貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D閑話『里紗といっしょ』

1

 

果てしなく続く青空の下、住み慣れた街を歩く。

 

里紗とふたりで並んで歩く。

 

腕には先程から柔らかい感触が押し付けられ、いやらしい形につぶれて…白い谷間が覗いていた

 

「あ、いま見ました?見ましたよねー?オニイサン♪」

「当たり前だろ、ガン見するぞ」

「視姦ッスか?やらしいんだぁ~♡…でも見るだけですからねー?揉んだらダメですよ?」

「押し付けてるけど?」

「それはノーカンで♪」

 

里紗は今にも歌いだしそうなくらい上機嫌な笑顔を恋人に差し向けると、その腕に自身の腕を更にしっかり絡ませた。自身の身体のラインをはっきりさせる服装、襟首がVのラインに切り取られたサマーセーター。麻の肌触りの良い感触、その下に覆われる…というより押し付けられる悩ましい柔らかい感触、若干疲れを帯びてきた秋人に活力を呼び戻すかのようだった。

 

「~♪」

「…。」

 

鼻歌を歌う里紗の笑顔、全身から瑞々しく弾ける色香を放っている。"匂いたつ"とか、"ぼんやりと"とか、そんな曖昧さではなくハッキリと主張した色気。等身大の女子高生の色気だった。

それは人混みの中でもハッキリと認識され、先程からちらちらと男が里紗を見る――――足を止め見惚れる奴までいる始末だった。そうして隣にいる男、俺を見たあと大抵「チッ」と舌打ちをすると敵意を篭った視線を投げてくる。感じる男としての優越感…………しかしそれを上回っている疲労感…

 

買いもしない服を選り好む里紗、買いもしない靴を試着する里紗、買いもしないはずのブティックのショーウィンドウを真剣な顔して覗き込み、「あ、よっしゃコレ買おう」とつぶやいたと思ったのに結局買わなかった里紗。「これ着てる私を想像して下さいねーオニイサン♪」とランジェリーショップに連れ込む里紗―――――あ、最後のは楽しかったな

 

「…で、お次はどこですかね?オネエチャン」

「あらヤダ、オニイサンったらいつの間にやら年下に?あたし、弟いないんだけど?」

「作って下さい」

「じゃパパ&ママに頼まないとねー♪二人共最近忙しいから案外ソレきっかけに盛り上がっちゃうかも」

 

ぷくくくっと喉奥を鳴らして笑う魅惑の女子高生お姉さま。ややあって悪戯な猫を思わせるように目を細めたあと「あたしたちって他の人達にどう思われてるんですかねー?」と腕を絡める恋人に問うた

 

「まぁ"あのカップル爆発しろ"くらいには思われてるだろうな」

「まぁ、なんて悲しいことでしょう…あたしたちの激しい爆発の…愛の光に照らされて皆さん心が清らかになっちゃう…そうして地上に訪れる永久平和、弾けて消えた私たちは、天界にて裸で激しく愛し合う…とかどうでしょー?」

「なんだそりゃ…」

 

またもぷくくっと笑い、片手にもつカップコーヒー…ファストフード店から持ち帰ってきたソレを含み直す里紗。

なんとなくだが、里紗はいつもアイスティー派だった気がする。透き通った琥珀色の苦味の薄いアイスティー、透き通らない深い琥珀色の苦いコーヒー…なんだか里紗と俺の心の色に似ている…気のせいかもしれないが…つられて俺も一口飲んだ。

 

清らかとは全く別ものな、正反対の位置に居るような俺と里紗。

清らかって清純清楚な春菜みたいな――――

 

ちなみに朝、こんなことがあった。

 

「ちょっと今日は漫画買いに行ってくるな」

「?そうなの?今日は早起きだね、お兄ちゃん。私は部活だから…もう行くね」

「おう、気をつけてな」

「うん、ありがと。あ、朝ごはんはヤミちゃんと作ったのがテーブルにあるから」

「サンキュな、サンドイッチだろ?見たぞ」

「うん。スープはちゃんと火で温めてね、それじゃあ行ってきます…」

 

にこっと微笑んで魅せる春菜。手を振る秋人も思わず笑みを返す

 

薄い青のテニスウェアにエナメル質のスポーツバッグを抱え直し、玄関扉へ手をかける春菜、スラリと引き締まった腰、控えめにのぞく、朝日を弾く太ももの白。今日の春菜は清楚かつ健康的な装いだ

 

「あ、それとお兄ちゃん」

「ん?なんだよ?」

「せいぜいデート楽しんできてね、それじゃ」

 

バタン、と閉まる鉄のドア。一瞬見えた背中越しの冷たい笑顔…――――

 

「―こわっ!」

「なーにがッスかぁ?」

「いや、なんでもないッス」

 

いつの間にやら今度は化粧品店。

うずくまりじっと化粧品を見つめる里紗。ふーんと呟き、熱心な様子で口紅を眺めていた。

 

「ん…春菜が部活、ということは里紗も部活なんじゃ?」――――そういえば春菜はめったに口紅なんてしないな…と一人思案にふける秋人をチラと上目で見やった里紗は、目の前に並ぶ小さなルージュ…小枝のようなそれを睨むような真剣な眼差しで見つめていた。

 

 

2

 

 

先ほどまで腕に絡みついていた里紗、今はその腕から離れ、秋人の先を歩いていた。

 

「オニイサン、今日何度かあたしじゃなくて春菜のコト考えてたっしょ?」

「…」

 

背中を向ける里紗が後ろへと声をかける、歩みは止り、二人共立ち止まっていた。開いたキョリは半歩ほど。秋人はなぜだか近づけないでいた。

 

「悪かった…」

「それだけ?」

 

笑顔で包んで隠すわけでも、睨んで脅すわけでもない、ストレートな不機嫌さ。

 

「ごめん」

「それだけ?」

 

単純でまっすぐにぶつけられるそれをどうしていいのか分からず、秋人は戸惑い、ただ見守るしかできなかったのだ。

 

「…どーすりゃいいんだよ」

 

心底困ったような声、少しだけ里紗の気分が晴れる。

 

「恋人なら不機嫌な彼女にしてあげられるトクベツなコトあるんじゃない?」

 

くるりと向き直り、恋人のオニイサンを見上げる。今朝、鏡の前で時間をかけてセットしたウェーブがかかった茶髪が跳ねる、乱れた髪に手櫛、頬にかかる髪を耳にかけ直す…出掛けの玄関、扉にある小さな鏡で何度も自身の様をチェックした。だからちゃんと想い出は綺麗な状態で残したい

 

「…。」

 

黙って肩を掴み、真正面に立つオニイサン。あたしは目を閉じてやらなかった。

 

「…。」

 

代わりにオニイサンが目を閉じ、少しだけ屈んで顔を近づけ…触れるだけのキスをくれた

 

「ま、今日はこれで勘弁してやるか、でもキスくらいは恋人同士ならフツーだよねー」

 

ふ、と口元だけで余裕の笑顔をつくる。まだ、顔全体で笑ってやらない

 

「ふーん、キスくらいフツーか」

「だーめ、そっから先はまだサせてあげない。」

 

含みのある言い方をするオニイサン。ニシシと悪戯っぽく誂うような笑みを顔全体に浮かべる私。今日から定位置と化した腕を手に取り絡めとる…こうでもしないと高鳴る鼓動がバレてしまいそうで怖いから…でもよく考えたら、これって伝える為に押し付けてるかもしれない

 

「そういえばムッツリな春菜とはどんなキスでした?舌入れました?オニイサン」

「お前…さっき春菜のことで怒ってなかったか?」

「いーからいーから」

「ったく、気まぐれだな…そうだなー…、春菜らしい…優しいキスだったかね?」

「ふーん…、やっぱりあたしを怒らせたいワケですねー…ねえちょっといいですか?オニイサン」

 

余裕のない自分、私らしくないと思う…けど――――

 

腕を伸ばしうしろ髪を掴んで額と額をぶつけ、唇を奪う。下唇を甘噛み、空いた隙間に舌を滑りこませる――――初めての深いキスは昼間飲んだコーヒーの味がした。

 

「ちょっと苦い?」

「…なんだそりゃ、文句かよ」

 

ぺろりと唇を舐めとるあたしに、ふんと不満気に鼻を鳴らすオニイサン。流石にこれくらいじゃ動揺してくれないらしい。いつかこの(にく)い男を心底動揺させてみたい。慌てふためき、わたわたとする姿…そんな愛らしい姿を見られたらどんなに愉しいか――――と思う

 

んじゃね、オニイサン。今日はこの辺でいいよ、お見送りありがとね♪と腕からすり抜け笑顔を向ける里紗――――黄昏時の薄ぼんやりとしたオレンジの太陽に茶色の髪が同化し、眩しく透けた輪郭を描く、

 

そんな悪戯好きで、魅惑的な女子高生お姉さまの自然な姿に一瞬見惚れてしまう秋人

 

その呆けた姿を見もせず自宅のドアを開け、姿を隠す里紗

 

――――だから秋人は見れなかった。

 

文句じゃ、ないのにねと俯いて呟き、唇に手の甲を押し当てる里紗のその表情(かお)を、控えめに恥じらうその微笑を――――

 

今日はまだ、鏡以外の誰も。




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2016/01/26 情景描写・台詞改訂

2016/02/06 一部描写改訂

2017/07/05 誤字修正

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