貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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Re.Beyond Darkness 14.『ふたりの出逢い~Mother's~』

6

 

――――――何処に居るの?

 

その答えを求め見知らぬ惑星(ほし)を渡り歩き

 

――――――貴方は何処に居るの?

 

今度もまた同じ……ずっと貴方を探している

 

――――――無事で居て…どうか…お願い…

 

銀河を彷徨い、身を潜めて暮らし

 

――――――今も、アノ頃のように無邪気な……貴方で…

 

"サイナンチョウ"…其処に答えが、…貴方が居ると電子メッセージを受け取って、

 

――――――ほしいものは見つかった?…あなたの夢の…それに今はどうやって暮らして居るの?

 

だから今、こうして走っている、知らない街を…私を慕ってくれていた貴方に逢いたくて

 

――――――何処に……何処に居るの?

 

繰り返しの疑問、先ほどから振り続ける、雨…私の体の熱を奪い、冷たくひやす、あの子がぬくもりを求め、この胸にだきついて眠るのを思い返す

 

――――――イヴ……私のかわいい()

 

7

 

「ココにも居ない…ったく、どこいんだよあのちびっこめ」

 

縁日の始まる30分前になってもヤミはウチへ帰ってこなかった。この夏、初の浴衣を着て共に祭りへと、はりきって待っていた春菜は当然心配して"お姉ちゃん困っちゃう!"状態だった。ったく、困ってるのはお兄ちゃんだっての。土砂降りの雨のなか、こうやって探しまわっているのだ。まさか春菜に探させるわけにはいかないだろ……まぁ言っても聞かないやつだし、今頃は唯達と合流してみんなで手分けしてるのかもな

 

「図書館にも居なかったし…」

 

『ゴシックで、ロリロリな感じの女の子居ませんでしたか?立ち読み大好きな、はた迷惑な客の、狭い通路の邪魔になるオブジェと化した、あの』

『ああ、いつもくるあの…カワイイ金髪幼女か、萌えー!だよねぇひひ、いやぁ今日はみらんかったねぇ…それはそうと君もあのコのファンかい?写真買うかい?一枚1500円だよ?ちょっとムネチラしたやつ……安いだろう?あと1枚だよ、我々職員連中みんな彼女の…"官能天使やみーちゃん"のファンでねぇ……ああ、ナデナデしたい…膨らみかけをもみんちょしたい…でもなかなか隙がなくてねぇ…せめて写真でもと、そりゃあもうそこら中に監視カメラを導入して…うんたらかんたら』

 

―――ヤミ、もう図書館へは行くな、絶対行くな。なんなら壊していいぞ、むしろ壊せ。汚物は圧砕(あっさい)処分だ、本なら俺がバイトして買ってやるから

 

 

降りしきる雨、片手にもう一本…ヤミの分のピンク傘。こういう女の子っぽいものを春菜はヤミに次から次へと買い揃えた、少女が実はこういう歳相応のものが好きだと見抜いていたからだ。「…このような少女ちっくなもの…私には似合いま()ん」「噛んだな、プッ」「噛んだねお兄ちゃん、ふふっ」「…ソコっ!ニタニタ笑うんじゃありません!似たもの兄妹!」…と、嬉しさに動揺を隠せなかったヤミ……スゲーな春菜、お姉ちゃんってのは何でも見抜けるんだな、それとも女同士だからなのか?美柑もヤミについてはよく知ってるし

 

「ふぅ…ここも、ハズレか」

 

しとしとと降り止まぬ雨。強くなったり弱くなったり、それでも止む様子はない。

6件目の古本屋もハズレ、他にヤミが行きそうな場所……は、やっぱ公園の、たい焼き屋台だろう

傘をくるくる回し、からんころんと下駄を鳴らし、足をその場所へと差し向ける。「縁日といえば浴衣、家族みんなで浴衣を着ようね、」とにこにこ春菜が俺の分まで用意していたのだ。いつの間に……黒に小さな銀星、夜空の浴衣。紺に小花柄のヤミ、紺紫の紫陽花柄の春菜。イメージ通りだが、なんか俺だけ悪者っぽくないか?大丈夫なのか?金色の闇コス(和風)なのか?…まぁイイケドよ。どうせお兄ちゃんは悪者キャラですし

 

ゆっくりと足を進める。

どうせもう縁日は始まってしまっている、それに雨だ。春菜がせっかく俺の為に用意した浴衣が濡れてしまうだろ、春菜はもう祭り会場に…神社に居るだろうか…唯たちと待ち合わせしてたからな、ギリギリまでウチで待ってるね、と言っていたが流石にもう間に合わない

 

「ん?」

 

こんな土砂降りの中、傘も持っていなかったのか、営業をやめたパン屋の前、(ひさし)の下で濡れた服を丁寧に拭う一人の女性が目に映った。その女性の発する存在感の大きさに、周りを歩く…通行人の動きが止まっているように見えてた。その女性は、この世のものとも思えない幻想的な美しさで―――どこかその人を知っているような、その容姿に似た人が身近にいるような、そんな気がした。

 

8

 

取り敢えず一時避難。

 

この惑星(ほし)の事をよく知らない。

 

彷徨い探しまわる内に濡れて体温、体力共に奪われてしまった。目当ての人物はまだ見つかっていない。―――此方から見つけ出さなくてはいけないのに

 

深くついた溜息は、不快な湿気の中、雨粒の中に溶けて消えていく。

 

ふと、視線に気づく、

 

*****

 

「…困りました」

 

掌を空へかざしてみる、やはりというか当然濡れてしまう。

自分が濡れるのは構わないが服はそうはいかない。この布地は雨に弱いから傷んでしまう

 

変身(トランス)で飛びながら帰ろうか…そう考えたが、なんだか今は気が乗らない。たぶん着ている浴衣のせいだろう。

 

『こっそりどこかで先に着ちゃってお兄ちゃんを驚かせたら?ヤミちゃん』

 

まったく、何をにこにこと……春菜お姉ちゃん……着付けは難しかったですよ…それにアキトを驚かせて、それで私にどうしろというのですか……それに私は―――アキトをどうしたいのでしょうか

 

ふいに唇に指を当てる……思い出して頬が熱くなる―――もう夏ですし、そのせいでしょう

 

甘く痺れるあの快感、感覚―――身体は電気信号で動く、という事でしょう

 

―――では暖かな、心に染み込む優しい光…あの感覚は……心の感覚はどこで感じるのでしょうか―――

 

分厚い雲を見上げながら胸に手を抱く、視線を落とし溜息を一つつく私に声をかける……また瞳に映る景色に飛び込んでくる人がいた。

 

 

9

 

 

「うぇええん!イヴちゃぁぁあああんっ!!やっどあえたぁああっ!!」

「ちょっ、ティア、離れてくださ…ってきたなっ…鼻水拭いてくださ…わぷっ!」

 

たっぷん!と揺れるムネにむぎゅううううう!と抱きしめられる。息が…いきがくるしい…今まで連絡一つ寄越さなかった私に対するあてつけですか、その巨大なムネは…ぅ…意識…が…

 

「イヴが無事でホントによかったよぉ~」

 

ひとしきり私をその巨大な胸に包み込むように抱きしめ、息の根を止めようとしていた圧迫殺し屋…もとい満面の笑顔であるティアを見つめる。もちろん睨むように。

 

(まったく…春菜お姉ちゃんといい、最近は抱きしめられてばかりですね…私は抱きしめるほうが好きなのですが…その、腕…とか…)

 

正面からの圧迫抱きつきに警戒していると、今度は後ろから抱きしめられた。…いつの間に回りこんだのですか、ティア…後頭部に押し付けられる包むように柔らかい、むにゅむにゅ。…最近体つきに不満を抱える私に対する当て付けですか

 

「えへへ~イヴちゃん…似合ってるね~その服~ゆたか~」

 

(…浴衣です。どこの男ですか。)

 

ぽやぽやふわふわとした雰囲気。柔らかすぎるその巨大なムネのよう。…とげとげいらいらとした今の私に対する当て付けですか

 

「…どうしてこの惑星(ほし)に?」

「ミカドに連絡貰ったんだよ?イヴが倒れたって」

 

ちっ…おせっかいな…メアに襲われて力尽きたあの時の報酬…きちんと払ったはずです。ドクター・ミカドそういえば貴方もムネ、巨大でしたね…この仕打ちは私に対する当て付けですか

 

「たい焼きはお金じゃないって、ミカドが言ってたよ?ふふっ私と同じで抜けたところがあるんだよね、イヴは」

見上げれば口元を隠し、柔和な笑み…柔らかく包むような笑顔の雰囲気は、そのむにょむにょのムネのよう…私に対する(以下同文)

 

「さ、おウチに案内してもらえる?私もご挨拶しなきゃ」

「…仕方ありませんね、しかし今夜は縁日ですし…私もつい本に夢中になって時間を忘れてしまいましたし…なのでもうウチに居ないかもしれません…ですので直接縁日へ向かいましょう」

 

さっと身を翻しティアに背を向け一人さっさと先をゆくヤミ。久しぶりに逢えた大好きな"家族"、に嬉しさを素直に表せないようだった、それとちょっぴり"当て付け"に不機嫌になっているのかもしれない。

 

「うふふ」

その背を見ながらティアは優しい眼差しを向ける。確信をもった眼で尋ねる。

 

「…何ですか?」

「イヴの大事なひとって、どんなひとなの?見つかったんでしょ?"いちばんほしいひと"―――

 

 

10

 

 

歩くたびに、(きらめ)く光の粉が辺りに振りまかれるような、その女性の絶世の美貌。

鉛空さえ彼女に気を使ったのか、雨も今は止んでいる。それでも共に一つの傘の下、触れ合う程に肩を寄せ、並んで歩く。

 

ヤミを探して公園へと向かう道を…ゆっくりと歩調を合わせ歩く。何か話そうと思うが、言葉が出てこなかった。その極限まで洗練された物腰の前に、つい沈黙を余儀なくされてしまう。

 

「助かりましたわ、西連寺アキトさん…私の名はセフィ、セフィ・ミカエラ・デビルークです」

 

その白い喉から発せられた玲瓏(れいろう)な美声は、まるで天上の調べのようだった。

耳に染み入るような心地よいその声に聞き惚れていた秋人は、名を聞いて愕然としてしまう。動揺してしまっていた。此処で会う事も、彼女の事も識らなかったから

 

(デビルーク…ララの母親、だよな…姉?妹って事はないだろう)

 

傍らの豪華なドレスに身を包むセフィに視線を一度投げかける。さっきから妙にそわそわとして落ち着かない。夏の雨の中、湿気の中に微かに香る花の匂い…原因はこれだろうか

 

「少し、宜しいでしょうかアキトさん」

 

自身を見ながら物思いに耽る秋人に、立ち止まったセフィが声をかける、俺の疑問の答えてくれるんだろうか、と見つめる秋人、見つめ合う二人。

 

セフィは新たな自分の主となる"西連寺アキト"という人物が、どのような男なのか把握すべく、心のセンサーを全開にして、ヴェールを上げた。じっと秋人の瞳を見つめる。むわっと…甘い甘い花の香りがあたりに一面広がり、花畑の中一人佇んでいるような錯覚を覚え、秋人はごくりと息を呑んだ。

 

容姿に関して観察する余裕は、セフィには無かった。ただ、この国の正装は"ワフク"という衣装であり、秋人の格好はそれに準じたものであることだけは把握していた。

 

―――私に出会うことさえ予測できていたのかしら…正装とは礼儀正しい方、最初に予定していた三人の娘達がお世話になっている結城家へと向かう、それさえ識っていたのだろうか、変更したことさえも……そんな的外れな疑問がセフィの脳裏をかすめる

 

しかし今のセフィの最大の関心事は、アキトという人物が、心を込めて仕えるべき主君(・・)であるのかどうか、只その一点のみであった。

 

その美しい面を上げ、傘の中、至近距離で見詰め合うことになる秋人、セフィの美貌に圧倒されていた。出会った瞬間から、甘酸っぱい胸の高鳴りを抑えきれず、頬を赤らめてしまう。

秋人は、吸い寄せられるように、真摯に自分を見つめてくるセフィの高貴な金色の瞳から、目を離せない。触れる、探るようにセフィの優美な手が頬にそえられた

 

「―――シてもいいんですよ、此処には誰も近づけませんから…あなたの妹…西連寺春菜さんも知らないわ、くだらない理屈や道理など捨ててしまいなさい」

 

呟く、艶やかな唇。また始まった土砂降りの雨夜。

見つめ合う浴衣の青年とドレスの美女。狭い傘の中、二人だけ世界が其処にはあった。

どっくん…どっくん…どっくん…と早鐘を打つ鼓動。

身体が熱く滾り、目の前の女が欲しいと、ものにしたいと手が伸び……

 

―――おにいちゃんのばか

 

見つめる合わせるセフィの…輝きを放つ黄金の額飾り、流れるピンクの艶髪…その後ろに頬を膨らませる不機嫌そうな妹の影、

 

―――春菜

 

靄がかった思考がカッ!と弾けたように、秋人は

 

「お ま え は お れ の い も う と じ ゃ な い」

 

(うな)った。

は、と溢す唇。―――霧散するお伽話のように、どこか幻想的であったふたりの雰囲気。

鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんと目を丸くするセフィ、突然の出来事、思いもよらない一言に聡明な頭脳も判断が追いつかないのだった。

 

「アンタは俺の妹じゃないなっ!」(アンタは私の妹じゃないわねっ!)

ビシッ!とセフィの豊満な胸を突き宣言する。内なる唯と完璧にシンクロした台詞、仕草

 

「は…あなたは何を言って?私を襲わない…ということは魅了(チャーム)の力が効いていない?」

「アンタは俺の妹じゃあなぁいッ!それに人妻キャラだ!俺ヤダ!くらーい寝取られモノなんかヤダ!ハートフルな、イチャイチャモノがいい!お兄ちゃんほっこりモノがいい!」

ぽいっと傘を放り投げ、ララのように、無邪気に気持ちを口にする

 

「…"アドレナの花"も効いていない?」

「ヤダヤダ!こっそりくんくんシャツの匂い嗅いでぽっと頬を赤らめる春菜はかわいーんだよ!!」

―両手を広げ目をぎゅっ!と瞑り叫ぶ、シンクロするナナ……次から次へと妹たちの力を借りる。

 

「ちょ、ちょっと…」

「説明してやるよ!セッションワン!こっそり俺の枕を抱いて昼寝するヤミも幸せ顔でカワイイ!!ツンツン文句ばかりの唯も猫ちゃん好きでふんにゃり笑顔が愛らしくてカワイイ!!!上目遣いで見上げながらアイスをぺろぺろ舐める美柑もなんか色っぽくてカワイイ!!俺に近寄る女の子にスグ攻撃しようとする危なっかしいメアもカワイイ!!」

「ヘンな人たちしか居ないではないですか!それよりチャームが効かないなら私の話を…」

―ちっ、ホワイトボードがない。手書きは暖かな感じがするなモモ。お前のこだわりは悪く無いと最近お兄ちゃん思うようになったぞ

 

「ククク、無邪気にキス顔で練習しよっとねだるララもカワイイぞ!」

「あのララがそんな事を?!」

―まだまだ続けてやる

「体全身で感情表現するペタンコナナもカワイイ!なんか企んでるけど結局失敗してガックリ落ち込むモモもカワイイ!アホしすもパンツ履いてないけどそれなりにカワイイ!素敵♪それから…」

「…。」

―セフィの呆れた冷たい空気が冷たい湿気の中を伝わる、でもムシ、…しまった、もうシンクロできる妹が居ない……ならば、いいだろう―――聞け!

 

「くだらない理屈や道理なんか既に無限の彼方に蹴っ飛ばしてんだっての!飛び越える必要もないんだっての!!捨てられない道理だって理屈だってあるんだっての!!それにな!俺の妹はなぁ!、俺の妹達はみんなみーんなカワイイんだよ!!!!でもウチの、俺の!!お兄ちゃん大好きビーム全力全開なウチの西連寺春菜が一番カワ…「ああっもう!落ち着きなさい!」へぶっ!」

 

口の中に大きなステッキが打ち込まれる。何すんだ!大事なところだっただろ!と目で訴える

 

「まったく…魅了(チャーム)の力が効いていないかと思ったら…それ以上に理性を吹き飛ばして…いいですか?あなたに今から大切な話をしますよ、私が話し終わるまでそのままでお聞きなさい、このステッキは護身用のもの、迂闊に動くと気を失う程の電気を流しますからね」

「…ふぁい」

「…返事もしないで構いません」

コクコクと頷く

 

「アキト、あなた、私のカワイイ三人娘たちを困らせてくれているようね…責任、とってくれるというの?」

 

美貌を歪め、ギロリと睨むセフィ。コワイ……母親ってのはコワイもんなんだな…ヤミ

 

「―――まぁいいわ、三人とも困っているのは確かだけれど、それぞれ楽しんでいるようだし…若いんだものそれぐらいの苦労はすべきよね」

 

俺がどう応えるのか、尋ねておいて興味なかったのか、応える間も与えないセフィ

 

じっと顔を、瞳を…心の奥底を覗き込むように見つめるセフィが続ける

 

「あなたは此方側の人間ではないのでしょう?…むこうに大切な人は?ご両親は?友人方は…どうされてるの?寂しくはないの?」

 

「―――」

 

―――寂しくは、ない。

既に思い出せないし、考えても答えが知れない事に時間を費やしたって時間のムダだろう。

そんなムダ時間を費やすくらいなら春菜のかわいい小尻を撫でたりとか、手に馴染む柔らかく丁度いいマシュマロを揉んだりとか、なでなでされながら膝の上でごろごろしていた方が時間の有効活用だ。それに―――

 

『―――好き……大好き、ずっと一緒にいたい』

 

『…おかえりなさい…アキト、』

 

―――"家族"を置いていくわけにはいかない。

 

目の前のセフィが霞となって消え代わりに春菜とヤミの笑顔がある。

 

―――寂しくは、ない。

俺が決めたことだ。こっちの世界で生きていくと。自分の中にある知らない記憶の欠片さえも自分の中に落とし込み、唯の初恋のように掛け違ったボタンの想い出さえもいつか受け入れ、俺がただ一人の西連寺秋人になる、と…

 

…儚げだが強い決意の表情(かお)。その秋人の表情(かお)をセフィは目を細めじっと見つめる…

 

「―――よろしい。では今、この時より、あなたを私の息子にします」

 

と、秋人が口を開くより先に、セフィは満足そうな笑顔で言った。

 

はぁ!?あんた何いってんの!?―――また唯とシンクロしてしまうが口からは「もがぁ!?」とマヌケな声がでるだけだった。

 

スッと口からステッキが抜きとかれる

 

「そうね……美しい私、美しい母となった私を襲ったりしないかのテストだったのですけれど、合格にします。あなた、ただのヘンタイじゃないのね。効果をより高めるためにモモの理性を奪う花まで借りたのに…なんという妹好き、兄妹となる娘達は大丈夫かしら、人妻で美しい私の貞操は大丈夫かしら…ついうっかりもう一人子ども抱えたりしないかしら、最近ご無沙汰なのだから」

 

はぁ、と物憂げな溜息をつき頬に手を当てるセフィ。なよなかな仕草は流石は宇宙一の美貌の持ち主だ、平凡な公園でも一枚の絵画のよう……自分で自分を美しい美しいと言っちゃうところが鼻につくが

 

「あのな、いらな「あの無邪気なララとナナが兄と慕うのだから、あなたに何か感じたものがあったのでしょうね…モモは頑なに家族は嫌、と言っていましたけれど…ナナの結婚の件はさておき、さあ、家族の抱擁をしましょうか、胸に甘えてきてもいいのよ?ふふっあなたは私をなんて呼ぶのかしら?ママ?お母様?それとも母上?」って…人の話を聞けよ…」

 

両手を広げるセフィは「おいでおいで」と慈母の微笑みを浮かべている。

 

(…ナナ当たりなら甘えまくっているだろうな…っておおい!)

 

動かずただジッと応じず佇んでいた秋人をぎゅっと抱きしめるセフィ。ララ達の自由奔放な血は目の前の母親からしっかり受け継いでいるらしい、と半月外に放り出されているふにょんに顔を埋めながら秋人は思った。

 

(母親ってのはコワイもんなんだな、ヤミ…なんとなくセフィには逆らえないような気がする…)

 

「取り敢えず"セフィ母さん"と呼びなさいな、地球ではそれが普通なのでしょう?ああそれと、あなたは私の息子になるけど、大事なパートナーでもあるのよ?だって夫、仕事しないんですもの。後継者として頑張って働いてもらいますからね。最近、もう一度銀河大戦を起こそうと企んでる不埒な輩がいるようだから、まずはソレをどうにかしてもらいましょう」

 

と頭を撫でるセフィが次から次へと捲し立てる。

 

「ぷはっ…あのな、そんな大層なこと俺がどうにかできるわけが……」

 

(あれ?ネメシスのことか?)

 

ないだろ、と続けようとしたが、のーぱん至上主義の義妹、ネメシスが脳裏に浮かび口ごもる

 

「―――それに夫がちっちゃく縮んでから夜はご無沙汰だし。いろいろ小さいから満足できないのよね、モモを調教したんでしょう?日記を読んだので知っています。私のお気に入りは"秘密の書庫での逢瀬編"ね、埃っぽい狭い蔵書庫で清楚なピーチ姫が恋人となったオータムと舌を絡めるキスにイケナイと感じるのに悶えながら舌を差し出して燃えてしまうシーン…私も燃えました。」

 

うふふっと微笑を浮かべるセフィ。顔が半分埋まるふにょんでよく見えないが、口元の緩みは妄想に浸るモモと同じ感じがした。

 

(モモ……「リトさんに見られたくないから厳重にセキュリティをかけてます、誰にも見られないでしょう、私を甘く見ないように。お兄様(ウザ)」なんて言ってたのに……母親にはばっちり見られてるぞ、ドジなやつ…)

 

秋人の苦笑いの雰囲気を感じ取ったセフィは優しくその頭を撫でながらずっと思っていたことを呟いた

 

「フフッ…アキト、あなたきっといいパパになれるわね」

「はぁ?」

 

11

 

「―――パパは見つかった?」

 

ぴくっとイヴ…かわいい娘の耳が、髪が、肩が、全身が微かに跳ねた様子にティアはまた、優しく微笑む

それは「うん、ティア!みつかったよ!」と笑顔でいたあの頃と違う反応だったが、あの頃よりはっきりそうだと分かるような、雄弁な反応だった。

 




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【 Subtitle 】

6.娘を求めて三垓里

7.祭りの日の邂逅

8.それぞれの母

9.尖った口と緩む頬

10.愛の告白、婿入り挨拶

11.母娘の会話


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