貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D小話②『私、オニーサン』

ある日、教室にて

 

「ふっふーん、おっはよーッス春菜」

「あ、おはよう、お兄ちゃん。こんなところでどうかしたの?」

「ん?べっつにィ~?ちょっと通りかかっただけ」

「?そう」

 

次の授業の準備をしていた春菜に秋人が声をかけた。兄の秋人が妹のクラスに来ることは少ない為かなり視線を集めている。春菜も突然の再会で嬉しさと驚きがない混ぜになった表情だ。

 

教室では秋人を知らない女子たちは顔をじっと見つめたり、知っている友人と目を合わせて肯きあったりしていた。春菜はその様子を目ざとく察知し、一転して不機嫌そうな顔になる。そんな春菜の気持ちを知ってか知らずか秋人は

 

「里紗は?どこに居る?」

「え?里紗…?今はえーっと…どこかな?」

 

意外な友人を尋ねてきた。春菜は思わず目を丸くして兄を見る

 

「そうか…アイツ、どこで何してんだ。アイツが居ないと出来ないだろ」

 

普段の言動からでは想像できないクールな口調で秋人がきょろきょろ見渡している

 

「お兄ちゃんは里紗と仲が…「あ!居た!」え?」

「ん?何か用か?時間まではまだあるだろ」

 

春菜が教室の入り口を見ると里紗が一人入ってきた。仲良しの未央が隣で手を振っている、おそらく彼女が里紗を教室に連れてきたのだろう

 

「じゃあ…里紗、ちょっといいかよ」

「ん、なんだ………?」

 

ドン!

 

秋人は入り口のドアに手を着き、壁と身体の間に里紗を閉じ込めた。いわゆる壁ドンである。教室の女子たちから「キャー!」という黄色い歓声が上がっていた

 

「…なんだよ」

「お前………――――貰うぜ」

 

キャ~ッ!

 

聞き耳を立てる春菜および女子一同。微かに聞こえた秋人の強い口調に女子たちはますます色めき、先程より大きな歓声が上がった。実際は「お前から私の身体見させて貰うぜ」と言ったことなど知らない春菜は、友人である里沙に険しい視線を投げつけている。

 

(里沙………羨ましい……最近部活サボりがちだから特訓させよ)

 

テニス部のエースからスペシャルデンジャラスな特訓を課せられる里沙は帰れそうになかった

 

カシャ!カシャ!カシャ!

 

「んー!バッチリだねぇ!もう一枚いっとく?」

 

里沙&秋人の隣に居た未央がケータイで写真を撮っている。兄と里沙の絡み方が衝撃的過ぎて誰もが未央の存在を忘れていた。秋人は未央に向けてニヤリと笑い頷いてみせる。それを受けて更に未央は写真を撮り始めた。あらゆる角度から『秋人から壁ドンされる里沙』を撮りまくる

 

「…オイ、一体いつまでやってるんだっての………」

「まだいいジャンか、ケチケチすんなよ」

 

にししし、秋人は里沙に人懐っこそうな笑顔を向ける。キャラクターに合わない笑顔に何をみたのか、里沙は深々と溜息をついた。"普通の女子体験"の報酬は写真を撮られる事だったのだ

 

(あれ?あの笑い方って、お兄ちゃんがにしししって…――――もしかして)

 

経験者(・・・)である春菜がいち早く正解に辿り着き、口を開こうとしたその時、

 

「ハレンチなッ!貴方達!いい加減離れなさい!先輩も!自分のクラスに戻って下さい!」

 

「ハレンチです!」真っ赤な顔で雄叫びを上げたのは風紀委員の唯であった。さっきまで女子たちと一緒になって羨ましげに見ていたのは内緒である

 

「いいからさっさと先輩も――――っ!!?!!!??」

「…うるさいヤツだ、友達なくすぞ?」

 

指で唯の顎を持ち上げ面を上げさせる、クールな秋人の視線を受けて唯は赤くなったまま思考と時間が停止した。突然の展開に教室からは最早歓声すら上がらない、クラス全員が食い入るように見守っていた

 

「んじゃ、こっちも撮るねぇ!」

 

カシャ!カシャ!カシャ!

 

未央が再び連写し始める。彼女には静まり返る教室とは違う時間が流れているらしい。先程と同じようにあらゆる角度から写真を撮りまくっている、彼女なりのこだわりの角度では一際多く連写されていた。

 

そうして時間が完全停止した唯の意識が因果地平の彼方から戻ってきた頃、

 

「あ、ちょっと待ってなに…?『いい加減あたしのお兄ちゃんの中から出て行って、オロすわよ、雪崩式リバースフランケンシュタイナーをお見舞いするわよ』って内なる唯っちが怒っちゃってる」

「おお、それは脳天から落ちる危険すぎるプロレス技だな…ってか内なる唯たんはプロレスまで詳しいのか、意外性ナンバーワンヒロインだな」

「ちょっ…ちょっと!悪かった悪かったってば!もうすぐ出ていくから怒んないでよ、もう」

「ん?どうした」

「内なる唯っちが暴れまくっちゃってさー、もうタイヘン。オニーサン愛されてるねぇ!にししし」

「うむうむ、萌える展開だな。じゃララに戻してもらうか……ってか今回は俺なんもイタズラ出来なかったな」

 

秋人と里紗は仲良く教室を出て行った。食い入るように見守っていたクラスメイトたちも教室を移動し始める、次の授業は体育で着替えなければならないのだ。

 

「ハレンチなッ!貴方達!いい加減離れなさい!先輩も!自分のクラスに戻って下さい!」

「古手川さん、セリフが巻き戻ってるよ」

 

こうなってくると、誰も居ない教室で叫ぶ唯の面倒をみるのはクラス委員の春菜の仕事である。

 

「え?アレ…?夢だったの?」

「ううん、違うよ現実だよ」

「そ、そうよね…じゃあ里紗と先輩が、あと私も…アレ?やっぱり夢?」

「ううん、現実だよ」

「あれ…でも、だって…アレ?やっぱり夢でしょ?私、先輩とハレンチなことしてないわよね!?」

「は、ハレンチが何かよくわからないけど…してなかったと思うよ」

「こっ子どもとか作ってなかったわよね!?西連寺さん!!」

「そ、それはさすがに…」

 

古手川さんって時間が止まってる間にお兄ちゃんと何してたんだろう、と春菜は思ったが、想像してゆくと八つ当たりされる里紗の特訓がスペシャルでデンジャラスでナイトメアなものに変わってしまうのでやめにした。

 

 

そして、疲れた表情の春菜と唯が体育の授業終わり間際にやって来た事と、里紗から「はいコレ、唯っちのぶん!感謝はおカネでいいわよーにししし!」と写真を受けとった唯の時間が再び静止した事、自身と秋人の壁ドン写真を満足気に眺める里紗をみた春菜が特訓をスペシャルデンジャラスナイトメアオーバーキルに変えて、お仕置きしたのは余談である。

 

 




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2017/03/11 一部改訂

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