「じゃあ後よろしくお願いしますね」
「じゃ、じゃあな。ふふ、ふふふ」
「儂もこれで失礼致そう」
アインズ、イビルアイ、そしてカジット。彼等が居ればどんどん状況は悪くなるだろうと判断したオデンキングによって、三人は《ゲート/異界門》でナザリックに一時撤退することとなった。イビルアイの顔がにやけているのは御察しである。ちなみに気絶したジエットとネメルもナザリックに運ばれており、気絶から覚めればまた気絶すること請け合いの状況である。
「とりあえずこれで沸きは止まるかな……? さ、とにかく急ごう」
「はっ!」
救援を求めているであろう場所を地図上で確認し、足早に向かう一行。だがその内の一人、ラキュースからオデンキングへと一つの問いが投げかけられた。
「あの、オーディンさん。デス・ナイトというのはやはり相当の強さなのですか?」
「え? あー……どうだろ。イビルアイなら勝てると思うけど」
「やはりそのレベル……まずい状況ですね」
「や、その割にはそこまでやばいって感じの雰囲気じゃなかったけどなー」
その言葉にラキュースは首をかしげる。おそらくはアダマンタイトか、もしくはそれより下のクラスが束になり犠牲を大勢出さなければいけないレベル。イビルアイを比較に出すとはそういうことだとラキュースは推測したのだが、被害状況はそこまででもないという。よほど優秀な冒険者か、それとも兵士でもいるのか。そんな強者がいれば自分も知っている筈なのにな、と疑問に感じながらも走り続ける。
「まあデス・ナイトくらいなら何とかできる人は居るって、うん」
「うーん……」
それは強者の理屈だろうと、内心で思いつつも口には出さないラキュース。どちらにせよ現場につけば謎は解けるのだから。
帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは有能な人物を身分問わずに重用することで有名な男である。それはたびたび闘技場に足を運び、趣味を兼ねて人材発掘をしていることからも察せることだろう。古く頭の固い貴族たちはそのようなことを認めない者達が多数であったが、そんな輩は既に粛清されて久しい。有能だと思えば例え犯罪者、それどころか敵国の戦士を戦場で誘うほどにジルクニフは才ある者を認めているのだ。
そしてそんな皇帝だからこそ、今カッツェ平野に存在を許されている二人の人物がいた。罪人ではあるがその実力は確かであり、ともすればかの王国戦士長にも匹敵し、凌駕しかねないほどの人物と言えばその凄さが解るだろうか。闘技場で名を馳せた――そして冒険者やワーカーの中にまで名が通っている二人。一人は記憶をなくしたまま訳も解らず処刑されるところを皇帝に救われ、一人は失意のどん底で処刑を待つ身から浮かびあげられた。
その過程は割愛するが、とにかく彼らは今帝国所属の騎士であり、そしてこの作戦に参加する戦士なのだ。
「よおエルヤー、なんだかきな臭い匂いが漂ってきてねえか? いや、貴族の坊っちゃん共の青臭い匂いってわけじゃねえが」
「知らぬ。我はただ皇帝に恩を返すため働くのみよ、ブレイン」
「……」
「なんだ?」
「いや、なんか唐突に『誰だお前』って言いたくなってな」
「…? 我はエルヤー。皇帝の剣にして盾なり」
「……そうか」
なんだか釈然としないものを感じながら、それでも周囲を確認して注意を払うブレイン。何かが起こっているという訳ではないが、戦士の直感故か不穏な空気を感じているようだ。
「おい、坊主共! 離れすぎだ!」
「なに…おい貴様、今誰に向かって――」
鼻持ちならない貴族の子弟達、その護衛。ブレインとエルヤーが割り振られたのはそんな仕事であった。そもそも彼らは皇帝に見初められた特別枠として、このような場所に来る立場ではない。それでも今ここに居るのは偏に皇帝の幾度にわたる箱割れのせいである。周囲が止めなければ四騎士すら投入しかねなかった程に、徹マン明けの皇帝は憔悴しきっていたのだ。
なんにしても振られた仕事はきっちりしなければと離れすぎている護衛対象達に声を掛けるブレインだが、その言葉に敬意など欠片も含んでいないのは彼らしいとも言えるだろう。
当然ながら、たかが騎士如きが気安い態度で接してくることを我慢できるほど器の大きくない子弟達は、暴言で返そうとした。むしろここまで我慢してきたことこそが帝国の騎士に多少なりとも敬意があることの証明かもしれない。だがこれで何度目の不敬かと苛立ちがピークに達したところで、遂に叱責を与えようとしたその刹那――
「――離れすぎだ、って言ったよな」
「…っぃ!? は、はい…」
深い霧の中から現れたスケルトン。まさにそれが生徒達を襲わんとしたところで、一瞬で距離を詰めたブレインが一刀のもとに切り伏せる。視認すら出来ぬ一閃が自分の傍を通り抜け、背後に迫っていた敵を屠る。子弟達にしてみれば確かに今、命の危機であったと再認識させられた出来事であった。
「おいエルヤー」
「言われずとも」
しかし雑魚を易々と蹴散らしたブレインも、そして後方にいたエルヤーも今まで以上に精神を集中し、気を尖らせていた。その訳は、数瞬後に現れた魔物が答えそのものである。
「坊ちゃん共よ、下がってな。魔法の援護なんざぁいらねえ――お?」
エルダーリッチといえば高位のアンデッドで有名な魔物である。当然ながら学生如きにどうこうできる存在ではないためにブレインはすぐに生徒を下がらせた。そして下手に魔法で邪魔をされると逆に危険なため何もするなと指示をだそうとする。
しかし生徒達も己がエリートだという自負がある。流石に戦闘に横入りするほど愚かな者こそいないが、それでも《アンチイービル・プロテクション/対悪防御》を始めとする補助魔法を二人の護衛に掛けることぐらいはしてみせた――怯えていても、そのくらいの気概は見せたのだ。
「上出来だ」
「うむ……切り捨て御免」
戦士と魔法詠唱者の戦いは、如何にして距離を詰めるかということと同義である。よほどの実力差がない限り、接近戦において戦士がマジックキャスターに後れをとることはないだろう。逆もまた然り、ある程度の距離が存在する場合マジックキャスターが戦士に完封することもよくあることだ。つまり今この場において、エルヤーとブレインは圧倒的に有利であり、そして素の実力でも勝っている。
「あらよっ……と」
「……はぁっ!」
あまり使い手のいない刀という武器。その使い手であり、そして強さをも兼ね備えた二人の剣閃はまさに舞のような美しさでエルダーリッチを圧倒する。さして時間もかからずに高位のアンデッドを倒したことこそが、彼らの実力を如実に示しているだろう。
「やっぱなんかおかしいな……坊主共、念のため他のパーティにも伝達しといてくれや」
「は、はいっ!」
エルダーリッチを倒したにも関わらず、ブレインの直感はいまだに警鐘を鳴らしている。そもそもこんなカッツェ平野の端程度で高位のアンデッドに遭遇するほうがおかしいのだ。何かが起きていると推測するのも当然だろう。ブレイン達は撤退も視野にいれ、予定のルートを外れて元の集合場所へ向かう。
「さて、他にもエルダーリッチが出てるとすれば笑えねえな。難度どんくらいだったよ? エルヤー」
「オリハルコンクラスならば十分勝機はある、といったところだ。厚い護衛のついた生徒達に関しては問題なかろう。むしろそれ以下のクラスの冒険者や兵士が心配だ」
「そうか……っ! おい!」
「うむ!」
エルダーリッチなど比較にならぬ強者の気配。霧深き道の奥から漏れるその脅威を、二人はしっかりと感じ取った。彼らはそういった技能を持ち合わせているわけではないのだが、周囲の全てを感じ取る特殊な戦闘技能やここ最近の強者との邂逅によりことさら敏感になっていたのだ。
「ふむ、ちっときついか……?」
「立ち塞がるなら切るのみよ」
濃厚な闇の気配を漂わせ、その巨体から威容を発しているアンデッド。かつて帝国が多大な犠牲を払って捕獲した、正真正銘の化物だ。二人はそれぞれ能力を上昇させる武技を使用し、更にはマジックアイテムにより補助魔法をかける。掛け値なしの本気モードだ。
「坊主共、近付くな……だが、離れるなよ?」
既にアンデッドの領域外に近いため、これ以上戦力を増やされまいと撤退戦を敢行する二人。じりじりと追い詰められているように見せかけ、その実味方が集合しつつあるだろう場所へと進んでいるのだ。流石にこのレベルを相手にして生徒に配慮出来るなどとは彼らも思えないのだろう。少なくとも生徒の安全を確保できるまでは、まともに戦闘に入りはしないと二人は視線で確認しあった。
「強い……なっ! おらぁっ!」
「嬉しそうだな、ブレインよ」
「まあな、っと! 強者との戦いってのはやっぱこうだよな、いや、こうであるべきだ! 恐ろしい化物ってのも頑張れば打倒できるくらいが普通だよなあ!?」
「何を悲壮感を漂わせておるのだ」
「そうだ、俺は強い、強い、強い。そしてこいつを倒してもっと強くなるんだ……!」
「余所見をするな」
精神病の患者のように譫言を繰り返すブレイン。それでも戦闘はきっちりこなしているのが彼の凄いところである。何合もの剣戟が交わされ――そして十数分の後、戦闘は一つの決着を見せた。すなわち冒険者や兵士が集合する手筈の場所、そこへの到着である。
「よし、とりあえずは……っておいおい、マジかよ」
「予想されて然るべきであったな」
そこに居たのは撤退の報を聞いて帰還した生徒、冒険者、兵士。そしてそんな人間の群れに惹かれて集まってきたアンデッドの集団である。なんともアクシデントが続くものだと呆れるブレインであったが、救いがあるとすればそれは全く危なげなく戦っている状況そのものだろうか。いまだブレイン達が戦っているような高位のアンデッドは姿を見せていないため、その数に多少の苦戦はしているものの問題なく駆逐していると言える。
「このままあっちへ行くと混乱させるか……おいエルヤー、坊主共をあっちまでやってくれや」
「む……よいのか?」
「おいおい、俺はブレイン・アングラウスだぜ? この程度耐えられん訳がねえ」
「ふむ、了解した。すぐ戻るゆえ無理はするな」
「ああ……いや」
「…?」
「別に倒してしまっても構わんのグワァーーー!?」
「ブレイーーーン!?」
残念ながら、それは古今東西に知れ渡る立派な死亡フラグと言われるものだ。有名であるがゆえに回収も速いのだ。剣の一撃と見せかけた盾の一撃……に見せかけたデス・ナイトの蹴たぐりによってブレインは十数メートルに渡り吹き飛んだ。
「ちい、童達よ。すまんが自力であの集団に合流してくれんか。私はここで足止めに徹しよう」
「え、あ……はいっ!」
「うむ、良い返事だ」
生徒達の中でブレインとエルヤーの序列が明確に決まった瞬間であった。恰好をつけようする者が失敗するのはどこの世界でも同じようである。それはそうと、十数秒もあれば戻ってくるだろうと当たりを付けたエルヤーは武技を使い再度身体能力の底上げをしてデス・ナイトに挑む。
彼我のレベル差は通常であればまず覆せない程度に離れてはいるが、武技と――そして一時期だけ視力を失って得た、異常ともいえる知覚能力を武器にエルヤーは立ち向かう。
当たれば相当のダメージを負うであろう攻撃を全て紙一重で躱し、研ぎ澄まされた一撃を幾度も振るう。攻撃に比べて随分と防御能力に秀でているようだ、とエルヤーは推測し攻撃がよく通りそうな箇所を探す。
自分からすれば緩慢な動きにしか見えない攻撃など、例え一日経っても当たりはしないと判断したエルヤー。しかし千日手とまではいかないが、どれだけ攻撃すれば倒せるのか見当がつかないのもまた事実である。自分の集中力と体力が尽きるのが先か、相手が倒れるのが先か、といった具合だろう。
だがそれは自分一人の場合において、だ。ほどなくしてブレインが戻ってくるであろうことを考えれば限りなく勝算は上がるだろうとエルヤーは考えた。そしてその期待に応えるようにブレインはその場に颯爽と帰還した。
「待たせたなちくしょう!」
「何を興奮して……なっ!? もう一体だと!?」
そう、帰還したはいいのだが余計なものを複数引き連れていた。更なるデス・ナイトを後ろに引きずってくるブレインはまさにトレイン野郎である。
「残念、更にもう一体だ」
「なにぃ!? ええい、こっちへ戻ってくるな! あっち行け!」
「酷いな!?」
記憶が無くなってもほんの少しの残照や記憶の欠片が何かを感じさせたり、かつてのその人物の面影が出たりするのがハートフルストーリーの王道であるが、エルヤーに限ってはその残照が腐りきっているのでハートをフルブレイクするストーリーにしかならないだろう。
何が言いたいかというと、窮地に陥ったエルヤーからちょっと腐った部分が覗いてしまったということだ。記憶を失おうが人の本性は中々変わらないらしい。
「くっ……まずい、ぐあぁっ!」
「ブレイン……っ!? しまっ」
元々のレベル差がある上に、更には数の上でまで不利になれば勝敗は見えている。むしろ十数秒程度とはいえ食い下がったことが奇跡とも言えるほどだ。
そして彼らに共通して言えることだが、実は悪運が強いのだ。実力と粘り強さ、そしてその悪運が混ざり合って出た結果が今から起こる終劇に間に合った彼等への救いだ。
「くらいなさい……アルベイン流奥義!! 冥空斬翔剣!!」
「ああああ……」
「ど、どうされたのですか!? オーディン様!」
「な、なんでもないよ、うん」
「ボスの新技が出た」
「まあ確かに剣が飛んでるから斬翔剣なのは解るけどよ……なんで家名のアインドラじゃなくてミドルネームのアルベインなんだろうな」
「きっとノリ」
まるで緊張感のない空気で現れた蒼の薔薇とオデンキング一行。ラキュースが見せる早速の『アレ』にオデンキングは心を抉られるが、同士のアインズが居ないため頑張って耐えた。とにもかくにも、この集団が来た以上それは戦闘の終了と同じである。
蹂躙が始まる――
「それでー、アインズ様にはやはり側室くらい必要だと思うのよデミウルゴス。私の方は準備万端だからそれとなく囁いてほしいでありんすよ、その重要性を」
「ふむ」
「……」
「……」
ナザリックのBARにて異色の組み合わせで会話が進んでいる。基本はシャルティアが喋っているのみであるが、たまにデミウルゴスから相槌の言葉が返される。セバスとクレマンティーヌは若干蚊帳の外のような雰囲気になっているが、そもそも四人だけなのだから蚊帳もなにもないだろう。自然二人は話をすることになった。
「あー……さっき何かあったの? なんか変な雰囲気だったけど」
「いえ、お話しするほどのことではございません」
「そ、そう?」
何か話の種でもないかと先程の雰囲気について聞いてみたクレマンティーヌだが、セバスにサクッと拒否された。話が続かねーじゃねーかちくしょうと内心で愚痴っているのは内緒である。とはいえ彼女はセバス相手にならそこまで配慮するわけではない。ナザリック最後の良心とまで言われる完璧執事が自分に害を加えることはまずないだろうと確信しているからだ。ちなみに最初の良心はユリ・アルファである。
逆にデミウルゴスの方はというと非常に苦手としており、一見した柔らかい物腰とは裏腹に非常に恐ろしい一面があることを知っているのだ。
それはそうとして、パーフェクトな執事であるセバスが客の持て成しができないなどということがある筈もなく、話題に悩むクレマンティーヌに対して話の種を提供する。
「クレマンティーヌ様は何故こちらへ? 学院の行事へご参加と聞いておりましたが」
「んー……なんか面倒くさくなっちゃって。初めて馬車に乗ったのがここのだからさー、あんなに揺れるとは思わなかったっつーか」
「なるほど、道理ですな。そもそもナザリックの馬車はマジックアイテムでございますので」
「へー。そうなんだ」
それぞれ話に花が咲いているようだが、実を言うと今ここに仲間外れが一人居る。それは人間種であるクレマンティーヌ――ではなく、真祖の吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールンその人である。何故彼女が仲間はずれなのかというと、それはこれからの会話ですぐに解るだろう。
「そういえばデミウルゴス。あのちんちくりんの吸血鬼とはどうなのよ?」
「イビルアイ嬢のことでしたら、いまいち進展が無いと言わざるを得ませんね。それもあってツアレに助言を頂いていたのですが、セバスがいい顔をしなかったもので」
「おんやぁ? セバス、セバス、もしや嫉妬でありんすかえ? メイド達の噂は本当? くふ、くふふ」
「御戯れを。彼女とはそういった関係ではありません」
「性格悪ぅー…」
一瞬だけ交錯した――もとい睨み合ったセバスとデミウルゴスの視線の意味をしっかり把握したクレマンティーヌ。能天気なシャルティアの笑みを見てため息をついた。なんとか話題を逸らそうと悩み、そういえばとシャルティアを意味ありげに見つめて話し出す。
「イビルアイっていうとあのアダマンタイトの奴よね? で、セバスにもお相手が居る、と。ねえシャルティア? もしかしてあんた――――」
誰も相手居ないんじゃないの? と真実の刃がシャルティアを抉る。人間関係、もとい異形関係もこなれてきたことでクレマンティーヌのサドっ気もまた復活してきているのだろう。ピシリと固まったシャルティアの笑顔を見てニタリと口を歪める。
「ななななんですってぇ!? ならぬしは――」
「ディンちゃんが居るし」
「ぐぬぬ……! わらわに相手が居ないなどとは片腹痛いでありんす! それはもう毎夜の如く吸血鬼の花嫁達とぐっちょんぐっちょんの――」
「部下に無理やり、かー。どう思う? セバス」
「あまり褒められたことではありませんな」
「ううう……!」
普段なら自分に意見できることではないとお茶を濁すセバスも、先ほどのシャルティアの絡みに若干イラついていたのか執事にしては辛辣な返しである。しかしシャルティアは尚も食い下がる。自分に相手が居ないのはただ一人を想っているからこそだと。だがそんな彼女に背後から予想外すぎる声が掛けられた。
「わ、私にはまだアインズ様が」
「私がどうかしたか? シャルティアよ」
「アインズ様!? な、何故こちらに!?」
「わ、私も居るぞデミウルゴス」
「これはイビルアイ嬢。ご機嫌麗しいようで何より」
「儂も居るぞ……久しいなクレマンティーヌ」
「誰だよ」
アインズの登場に驚きつつも頭を垂れるデミウルゴス達。その後はそれぞれ挨拶をしているが、元秘密結社仲間の再開は中々に辛辣な言葉で返されたようだ。とはいえ知人ではあるものの、骨になった同僚に気付けというのは無茶な話だろう。この場合憤慨しているカジットと首を傾げているクレマンティーヌのどちらが悪いのかは難しいとろである。
「カジッちゃん……? はい? 何がどうしてそうなってんの?」
「うむ。それには並々ならぬ訳があってな。あれは貴様が姿を消してからのことだ、あの後」
「あ、そういうのいいから」
「何故だ!?」
「めんどい」
残念ながら同僚と気付いても辛辣さに変わりはないらしい。ぎゃあぎゃあとがなりたてるカジットとうるさそうにしているクレマンティーヌは、さながら頭の硬い中年オヤジとそれをうざがる女子高生のようである。
アインズとプラス二人を交えて、場は更に混沌としていくのであった。