オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

34 / 43
捏造&捏造&捏造

注意


悪気はなくとも

「(そろそろ始めますねー?)」

「(ええ)」

「(帝国軍、準備完了しております)」

「(王国軍も問題は無い)」

 

トブの大森林を囲むようにして出来上がった、戦力過多とも言えるような磐石な布陣。東を帝国の軍1000、西を王国軍500と雇われた冒険者500。そして南にはナザリックと蜥蜴人の戦士達が待ち構えていた。

 

計2000超とゴブリンの数に対して10分の1といったところであるが、戦力比で言うならば逆に1対10ではきかないほど離れているだけに、もはや大勢は戦う前から決していると言っても過言ではない。

 

帝国は職業軍人の育成に力を入れているだけはあり、ゴブリンなどものの数ではないだろう。王国の方は軍人の質では帝国に一歩も二歩も劣ってはいるが、その分冒険者を多数雇っている。ゴブリンとの戦闘経験がない冒険者など、それこそ駆け出しくらいの者だろう。

クーデターの一件で大貴族を含む幾つかの名家がとり潰され、領地や財産は全て国に接収されたが故に出来る金の使い方である。

 

そして作戦の根幹を担い、始まりの鐘を鳴らすのは帝国の客人であり最高レベルの実力を持つマジックキャスター、オデンキングだ。トブの大森林の上空でふわふわと浮かびながら各勢力の準備完了を待っており、暇だからと着いてきたクレマンティーヌと駄弁っている様は大規模な戦闘の前とはとても思えない有り様だ。ちなみにクレマンティーヌが浮いているのはオデンキングが渡したマジックアイテムによるものである。

 

「(了解です。…では)」

 

それぞれの勢力の指揮官と《メッセージ/伝言》でやり取りし、問題なさそうだと判断したオデンキングは作戦を開始した。

 

「いやー、研究の成果が早速役に立つとはね」

 

オデンキングが広範囲にわたり使用しているのは、低レベルのモンスターを恐慌状態にさせる魔法だ。位階は低く元々の効果もレベル40を下回る者にしか効かない、ユグドラシルでも初期以外は使わないような魔法である。

 

しかしアインズとフールーダとの研究により魔法の効果範囲や出力などを変化させる事に成功し、効果のあるレベルが40から下がり、耐性で弾かれる確率が上がったものの範囲を飛躍的に拡げることが出来たのだ。

 

つまりオデンキングは羊を追い立てる牧羊犬の役目だ。ゴブリン達を暴走させ森の外まで向かわせて待ち構える者達に殲滅させる。特にマジックキャスターを多く擁する帝国などは鴨撃ちの如く容易に対応でき、人的被害は相当に抑えられるのは間違いない。

 

「しかしそう上手いこと同士討ちにはならないな…ん? 今なんか抵抗感が…? 気のせいかな」

 

僅かに弾かれた感触があったことに疑問を覚えるオデンキングだが流石に一回の魔法の使用で広い森をカバー出来る筈もなく、まだまだ仕事はあると気にせずに移動していく。それが予想外の被害拡大の火種になるとは、思いもよらずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クアイエッセ・ハゼイア・クインティア。彼は法国の特殊部隊漆黒聖典の一人であり、多数の殲滅という領域に於いては人類の中でも最上位といえるほどの実力を持っている。

 

通称「一人師団」と呼ばれる理由は数多くの強力な魔物を次々と召喚し、使役するという戦いかたにあった。特に難度でいえば百近い強さを持つギガントバジリスクすら複数従えることが彼の類い稀なるテイマーとしての実力を表していると言えるだろう。そしてそんな彼は今、トブの大森林に足を踏み入れていた。

 

先日漆黒聖典の一部がこの周辺を探索した際にゴブリンの異常発生に気付き、その報告を受けた法国が殲滅に最適な彼を派遣したのだ。そして彼は森の中ほどまで踏み入り、自身が使役出来る最大の数を召喚して殲滅を開始しようとしたところで―――悲劇に見舞われた。

 

「ぬおおおぉぉ!?」

 

何らかの波動を感じ、何とも言えない違和感が辺りを覆った。そしてその瞬間に起きたのは召喚した魔物達が恐慌状態になり制御不能になった挙げ句、蹂躙するはずだったゴブリンの群までもが暴走するという事態だ。

 

彼は優秀なテイマーだ。召喚した魔物の質も数も、人類という枠組みならば最高と言えるだろう。だが、だからこそ直接的な戦闘は不得手としているのだ。

もちろんレベルとしては充分に高いものがあり、レベル差によるごり押しでギガントバジリスクの一体程度ならば己のみで打倒することも出来ないことはない。

 

しかしテイマーやサモナーの強さというものは総じて、個ではなく群れとしての強さなのだ。暴走状態の高位の魔物の群れ、それに暴走状態の無数のゴブリン。それを体一つでなんとか出来るかといえば―――無理と言わざるを得ないだろう。

だから彼は全力で森を疾走している。テイマーとして自分が操っている筈の魔物に殺されるなど笑い話にもならない、そんなことを考えながら久しぶりの命の危機に心臓を鳴らしてひたすらに、ただひたすらに走り続ける。

 

「ぬぐぅ…それなりに散らばってしまっているようですねぇ…! どうしましょう」

 

このままでは人類を守護するどころか、被害を増加させるだけなのは間違いない。しかしどうしようもない。

 

「くっ…一体何が…? 自然現象とは思えないがうぉっ! クソがぁ!」

 

何処のどいつのせいだちくしょう! と叫びながら華麗に紙一重で攻撃を捌きつつ丁寧な口調が次第に崩れていくクアイエッセ。その誰とも知れぬ者への罵倒がクレマンティーヌとよく似ていたのは、まさに兄妹故と言えるだろう。

「うおおぉぉぉ死ぬ! マジで死ぬ! ……え?」

 

そしてバラバラに散ったギガントバジリスクの内3体が何故か執拗に追い回してきたため、方向も解らずにひたすら回避と逃走を繰り返していたクアイエッセ。

もはや誰だお前と言うほどに崩壊したキャラはその逼迫した状況と彼の必死さを物語っている。だがその内の一匹が上から降ってきた人間によって一瞬で絶命させられ、クアイエッセに間抜けな声を上げさせる。

 

「無様ねえぇぇ…お兄ちゃん? こんなのに執着してたなんてー、かつてのわた」

「助けてマイシスタァァァー!!」

「誰だお前はぁぁぁー!!」

 

空を飛んでいると懐かしい声が聞こえた気がして出所を探し、クアイエッセを発見したクレマンティーヌ。もはや大した感情も抱いていない兄ではあるが、かつて無いほどに醜態を晒す兄を見て取り敢えず馬鹿にしてやろうと降下したのだ。ちなみにオデンキングにはちょっと所要と言って離れたため、お花を摘みに行ったと勘違いされている。

しかし悲しいかな、少しの憧憬と狂おしいほどに憎悪したかつての兄はもういなかった。南無。

 

「お兄ちゃんと呼んでくれるなんて嬉しいですよクレマンティーヌ」

「皮肉に決まってんだろうが!」

「照れるな照れるな」

「ぐあぁぁ…!! やっぱり殺そうかな…!」

 

頭をガリガリと掻いて苛立つクレマンティーヌ。ちなみに二人とも絶賛全力疾走中である。ギガントバジリスクも2体ならばなんとかなると気を緩めたクアイエッセ。

 

そしてナザリックでの出来事を法国で聞いていたためクレマンティーヌにここにいる理由を問い掛けた。既に口調も戻っているのは命の危機が消えた故か、それとも妹の変化を兄として感じ取ったからか。

 

「ところで何故ここに? 隊長から異形種の巣窟で慰みものにされていると聞いていましたが」

「どんな伝わりかた!?」

「というのは冗談で、なにやら遅い春がきていたと聞きました」

「は、はぁ? ナニソレ」

 

なんともわかりやすい反応になるほど、と頷くクアイエッセ。態度が随分と軟化しているのはきっとそれのおかげなのだろうと当たりをつけた。

 

「しかし何なんですかねこの状況は。何か知りませんか? 愛しの妹よ」

「死にたい?」

「冗談です」

 

報告を聞く限り既に自分よりも強いのだろうと推測しているクアイエッセ。しかしどちらにしても魔物を使役出来ない今の状態では以前のクレマンティーヌにすら容易く殺されるのは間違いない。

 

だが不思議とそんな事にはならないだろうという確信がクアイエッセにはあった。むしろこれが普通の兄妹のやりとりなのかと思うと頬が弛むほどだ。

残念ながら普通の兄妹はゴブリンと高位の魔物が渦巻く森で全力疾走しながら談笑などしないが。

 

「で、どうな……おや?」

 

改めて此処にいる理由とこの状況の説明を問い掛けようとしたクアイエッセ。だがその前に森がひらけ平原に出る。恐るべきは人類最高クラスの移動速度であった。この場合は着いてくることが出来たギガントバジリスクを褒めるべきだろうか。

 

スタートした場所にいたゴブリンなどは既に遠く置き去りにされているものの、道中にいたものや他の魔物も引き連れて―――といよりかは追いたてて、といったほうが正しいだろうか、とにもかくにも魔物の軍勢を率いるような形で森を出てしまった二人。目の前に拡がるのは平原、それも冒険者や兵士がちらほらと見える。

 

「お、おい? なんだよあれ。ゴブリンどころか…!」

 

予定していたゴブリンの群れとは違い、それ以外の魔物―――特に、紛れている高位の魔物を見た彼等は不安そうにざわめきだす。

 

「冗談じゃねえ! こんなところに居られるか! 俺は街に戻らせてもらうぜ!」

 

そして低ランクの冒険者のほんの一部が死亡フラグを立てながら敵前逃亡をはかる。とはいえゴブリンと戦うということで請け負った依頼が、自分では到底勝てない魔物と戦う形になれば仕方のないことではあるだろう。

依頼の放棄で失う信用、それもギルドの調査不足という大義名分があるような致し方ない形と、自分の命。後者を選ぶのを悪というものは少数派である。とくに冒険者など命あっての物種だ。

 

「く、各班に伝達。 高位の魔物はゴールド以上の冒険者複数で当たらせよ! 陣を後退させつつ時間稼ぎに徹させろ、応援を呼ぶ!」

 

不測の事態があればナザリックから応援を出す。指揮官には通達されている情報だがいきなり異形種や亜人種が姿を見せても混乱のもとであり、まず呼ぶことはないだろうと事情を話されている誰もが考えていた。

しかし状況を鑑みた指揮官達は早々に決断した。遠からず戦線が崩壊することを考えれば英断だと言えるだろう。

 

「蒼の薔薇はどうしている! 出来ればあの一番厄介そうなのを受け持って欲しい!」

 

巨体で暴れまわり、近くの人間達を次々とその魔眼によって石化させていくギガントバジリスクを見てアダマンタイト冒険者になんとかしてもらおうと部下に尋ねる指揮官。

 

「それが、あの魔物を率いてきた不審な人物と交戦中でして…」

「く…やはり人為的なものか? まずいな」

 

帝国の陰謀やナザリックとやらの策略が脳裏に過る指揮官だったが、出来ればそうであってはほしくないものだと頭を振りながら《メッセージ/伝言》を使用する。

 

「(こちら王国軍指揮官のセシルだ。予想外の事態のため至急増援を―――」

 

戦況は加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何者だお前たち。あれだけの魔物を引き連れてきてよもや無関係とは言わないだろうな?」

「…不運が続きますねぇ」

 

森を抜けたところで邂逅したクインティアの兄妹と蒼の薔薇。流石にこの不審な人物を捨て置くことは出来ないと行く手を遮り問い詰めるイビルアイ。対してクアイエッセはやれやれと肩を竦めて溜め息をつく。

 

そしてクレマンティーヌはというと―――

 

「でー? 無関係じゃなかったらどうするのー?」

 

にやにやと嘲りを含んだ表情で煽り始めていた。久々に手応えのありそうな相手ということもあり、戦闘準備万端である。

 

「ふん、捕まえて尋問するまでだ。その癪に触る顔がいつまで持つか数えておくがいい」

「縛りかたに期待」「最近陰薄いね、ボス」

「そ、そんなことないわよ。今日こそ私の暗黒刃超弩級衝撃波が炸裂する時…!」

「おい、嫌な予感がするんだが」

 

イビルアイが調子に乗ると強敵が現れる。最近負け続きなガガーランの予想はばっちり的中である。

 

「二人で戦うのは始めてですね。さて、どうしたものか」

「あっははは! 死ねオラァッ!」

 

飛び出すクレマンティーヌに呆れつつ、支援魔法を自分と妹に掛けるクアイエッセ。そうはさせじとティアとティナも飛燕の如く動き出した。

 

更に更に、戦況は加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、いくらなんでもこれは…!」

 

着の身着のままで王都を飛び出したブレイン。森に向かうと決めた彼であったが、当然旅装もなにもない状態で何日もかかる森に辿り着ける筈もない。

 

心の袂にあった熱い思いも、胸の襷としていた友の勇姿も、現実の空きっ腹に勝てることなく行き倒れることと相成った。しかし幸運なことに通りがかった商人に助けられ、かなり遠回りになったが帝国の村を経由して森に向かうことが出来たのだ。

 

しかしいざサバイバルだと奮起して、1日ほど経ったところで魔物の津波に襲われる。特に一対一でも厄介な魔物が複数となれば撤退しかないかと攻撃を捌きつつ、帝国の方向へ向かうブレイン。

 

暫し走り続け森を抜けたところで、外に拡がり魔物と戦っている帝国軍に驚かされる。

 

「魔物の暴走は折り込み済みか…? いや、それにしては苦戦し過ぎだな」

 

魔物を待ち構えるような陣形の軍を見てこれが人為的なものだと推測したブレイン。しかし随分と苦戦している様を見て首を傾げる。

 

「まぁなんでもいいか。だがあのデカブツはいい練習相手になりそうだ」

 

ニヤリと微笑みギガントバジリスクに蹂躙されている一角に突撃していくブレイン。それは悲劇の始まりだとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王国軍と同じく苦戦の様相を呈している帝国軍。まだ完全に崩れていないのは練度の差が如実に表れているのだろう。そして少し焦りながらも的確な指示をしている指揮官の横に現れる黒い靄。そこから出てきたのは見目麗しい少女と多数の蜥蜴人の戦士達。

 

「応援の要請により参上したでありんす。私は勝手にやるでありんすから蜥蜴人に指示をやって。同士討ちには気を付けてくんなまし」

 

出てきた少女―――シャルティアに一瞬見とれていた指揮官だが、その言葉にはっとして急いで兵士達に伝達し始める。

とはいえ戦闘中、それも混戦といっていいほどに乱れた戦線でまともに連絡網は機能していない。

 

だが急に蜥蜴人達が戦線に入り込んだとはいえ、自分達を助けているのを見れば聞かずとも解ることだ。特に帝国の軍は鍛えられた精鋭であり、現場の判断もしっかりしている。この状況に即応したのも当然の結果であった。そしてシャルティアの方といえば、空から戦場を俯瞰しながら少し逡巡していた。

 

「まとめて吹っ飛ばしたいでありんす…」

 

随分と不穏当な発言だが、一番最適なやり方は兵士を全員引かせた後にシャルティアが一気に蹂躙すれば手っ取り早いのは確かだ。しかしアインズにより共闘せよと命じられたシャルティアは、その考えを捨てて地上に戻る。

 

「…」

 

一拍置いて、蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

紅い鎧を身に纏い、特殊な形状の槍を持って戦場に佇む無言の少女。

 

鎧のせいで大部分が見えずとも、圧倒的な美しさは隠せない。

 

嗤いながらもありえぬ速度で魔物を屠る。

 

隙間隙間を縫うように、通れば残るは死骸のみ。

 

瞼を数度瞬かせれば、紅い軌跡が奇跡を起こす。

 

死の間際を何度も救い、その存在を知らしめる。

 

人ではありえぬその牙も、気付いたものは居たけれど。

 

戦場に立つ戦乙女が人ならざる者であったとて、何を気にすることもなく。

 

彼等はそれに奮い起つ。意気軒昂に、意気揚々と、士気は最大で意気は最高。

 

 

シャルティアの暗く紅い輝きは全てを魅了して、綺羅星のように戦場を照らす。人も、蜥蜴人も、彼等が息をついたとき全ては終わっていた。

 

血の一滴すらその身に着いてはおらず、美貌を損なうことなく戦場を終わらせた彼女は、正しく英雄であった。

 

だが―――

 

「ひっ、あぁ、うわぁぁぁ!」

 

彼女を化物と断じて逃げ出す男が一人。その狂態に、その恐怖に彩られた表情に「吸血鬼」の三文字が脳裏に甦る兵士達。

 

英雄か、悪鬼か。男が狂乱し、誇りもかなぐり捨てて逃げた方向は偶然にも軍の責任者の元であった。

肩を掴み、どうしたのかと問い詰める。やはりそれほど危険な存在かと、応援を呼ぶべきではなかったのかと、考えながらも問い詰める。

 

「おい、彼女に…何か、あるのか!」

 

機嫌を損なわれるのは恐ろしい。曖昧な表現で言葉を濁す。これだけの人数にも関わらず、静かすぎるその場には男の声がよく響くだろう。

 

「あ…あああ、そうだ、あ、あいつは化物だ!」

「…! 何か、いや、何をされた?」

 

緊張が走る。そして漸く男の正体に気付いたシャルティアも苦虫を噛み潰したような表情になった。だが今動けばろくな事にならないのは彼女にも解っている。結果として、誰も彼もが男の言葉に固唾を呑んで見守った。

 

「俺の、いや…俺以外、殺されたんだ。あんなの、あんな奴勝てる訳が…やっぱり駄目だ…俺には無理だ」

「…何があった? 何故殺されたんだ。何処かに所属していたのか?」

「女を拐って、あいつらが楽しんでいたんだ…。誰も敵わない、敵うはずがない…。俺は、俺はあいつらを、死を撒く剣団を囮にして…」

 

まさかの自白だった。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

「捕らえろ」

「のあああぁぁぁ!!」

 

自業自得である。

 

そして一気に空気が緩み、皆が口々に英雄を讃える。

 

「あ、あの! お名前は…」

「あなたの様に美しい方を始めて見ました…!」

「先程は命を救われて…」

「結婚して―――」

 

称賛と感謝の嵐が巻き起こる。人間も、蜥蜴人も隔たりなく輪になっている様は、きっとアインズが目指す諸国との友好関係の理想だろう。

 

「へ? え? わ、ちょ、ちょっと待ちなんし」

 

戸惑うシャルティアが少しだけ嬉しそうな顔をしているのは、見間違いではないのかも知れない。

人間に対する見下しや侮蔑の感情は無くなりはしない。それは、そうあれかしと創られた彼女の根幹なのだから。それでも純粋な正の感情を向けられた時、悪で返さずにいられるのはアインズとオデンキングの苦労が芽吹いたからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、なにやらゴブリン以外の魔物もそこそこ混じっているようだな」

 

森の南側を受け持ったアインズ達。蜥蜴人は先に避難させておき、共に戦いたいと希望する戦士は同じ戦場に居た。

 

「そのようで御座いますアインズ様。しかし所詮は有象無象、アインズ様の前には塵と芥程度の違いでしょう」

 

んばっと手を広げアインズを褒め称えるパンドラズ・アクター。

 

「しかし良かったのでしょうか? これでは諸国との関係もたかが知れたものとなりますが」

「いいのだ、パンドラズ・アクター。無理を通せば何処かに必ず歪みが出来る。まずは共に闘ったという事実だけでいい。我等は悠久の時を生きるものだ、急ぐ必要は無い」

「かしこまりました。アインズ様の御心のままに」

 

結局は三方協力作戦となったこの騒ぎ。ともあれ帝国のトップと王国のトップとは真の姿を曝して顔合わせが出来たのだ。外堀はゆっくり埋めていけばいいとアインズは考えている。

 

「…充分に引き付けたようだな」

 

立ち上がり、超位魔法の準備を始めるアインズ。蜥蜴人には初手はこちらで行うと通達したため、心置きなく放つことが出来るのだ。

 

「消えろ」

 

神の域に達する魔法。ただの一撃で見渡す限りの敵を消滅させた有り様を見て、蜥蜴人達が完全に同盟と言う名の服従を選んだのは当然の帰結だろう。

 

「ゴブリン以外にも結構住んでるんだなあの森」

 

途切れた敵を見て呟くアインズ。少なくとも彼にとっては雑魚には変わりなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルベドの結婚計画 1

 

 

 

 

 

 

「で、どうかしらデミウルゴス。私としてはこっちのプランがいいと思うのだけど」

 

かなりの時間を掛けて作った渾身のブライダルプランの内、幾つかのパターンにわけている部分をデミウルゴスに相談しているアルベド。barで飲んでいる際中だったため、隣には興味深そうに眺めているコキュートスの姿もある。

 

「…」

 

呆れているのか、諦めているのか、眉間に指を当てて揉んでいるデミウルゴス。はあ、と溜め息を一つついた後、計画書に目を通す。無視しない優しさは彼が苦労人である証左でもあるのだろう。

 

「…ふむ」

 

やっていることはともかく、有能な守護者統括だけあって粗が無く無理もない、けれど華やかなプランだ。

 

「いいのではないでしょうか。予算もこの程度ならば…。しかしアインズ様はご存じなのですか?」

「まだよ。面倒な部分は妻が全てやってこそ内助の功と言えるのではないかしら? くふ、くふふ」

 

妄想にトリップしたアルベドを見て駄目だこれはと匙を投げるデミウルゴス。

 

「…はっ! 危ない危ない。まだ我慢よアルベド、ヴァージンロードを歩くその日までは…」

「ム、呼ンダカ?」

「ヴァ・ア・ジ・ン・ロ・オ・ド。ヴァーミンロードはお呼びじゃないわ」

 

ちょっとしたお茶目はアルベドの冷たい視線によって切り捨てられた。その冷たさたるや冷気に対する完全耐性を持つコキュートスですら寒気を覚えるほどだ。以後この計画について不用意に口出さぬよう肝に命じたコキュートスであった。

 

「しかしこういった事には私も貴女も詳しいとは言えませんし、万全を期すならオーディン様に助言を頂いてはどうでしょう」

「ええ、そのつもりよ。なんといってもアインズ様の一番の御友人だもの」

 

間違いなく録なことにならないだろうが、それを止める者はここにはいない。

 

「楽しみだわ…。くふ、たのしみーだわー」

 

椅子の上で膝を抱え、頬を染めながら微笑むアルベド。少し幼児退行気味なのは幸せに浸かりきっているからだろう。大墳墓が別の意味でアインズの人生の墓場になるのか、それはまだ解らない。




突っ込みどころが結構あると思いますが、気にしない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。