超虚弱体質の不幸少年も異世界から来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第四話 一回目の重傷

ピチピチのタキシードを着た男は僕たちの座っているテーブルの空いてる席に腰を下ろした。

 

「貴方の同席を許可してはいません。それと僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。 “フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、名無しが。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいな。 コミュニティの誇りである名も旗印も無いのに未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだな――――そう思わないかい、御三人」

 

僕達に愛想笑いを浮かべるガルド。

 

対して冷ややかな目を向ける僕達。

 

「席に座るなら、名前ぐらい名乗ったらどう?」

 

「そうね。それと、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと、これは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下の「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!」

 

ジン君が横槍を入れ、ガルドが怒鳴る。

 

「口を慎めや……紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ」

 

「森の守護者だったころの貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一○五三八○外門付近を荒らす獣です」

 

ガルドの脅しに怯まずに真っ向から勝負するジン君。

 

意外にも度胸があるな~。

 

「そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらん。自分のコミュニティがどういう状況か理解できてるのか?」

 

「そこまでよ」

 

ジン君とガルドの険悪な雰囲気を久遠さんが遮る。

 

「二人の仲が悪いの承知したわ。それを踏まえた上で質問なのだけど………ジン君、ガルドさんの言った私たちのコミュニティが置かれてる状況を説明していただける?」

 

久遠さんがそう言うと、ジン君は気まずそうなそして、申し訳なさそうな顔をする。

 

「ジン君、貴方はコミュニティのリーダーなのでしょ。なら、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティがどういう物なのか説明する義務があるはずよ」

 

久遠さんはナイフのような切れ味でジン君に問う。

 

ジン君は震えながら膝の上で拳を握る。

 

そんなジン君の頭を僕は優しく撫でる。

 

「大丈夫、怖がらなくていいよ」

 

僕の行動に驚いたのかジン君だけでなく、久遠さん、春日部さん、そしてガルドまでポカーンとした。

 

「久遠さん、ジン君はまだ十一歳だよ。そんな責めるようないい方したら話せるものも話せないよ」

 

「あ~…………ジン君、ごめんなさいね。少しきつく言い過ぎたわ」

 

そう久遠さんに注意すると久島さんは頬を掻き、ジン君に謝る。

 

「あ、いえ………僕の方もすみません。遅くなりましたが、僕たちのコミュニティ“ノーネーム”について説明します」

 

それからジン君はコミュニティの現状を話すしてくれた。

 

ジン君のコミュニティは数年前までこの東区最大手のコミュニティで、南北の主軸コミュニティとも親交が深く、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭の上層に食い込むコミュニティは嫉妬を通り越して尊敬する程に凄いコミュニティだったらしい。

 

当時のリーダーさんは、人間でありながらギフトゲームの戦績も人類最高の記録保持者だったそうだった。

 

「ねぇ、ジン君。さっきガルドの言ってた名と旗印って?」

 

「それは私が説明しましょう」

 

頼んでも無いのにガルドが説明してくる。

 

てか、コイツと居ると気分が悪くなってきた。

 

なんか眩暈が…………

 

頭を振って気をしっかりと持たせる。

 

「コミュニティは箱庭で活動する際に、“名”と“旗印”を申請しなくてはいけません。特に旗印は、コミュニティの縄張りを示す重要なものです。この店にもあるでしょう。」

 

ガルドが示す先には六本の傷が描かれた旗が飾られていた。

 

「話は変わりますが、もし、ここを自分のコミュニティ下に置きたければあの旗印のコミュニティに両者合意でギフトゲームをすればいいのです。実際に私のコミュニティはそうやって大きくしました」

 

「つまり、その胸元にあるマークと同じ旗が掛かってる店は貴方のコミュニティの支配下ってわけね」

 

この店を除く、あちらこちらにガルドの胸元にある虎の紋様をあしらったマークがあるのはそういう訳か。

 

「はい、残ってるのはここの店みたいに本拠が他区にあるコミュニティや奪うに値しない名もなきコミュニティぐらいですよ」

 

ガルドは嫌味たらしくジン君を笑いながら見る。

 

ジン君は、悔しさに唇を噛みしめている。

 

「名前と旗印がないから“ノーネーム”か。じゃあ、どうして無いの?」

 

「………僕たちはこの“箱庭”で、敵に回してはいけない者に目を付けられ、一夜にしてコミュニティを滅ぼされました。箱庭の天災“魔王”によって」

 

「「「魔王?」」」

 

その名前に僕だけでなく久遠さんと春日部さんも反応する。

 

「魔王とは“主催者権限(ホストマスター)”と言う特権階級を持つ修羅神仏です。彼等にゲームを挑まれたら最後、誰であろうと断ることも出来ず、魔王のゲームに強制参加させられます。僕たちはその為に、名と旗印を失っただけなく、コミュニティの中核を成すメンバーも残ってません。残ってるのは十歳以下の子供のみ。その中でギフトゲームに参加できるギフト保持者は僕と黒ウサギのみです」

 

ジン君達のコミュニティの現状を聞き、全員が黙る。

 

そんな中、ガルドはずっと笑っていた。

 

「名も旗印も主力も奪われ今や、失墜した名もなきコミュニティでしかありません。名乗ることの出来ないコミュニティに何ができると思います?商売?主催者?名もない組織など相手にされません。ギフトゲームに参加しようにも優秀な人材が失墜したコミュニティに加入すると思いますか?」

 

「誰も加入したいと思わないでしょうね」

 

「そうでしょう。それに、彼はコミュニティの再建を掲げていますが、実際のところ黒ウサギにコミュニティを支えてもらっています。ウサギはコミュニティにとって所持してるだけで大きな“泊”が付きます。どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられます。なのに彼女は毎日毎日糞ガキどもの為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀でやりくりしている。本当に不憫ですよ」

 

ワザとらしく額に手を当てヤレヤレといった感じにガルドは首を振る。

 

「事情は分かったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧にしてくれるのかしら?」

 

久遠さんがそう尋ねると、ガルドはにやりと笑う。

 

「単刀直入に言います。黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」

 

「な、何を言い出すんですか!?」

 

ガルドの提案に驚き、ジン君が声を荒げる。

 

「黙れ。そもそも、お前が名と旗印を改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろが。それを、お前の我儘でコミュニティを追い込んでおきながら、異世界から人材を呼び寄せた。何も知らない相手なら騙せれると思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら、こっちも箱庭の住人として通さなきゃならん仁義があるぜ」

 

獣みたいな鋭利な輝きを持つ瞳に睨まれジン君は、怯む。

 

僕たちへの後ろめたさや申し訳なさがあるんだろうな~。

 

「どうですか?返事は直ぐにとは言いません。あなた達は箱庭で三十日間の自由が約束されます。彼のコミュニティと私のコミュニティを視察して検討してからでも―――」

 

「結構よ。私はジン君のコミュニティで間に合ってるもの」

 

「「え?」」

 

ジン君とガルドが声を上げる。

 

「春日部さんと蓮花君はどう思う?」

 

「別にどっちでも…………あ、でも」

 

そう言って春日部さんは僕の方を見る。

 

「蓮花と同じところに行きたいかな。なんか目を離したらいけない気がするし」

 

「あ~、それは同感ね。なら、蓮花君が行くところに行きましょう」

 

二人は僕の方を見ながら言う。

 

二人の目が答えは決まってるでしょ?と言いたげな眼をしてる。

 

「僕はジン君の所に行きたいな。ジン君、いい?」

 

「え?………あ、はい」

 

「じゃ。僕と久遠さん、それに春日部さんはジン君のコミュニティに決定だね」

 

「ええ」

 

「うん」

 

ジン君とガルドをそっちのけで、僕たちは盛り上がる。

 

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

 

ガルドが顔が引き攣らせ、額に怒りマークを浮かべて聞いて来る。

 

「私、久遠飛鳥は、裕福だった家庭も、約束された将来もおおよそ人が望みうる全てを支払って箱庭に来たのよ。『小さな一区画を支配してる組織の末端に迎え入れてやる』と言われても魅力を感じないわ。まぁ、一番の理由は蓮花君が“ノーネーム”に行くからだけど」

 

「私は特に理由はない。友達を作りたいだけだし」

 

「なら、私と友達になりましょう」

 

「うん。飛鳥なら私の知る女の子と少し違うから大丈夫かも」

 

「春日部さん、なら僕もいい?」

 

「うん。蓮花も私の知る男の子とは違うからいいよ」

 

「じゃ、友達の友達で久遠さんとも友達だね」

 

「ええ、そうね」

 

またしてもジン君とガルドをそっちのけで盛り上がる。

 

「あ、まだ僕の理由言ってなかったっけ。僕の理由は単純だよ。ただジン君のコミュニティを助けたい。それだけ」

 

そう言うと久遠さんと春日部さんは、僕を見て笑っていた。

 

ガルドは怒りに体を震わせ、口を開く。

 

「お、お言葉ですが『黙りなさい。』

 

久遠さんがそう言うと、急にガルドが口を閉じ喋れなくなる。

 

「貴方にはいくつか聞きたいことがあるわ。『大人しくそこに座ってなさい』」

 

ガルドは椅子にひびが入るぐらいの勢いで座る。

 

店の奥から猫耳店員さんが慌ててやってくる。

 

「お客さん!当店での揉め事は控えてくださ―――」

 

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも一緒に聞いて。多分面白いことが聞けるわ」

 

久遠さんは悪そうな顔をして言う。

 

「さっきこの地域のコミュニティに両者合意で勝負をしたと言ってたけど、コミュニティそのものを賭けるゲームはそうそうあるのかしら?そのへんはどう、ジン君。」

 

「は、はい。やむを得ない状況なら稀に。ですが、コミュニティの存続をかけたゲームですからそうそうありません」

 

「でしょうね。なら、どうして貴方はコミュニティを賭ける大勝負ができたのかしら。

『教えて下さる』?」

 

久遠さんの命令に歯向かうように抵抗するが徐々に口が開く。

 

「相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

「小物らしい手ね。でも、そんな方法で吸収したコミュニティが貴方に従ってくれるのかしら?」

 

「各コミュニティから子供を人質にとってある」

 

「そう。それで、子供たちは今どこに幽閉されてるの?」

 

「もう殺した」

 

空気が凍り付いた。

 

僕も、春日部さんも、ジン君も、店員さんも、そして、久遠さんも一瞬耳を疑った。

 

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食『黙れ!!』

 

久遠さんの言葉でガルドが黙る。

 

さっきよりも力を強めたためか、勢いよく閉じた。

 

「素晴らしいわ。まさしく絵に描いたような外道ね。さすがは人外魔境の箱庭ね」

 

「か、彼のような悪党は箱庭でもそうそういません。」

久遠さんの言葉を慌ててジン君が否定する。

 

「ねぇ、ジン君。今の証言でコイツは箱庭の法で裁ける?」

 

「可能です。ですか、裁かれるまでに箱庭の外に出られたらそれまでです」

 

「そう、なら仕方がないわね。」

 

久遠さん指を鳴らすとソレを合図にガルドの体を縛り付けていた力が解かれた。

 

「こ……小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ガルドの体が激変し、タキシードは弾け、体毛が黄色と黒の縞模様になった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が「『黙りなさい』私の話はまだ終わってないわ」

 

先ほどと同様にガルドの口がまた閉じられる。

 

だが、一歩遅くガルドの腕が久遠さんに迫る。

 

春日部さんが守ろうと動くが、間に合わない。

 

だがら、僕は久遠さんの前に立ち代わりに攻撃を食らう。

 

ゴ シ ャ ! !

 

その音と共に、僕の体は潰れた。

 

肋骨とか背骨とか折れたかな………

 

後、肺とか心臓、胃とかも潰れたな。

 

左脚も三か所ぐらい折れてるし、右腕と左腕、合わせて五か所は折れてるな。

 

長い髪も血で真っ赤に濡れ、口や鼻からも血が出て、右目もちょっと取れ掛かって、脳の方も頭が割れて、ちょっと漏れてる。

 

「蓮花君!?」「蓮花!?」「蓮花さん!?」「お客様!?」

 

三人と店員さんが慌てて僕の方に駆け寄ってくるのが分かる。

 

「はっ!俺様に歯向かうからこうなるんだ!」

 

ガルドが笑いながら僕たちを見下すように笑う。

 

「よくも蓮花を!」

 

春日部さんが臨戦態勢に入る。

 

「テメーも潰してやる!」

 

ガルドが剛腕を振り上げ襲い掛かる。

 

が、春日部さんがそれを躱し、腕を掴み、回してガルドの巨体を回転させ押さえつけた。

 

「許さない……!」

 

抑揚のない声だけど、怒ってるのが良く分かる。

 

僕の為に怒ってくれるとか嬉しいな。

 

「春日部さん、待って」

 

でも、そろそろ止めないといけないな。

 

春日部さんに声を掛けながら、取れかけた右眼を戻し、脳を押し戻しながら頭を押さえる。

 

足の方はまだかかるな。

 

ま、喋るには問題無いな。

 

「蓮花……無事なの?」

 

「うん。完治はまだだけど大丈夫だよ」

 

血に濡れた顔を拭きながら、ガルドさんを見る

 

ガルドはまるで化け物を見るかのような目をする。

 

ああ、この目は懐かしいな。

 

小・中学生時代に向けられたものと同じだ。

 

「ガルド。僕たちは君の上に誰が居ようと気にしないよ。それはきっとジン君も同じでしょう。だってジン君の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だし」

 

僕が復活したことと僕の言葉に驚きつつも、しっかりと決意をした目でジンは答える。

 

「………はい。 僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり君には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

 

「く………くそ…………!」

 

春日部さんのせいで身動きが取れないガルド。

 

もう悪態をつくぐらいしかできないみたいだ。

 

「だけどね。僕たちは君のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できない。君のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきだ」

 

僕の言葉にジンと猫耳店員が首をかしげる。

 

「そこで皆に提案なんだけどさ」

 

僕は久遠さんと春日部さん、ジン君の方を見て、ここにいる全員に言う。

 

「僕たちと『ギフトゲーム』をしようよ。君の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、さ」

 


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