オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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プロローグはこれで終わりです。次回はプロローグ1の冒頭、俺最強なのに下積みからかよマンドクセ。なところから始まります。


プロローグ終

「お、オデンキングさん…ですか…」

 

ペテル達は戸惑っていた。いくらなんでもその名前は無いだろう。

あからさまな偽名を名乗られている、いや偽名ならもっとそれらしい名前を付けるだろう。

では偽名ではないのだろうか、いやいやそのほうがもっとありえないだろう。

 

そういえば顔立ちが見たことの無い人種な気がする。

彫りが浅く黒髪黒目、この辺ではまず見かけない容姿だ。

というか良く考えたらさっきので死んでない時点で人間じゃないのかも、等と各自色んな事を考えていた。

 

そんな時オデンキングはこちらもこちらで色々と考えていた。

 

「(まあさっきの阿呆な妄想は置いといて、しかし異世界云々はあながち間違っていないんじゃないだろうか。さすがにこの質感が仮想現実とは思えないし、体もゲームキャラそのものだ。

とすれば俺が取るべき行動は…)」

 

「いえいえオデンキングではなくオーディン・キニングと申します。さっきの落下のせいか呂律が回らなかったようで」

 

既に名乗ってしまったゲーム用の変な名前を、出来る限り自然に取り繕う事であった。

 

 

 

 

 

「《フライ/飛行》で飛んでいたらいきなり…ですか」

 

オデンキングは現状を確認するため「漆黒の剣」へ同行を願い出たところあっさりと快諾した彼等と共に、踏み締められ固くなった道を進んでいた。

 

「ええ、あまりにも異常な事態に驚いて恥ずかしながら墜落してしまいまして」

 

少しでも情報を得たいオデンキングは積極的に彼等に話しかけることにする。

 

「そんな、全然恥ずかしいなんてことありませんよ!《フライ/飛行》を使えるだけで尊敬しちゃいます」

 

《フライ/飛行》は超位魔法を除くと全部で10段階に分けられる魔法の内の下から数えて3番目。

つまり〈ユグドラシル〉でいうと魔法職なら誰でもすぐに使えるような初歩の呪文である。

 

「(マジか。第3位階の魔法で尊敬されるのか)そう、ですか。私の居たところでは割と誰でも使える魔法だったんですけど…」

 

オデンキングは〈ユグドラシル〉の事について隠すつもりはない(態々説明することもないが)。楽観的な性格をしているというのもあるが、そこそこの人生経験から得た教訓として嘘はなるべくつかないほうが結果的に上手くいくことが多いということを知っているからだ。

 

嘘を誤魔化すために嘘を塗り重ね、結局整合性もとれずに信用を失う。

そんな人を長いとも短いとも言えない人生の中で幾人か目にした。

もちろん嘘をついたほうが角が立たない場合があるのは理解しているし、そもそも価値観は人其々であり自分が正しいなどとは欠片も思ってはいないがそれでもオデンキングはなるべく嘘はつかないように生きてきたし、ここがどこであろうともその気質を変えるつもりもなかった。

 

ちなみに名前については嘘をついた訳ではなく、オデンキングの自己認識的にもきっちり改名していた。

ゲームならともかくリアルであんな名前を常用するほどオデンキングは非常識ではないのだ。

 

そう、けっして恥ずかしくてとっさに嘘ついちゃったからではないのだ。

 

 

「おいおいどんな魔境だよそこは、それとも超エリートが集う学院とか? その装備もちょっと見たことないレベルで凄そうだしな~」

 

ルクルットが少し羨望が混じった目でオデンキングの装備を眺めて言葉を続ける。

 

「魔境と言えるところは確かに沢山ありましたがそれでも皆楽しんでいましたよ。装備については…フフ、苦労しましたからね」

 

全身をゴッズ級の装備で揃えるのは中々に苦労するのだ。誉められて悪い気がするわけもない。

 

「ふむ、やはり凄そうな場所であるな、その〈ユグドラシル〉という国は」

 

ダインがその立派な顎髭を撫で付けながら感嘆の声を上げる。

 

「あー、正確には国という訳ではないんですが…。やっぱり聞いたことありませんか?」

 

すべて説明すると時間も掛かるし面倒臭いためそのまま話を進めていく。

 

「うーん、申し訳ないけどやはり耳にしたことはないかな」ペテルが謝意を含んだ声色で返す。

帰る当てのつきそうにないオデンキングの心情を気にしているのだろう。本当に良い人である。

 

「ま、もしかしたらギルドで聞けばなにか情報があるかもしれないしそう悲観的になりなさんなって」

 

ルクルットが持ち前の明るさで気さくにオデンキングを励ましてくる。

別に帰りたいとかそういった感情は今のところオデンキングにはなかったが、その心遣いはやはり嬉しくなるというものだ。

 

「もうすぐエ・ランテルに着きますし何か情報があればいいですね」

ニニャが屈託のない笑みで会話を締めた。

 

 

 

 

 

 

「では俺たちは一度宿によってからギルドに向かいますので一旦お別れですね」

 

「ええ、本当に助かりました。このお礼はいずれ必ず」

 

ギルドへの道を教えてもらった後、先に宿に寄るという「漆黒の剣」と別れ単身ギルドへ向かうことにしたオデンキング。

 

「いえ、困った時はお互い様ですから。ではまた後ほどに」

 

言うのは簡単だが実際に行動が伴っている人間がどれほどいるだろうか。

異世界に転移して一番最初にこの4人と出逢えたことはきっととてつもない幸運だったのだろうと、それを噛み締めながら4人と別れる。

 

「やっぱニニャちゃん女の子だよなあれ…。ああ結婚してえ…」

 

オデンキングもといオーディン・キニング。

 

本名 佐々木 鉄平 実年齢31歳 現在の身体年齢19歳。

 

女性に余り縁のない独身貴族である。

 

 

 

ギルドの扉を開けると屯している屈強そうな男達から視線が飛んでくる。

オデンキングを目にした彼等はまずその装備の威容に驚いた。

今までの人生でお目にかかったことのない程に質の高そうなローブ、淡く光る宝石を幾つも嵌め込みそれでいて嫌みにならず芸術性を感じさせる杖、おそらくマジックアイテムであろうシンプルだが美しい輝きを放つ指輪。

 

人の印象の50%は最初の第一印象で決まるというが、オデンキングを見た冒険者達は間違いなく凄腕のマジックキャスターだと認識しただろう。

 

「冒険者登録をしたいのですが、こちらのカウンターでよろしいのでしょうか?」

 

オデンキングは自分にかかる視線の意味をしっかりと理解し―――

「(優越感で蕩けそう)」

 

顔がにやけそうになるのを必死で堪えていた。

 

 

「はっ、はい。こちらで間違いございません」

 

ギルド嬢は緊張していた。確かにここのギルドにも高ランクの冒険者は存在するし、手続きをしたことも一度や二度ではない。

リ・エスティーゼのギルドを拠点にしているアダマンタイト級冒険者も遠目になら見たことはある。

しかし今目の前に居る男が持つ雰囲気はそれと比べても遜色が無い、いやそれどころか―――

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「えぅっ?あ、も、申し訳ありません。すぐに手続きをさせていただきます」

我にかえったギルド嬢はすぐに手際よく手続きを始める。

 

「(私が考えても仕方ないことだし仕事に集中しなきゃ…)」

 

真面目に仕事を進めるギルド嬢に対しオデンキングはといえば

 

「(誘ってきてもいいのよ)」

 

優越感と自尊心、その他諸々をくすぐりまくられるこの状況を楽しんでいた。

というかぶっちゃけると調子に乗っていた。

異世界様様である。

 

 

 

 

 

「オーディンさん」

 

「あ、皆さんもう来られたんですね」

 

無事手続きも終わり依頼を探そうとしていたところで「漆黒の剣」がギルドへと入ってきた。

 

「あれ、冒険者登録されたんですか?」

 

ニニャがオデンキングの銅のプレートを見て少し驚きながら声を掛ける。

 

「ええ、〈ユグドラシル〉の情報もなかったので取り敢えず地に足をつけようかと」

 

「ハハッそりゃいいや。また墜落したらかなわねえもんな」ルクルットがからかい気味に話しかけてくる。

 

「ぷっ、ちょっ、とルクルット、オーディンさんにフフっ、失礼だよ」

 

ツボに嵌まったのか笑いがとまらずに、泣き笑いのような表情で謝ってくるニニャ。

 

「(天使がここにいた。ニニャちゃんマジ天使)」

 

女の子に余り縁がないオデンキングは可愛い女の子に少し気安く話し掛けられただけで舞い上がってしまうのだ。

 

俗に言う「オタ男子がビッチギャルに普通に話し掛けられただけで惚れちゃった現象」である。

 

 

 

 

そんなこんなでギルドでの談笑を終え、依頼を受ける時間もなくなってしまったため4人と別れ宿を探す段になってオデンキングはようやく気付いた。

 

「この国のお金もってねえや」

 

結局、聴いた筈の「漆黒の剣」が泊まる宿の名前もド忘れしたオデンキングは誰にも頼れず途方に暮れ、街を駆けずり回って見つけたアングラな雰囲気漂う怪しげな商人によって〈ユグドラシル〉の金貨を王国の通貨に替えることに成功したのである。

 

買い叩かれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、もっとしっかり杖を握って」

 

「は、はい。あ、あの…」

 

「ほら、また重心がずれてる。後衛だからって体術に無関心ってのはいけないよ。相手が前衛を抜けて突進してきた時に上手く避けられるかどうかでパーティの命運を別つときだってあるんだから。

…それっ!」

 

「ひゃんっ!? あ、あああのそこまでくっつく必要はないのではないでしょうか」

 

「こっちのほうが効率がいいんだ」

 

「あ、あの、でも…」

 

「男同士なんだから何も問題ないだろ? …それとも何かあるのかい?」

 

「い、いえ、その…大丈夫です」

 

「よ、よし今度は関節技だ。実際に掛けてみるから、が、頑張って脱け出すんだ」

 

「い、いやどう考えてもマジックキャスターの鍛練じゃ…ちょっ…あ、あの、目が怖いですっ、て、きゃっ!」

 

イヤーーーーー……

 

 

 

 

 

 

 

「…良い夢だった」

 

 

爽やかな朝の目覚め。

オデンキングは夢ですら調子に乗り始めていた。

 

 

朝、目が覚めたオデンキングは〈ユグドラシル〉から異世界に来たことが夢では無かったことにほっとしたような残念なような何とも言えない気分になっていた。

 

「やっぱ多少の未練はあるのかな?」

 

こんな状況になって悩まない人間の方が少数派であるのは間違いない。

どちらかといえばオデンキングは割りきっているほうだろう。

精神の安寧に、前日の羨望の視線がどれだけ役に立っているかは本人のみぞ知るところである。

はっきりしているのは、帰る手段があってもそれが一方通行ならばこちらに残るのは決めているということだ。

 

 

「さて、と」

 

 

そう、これから始まるのだ。伝説の魔物を軽々と倒しあっという間にアダマンタイトに上り詰め、呼ばずとも美少女が集まってくる夢の生活が。

 

現実では居るはずもないような悪徳奴隷商人。そいつに虐めぬかれる、普通に考えれば売れ残ってるのは有り得ない美少女奴隷を助けて惚れられる展開が。

 

 

たまたま街でタイミング良く悪漢に襲われる美少女を救ったら偶然にも御忍びで街に出ていた第三くらいの王女で都合良くその次の日くらいに悪の大臣が謀反を起こして王女なのになぜか護衛もなく逃げるところをたまたま目撃してなし崩し的に同行して、愛を育むのに程よい距離の王女の庇護者を頼る旅が始まるのだ。

 

 

「俺の勝ち組人生が今始まる…!」

 

 

オデンキングはまだ知らない。

 

 

〈ユグドラシル〉でも悪名高い、異形種のみで構成されているPKギルド「アインズ・ウール・ゴウン」が同様に転移してきていることを。

 

 

「美少女…いや異世界なんだから美幼女もありか? アグ〇スだって流石にこんなところまでは…」

 

 

オデンキングはまだ知らない。

 

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のNPCが自我を持って動きだし、その95%以上が人間を嫌悪し、侮蔑し、下等生物だと見下しきっていることを。

 

 

戦力比でいえば100対1かそれ以上で負けていることを。

 

調子に乗っているこの男はまだ何も知らない。




このオリ主は俺tueeeeではなく、アインズ様tueeeeeeeクフーーッのための主人公です。(未定)

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