超虚弱体質の不幸少年も異世界から来るそうですよ? 作:ほにゃー
「ジン坊ちゃ―ン!新しい方を連れてきましたよ―!」
黒ウサギさんが元気一杯に手を振りながら一人の少年に近づく。
見た感じまだ子供。
ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的だ。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はい、こちらの御四人様が――」
ジンくんの言葉に固まる黒ウサギさん。
そして、ゆっくりと僕たちの方を振り返る。
「……え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君のこと?彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ」
久遠さんの言葉に黒ウサギさんがウサ耳を逆立てる。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「『止めてくれるなよ』と言われたから」
「なら、どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」
「嘘です!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」
「「うん」」
打ち合わせをしたかのような息の合い具合がいい。
黒ウサギさんは前のめりに倒れる。
ジン君はというと顔面蒼白になって叫ぶ。
「大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しになっている幻獣が!」
「幻獣?」
「は、はい。世界の果てには強力なギフトを持った幻獣がいます。出くわしたら最後、人間じゃ太刀打ちできません!」
「あら、なら彼はもうゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
二人とも身もふたもないこと言うね。
ちなみに僕がさっきから何も言わないのは、体力が無くなって体力回復に努めているからだ。
現在は春日部さんに背負ってもらってます。
春日部さんの猫は僕の頭の上に居る。
すごいな~、春日部さん。
男の僕を軽々と背負っちゃうんだもん。
「…ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
ゆらりと立ち上がる黒ウサギさん。
なんか怒ってる………
「わかった。黒ウサギどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。ついでに――――“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」
その瞬間、黒ウサギさんの青い髪が桜色に変わった。
感情が高ぶると髪の色変わるんだ。
髪を緋色に染めた黒ウサギさんは空中高く飛び上がった。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフを御堪能ございませ」
門柱に飛び乗り、そこから全力の跳躍で僕たちの視界から消えた。
「箱庭のウサギは随分速く飛べるのね」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから、力もありますし、様々なギフトに特殊な特権も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣に出くわさないかぎり大丈夫なはずです」
黒ウサギさんって意外と凄いんだな~。
「取りあえず、十六夜君のことは彼女に任せて、箱庭に入りましょう。貴方がエスコートしてくださるの?」
「は、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ものですがよろしくお願いします。御三人のお名前は?」
「久遠飛鳥よ」
「…春日部耀。で、背中に居るのが」
「神代蓮花だよ。よろしくね~」
なんとか喋れるまでには回復できた。
「それじゃあ、箱庭に入りましょう。まずは、軽い食事でもしながら話聞かせくれると嬉しいわ」
久遠さんはジン君の手を取り笑顔で箱庭の外門をくくった。
箱庭の中に入りまずは驚いた。
天幕で覆われていたのに中は太陽の光が指している。
『ニャ、ニャー!ニャーニャニャニャーニニャー!』
僕の頭の上で猫が騒ぐ。
まぁ、背負わされてる身だから文句は言わないけどできれば静かにして欲しい。
「……本当だ。外から見たときは箱庭の内側は見えなかったのに」
春日部さんが誰かと会話するように言う。
僕………じゃないよね?
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです。この箱庭には太陽の光が受けられない種族もいますし」
春日部さんの言葉を聞き、ジン君が解説してくれた
「あら、それは気になる話ね。この都市には吸血鬼でもいるのかしら?」
「はい、いますよ」
「……そう」
少しおどけただけのつもりが、本当に吸血鬼がいて驚いてる。
その後、“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに入り、そこで休憩&軽食を取ることになった。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」
店の奥から猫耳を生やした少女が注文を取りに来た。
あの猫耳本物かな?
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ、オレンジジュースを一つ。あと軽食にコレとコレと『ニャー!』」
「はい紅茶お二つに緑茶お一つ、オレンジジュースがお一つ。それと、こちらの軽食にネコマンマですね!」
「え?ネコマンマなんて頼んでないけど」
「いえ、頼まれましたよ。そこの毛並の良い旦那さんが」
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「貴方、猫の声が分かるの?」
久遠さんと春日部さんが驚く。
そんなに嬉しいのか?
「そりゃ、猫族ですからね。分かりますよ。それにしても、お歳の割に綺麗な毛並みの旦那さんですね。ここは、少しサービスさせてもらいますよ。」
『ニャー、ニャニャニャニャー、ニャニャ、ニャー』
「やだもー、お客さんったらお上手なんだから♪」
猫耳店員は鉤尻尾を揺らしながら店内に戻る。
春日部さんは嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「箱庭ってすごい。私以外に三毛猫の言葉が分かる人いたよ」
『ニャー二ニャー』
「も、もしかして、猫以外にも意思疎通は可能なんですか?」
ジン君が興味深く質問してくる。
「うん。生きているなら誰とでも話はできる」
「そう、素敵ね。なら、あそこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、出来……る?ええと、鳥で会話したことがあるのは雀や鷺、不如帰ぐらいだけど
ペンギンがいけたからきっとだいじょ「ペンギン!?」…う、うん、水族館で知り合った。他にもイルカとも友達」
「全ての種と会話可能なら心強いギフトです。箱庭において幻獣との会話は大きな壁ですし」
「そうなんだ」
「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
てことは、春日部さんの多種族意思疎通できるギフトは凄いんだ
「そう・・・春日部さんは素敵なギフトを持ってるのね。羨ましいわ」
久遠さんに笑いかけられ、困ったように頭を掻く春日部さん。
対照的に、憂鬱そうな声と表情で久島さんは呟く。
「久遠さんは…」
「飛鳥でいいわ」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
春日部さんの質問に更に顔を曇らせる。
自分の力が嫌いなのかな?
「私の力は酷いものよ。だって」
久遠さんが自分の力の話をしようとすると、余計な奴が会話に入ってきた。
「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
ジン君を呼ぶ声。
見ると、二メートルは超える巨体にピチピチのタキシードを着た変な男がいた。