トブの大森林での採取を終えたオデンキングは今後の身の振り方を考えていた。
このままエ・ランテルのギルドで地道に冒険者ランクを上げていくか、それともリ・エスティーゼ王国に向かい新天地にて新たな出会いを求めるか。
王国よりも魔法を重視しているというバハルス帝国にて立身出世を目指すのもいいかもしれない。
この異世界に来て幾日か経ったがエ・ランテルでの情報収集は順調に進み、オデンキングはこの世界における自分の特異さや実力、どの程度の魔法を使えばどういった風に見られるかを大まかには把握していた。
それに加え〈ユグドラシル〉の情報である。
〈ユグドラシル〉という名詞こそ発見は出来なかったものの、明らかに〈ユグドラシル〉のプレイヤーの痕跡が各所に散見される。
それはお伽噺に近いような扱いをされている六大神や八欲王の話であったり、史実として認識されている十三英雄の話、それに「口だけの賢者」という実在した人物の情報もあった。
この世界の戦闘における平均値は〈ユグドラシル〉と比較すれば非常に低いのは間違いないだろう。
そのおかげで、というのもあれだが高レベルの〈ユグドラシル〉プレイヤーは世界に名を遺しやすかったというのは想像に難くない。
この異世界に転移してきたプレイヤーがいたというのは確認出来た。
過去に転移したプレイヤーが居るのならば、今もプレイヤーがそこらあたりに普通に生活している可能性はないとはいえないだろう。
オデンキングから見て未来に転移してくるプレイヤーがいる可能性だって充分にある。
そんな情報を得てオデンキングが出した結論は。
「あんまり好き勝手やってるとDANZAI系オリ主に粛正されるかもしれないな…」
身も蓋もなかった。
「ホントにどうしようかな…。美女美少女美幼女を侍らして楽しんでる生活を元の世界の人間に見られて白い眼で見られるのは嫌だし…」
別に悪事をはたらくつもりはない。
真っ当に働いて真っ当に稼いで金に物をいわせて美少女達を侍らしたいのだ。
その行動が真っ当なのかは置いておく。
努力して手に入れた強さではないことに若干の後ろめたさはあるものの、だからといって使わないなどという選択肢は有り得ない。
この力で稼いで女の子達と遊ぶのだ。
ニコポナデポなんてものは持っていないが、そんなオデンキングだってカネポなら出来るのだ。
お金を持っているという事だって魅力の一つだ。
江戸時代だって金持ちの証明であるデブ体型が人気だったではないか。
純真無垢で人の善性を信じる清楚な美少女に愛されるなんて無謀なことは毛ほども考えていない。
金無垢好きで金の魔性を知ってる淫蕩な美少女でいいのだ。
「いや、むしろそっちのほうがエロいな。うん、エロは正義だ」
オデンキングも本気でDANZAIされるなどとは思っていない。
というか現実に於いてそんな物語の敵役として都合のいい思想の偏った人間がそうそう居るはずもないだろう。
オデンキングが気にしているのは人の眼である。
何も知らない異世界の人達が見れば
〈好色という欠点はあるものの十三英雄レベルの凄まじい力を持ったマジックキャスターである〉
という認識だって、プレイヤー…つまり元の世界の感性を持つ者から見た場合
〈幼稚園児の群れでお山の大将を気取ってる残念な大人〉
として認識されるかもしれない。
まあ残念な大人というのは間違ってはいないがつまりオデンキングは羞恥心が人一倍ということなのだ。
オデンキングを見たプレイヤーに耳元で
「(異世界にきて凄い力を持ったから無双して美少女を集めて)ねえ、今どんな気持ち?」
などと言われたら顔から《ファイヤーボール/火球》が噴き出すかもしれない。
「まあ取り敢えず女の子については置いといて、金を稼ごう。懐の豊かさは心の豊かさだ、うん」
懐に余裕があれば心にも余裕が出来る。
中流階級の社会人ならば身に染みて感じるこの事実を、当然オデンキングも世知辛い元の世界で嫌というほど経験していた。
ちなみにオデンキングは〈ユグドラシル〉のアイテムや金貨を換金することは考えていない。
少量の金貨ならともかく億万長者と言えるほどに金貨を放出すれば経済に混乱がおきるかもしれないからだ。
金に価値があるからこそ金貨として成り立っているのだ。
その量に大幅な変動があれば市場は混乱するだろう。
勿論只の考え過ぎかもしれないし、オデンキングが所持している金貨の量など国にしてみれば誤差とすら言えないレベルでしかないかもしれない。
それでも考えなしに行動した結果経済が荒れました、なんてことになれば笑い話にもならない。
金持ちという存在は安定した国と市場があってこそなのだ。
アイテムに関しては何をか言わんやである。
補充出来るかどうかも判明していないこの状況で消耗品を手放すなど愚の骨頂だろう。
「悩んでても仕方ないし…よし、次の目的地は帝国に決めた。魔法を重要視する国だし、行っても損はないだろ」
生来の楽観的性格が顔を覗かせる。
「あと何件か依頼を受けたら、世話になった人達に挨拶回りして出発するか」
次の日、「漆黒の剣」が依頼を受けカルネ村へと向かった事を知ったオデンキングはタイミングの悪さに苦笑しつつ彼等が帰還するまで出発を延期することを決めた。
異世界に来て一番世話になった彼等に、顔も会わせず旅立つなんて礼を失することは出来るわけがない。
「ま、遅くとも5日以内には帰ってくるだろ。それまでは…遊ぶか」
転移してきて9日間、情報収集と依頼で休みを取っていないオデンキングは「漆黒の剣」が帰還するまで遊び呆けることに決めた。
「……ふぅ」
娼館からの帰り、オデンキングはマジックキャスターから賢者へとジョブチェンジしていた。
「まさか元の世界より満足できるとは思ってなかった」
中世に近いこの世界で娼館など衛生的にもビジュアル的にも期待してはいなかった。
しかしどうだろうか。いざ行ってみれば生活魔法のおかげで衛生的にも問題なく、日本では自動的に付いてくる年齢増し増しサービスもなく、進歩し続ける画像加工技術によるミラクルなパネルマジック詐欺にも合わなかった。
「明日は朝から夜まで居ようかな…」
帝国に行く意思すら揺るぎはじめる始末である。
「……ん?」
想像以上に居心地が良かったため随分夜更けになってしまい、人の気配が一切なくなった路地を進むオデンキングだがふと先を見ると暗い夜道に人間大の何かが倒れ伏しているのに気がついた。
「フラグだ、間違いない。病気で倒れた美少女だ、間違いない」
賢者タイムは一瞬で終わり、異世界9日目の夜にしてようやくフラグゲットかと期待に胸を膨らまして急ぎ駆け寄る。
「そんな都合良いことあるわけないよね。知ってた」
駆け寄った先には恐怖に歪んだ表情で死んでいる男の死体があった。
というかよく見たらその先にも死体らしきものが幾つも見える。
「こんなフラグはいらないんだよ、ちくしょう!」
嫌な予感をビンビンに感じながら周囲を見渡す。
「やっほー、こんばんわー」
すると暗がりから身を現した女が血臭の漂うこの場に全くそぐわない、能天気とも言える声でオデンキングに話し掛けてきた。
今オデンキングに、この世界に来た時に一度だけ発揮された奇跡のような直感力がまたも脳内に展開されていた。
ぞくりと鳥肌が立ち、背筋に嫌な汗がツウと流れ落ちる。
かつての自分も経験した悪夢が脳裏に過り、体温が数度程も下がったような錯覚に襲われる。
いや、直感がなくたってオデンキングはきっと確信していただろう。
血の滴る武器を携え、口裂け女もかくやといったほどににんまりと口の端を限界まで歪め、それでも端整な美貌は損なわれていないこの女。
「どうしたのー? 恐怖で動けなくなっちゃたのかなー、フフっ。 かわいいねー」
間違いない、この女は元居た世界でも類をみない程の
――――重篤な厨二病に罹患している――――
秘密結社ズーラーノーンの幹部《十二高弟》の一人。
スレイン法国が誇る六色聖典の内の一つ、漆黒聖典第9席次であり人類最高クラスの戦士。
「元」ではあるがそんな肩書きを名乗ることが許されていた女の名前はクレマンティーヌといった。
六色聖典の一つ、風花聖典から秘宝ともいえる「叡者の額冠」を強奪し闇の巫女姫を発狂に追い込み逃走した彼女はスレイン法国からみれば最悪の犯罪者である。
エ・ランテルまで逃亡したはいいものの予想以上に追跡の手がしつこく、この街にいるズーラーノーンの同僚カジットを利用し追っ手の眼を眩ます事を決めたクレマンティーヌであった。
あからさまな追跡者に関してはさっさと殺しておくに越したことはない、と快楽殺人者である彼女は本能が求めるままに殺しを楽しんでいた。
そして全てを殺し尽くした後、殺人の余韻に浸っていた彼女の前に新たな生け贄が現れた。
「(痛い…。心が、折れそうな程に苦しい。助けて)」
血の滴るスティレットやニタニタ笑い、演技っぽい猫なで声で語尾の最後を伸ばして↗をつけたような喋りかたにオデンキングは戦慄していた。
出会いは確かに求めていたがこれはないだろう、と。
打ち切り漫画に出てきそうな「作者が考えた格好いい狂人」みたいだな、とオデンキングは内心で一人ごちた。
ちなみに生命の危機は微塵も感じていない。
からかうように台詞を続けるクレマンティーヌであったがその心の内は全くと言っていいほど油断はしていなかった。
見るからに凄腕のマジックキャスター、おそらくここ最近噂になっている冒険者に間違いないだろう。
過信とも言えるレベルで自分の強さを誇っているクレマンティーヌであったが、強者を前にして油断する程に傲りはしていない。
自分が英雄級であると自称する彼女だからこそ距離を取られた時の上位マジックキャスターの恐ろしさは理解している。
そう、距離を取られた時の、だ。
完全に自分の間合いに入ったこのマジックキャスターは既に詰んでいる。
今からどう詠唱を始めようとも自分の刃が先に男の命を奪うだろう。
男もそれを理解しているのだろう、身を縮ませ苦々しい顔を隠しもしていない。
さて終わらせよう、と彼女は愛用の武器であるオリハルコンでコーティングされたスティレットを常人には視認すらできぬ速度で振るった。
「ギャアァーーーーーーーーーーーーー!!」
「キャアァーーーーーーーーーーーーー!!」
前者がクレマンティーヌ、後者がオデンキングの悲鳴である。
戦闘とも呼べない、その時間は一瞬であった。
昔の自分にもあった厨二心をジクジクと刺激されていたオデンキングが目の前に迫った刃に気付いたのは直撃の一瞬前であり、その速度にも驚愕を禁じ得なかった。
「(―――この世界に来て一番速いっ―――)」
それでもオデンキングは危険は感じていなかった。
レベル差というものは絶対だ。
〈ユグドラシル〉でさえ10レベルも離れればその差は絶望的なのだ。
ましてやこの世界、おそらく50レベルに到達しているものすらまず居なさそうなこの世界で危機など感じない。
ダメージすら入らないだろう。
その無自覚な慢心と、あくまでもマジックキャスターであるため耐久は低いステータス。
対するはこの世界上位に位置する戦士職が、武技と共に放った油断無き一撃。
その結果がもたらしたものはこの世界に来て初めての明確な〈痛み〉であった。
―――チクリッ―――
「痛っ!?ちょ、嘘、わわっ、《ショック・ウェーブ/衝撃波》っ!!」
混乱した頭で深く考えずに反撃として放った魔法は低位階のものではあったが、そのレベル差によって致命的な一撃となってクレマンティーヌを襲った。
具体的に言うと胸から下、腰から上がグロ過ぎる程にへこんだ。
フルプレートすら歪むこの魔法で即死しなかったのは人類最高の戦士(笑)の面目躍如である。
とはいえ殺すつもりも覚悟もなかったオデンキングにはこの状況―――ボン、キュッ、ボンな美女が目の前でボン、ギュッ、ボンになっているのはちょっとしたホラーである。
「ギャアァーーーーーーーーーーーーー!!」
「キャアァーーーーーーーーーーーーー!!」
翌日、オデンキングがこの世界に転移してちょうど10日目の朝。
オデンキングが宿泊していた宿屋の一室でクレマンティーヌは眼を覚ました。
「知らない天井だ…」
「(お前が言うんかいっ!)」
異世界テンプレもので何故か良く呟かれる、某人造人間に乗って戦う少年のセリフは22世紀を過ぎてもなお有名であった。
前日の夜、危うく殺人犯になりかけたオデンキングは滅茶苦茶に焦りながらクレマンティーヌの体に上位ポーションをドバドバとかけていた。
「よ、良かった、生きてる…」
過剰にかけられたポーションはその効果をきっちりと発揮して、クレマンティーヌを完全回復させた。
だが死にかけたせいか意識が戻らないクレマンティーヌを心配して取り敢えず宿屋にお持ちかえりするオデンキングの、心配と下心の割合がどのくらいであったかは不明である。
ちなみに死体達は放置している。
明らかにあの者達を殺害したと思われるクレマンティーヌを宿屋に持ちかえったのは、やはり美女だからである。
むさいおっさんであれば治療した後は確実に放置していただろう。
差別と言うなかれ、美女美男子はそれだけで人生のハードルの25%くらいは低くなるのが世界の真理である。
大量殺人者だろうが重度の厨二病だろうが可愛いは正義なのだ。
それにどっちが悪人かだってまだわからない。
実は暴漢に襲われた彼女が反撃して殺しちゃった後に急に現れたオデンキングにびっくりしたせいで封じ込めていた厨二心が暴発してあんな状況になった可能性だってあるのだ。
「ねーよ」
「此処は…?」
未だ状況を理解していない彼女にどう説明したものかと思案するオデンキング。
はたと見つめ合う二人。
そしてクレマンティーヌに前日の夜の記憶が甦る。
「オラァッ!!」
「どわぁっ!?」
オデンキングに殴りかかった勢いのままに素早く周囲を把握し、逃走を計るクレマンティーヌ。
「ちょっ、待った待ったぁーー!」
一応殺人者を匿っているという認識はあるので逃がすのはまずいと思ったオデンキングは逃がすまい、とレベル差による身体能力で無理矢理ベッドに押し返し動けないよう全身で押さえつける。
ちなみに昨夜、血のついた防具のままベッドに寝かせる訳にはいかなかったのでこれは仕方ないよねと自分に言い訳しつつオデンキングは視姦しながらクレマンティーヌの装備を脱がしていた。
そんな彼女の服装は現時点で薄手のシャツとスカートのみ。
傍から見ればまさに、マジでレイプの5秒前である。
「ちょ、何もしないから大人しくしろって」
努めて冷静にクレマンティーヌの体を堪能しながら説得するオデンキング。
「既にしてんだろうがっ! どこ触ってんだ変態!」
息を荒げながら抜け出そうとするクレマンティーヌだがビクともしない男の強さに次第に抵抗を弱くしていく。
そして少し冷静になった頭で考える。
「(私の一撃を受けて痛いだけですみ、《ショック・ウェーブ/衝撃波》一発で私を戦闘不能にする絶大な魔力を持ち、戦士である私を力で上回っているマジックキャスター? 何の冗談よそれ)」
今更ながらに絶望を感じるクレマンティーヌ。
「あー、取り敢えず昨日どういった状況だったのか教えてもらえないか?」
そんなクレマンティーヌをよそに軽い雰囲気で事情を聞きはじめるオデンキング。
体の一部がエレクトリカルパレード中なのは内緒だ。
無言でオデンキングの顔を凝視するクレマンティーヌ。
「(恨まれていない…? いや、こいつの実力からするともしかして、戦闘になったという認識ですらない…?)」
そう思った瞬間、死なずに乗りきれそうだという安堵よりもその数十倍の悔しさと憎しみがクレマンティーヌの心に吹き荒れた。
「(私はっ! 人類でも最高レベルの戦士だっ! 英雄級の選ばれた人間なんだっ! あのクソ兄貴だっていつか上回ってっ! 悔しがらせながらブッ殺してっ!――――――そのために…っ)」
強さというものに異常ともいえる執着を持つクレマンティーヌ。
自分が強者であるからこそ今まで弱者を蹂躙し、雑魚を蹴散らしてきたのだ。
それがどうだ。
この男にとって自分は、今まで自分が殺してきた雑魚冒険者と何も変わらないのだ。
屈辱で脳内がどんどんぐちゃぐちゃになっていく。
きっとこのままじゃ狂い死ぬ。
だが思考は加速していく、精神の崩壊は止まらない。
「(屈辱だ、憎い、何でこんなやつが、私は強者の筈だ、クソが、兄貴、殺す、クソが、狂い死ぬ、漆黒聖典、クソ兄貴、熱い、クソ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だこんなところで
死ぬ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか太ももに固いものが当たって・・・・・・・・・・?)」
「オラァーーーーーーーッ!!」
「おぐぅっ!!」
金的に膝がクリティカルでhit!!
オデンキングは悶絶して倒れた!!
クレマンティーヌは勝利したことで精神の安寧を手にいれた!!
クレマンティーヌは超格上を単独撃破したことによってレベルが大幅に上がった!!
「ごめんなさい」
オデンキングは取り敢えず謝っていた。
「……」
「あの、一応言い訳させてもらうとですね、あの、徹夜で見張っていたのでテンションがおかしくなってしまってですね、」
「……」
「そんな状態で密着していい香りがしちゃってですね、息子が勝手にエレクトリカルパレードしたいと聞かずにですね、」
「ウザ、キモ、死ねば?」
「うぐぅっ!」
レイプ魔の謗りだけは避けたいオデンキングは必死に謝罪していた。
異世界だろうがどこだろうが性犯罪者の汚名だけは被りたくはない。
誰だってそう思うだろう。
実際のところクレマンティーヌは別段怒っていない。
うぶな処女でもあるまいし、たかだかあの程度のことで恨んだり恥ずかしがったりするほど貞淑なわけもない。
ただこの状況から自分の利益になるよう上手いこと持っていくために、思考するための時間を稼いでいるのだ。
「(こいつの力を利用すればきっとクソ兄貴を殺せる…いや、なんか自分だけでいける気がしてきたけど。なんか力が溢れてきてるし)」
「…ま、いいよー。私も悪かったんだしー」
「(その恥ずかしいキャラは続けるのか…)」
「スレイン法国の追っ手、ねえ」
「そ、ホント鬱陶しいんだーあいつ等。ちょろっと秘宝を盗んだだけなのにさー」
「いやいやいや」
オデンキングに説明を求められたクレマンティーヌは全部ぶっちゃけていた。
オデンキングからは害意なんて欠片も感じないし、なにより協力を求めるならば理由を内緒にして手伝ってもらえるわけもない。
「で、まあ、そーゆーことだからディンちゃんにはー、兄貴をブッ殺すのを手伝ってほしいなーって」
クレマンティーヌがこてんと首を傾けながら上目遣いでお願いする。
あざとすぎるこんな仕草も目の前の男には効きそうだと思ってだ。
「う、うーん」
覿面である。
「(可愛い顔でえらいことおねがいしてきとる…)」
殺害されていたのは後ろ暗いアングラな連中だったと知って、取り敢えずクレマンティーヌを衛兵に突き出す気はなくなった。
甘いと言われるかもしれないが、この世界は命の価値が低いのだ。
加害者と被害者、両者共に裏の人間ならどちらが悪いかなんて自分が判断するものでもない。
まあ、クレマンティーヌが悪人なのは間違いないようだが。
「あはは、ゴメンねーいきなりこんなこと言われても困るよねー」
寂しそうに俯きながら呟く。
ちなみにこの演技は次のお願いで肯定を引き出すための、罪悪感を煽るためのものである。
「じゃあ、せめて旅に同行させてもらっちゃダメー? さっき帝国に行くって言ってたよねー? まだ襲ったお詫びも出来てないし、ね、ダメ、かなー?」
「追っ手を一緒に撃退してなし崩し的に俺をスレイン法国の標的に追加させる作戦ですね、わかります」
「うん。ダメー?」
「いや、駄目に決まって…」
甘い香りが柔らかな感触と共に鼻孔に突き刺さる。
「ねー…?」
「ま、まあ帝国までならいい、かな」
「(落ちんの早すぎぃ!!)」
後10手以上用意していたクレマンティーヌだが意味はなかったようだ。
この日、パーティ「ビリオネア」が結成された一幕である。
ウェヒヒさん演じるクレマンティーヌのセリフを聞いて、なんか恥ずかしくて耳を塞ぎたくなった方は私以外にもいるでしょうか。
あんまりアニメとか見ないのですがあれが普通だったりするのでしょうか…。
勿論いい声か悪い声かと聞かれたら最高です、と答えるのは間違いないですが。