千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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とりあえず家帰って落ち着いたので投稿
やったねちうちゃん!話数が増えたよ!


15話

 

「そんなの認められるわけがない!」

 

 瀬流彦の叫び声に、その場にいる全員が視線を向ける。

 

「なら、あんたは今のまま麻帆良を残しておけというのか? そのまま都市の一般人を傀儡にしているのを傍観しろと。今のこの状況を許していたらどうなる? こんな問題が起きているんだ。これで許したら、それこそ問題だ。麻帆良だけでなく、他の都市、終いには日本丸ごと飲まれるぞ」

「そんなことはしない。僕たちは――」

「なら、今回の親書の内容はどうだ? 関東が関西に口出しし、親書とは名ばかりの娘婿に対しての命令と叱咤。しかも自分たちの非を認めていない状況で、敵意をこちらの、西が原因のように言う。相手の心情を考えない行為をしている人間が勢力を広げようとしているんだ。私達がそちらに何をした? そちらは私達に何をしたかを理解しているのか?」

 

 瀬流彦は知らないのかもしれない。大戦時に魔法使いが何をしたのかを。東は知らないのかもしれない。けれど、問題はその後だ。西の長に近衛詠春が座るとき、本来ならば功績を認められるはずがなかった。魔法世界での功績など、日本では何の意味もなさないものなのだから。両面宿儺を封印したという事実も、原因がわからない、なぜあのタイミングで封印が解けたのかなど、疑問を解決しない限り手放しで評価できるものではない。さらに、青山詠春は西になんの関係もなかったのだ。それが近衛詠春になったからと言って長に収まるのはありえない。東の長の後押しがあったりしなければ。

 

「まぁ、近衛一族のせいと言えもするんだけどな。その主導が関東魔法協会の長で、組織だってこんなことされたのはいただけないな。組織として手を伸ばす危険性がある以上、それをのさばらせておくわけにはいかない。実質的に日本を掌握しようとしたんだからな、そちらの大将は」

 

 麻帆良が麻帆良だけにとどまっている限り、外に出る可能性は低かった。

しかし、今回の京都での行為、そして親書の内容。それがお互いの立ち位置を激変させた。京都での一般人への行為は、認識阻害と思考操作によって好き勝手出来るということを証明し、親書によって、西と東の上下関係を決定づけるような内容を送ってきていた。

これを受け取っていたら、了承していたら、関西呪術協会は麻帆良の、関東魔法協会の下となり、先に起こった行為をされても文句を言えなくなる。実質、日本で魔法協会に文句を言える人間がいなくなるのだ。

 そうするとどういうことになるのか。日本のどこで、誰が操られようと阻止できなくなるのだ。政治に魔法使いがどっぷり浸かり、政治を魔法使い主導にされる危険性もあるのだ。

 関西呪術協会は、起こった事件と、その内容、その背景、親書の内容と今後の危険性を示唆している。もちろん、議員の中には魔法使いを支持する派閥もあるが、今回のような行為が行われてもなお、魔法使いを支持するものは、明日は我が身ということが判断できるものならば出ないはずだろう。ネギ・スプリングフィールドによる行動と、その周りの対応は、日本にとって何の利益もなく、損にしかならないのだから。

 

「場合によっては、私たちは魔法を表に出す用意もある。このようなことが行われて、一般人が知らずのうちに支配されるのならば、魔法使いの存在と、あなた方が麻帆良の中で今までしてきた行為を知らしめることになるだろう」

「本気なのか!?」

「本気だ。その場合には麻帆良は特別自治区となり、時間をかけて一般常識を取り戻してもらう。雪広に話したのは、その際の経済面での架け橋となってもらうためだ。そうでなくとも機能するだろうが、親身になって動く企業というものも必要だろう?」

 

 千雨は、あやかが自己犠牲精神をもって何かと損をする性格だということを知っていた。というか、明日菜に振り回されてため息を吐くあやかをなんども見ていた。なので、このような状況下におかれた場合、クラスメイトのために一肌脱ぐ可能性が高いことを見込んでいた。

 

「たしかに、そうなった場合の協力は惜しみませんが……だからと言ってそこまでする必要性はあるんですの? 私達はいままでの生活に満足していますわ」

 

 知りもしなければ、幸せに暮らせていた。不幸と思われるかはともかく、不幸と思うかはわからない。知らずにいれば幸せだった。そういうこともあるだろう。

 

「じゃあ、これからずっと、自分たちが幸せだからこれからも、麻帆良で常識から離れる人を量産してくださいとでも言うつもりか委員長?」

 

 しかし、それは個人の話であり、全体的な被害者の中で何人がそう思うのか。今のあやかの発言のように思うものもいるだろう。しかし、逆に知らせたことによって幸せになる人間もいる。どちらがいいかなんて、やってみないと分からない。それならば、その先に出る被害を防ぐことを優先した方がいい。

 

「そうは言いませんが……そうですね。しかし、私どもが納得のいく内容なのでしょうね」

「じゃあ、私たちが放っておけば、それは納得のいく内容なのかな?」

 

 あやかに対する千雨の問いは、あやかが答えられるものではなかった。

あやかが望む答えと、実際に答えるべき答えが逆なのは、理性ではわかっているからだ。あやかの問いに対する答えなど、関西の人間が出せるわけがない。関東の内情など、ほとんど知らないのだから。

それを納得のいく内容にできるかと問われて、はいそうですと言えるわけがない。

 だから逆にあやかに問うた。私たちが放っておけばいいのかと。あやか自身ははいと答える。しかし、そこではいと答えていいものなのかという葛藤がある。

 

「それは……」

「違うだろう? おかしくされているのを直す。それが私たちだ。本来はそこで終了でも構わないんだ。

だけど私たちはそのうえで、おかしくされちまった人間を何とかするから、それに協力してくれないかと言っている。まずそのことを認識しろ。私たちが麻帆良を何とかしようというものは善意でしかないんだよ」

 

 千雨はあやかに対して交渉を持ちかけているが、あやかが協力しなくても構わない。麻帆良に対して対処をするのは、自己満足の意味合いが強く、他には世間体くらいのものだ。

 処理しなくても、勝手にしていれば、淘汰されるものは淘汰され、日本は自然に戻る。麻帆良の者は不幸になるが、同情こそされるが、それだけだ。それを事前に何とかしようと持ちかけているのだ。

 

「もっとも、それが成されるかなんて、分からないんだけどな。これからの交渉次第では、麻帆良の結界がのこったまま戦争になるだけだ」

「なんですの!? 戦争なんて!」

「なるんだよ、当たり前だろ。ケンカ売ってきて何もしないではい終わりなんてなったらそれこそ問題だ。最低でも結界を解かないと、アンタらみたいに被害者が出る。委員長はいいのかもしれないが、それを納得しない奴が一人でもいたらその時点でアウトなんだよ。その前に前提条件で思考操作が加わってんだからアウトだ」

「しかし、私自身は――」

 

 その後の句は告げれなかった。自身が操られていないと証明する手段はないのだから。それに、自分がいいから他も大丈夫だ。だから放っておけと言えないのだ。

 

「人を操っている犯罪者集団を追い出すまでは引かないさ」

「僕たちは犯罪組織じゃない! 皆のことを考えて」

「誰も犯罪組織なんて言ってねえよ。犯罪者の集まりだって言ったんだ。NGOで頑張っている? 立派じゃないか。思想が絡む中東での戦争に介入して正義ごっこしてんだろ? 魔法使って。別にそんなんはいいんだよ。問題はな、麻帆良でのことなんだ。それこそNGOなら日本にいる必要がないだろうが。なんで日本にいるんだ? なんで麻帆良なんだ?」

「なんでって……」

「イギリスはしっかりと一般人と別れて魔法使いの街を作っているじゃないか。すみわけができている。なのに日本では、麻帆良ではそうしていない。なんでだ?」

 

 誰が答えられるでもない疑問をぶつける千雨。

 外からバタバタと足音が聞こえてくる。

 

「どういうことですかっ!? 国外追放とは!」

 

 勢いよくネカネが障子を開けた。それを追うようにして他の二人もやってくる。焦りながら千雨と千草の方を向いているのを見ると、ネカネを止めようとしたのだろう。

 

「そういうことだよ。ついでにネギ先生には最低でも20年間地球に、そちらで言う旧世界にいることを認めない」

「そんなっ!?」

「残念だったな。せっかく麻帆良に逃がしたと思ったんだろ? 隠れ蓑にするためとかじゃないのか? 英雄さんはいろいろと大変だからな」

 

 ネカネの表情を見てわかっていた。ネカネは特に過保護だ。ネギに近ければ近いほどネギのことを優先する。そんな彼女らがMMの元老院のもとではなく、アリアドネーではなく、麻帆良を選んだのは魔法世界では何か不都合があるからだと。

 今現在、犯罪者としてとらえられている彼だが、情状酌量の余地はあるにはある。実際に彼の置かれた状況下で犯罪と認識して行っているものが少なく、周りがそれを容認していたのだから。しかし一般人に被害を出しているという事実は変わらず、それはやってはいけないことだということを知った上での自己中心的な行動であるので実刑にはなるのだ。

 MMはもちろんそれを許さないだろう。しかし、西としてはネギが罪を負わないことになれば、MMに屈したことにもなる。譲歩として一番なのはネギに地球から去ってもらうことだ。日本でなく地球なのはMMの近くに追いやることで、その条件を呑みやすくさせるためだ。

 

「あんた等ってさ、結局やってること変わらないんだよ。だったらどこでやっても一緒だろ? ただ単にウェールズで英雄にするのか、麻帆良で英雄にするのか、魔法世界で英雄にするのか。そんな茶番劇に付き合う気はないんだ。魔法世界で自分たちの好きなようにやってくれ。こっちに迷惑かけんな」

 

 ネカネやメルディアナの学園長は、MM元老院の危うさを知っていた。英雄にさせて利用しようとしていることを。それを危惧して麻帆良にやったのだ。しかし結局どこに行っても彼は英雄として育てられる。しかも、その場所の人間の好きなように。その最終的な結果は、全部作られた英雄だ。ネギが信じる者がすべてだという風に育てられる都合のいい英雄。それを千雨は許さなかった。

 国外にいても、彼の周りにいる人間たちは、日本に行こうとするネギを止めないだろう。魔法世界に隔離しなければならない。しかも逃れられない首輪をつけて。

 

「そんで犯罪者集団の関東魔法協会には50年の国外退去だな。本当なら、ここでウェールズのメルディアナの方からとか、アリアドネーの中から何人か出してもらって魔法世界の方の立場も維持してもらうことで均衡を保とうとしたんだけど、これだもんな。関東魔法協会と立場の変わらないウェールズは駄目だ。アリアドネーの方はネギ先生が関係なかったら変わるのかね?」

 

 千雨はセラス総長の方を見た。

 


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