隊長と行動を共にしていたのだ。彼らの近くにはピクミンも十数匹くらいおり、その女性の指揮下にいた。
「馬鹿野郎! そんな泣き言言ってる暇があったら、応援が到着するまで持ちこたえられるように気合を入れろ!」
「! はっ、はい!」
分隊長からの激励に、彼女は弱音を吐くのをやめ、返事をした。
現在、彼らはロビーのような広い空間で、バリケードをピクミンに作らせながら応援を待っていた。こういうときにもピクミンは頼りになるもんだな、と分隊長は感心しながらも、今のこの状況に頭を悩ませた。
(Sランク魔導師の出現により、こちらは一気に不利な状況になってしまった……。念話で確認したところ、今のところどうやら全員無事らしい。だが、この状態も長くは持たないだろう……。
はやく援軍が来てくれないと、こちらに死者が出ることも……ッ!!!)
この状況に、彼ら側に死者が出る場合も考え始めた彼は、突然思考を中断せざるを得なかった。なぜなら……
ピクミンたちが作っていたバリケードが、砲撃魔法によって破壊されてしまったからだ。
「……ったく、手間かけさせやがって。ゴミはゴミらしく地べたにはいつくばって死んでろっつーの」
壊されたバリケードの向こうから、敵側の魔導師が手に杖型のデバイスを持ってやってきた。この男こそ、彼らが恐れていたSランク魔導師であり、さっきピクミンが作ったバリケードをいともたやすく砲撃魔法で破壊した人物でもあった。
「!! くっ! 岩ピクミン! ラウンドシールド!!」
女性が使った指揮魔法と言葉に従い、彼女の隊列にいた十匹程度の岩ピクミンたちが、ヤヤヤッという掛け声をあげながらそれぞれ独立してラウンドシールドを展開した。
岩ピクミンは、ピクミンの中では防御魔法をもっとも巧みに発動させることができる。特に、岩ピクミンの体質が魔法資質に反映されているのか、攻撃を固く弾く、または反らすことを目的としたシールド系の魔法防御を得意としていた。だから、岩ピクミンが発動させたこのラウンドシールドは非常に強力なものなのだ。
「けっ、またそれか。いい加減飽きたんだよっ!!」
パリン! ズドォォォォォォォォォォォン!!
「きゃあああああああ!!」
「「ぐわあああああああ!!」」
ワアアアアアアアア・・・
だが、そのシールドさえも、敵が放った砲撃魔法はあっさりと破ってしまったのだ。
なんとか部隊員たちとピクミンは砲撃魔法の直撃を避けたが、砲撃が近くの床に当たり発生した衝撃で吹っ飛ばされてしまった。
「おいおい? もう終わりかよ? もうちょっと抵抗してくれてもいいんだぜ?」
Sランク魔導師は、下品なにやけ顔を浮かべ、見下した調子で言ってくる。彼らはそんな言葉を聞き悔しい気持ちでいっぱいだったが、どうすることもできなかった。
あまりにも圧倒的すぎる力の前に、彼らは何もできなかったのだ。
頼りになっていたピクミンですら、Sランク魔導師にかなわない。ましてや自分たちでは全く歯が立たないだろう。彼らの胸中は、そんな思いでいっぱいだった。ピクミンを指揮していた魔導師の女性は、悔しさのあまり目に涙を浮かべている。
「まあ、どうでもいいか。ゴミは早く掃除しないとな」
そう言いながら、敵のSランク魔導師は手に持ったデバイスを通じて魔法を発動させ、砲撃のチャージを始めた。
もはや、どうしようもないほどの力の差を目の当たりにして、管理局の魔導師たちにあらがおうとする意志はなかった。ただただ、自分たちの非力さを嘆き、悔やむ気持ちを抱えたまま、死を受け入れようとしていた。
「死ね」
そして敵の砲撃魔法が放たれ、容赦なく彼らの命を奪おうと、管理局の魔導師たちとピクミンに襲い掛かった――
「【ピクミンつながり】!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
Sランク魔導師は、砲撃が当たってからの数秒間は、自分の砲撃によって
チッ、と舌打ちした後、彼はそちらの方を見た。するとそこでは、黒い髪を長く伸ばした女性が、局員たちのほうを向き敬礼のポーズをとっていた。
「遅れて申し訳ありません。大事がないようで何よりでした。
地上本部の青葉理央一等陸佐です。今からそちらに協力させていただきますので、よろしくお願いします」
理央は、仲間である局員たちにそう声をかけてから、敵である彼の方を向いた。その目にはいつもとは違い、相手を倒そうとする意志が強く込められていた。
局員たちとピクミンの危機を救ったのは理央であった。彼らが砲撃に当たる直前、理央は連れてきたピクミンたちを【ピクミンつながり】で局員たちの方に伸ばし、そのままそのピクミンたちを彼らとピクミンに巻き付けて、自分のほうに思いっきり引っ張りよせたのだ。
「あ。悪いけど、あなたが連れているピクミン、ちょっとこっちに協力してもらうから」
「え?」
女性の返事も聞かず、理央はドルフィンを吹いて、女性局員が連れていたピクミンを自分が使えるようにしてしまった。
彼女が「ウェ!?」と驚くのも気に留めず、理央は敵であるSランク魔導師を睨んでいた。
「なるほど、アンタが地上本部の『英雄』か……。
ひゃはははは! こいつはラッキーだぜ!」
「あら? ラッキーじゃなくて災難の間違いじゃないの?」
「はっ! たかがCランクの魔導師でも、名前が知られてるテメェを殺せば、俺の名前も高く売れるってもんよ!
俺に出会ったことを後悔しながら死んでいくんだな! ひゃははははははははは!」
「……あなた、言ってることが小悪党すぎるわよ? それじゃまるで自分から『これからやられます』って言ってるみたいね」
「なっ!! だ、黙れこのアマぁ! この俺の砲撃で消し飛ばすぞっ!!」
「まあ、私を殺すっていうなら、さっさと魔力弾を撃つなり、ご自慢の砲撃とやらを撃つなりすれば? まあ……
私 に は 効 か な い で し ょ う け ど ね♪」
「ぶっ殺す!!」
理央の挑発に簡単に乗った相手は、すぐに砲撃のチャージを始めた。
「ちょっ! なに挑発してるんですか!
奴の砲撃を見たでしょう!? 絶対オーバーSはありますよ!?」
「まあ、落ち着いてください。あの程度なら大丈夫ですから」
理央の周りの局員たちは絶句してしまった。自分たちではまったく歯が立たなかった砲撃を、『あの程度』と言った理央の言葉が衝撃的すぎたのだ。
唖然としている局員たちをよそに、理央は指揮魔法を発動させる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そして砲撃がついに放たれ、理央たちに直進していった。しかもおそるべきことに、前の砲撃よりも込められた魔力が段違いだ。つまり、さらに強力な威力を持っていることに他ならない。
砲撃の軌道上にいた局員たちは思わず目をつむり、二度目の死の覚悟をした。
「合体魔法発動、【ユナイテッド シールド】」ウォー
ドドドドドドカァァァァァァァァァァァァン!!!!
「……バ、バカな……」
局員たちが目を開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
さっきまで威勢の良かったSランク魔導師の顔は驚きに満ちており、砲撃を受けたはずの理央とピクミンたちは、なにごともなかったかのようにそこにしっかりと立っていた。
しかし、なによりも彼らの度肝を抜いたものは、理央の前に張られていた巨大な円形のシールドだった。そのシールドに込められている魔力の量が半端ではなく、間違いなくあの砲撃に使われた魔力の量を超えているだろう。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
敵はやけくそになったのか、今度は複数のスフィアを展開し、魔力弾を発射してきた。だが、すべて巨大なシールドに防がれて、攻撃が彼らに届くことはなかった。
だんだんと相手の顔に恐怖の色が浮かび、攻撃もそれに伴い苛烈なものになっていったが、それでもシールドは破れなかった。
「なんでだ!? この俺はSランクの魔導師なんだぞ!? なのになぜこの俺の攻撃が通じない!? ふざけるな!! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
Sランク魔導師である男に、もう強者としての余裕はなかった。ただ、Sランクとしてのプライドがズタズタになっていく感覚と、得体のしれないものに対する恐怖が彼の中にあった。
完全に冷静さをなくした敵を見て、理央はニヤリと笑った。
さて、ここでどうしてSランクもの砲撃を理央とピクミンたちが防げたのかについて説明しよう。
理央が行ったことは、単純に言えば、さっき女性魔導師が岩ピクミンに対し行ったことと変わりない。『岩ピクミンにシールド系の防御魔法を使わせた』、これだけである。
ではなぜ、さっきの女性魔導師が指示したときには防ぐことができず、理央が指示したときには防ぐことができたのか。ここに合体魔法の利点がある。
さっきの女性魔導師の指揮魔法は、岩ピクミンに対し
しかし理央が使った指揮魔法は、岩ピクミンに対し、
これにより、十数匹の岩ピクミンが力を合わせて、Sランクの砲撃をも防ぐシールドを作り出したのだ。
さらに、ピクミンが使う合体魔法にはもう一つ秘密がある。
例えば、赤ピクミン二匹に合体魔法を使わせたとしよう。
赤ピクミンは炎の魔力変換資質を持つが、炎をまとった魔力弾を使わせるとした場合の、赤ピクミン一匹が使う魔力弾のエネルギー量を1とすると、赤ピクミン二匹が合体魔法によって作り出した魔力弾のエネルギー量はいくつになるだろうか。おそらく、1と1、足して2になると思う人が多いだろう。
しかし、女神による恩恵を受けた合体魔法のエネルギー量は、相乗効果により合体魔法を発動させたピクミンの数を二乗した値となる。よって、赤ピクミン二匹が作った魔力弾の威力は2×2で4となる。
では、赤ピクミン十匹に発動させた場合はどうなるのだろうか?
ピクミンの数を二乗した値、つまりピクミンの数である10を、同じく10でかけた分まで相乗効果として上がるため、一匹が作った魔力弾の威力をはるかに上回っていることがわかるだろう。
ためしに計算してみると、赤ピクミン十匹の合体魔法の威力は10×10で100……つまり、赤ピクミン一匹が使う魔力弾の100倍の威力があることがわかるだろう。
この相乗効果こそが、合体魔法の最大の強みであった。この相乗効果により、岩ピクミン十数匹が作り出したシールドは、岩ピクミン一匹一匹が作れるシールドの百数倍もの防御力を持てるようになり、Sランク魔導師が繰り出す攻撃にもびくともしないのである。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!
この俺の攻撃がっ! こんな奴らなんかにっ!」
そうとも知らないSランク魔導師は、ただただ無意味な攻撃を繰り返すだけだった。
相手が完全に冷静さをなくしたことを確認し、理央は不敵な笑みを浮かべたまま、そうそうに決着をつけることに決めた。
「どうしたのかしら? まさかSランク魔導師ともあろう者が、さんざん痛めてつけてきたピクミンの防御魔法も突破できないの? ん? そーなの?」
「このアマァ……!!」
「ねえねえどんな気持ち? 今まで圧倒的に勝ってたのに、急に自分の攻撃が毛ほどにも通用しなくなってどんな気持ち? Sランクという誇りを持ってたはずなのに、Sランク(笑)だったって知ってどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち?」
「このアマァァァァァァァァァァァ!!」
理央の挑発に激昂したSランク(笑)魔導師は、ついに自分のありったけの魔力を使い、砲撃魔法のチャージを始めた。
彼の人生において今まで使ったこともないような、まさしく最大の威力を誇るであろう砲撃を使うことに、男は勝利を確信した。
たとえどんなに強力な防御であろうと、この俺様の最強の砲撃を防げるはずがない。そう彼は確信していた。
今までの焦りはどこに行ったといわんばかりに、彼はニイィと口の端を釣り上げた。
「この俺のブレイカーで跡形もなく消滅しなっ!! このアマァァァ!!」
そして砲撃のチャージが終わった。男はデバイスを勢いよく理央の方に向け、砲撃を発射した。
Sランク魔導師である彼が放った、正真正銘彼が出せる最大の破壊力と殺傷能力を持った砲撃は……
「合体魔法発動、【ユナイテッド フレイム】」ウォー
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
赤ピクミン二十数匹によって放たれた合体魔法にあっけなく呑み込まれ、そのまま合体魔法はSランク魔導師に直撃し大ダメージを与えた。合体魔法による炎熱砲に直撃し、吹き飛ばされた男はその勢いのまま壁に激突した。
「グギャア!!」
男の口からつぶされたような声が出た直後、男は壁から滑り落ちてそのまま気絶した。男が手に持っていたデバイスは彼から遠くに吹き飛ばされ、バラバラになっていた。
デバイスがないのでは、砲撃魔法のように繊細な魔力のコントロールを必要とする魔法は使えない。これでもう彼は、すくなくとも先程のような強力な砲撃を使うことはできないだろう。
「……はっ! や、やりましたね! アオバ一佐!」
「俺たちが手も足も出なかったあの男を、あんなにもあっさりと……」
「すごい! すごすぎです! アオバ一佐!」
理央があっさりとSランクの魔導師に勝ってしまったことに局員たちはあっけにとられたが、我に返ったとたん大喜びしながら理央に言葉をかけた。しかし肝心の理央は、彼らのそんな言葉が聞こえないかのように、倒れた男に向かって歩き始めた。
「……アオバ一等陸佐?」
そんな彼女の行動に局員たちは疑問を覚えたが、そのまま様子を見守ることにした。理央は倒れた男にたどり着き……
「ほら、起きなさい」ペシペシ
男の頬を叩いて、起こそうとした。
「「「!!?」」」
理央のまさかの行動に驚く局員たち。すると、男は目を覚ましてしまったではないか。
「……ぅ……ぁ……?」
「あ、起きたわね」
目を覚ました男は、目の前にいる理央を憎悪のこもった目でにらみつける。
「……この………アマ……よく………も……」
「やっぱりダメージが深くてうまくしゃべれないみたいね。まあ、あなたの言い分なんて聞くつもりもないから好都合だけど」
「………こ………ろす………ぜっ………たい………に………!」
「いや無理だって。デバイスもないし無理だって」
「き、危険です! アオバ一佐!」
「い、今我々がバインドをかけますから! 早くその男から離れて!」
たとえデバイスがなくなって、大ダメージを受けていたとしても相手はSランク。下手したら理央が殺されてしまうかもしれない。
局員たちはすぐさまデバイスを構え、バインドをかけようとするが、理央は手で彼らを制した。局員たちはぎょっと驚くが、理央はかまうことなく言葉を続ける。
「まあ、私があなたを起こしたのは、一言言っておきたいことがあっただけだから、それが済んだらもう一度寝てても構わないわよ」
「くそアマ………! てめぇだ…けは………ぜったい………に………ころ………す………!」
「……まあ、殺す殺すって言うのは勝手だけどさ、一応……」
――殺される覚悟をもってから言った方がいいわよ?
たった一言、そのたった一言で、言われた本人はおろか周りにいた局員までもが凍り付くような寒気を感じた。それほどまでのプレッシャーが、言葉とともに理央から発せられたのだ。平気そうにしているのは、その言葉を発した本人とピクミンたちのみだった。
「あなた……本気で『死ぬ』って思いをしたことないでしょ? だからそんなふうに、できるはずがないのに殺す殺すって言ってるんでしょ?」
「ぁ………ぅ……」
「まあ、私だって
特に死にかけるような体験はしといてよかったと思ってるわ。おかげで、窮地に陥った時でも頭の回転がいつも通りに、いや、それ以上によくなったんだからね」
「ば……化け物………!」
「失礼ね、人間よ。……さて、私が言っておきたいことは一つ。ピクミンは私にとって家族。その家族に手を出そうとしたんだから、ちゃんとお礼はしないとね」
「ひっ!」
男は理央から逃げるために体を動かそうとするが、大きすぎた魔力ダメージで体が全く動かなかった。それでも必死で逃げようとする男の襟首を、理央は左手でつかみ立ち上がった。
「た、助けてくれ! 殺さないでくれ!」
「殺すわけないでしょ。ただちょっと、」
――そして理央は右手を後ろに引き、
「私の方から直接――」
――薬指から親指を順番に折り曲げていって
「お灸をすえる――」
――こぶしを固く握りしめ、
「だけだから――」
――そのこぶしを思いっきり
「ね!!」
――男のみぞおちにたたきこんだ。
「○▲□×~~~!!!」
そして男は、声にならない悲鳴を上げ、再び気絶した。
「……さて、私はほかの分隊の方の援護に向かいますので、これで」
そう言い残して、理央とピクミンたちは去っていった。局員たちは、ただ理央の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
ー機動六課 隊舎ー
初日に行われた新人たちの訓練も夜になって終わり、なのはとフェイトは隊舎のシェアルームで眠りにつくところだった。
「新人たち、手ごたえはどう?」
「うん、みんな元気でいい感じ」
フェイトは六課の制服を脱ぎながら、なのはに新人たちへの教導の調子を聞いた。フェイトの質問に答えるなのはは、すでにパジャマに着替えていた。
「そう……。立派に育っていってくれるといいんだけどね」
制服の上着をハンガーにかけながら、フェイトはそう言った。
そんなフェイトになのはは、自分の教え子たちを心から思いやっている様子で答えた。
「育てるよ、あの子たちがちゃんと、自分の道を戦っていけるように、ね」
スバル、ティアナ、エリオ、キャロ……4人を立派なストライカーに育てるためのなのはの教導は、始まったばかりなのである。
ー地上本部ー
「……いや、確かに援護に向かえとは言ったが……それでも合体魔法の使い過ぎで建物半壊はやりすぎだ!!」
「てへっ♪」ウォーウォー
お☆し☆ま☆い
これにて今回のお話の本編はおしまいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
前回の話はピクミンが全然出てきませんでしたが、その分今回はしっかりと活躍させることができました。
合体魔法の威力は、最初はピクミンの数に二分の三を(ピクミンの数-1)の数だけかけた値という設定だったのですが、「チートすぎね?」と自分で思うところがあり、ピクミンの数を二乗した値になりました。それでもチートかもしれませんが。
ほかの転生者、ようやく出すことができました。そして出番は(ほぼ)終了です(ええっ!?)。出したには出したんですが、正直いてもいなくてもストーリーに関係ありません。強いて言うなら、ちょっとした後始末のために出しました。かわいそうだが、他転生者よ……お前(の出番)はここで死ぬのだ……。
その分、ほかのオリキャラ(非転生者)が活躍する予定ですので、期待なさるならそちらの方にご期待ください。
六課の新人訓練、まさかの丸ごとカット。まあ、彼女達なら原作通りやってくれてるでしょう(無責任)。彼らをこれからどうしようか、本当に迷ってます。
最後に恒例のおまけをいくつか書いておきました。よかったらご覧ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
おまけ① 新人の訓練のはずなのに……(If)
「私たちの仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために私たちが戦うことになる相手は……これ!」
「「「「!」」」」バッ
シーン……
「「「「…………?」」」」
「あ、あれ……?」
「た、大変です! なのはさんー!!」
「ど、どうしたのシャーリー!?」
「ガジェットが全部、いつの間にかピクミンに破壊されてます~!!」
「……ごめん、ちょっと予定変更。みんなはピクミンを全部戦闘不能にしておいて」
「「「「え?」」」」
「わかった……?」
「「「「は、はい!!」」」」
この後、エースオブエースと英雄の間で戦争が勃発したとかしてないとか……。
おまけ② え? いまさら?
『ピクミン4発売決定!』(2015年9月時点)
osero11「え? そなの?」(2016年3月時点)
いや、まったく知りませんでした、ホントに。
お☆し☆ま☆い