超虚弱体質の不幸少年も異世界から来るそうですよ? 作:ほにゃー
「う、う~ん………ここは?」
「目は覚めたか?お嬢様?」
リオナが目を覚ますとそこは何処かの廃墟だった。
いや、正確に言うとリオナはそこが何処か知っている。
それはかつて自分と父が暮らしていた屋敷の廃墟だった。
「あ、アンタは!父の部下だった……!」
リオナは目の前に居た獣人の男を見て声を上げる。
「部下だ?誰がアイツの部下だ!あああん!?」
怒鳴りつけられ、リオナは「ひっ!」っと小さく声を上げる。
「おい、落ち着け」
その男の獣人を落ち着かせたのは、もう一人の獣人だった。
見ると、男の背後には見覚えのある獣人が何人もいた。
「これは………一体なんのつもり?」
リオナは椅子に縛り付けられた自身の状況を男に尋ねる。
「見て分かんねーのか?テメーを拘束したんだよ」
「なんでこんなことをするの?」
「なんでだと?それはテメー自身が良く分かってるだろ!」
男は近くの椅子を蹴り壊し、怒鳴る。
リオナはその声と行動に思わず体がビクッと震える。
「テメーの親父が、ガルドの奴が何をしたのか分かってるだろ!」
「お前の親父は俺達の子供を殺した!」
「子供が無事で居てほしければ、他のコミュニティの子供を攫って来いと命令して、結局子供はもう死んでいた!」
「しかも、俺達に殺しの片棒を担がせて!」
男たちは口々に騒ぎ、ガルドを非難する。
「アイツを殺してやりたい!だが、アイツはもういない………でも、お前がいる」
虚ろな目で男はリオナを見る。
その目に、リオナは恐怖し立ち上がろうとするが、身体を縛られているため、立つことが出来なかった。
「お前の父親の所為で、俺達の子供が死んだんだ」
「どうせ、犯罪者の子だ……死んでも誰も文句は言わねぇよ」
「恨むなら、テメーの親父を恨めよ」
獣人たちはナイフや包丁、ハンマーなど様々な道具を取り出し、リオナに近づく。
「い、いや……来ないで……!」
なんとか逃げようと、必死にもがくが、身体を拘束されたリオナでは満足に動くことも出来ず、徐々にその距離は詰められていた。
「あばよ、あの世で親父と仲良くな」
獣人は狂ったような笑みを浮かべ、手にした包丁を振り下ろそうとする。
リオナは涙を流し、目を閉じる。
その時――――――
派手な音を立てて、部屋の壁が壊れる。
「な、なんだ!?」
「野郎が大人数で、女の子を囲むなんて、随分といい趣味だな」
現れたのは蓮花だった。
刀を肩に担いだまま、埃を払いながら言う。
「お、お前は“ノーネーム”の!?」
「で、コイツは一体なんの真似だ?まさか、子供を殺された憎しみを、ガルドのガキを使って晴らそうってつもりか?」
「………だったら何だって言うんだ!」
「そんなことしたって無意味だ。リオナを殺した所で、子供は帰ってこない」
「そんなの分かってる!だがな、頭でわかっていても納得できなことだってあるんだよ!」
「お前は自分の子供が、家族が殺されたことが無いからそんなこと言えるんだ!」
口々に蓮花に対して言葉をぶつける獣人たち。
そんな獣人たちを蓮花は冷ややかに見つめる。
「ああ、そうだな。そんなの俺には分からない。でもな……決めたんだよ」
蓮花はリオナの方を見て笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「この子が納得いくまで、俺はこの子に殺され続けるってな」
「「「「「「「「「「…………………は?」」」」」」」」」」
蓮花の言葉に、その場にいた獣人だけでなく、リオナまで「お前は何を言ってるんだ?」っと言った表情になる。
「お前………頭大丈夫か?」
「いたってまともだが?まぁ、ともかくさ………この子が納得しない内に死ぬのは俺が許さない。だから、喧嘩なら俺が相手するぜ」
「てめー………ガルド達を倒して、いい気になってんじゃねぇぞ!」
「俺たちだって、少しは名の知れたコミュニティだったんだぞ!」
「ガキ一人で何が出来るってんだ!やっちまえ!」
血気盛んになり、獣人たちは武器を構える。
が、その瞬間、蓮花が入って来た壁とが別の方の壁が突如吹き飛ばされ、十六夜が現れた。
「蓮花あああああああああああ!!テメー、マジで何やってんだあああああああああ!!」
「十六夜、遅かったな」
「遅かったな、じゃねぇよ!レティシアと拘束ロリから、お前が毒飲んで死んだって聞いて急いで飛んで来たら、急に復活して何処かに飛び出すは………マジでいい加減にしろよおおおおおおおおお!!」
「いやぁ、悪い悪い。リオナの生命の危機を感じたからついな……」
「な、なによそれ……?」
蓮花のその言葉に、リオナは怯えながらも尋ねる。
「一度でもその人に触れたら、その人の生命力を感じ取ることが出来るんだよ。基本は近くに来ると、感じれるんだけど、ストレスや恐怖、特に生命の危機をその人が感じると、俺にもそれが伝わるんだ。だから、お前のピンチにも駆けつけれたって訳だ」
「………どうしてよ……私は……アンタを殺そうとしてるのに………どうして………」
「どうしても、何でも……俺が嫌なだけだよ。誰かが死ぬってのがさ。でも、全員は救えない。だから、俺の周りの人だけでも救おうって思ったのさ。文字通り、命張ってでね」
「テメーは命張り過ぎなんだよ!てか、手伝え!……いや、やっぱ手伝わないで!そこで大人しくしてろ!」
大声でそんな事を言いながら、十六夜は獣人たちを蹴り飛ばし、殴り飛ばしていた。
結局、獣人全員は十六夜一人で倒した。
「おい、蓮花。刀仕舞え。もう大丈夫だ」
「あいよ」
十六夜に言われ、蓮花は刀を仕舞うと、いつもの雰囲気に戻る。
すると、力が急に抜け、その場にしゃがみ込んでしまう。
「蓮花!?どうした!?」
十六夜が慌てて駆け寄るが、蓮花は笑顔で言う。
「大丈夫だよ。足が疲れたのと腕が凄く重いだけだから」
「たっく……心配掛けんじゃねぇーぞ」
「ごめん、ごめん……それでリオナちゃん、大丈夫?」
「………ふん!別に誰も助けてなんて言ってないわよ!あんなの、私一人でどうにでもなったし!」
十六夜に縄を切ってもらいながらリオナはそっぽを向き、反抗的な態度を取る。
「…………でも……ありがとう」
そっぽを向きながらそう言うリオナの頬は僅かに紅潮させていた。
その姿を見て、蓮花は思わずふふっと笑う。
「な、なに笑ってるのよ!お礼位、私だって言えるわよ!」
犬の様に吼えるリオナに、いつの間にか十六夜まで笑い出す。
その時、一人の獣人が震える手でナイフを手に取る。
「ガキが…………死ね!」
渾身の力で投擲したナイフはリオナへと向かう。
咄嗟の事でリオナは反応できなかった。
十六夜はナイフを弾こうと腕を振ろうとするが、その手を一瞬止める。
もしここで弾けば、弾いたナイフが蓮花に刺さる。
それを回避しようと、ナイフを掴もうとするが、間に合わなかった。
「やべぇ!」
ここに来て、十六夜は自分が殴りたくなった。
咄嗟の事で判断を間違え、更に切り替えるのも遅れたことに。
ナイフはまっすぐリオナの心臓目掛け飛ぶ。
だが、それを止めた者がいた。
蓮花は動かせない体を倒し、リオナの前に出る。
そして、ナイフは蓮花の胸に刺さる。
「くそっ………!テメー!」
十六夜は走り出し、獣人を蹴り上げ、意識を奪う。
「おい、蓮花大丈夫か!?」
「…………うん、なんとか……一回死んだけど」
「全然大丈夫じゃねぇ!」
「……なんなのよ、コイツラ……………本当に、なんなのよ」
蓮花SIDE
「と言う訳で、今日からリオナちゃんも此処に住むよ」
「「「「「「いや、意味が分からないです」」」」」」
翌日、昨日の出来事を話した後、僕はメイド服を着たリオナちゃんを皆に紹介したら、十六夜君を除いて皆がそう言った。
「え?昨日まで、彼女は貴方を狙ってたのよ?」
「それなのに、此処に住まわせるの?」
「蓮花さん、お気を確かに!」
「蓮花さん、急に何を言い出してるんですか!」
飛鳥ちゃんに耀ちゃん、黒ウサギ、ジン君がそう聞いて来る中、レティシアちゃんとアルちゃんは真剣な目でリオナちゃんを見ていた。
「か、勘違いしないでよね!」
そんな中、リオナちゃんは仁王立ちで声を上げる。
「私はソイツを、蓮花を殺すのを止めたわけじゃないわよ!ただ………蓮花には命を助けてもらった恩があるし、その恩を返すまでは殺さないってだけで……べ、別に蓮花を諦めた訳じゃないんだからね!」
何故か顔を真っ赤にしてそう叫ぶリオナちゃんだった。
何で顔が赤いの?
「ふむ、つまり貴様も蓮花のお世話係になると言う訳か」
「そうよ。悪い?」
「いえいえ、ご主人様のお世話をするっていうなら、私達は仲間です。期間限定でのメイドらしいですが、よろしくです」
「ああ、私も喜んで歓迎しよう。と、言う訳だ。黒ウサギ、このメイドは私が預かる。私に任せてくれ」
「え、えっと………レティシア様がそう言うのなら………」
「ジンも良いだろうか?」
「僕も良いですよ。蓮花さんのお世話係が増えるのはいいことなので」
「よし、ジンからも許可は下りた。これからよろしく頼むぞ。新入りメイド」
「やりましたね、後輩メイド」
「ふん、恩なんてすぐに返してやるわよ。それまでは世話になるわ、先輩メイド、メイド長」
次回から、原作二巻になります。
新たな保護者とお世話係登場かな?