貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D小話⑦『ひろびろぜいたくver.2』

「じゃじゃーん!【ひろびろバスタイムくん!】ポチッとな!」

 

ぎゅ――――――――――――――――――――んっ!!

 

と急激に広がる西蓮寺家、浴室。

 

「おー!こりゃまた凄いね、でも毎回だと段々この光景にも慣れてきちゃうから不思議よね」

 

今回も無事(?)混浴に持ち込めた里紗はタオルを巻いて準備万端だ。

脇に桶と共にお気に入りシャンプーまで抱えて、正に"入湯スタイル"である。ミディアムウェーブがさらりと湯気に弾んだ。

 

「相変わらず非常識なメカ…もってきた入浴剤、今度は足りるわよね。箱で持ってきたもの」

 

と相変わらず唯は思案顔。前回での失敗を糧に今回は万全の体勢で臨んでいる。

 

浴槽の傍でかがみ込み、真剣な表情でお湯を見つめる唯。バスタオル一枚では到底封印できないハレンチボディは、背中からお尻まで丸見えとなっている。屈んだ事によって解けたのだが、気づく唯ではない。

 

「だぁから、入浴剤なんてララちぃに頼めばいいじゃんか」

「…そういうわけにはいかないでしょ。なんでもかんでもララさんに頼んでたら………悪いじゃない」

 

最後の方は小声で呟き、唯は頬を赤くした。

 

「前ん時だって唯っちそう言ってたけど、入浴剤全然足りなくて涙目になってぐすぐす言ってたじゃん」

「い、言ってないわよ!捏造しないでっ!」

「それで結局ララちぃに頼んで、バラ風呂にしてもらったでしょ?機嫌直って、唯っちニヤニヤだったじゃん」

「うっ…!」

「だぁから、今回は余計な手間かけないで最初からララちぃに頼めばいいっしょ。今日は最初からバラ風呂はあるみたいだし………何に入りたいのよ?」

「……………………………………………ジャスミン」

「ふぅん、唯っちって意外に女の子っぽいじゃん、にしし」

「わ、笑わないでよ!里紗がそんな風にニヤニヤするから、だからこっそり入れようとしてたんじゃない!」

 

仲良く追いかけっこする唯と里紗から離れ、こちらは全くのいつも通りだった。

 

「…美柑、身体を洗いますね」

「うん、私もヤミさん洗うね。あ、今回はジャグジーまであるみたい。あとで入ろっか、ヤミさん」

 

非常識に動じないヤミと美柑。二人は全くのマイペースで互いの身体を洗っている。タオルで器用に身体を隠し、洗いあう芸当は小柄な二人ならではだった

 

「はぁ…疲れたわ、毎日毎日くたびれるわね。手足が伸ばせるお風呂にでも入らないとやってられないわ」

 

と思春期男子には目に毒な色気全開の美人女医、御門涼子が溜息と共に呟くと

 

「わぁー!ホントにひろーいお風呂!地球って凄いのね!ふふっ、イヴとお風呂なんて久しぶりだわ!」

 

と同じく豊満な身体を揺らす美人科学者、ティアーユ・ルナティークがぽやぽやと暢気な笑顔で歓声を上げた。

 

「ハイハイ、いいからさっさとお風呂入るわよ。背中、お願いねティアーユ」

「はいはーい!洗ってあげるね、お疲れ様。ミカド」

「…ん。なかなか手際が良いわ、ティアーユもドジっ子不器用っ子なのに少しは成長したじゃない」

「わぁ、ありがと!あの辛口のミカドに褒められるなんて嬉しいわ。ミカドだってしばらく会わないうちに随分綺麗に…――あれ?シワかしら」

「…!まぁね、私も特定の男が居ないわけじゃないのよ。声をかけてくる男なんて銀河中に山程い」

「ミカドは確かに綺麗だし、おっぱいも大きいけれど。発言がなにやら"おばさん"っぽいわよね、その発言も行き遅れの負け惜しみっぽいし…う~ん、もう少し言葉に気を遣ったらいいんじゃないかしら?」

「…この女ッ!それは私の言うべき言葉でしょ!」

 

楽しそうに騒ぐ里紗たちを別天地にして、ティアーユ先生を叱り飛ばす御門涼子なのだった。

 

 

そして、そんな平和な(?)様子を眺めながら

 

「わあ、やっぱり広い…今日こそは泳げるかな?ね、秋人お兄ちゃん」

 

と優しく微笑み、ガッシリ握った手を離さない春菜の傍に

 

「…。」

 

能面のような無表情の秋人が居た。

艶めかしい裸の美女たちに囲まれているというのに、瞳には何も映していないようだ。

 

後に彼は『檻の外でライオンをカッコイイと眺めるのと、檻の中で見るのでは全然違う。全然違うんだよ…』と猿山に語るのだが、それは完全に余談である。

 

「アキト…心配しないで下さい。大丈夫です。今度はちゃんと医者も用意しました。ついでに科学者も」

 

ヤミも流石に振り返って春菜と秋人を眺め見る。先程からふたりの様子が気になっていたのは内緒だ

 

「さあ!行こう!秋人お兄ちゃん!」

 

決意に燃える春菜。しっかり握った秋人の手を、持ち前の力強さで引っ張ってゆく。春菜は怖い思いをした時、大切な者がピンチの時、信じられないほどの力を発揮するのだ。

 

「…。」

 

秋人は秋人で虚ろなままだ。どこか遠くを眺めている。

 

「アキト…安心して下さい。何があっても私が必ず助けます。あらゆる困難な出来事から、貴方だけを守ります。」

 

頬を朱色に染め上げ透き通った声でヤミが言う。

 

秋人は「いや、今がその時だろ」と思ったが口には出さなかった。

きっと言葉にしてしまえばこの奇妙なバランスで成り立っている自身の泳ぎ指南役、すなわち"誰が秋人に泳ぎを教えるか"という争奪戦が始まってしまうからだ

 

「さあ!お兄ちゃん!今日こそ泳げるように頑張ろうね!」

 

無駄に頼りがいのありそうな春菜の笑顔が眩しい

 

「…里紗センパイ」

「あはは!このこの~ハレンチおっぱいどもめー!…ん?呼んだ?オニーサン」

「自分、今度こそ焼きそばパン買ってきます」

「お、アリガト。相変わらず気の利くコーハイくんだねェ、あとでうんと可愛がってあげよーう♡」

 

行ってきます。と秋人は踵を返し浴室を出て行こうとする。

 

「…待ちなさいアキト」

「待ってね、秋人お兄ちゃん」

 

変身(トランス)させた腕で秋人の身をがっしりと掴むヤミ。掴んだ手をけっして離さない春菜

 

「大丈夫!諦めないで!お兄ちゃんはやれば出来る子!」

 

と無駄に母性をちらつかせる春菜が

 

「…心配しないでください。今度こそ溺れて死にかけても救命処置はバッチリです。医者もついでの科学者もいますから」

 

と励ましなのか分からない事をヤミが言う

 

「いや、焼きそばパンを……ひっぱるな!バカ!コラ!春菜っ!唯!ララ!お前たち!里紗…裏切りモノ!美柑…!御門涼子!お前までなぜっ!ちょっ、ティアーユせ…んぶっ!」

 

 

と目を輝かせるヒロインたちに柔らかいあれやらなにやらを密着させられ、お湯につけこまれる秋人が更に泳げなくなったのは余談である

 




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2017/07/30 一部改訂

2017/12/09 一部改訂

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