アインズ×チャイナ婆の可能性が微レ存…?
フールーダ・パラダイン。
帝国が誇る最高のマジックキャスターであり、主席宮廷魔法使い。
そして帝国魔法省最高責任者であり、英雄の壁を越えた大陸に4人しかいない「逸脱者」の魔法使いの1人だ。
彼は自身が人類でも最高のマジックキャスターであるということを理解している。
それ故に果てしなき魔法の深淵を覗くためには先達者が必要でありながらも自分以上の先達者は居ないというジレンマを持っていた。
後進の若輩者達を育てるのも悪くはないが、やはり自身を高めたい、魔導の探求と探究、未知の領域に足を踏み込みたいという思いは常に持っている。
だからだろう。優秀な教え子でありそれ以上に親愛を感じるジルクニフから第5位階、もしかするとそれ以上の位階を使う可能性のある人物を宮廷に招待したという話を聞いて一も二もなく同伴を申し出たのは。
そして今、彼は神と出会った。
「ほう、珍しい容姿をしていると思ったら全く違う世界から来訪したと?」
「はい、自分でもあまり良く解らない状況だったんですが取り敢えず魔法や種族など共通点が多いので世界を見て回ってます」
オデンキングは特に上手い言い訳も考え付かず、性分として嘘を付くのも好きではないので話せる限りでは真実を語っていた。信じられずとも真実なのだから仕方ない。
自分ほどの実力者が全くの無名だった理由も、世界の常識に疎いのも、情報を集めている理由も全てこれで解決出来るというのもある。
話していて解ったがこの皇帝は自分よりもずっと聡明で思慮深そうだ。貴族でもない自分に対して少しひょうきんな部分も端々ににじませている。
ということはそれなり以上に帝国に引き入れたいと思われているのだろう。ならば荒唐無稽な話を語ってもその嘘をついた事に何か理由があると判断するか、真実と信じるか。
どちらにしても表面上はその話を事実として扱う可能性は高い。
事実、こうして話してみても頭ごなしには否定せず、多少の疑念を見せながらも話を続けている。
むしろ気になるのは皇帝と一緒に居る老人だ。挨拶をした後にこちらを凝視したままずっと固まっている。というか何かプルプル震えている。
フールーダと自己紹介されたがもしかしてプールーダだったのだろうか。そんなアホらしいことを考えながら話しているとその老人が急に皇帝の話を遮ってこちらに突進してきた上に足元に這いつくばった。
「うぉわっ!?」
「神よ!」
「はい!?」
いきなり神と言われた。パラダインさんは頭がパラダイスのようだ。
「貴方こそ……貴方こそ私が探してやまぬ魔導の神であった…! どうか! どうか私めを弟子にしていただきたい!」
「え、えぇー……」
「貴方様にこの身すべてを捧げます! 何卒その叡智と魔法の真髄を欠片でも伝授していただきたいのです!」
この身すべて捧げる。言われてみたい言葉TOP5に入る素敵な言葉だ。ただし可愛い女の子にだが。
「えーと、あの…。皇帝陛下?」
なんとも言い難いこの状況に皇帝の方を窺う。もしかしてこの状況も自分を引き入れる作戦の一環なのだろうか。いや、どう考えてもそれはない。
「フールーダ、客人が引いているぞ。お前が魔法に全てを捧げているのは知っている。だが今は弁えろ、それにそのままではどう考えても断られるように見える」
皇帝の頭の中では今の状況をどう整理するか、脳をフル回転させていた。フールーダの反応を見て、目の前の客人が帝国最高のマジックキャスターをして神と呼ばれる実力を持っているのは理解出来た。
この反応、下手をしなくともおそらく最高の位階を使えるのではないだろうか。
しかし、だ。ジルクニフには不可解な点が1つあった。目の前の男は普通すぎるのだ。
自身の人物眼だけならば王国の化物王女にだってひけを取るつもりはない。
その人物眼をもってしても男は唐突な展開に驚き、困った様子をしているのは演技とは思えない。更に言うとフールーダが教えを請うような人物には全くもって見えないのだ。
強者には強者の、賢者には賢者の独特の雰囲気というものがある。傲慢であろうが謙虚であろうがその道の極みに達するものには凄みというものが出るものだ。
そんな凄みを全く見せない彼は、どういう存在であるか。完全なる境地に達したが故に自然体でいられるのか、もしくはその境地が自然だと思っているのか。
なんにしてもジルクニフは目の前の男を侮りこそしないが、交渉に関しては優位にたてる自信があった。
どの道この男がフールーダよりも圧倒的というならば、100位階だろうが1000位階だろうが交渉するぶんには関係ない。ならば全てを飲み込んで帝国に利益をもたらす。それがジルクニフにとっての皇帝としての在り方だ。
「配下の者が申し訳ない、どうか許してもらえないだろうか」
頭を下げる。
そして男の反応は予想通り、恐縮して謝罪を拒むというものだった。話は通じる、肩書きは通用する。ならばいくらでもやりようはある。
「フールーダ、いい加減にしろ。これ以上は皇帝として許容出来る範囲をこえるぞ」
今にも靴に口付けをしようとしているフールーダに少し怒気を込めて声を掛ける。
「…失礼しました陛下。少々我を失っておりました」
少々? と心の中でジルクニフは突っ込みをいれフールーダを下がらせる。
「少し私室で頭を冷やしていろ。後の事は心配するな」
言外にこの男は必ず帝国に引き入れてやる、とフールーダに視線で語る。フールーダも馬鹿ではない。冷静になった頭で客人を見れば、先程の行動は間違いなくマイナスだったと理解した。
「申し訳ありませぬ。……どうか、頼みます」
親愛なる教え子の眼を見てフールーダは悟った。帝国のためであるのは間違いないが、自分のためにも交渉に臨んでくれている。そう理解したフールーダは、謝罪と期待を言葉にしながら深くお辞儀をして部屋を後にした。
「すまないな、フールーダは魔法馬鹿なところがあってな。自分よりも位階が上のマジックキャスターなど見たのは相当久し振りだったんだろう」
「あー、いえ。そこまで気にしていませんのでお気になさらず」
「オーディン殿は謙虚だな。第10位階を使えるにしては謙虚すぎると言ってもいい。…それとも別の世界とやらではそれが普通なのかな?」
ジルクニフはまず一つ目の手札を切った。フールーダのタレントは正確に位階を測れるようなものではないが、当然のように言い切る事で多少のカマを掛けてみたのだ。
それに別の世界とやらが真実で、そこでの基準としてならばこの謙虚さはごく普通のものだった、ということもあるかも知れない。
「うぇっ!? あ…もしかしてタレントか何かで…?」
やだ、簡単すぎるこの男。一癖も二癖もある貴族連中に比べてなんて素直に反応してくれるのだろうか。ジルクニフは少し感動した。
「ああ、帝国には有用なタレントを持つものがそれなりにいるんだ」
誰がいつ使ったなどと言うことは明言しない。少しでも帝国の株が上がれば儲けものだ。
「おおう…。やっぱ国レベルともなると凄い人も沢山居るんですね」
チョロい。チョロすぎて少し心配になってきたジルクニフ。もしかして何かの罠だろうか。
「世界の方については…そうですね。個人の実力に関しては最盛期の時でも上位7000~8000人以内ぐらいの実力はあったと思います。まぁ相性の問題があるので一概に言えるものじゃありませんが。少なくとも純然たる魔法職で10位階を使えないのは初心者くらいでしょう」
そこじゃねえよ。普通かどうか聞いたのは性格の方だよ。どこの誰が10位階を使用できる人物が普通だと思うんだ。どこの終末世界だそれは。帝国が滅ぶというか世界が100回滅んでも足りなさそうだ。
「そ、そうか。オーディン殿の世界は凄まじいところだな。……しかし突然に違う世界に放り出されるとは災難なこともあるものだ。良ければその世界の情報について帝国の情報網を使って探らせようじゃないか。先程のフールーダの件についての侘びでもある、遠慮はいらないとも」
この男の性格を考えると先程のフールーダの醜態も意外と交渉の助けになったのかも知れない。
個人の性分か国民性かは不明だが、無条件で相手に働かせるのを嫌う雰囲気がある。失態の侘びということならば違和感なく帝国に滞在させることが出来るだろう。
「あー、それはありがたいんですが、いいんでしょうか? さっきも言いましたけど別に気にしていませんよ」
なんというか、ちょっと心が苦しくなってきた。謙遜が美徳であるような振るまいにどんな環境で育ったのか好奇心が湧いてくる。だがそういうことならば存分に漬け込ませてもらうとしよう。
「ふーむ。…ならば情報収集待ちで宮廷に滞在する間、フールーダに魔法の指導でもお願い出来ないだろうか? 先程見た通り魔法に全てをかけているような男なのでな、それに私にとっても良き相談役なんだ」
ここで肯定するならば演技の可能性もほぼゼロになる。どうでるかと顔には出さず緊張していると、たいした間もなく頷きが返ってきた。張り詰めていた身体が少し緩み、取り敢えずは交渉が成功したことに安堵する。
後は滞在している間に帝国に愛着を湧かせ、どんな手を使ってでも他国へ所属される事だけは回避しなければならない。一番いいのは女を使って根をおろさせることなのだが、妻もいるようだしそこは保留にしておこう。
「そういえば他に違う世界から来た仲間とかはいるのか? オーディン殿の仲間ならば是非、歓迎したい」
彼のような存在一人で国の勢力図が簡単に引っくり返る。存在するのならば確保しておきたいところだ。
「あ、と。そうですね。えー……少し自分でも情報を集めたんですが、六大神とか八欲王とか十三英雄とかは多分俺の世界から来たんじゃないかと思ってます」
少し言い淀んだところに違和感はあったが、それ以上の爆弾発言に流石に驚きを少し出してしまった。
「…! いや、言われてみれば納得だな。どの伝説についても、その存在の出現は唐突だ。……ふっ、くっ、ハハハハ!」
「ど、どうしたんですか?」
「いや、悪いな。もしかしていま言った存在達もオーディン殿のような普通の人間だったのか、と思うと法国の崇拝も滑稽だと思ってな」
「ひどっ! というか最初と比べてどんどん口調が砕けていってませんか?」
「これが素だ、あまり堅苦しくなるのは好かん。オーディン殿も砕けた口調でいいぞ、そちらも最初と比べて随分と適当になっているじゃないか」
「ええー…。なんか乙女ゲーに出てくるイケメン皇子みたいになったよ。そんなフラグは要らないんだが」
「良く解らん単語だが…まあ良いじゃないか。もし良ければ友になってくれないか? 周りに居るのは部下と政敵と女だけなんでな。気兼ねなく話せる友人が居ないんだ。オーディン殿なら無礼討ちできる者も暗殺できる者もいないだろ?」
打算と少しの本心で提案する。おおよその性格は把握した、この言い方ならば了承するだろう。
彼の性格なら自分の友情で繋ぎ止めるというのもありかもしれない。それに気兼ねなく話せる友人というのも貴重だ。誠実な人間に対応する時、打算と悪意だけで接すればいずれは破綻する。きっとこの方法が一番、利に叶っているだろうとジルクニフは確信した。
「うーん、じゃあそういうことで。皇帝陛下も殿はいらないですよ」
「ジルでいい。…ふふ、単なる友人というのは初めてかもしれないな」
「俺にそっち系の趣味はないのであしからず」
「奇遇だな、私にもそんな趣味はないとも。気が合うようでなにより」
「ジルって絶対性格悪いだろ…」
「そんな事よりまずは情報収集だな。十三英雄が違う世界からの来訪者というならば、現存する者を辿ってみようじゃないか」
「はぐらかした!」
意外と気の合いそうな二人であった。
「ほらほら、もう少し頑張りなんし。傷をつけることが出来たら妾から報酬のアップを口添えいたしんすよ?」
「くっ、簡単に言ってくれる!」
第6階層の闘技場でシャルティアと蒼の薔薇が戦っている。誰が見てもその実力差は歴然だったが、シャルティアの手加減と蒼の薔薇の戦闘の巧みさによっていまだ決着はついていなかった。
「ほら、隙だらけでありんす! 清浄投擲槍!(弱)」
「不動金剛盾の術!」
「《クリスタル・シールド/水晶盾》」
イビルアイは流石にここまでの差があるとは思っていなかったと悔しげに顔を歪ませる。
明らかに全力を出していないのにまったく相手になっていない。この墳墓に入る前の自分の慢心を蹴り飛ばしたいぐらいだ。
既に自分とティナ以外はリタイアして回復されている。ガガーランは声援を送ってくれている、ラキュースはここの主となにやら話している、ティアは全快してない振りをしてメイドの胸に抱きついている。吸うぞこら。
「合わせろ!《クリスタルランス/水晶騎士槍》」
「不動金縛りの術!」
同じアダマンタイト級の冒険者にとっても凶悪な合わせ技だが、シャルティアからは余裕のよの字すら削れない。そもそも動きが全く止まっていないのだ。
「残念。そろそろ決めるでありんすよ」
自分の攻撃を意にも介さず無造作に拳を振るうシャルティアを見て、イビルアイは少し不可解な点があることに気付いた。イビルアイは齢250にもなる戦闘経験も豊富な吸血鬼だ。その自分から見てもシャルティアは超が付くほどの一流の戦士なのは間違いない。
力、速度、反応、それにおそらく本来の武器を使っていないであろうにも拘わらず体さばきと両の拳だけでこちらを圧倒している。だがその凄まじい実力があっても尚、イビルアイ達が善戦出来ている理由。
「(実戦経験が少ないのか…?)」
超一流の戦士である、しかし実戦経験が少ない。
そんなことは有り得ないのにイビルアイはそうとしか感じられなかった。いま考えることではないが、付け入るとしたらそこだろうと考えるイビルアイ。ティナにアイコンタクトで指示を送る。
このまま何も出来ず終わるのは避けたい、自分にも世界有数の強者だという自負があるのだ。
蒼の薔薇として一矢むくいたいというのもある。個人の実力で負けていようが、冒険者として勝利を掴むために思考を切り替える。冒険者は敵が強大であろうとも周りのあらゆる状況を使い勝利への一手を導きだすのだ。
イビルアイはこの闘技場に来るまでの時間で見抜いた情報をこの戦闘に活かすため、まずは作戦の一手目を繰り出す。
「少々卑怯かも知れんがこちらにも意地があってな…《サンドフィールド・ワン/砂の領域・対個》」
バッドステータスに陥ることはないと解っているため、視界を悪くさせるためだけに魔力で上手く調整をかける。
「大瀑布の術!」
水と砂により視界を極限まで悪くする二人。
「ふむ、流水は弱点ではありんせんよ? 視界は悪いでありんすがどこに居るかなど一目瞭然。これが最後の策とはがっかりしてしまいんした」
シャルティアは完全無欠に、やられるフラグを建てながら挑発する。
「ならばその評価を覆そうじゃないか!」
イビルアイは《ペネトレートマキシマイズマジック/魔法抵抗突破最強化》を最大まで高め、エレメンタリストである自分の最強の魔法を極限まで強化する。
ユグドラシルのレベル換算でいうならば50前後にもなるイビルアイ。さらにエレメンタリストという、属性を偏らせ極端に攻撃力を上げる特殊性を用いて <ペネトレートマキシマイズマジック/魔法抵抗突破最強化>を掛ける。相乗効果で数倍にまで高めた魔法の威力。それは確かにシャルティアに届きうる牙となった。
そしていよいよ決着の時。ティナがシャルティアへと無謀な突進を仕掛ける。砂と水の向こうから迫り来る黒い人影に構えるシャルティア。その瞬間、足下の影から黒い刃が迫る。ティナのスキル、影渡りによる奇襲だ。
「…っ!」
しかしこの程度でシャルティアは揺るがない、喉元を狙う刃を悠然と掴みとり手刀でティナの意識を落とす。
「これで詰みでありんす!」
後は突っ込んで来たイビルアイを倒して終わり、拍子抜けしながらもレベル差から考えると良くやったほうかと思い直す。そして突っ込んで来た少女の姿を見て一瞬硬直する。今さっき気絶させたティナと同じ姿が目の前にあったのだ。
「…っ! 分身か!」
すぐにその事実に思い当たり迎撃として先程と同じ手順を辿り気絶させる。だが一手遅れたのは事実。
そして背後から迫り来る今までとは段違いの魔法の威力に驚愕してもう一手遅れる。
しかしそれでもシャルティアには余裕があった。
「確かに、良くやったでありんす。あとで撫で撫でしてあげんしょう」
不浄衝撃盾。1日に2回しか使えないこのスキルを使わされるとは思わなかったシャルティアは心の内で称賛を送る。
そしてその瞬間。詰みに近いこの瞬間をイビルアイもまた予想していた。
この程度でどうにかなる相手ではないのは充分に理解していた。だからこそ、この瞬間にもっとも効果的な最後の一手を繰り出した。
「キャーッ! アインズ様、なんて格好を!」
「何ですって!?」
「隙ありぃっ!」
「ぐわあーーーーーっ!!」
結局、傷を付けられたシャルティアの負けということで戦闘は終了した。
「イビルアイ……キャラがおかしいわよ」
「言わないでくれ」
心情的には痛み分けだったようだ。
「素晴らしい闘いだった。まさかシャルティアに傷を付けるとはな。礼の方は期待しておいてくれ」
闘いも終わり、歓待の用意も整ったためアインズは蒼の薔薇と共に食事の席についていた。もっとも飲食は出来ないため本当に席についているだけだが。
「いえ、私は早々にリタイアしてしまいましたから…」
開始早々に一撃をもらい倒れてしまったラキュース。自分がいの一番に倒れたことによって全体の支援を出来なくなりガガーラン、ティアと立て続けにやられたことに少し責任を感じていた。
「気にするな、あの強さは流石に予想出来なかった」
慰めの言葉を掛けるイビルアイ。あそこまでの実力差があるとは夢にも思っていなかったのだ、圧倒的格上だと解ったときには残り二人になっていた。倒された順番はただの偶然だろう。
「なに、結果が全てだ。あれだけの実力差があって一矢むくいたというのは並大抵の事ではないと私も理解しているとも。こちらの課題も見えた、実に有意義な闘いであった」
単純なステータス差だけが実力の全てでは無いことを知れただけでも充分な収穫だったとアインズは喜んだ。
「そう言っていただけると、こちらとしても戦闘した甲斐がありますわ」
それからも終始和やかに食事は進み、夜も遅くなったため蒼の薔薇の者達は客室へと案内されていた。
「ねぇイビルアイ…」
「なんだ?」
「ネグリジェがマジックアイテムだわ…」
「今更だ」
「ねぇイビルアイ…」
「今度はなんだ?」
「良く見たら周りの調度品とか全部マジックアイテムだわ…」
「今更だ」
「ねぇイビルアイ…」
「だから全部今更だって!」
戦闘の実力だけではなく生活のレベルにすら、差を思い知らされる蒼の薔薇だった。
食事が終わってアインズの私室。なんとか問題なく過ごせたと一息ついたアインズ。彼は今非常に悩んでいた。
後で読もうと思っていた招待状をデミウルゴスが持っていってしまったためだ。
頂点にあって尚、向上心を忘れぬ姿勢に感服致しましたとか言っていたが何のことだったのだろうか。結局いつもの様に全てを理解したように見せ、期待しているぞと声を掛け言われるまま招待状を渡してしまった。
「まぁ、大丈夫だよな…。それよりオーディンさん達中々帰ってこないなぁ。何かあったのかな?」
それ以上は気にも止めず、暫く顔を合わせていない友を思うアインズであった。
同時刻、デミウルゴスの私室では招待状の内容を確認する彼の姿があった。主から期待していると声を掛けられ、招待状に書かれた文を読み終わったときデミウルゴスはその言葉の意味を理解した。
「たったこれだけの情報でここまで見通しているとは…。王国の第三王女か、やはり侮れぬ人間もいるものです」
そしてその顔に歪んだ笑みを張り付かせる。
「アインズ様のご期待に添えるよう、王国には精々踊ってもらうとしましょうか」
その手紙には王国への招待の他に、犯罪者の件については何も問題ないことや更に入り用ならばこちらで用立ててもいい旨、そして大量の犯罪者を一度に拿捕できる、常人にはおぞましさしか感じられない計略の草案が記されていた。
そう、全てはアインズが期待をよせるデミウルゴスに任されたのだ。
アウラとザリュースの冒険withハムスケ 3
〈レッド・アイ〉族の集落を出たあともアウラとザリュース、そしてハムスケは各部族を訪問していった。時には戦い、時には戦い、そして時には戦って説得を続け見事に全部族の了承を得た。
「疲れたー。でもこれでアインズ様に良い報告が出来る! ザリュースもありがとうね」
「なに、私はなにもしていないさ。……本当になにもしていないな」
「み、道の案内はすごく助かったでござるよ! ザリュース殿!」
「そ、そうか。まあ役に立ったのならそれでいいさ。それより交流というのは何をするんだ? こちらから何人か出せばいいのか?」
「ううん。先にお願いしたのはこっちだからまずはこっちから出向くってアインズ様が言ってた」
「そうか…。ならば日時が決まり次第伝えてくれるか? 盛大にとはいかないかもしれないが、出来る限りもてなしをさせてもらおう」
「うん。アインズ様はお優しい方だからそこまで気にしなくても大丈夫だよ」
アウラの意識は随分と変化していた。この世界に来たばかりのアウラならば確実に、全てをかけて歓迎の用意をしろと命令していただろう。
アインズの説得、オーディンとの触れ合い、蜥蜴人との交流によって随分とナザリック以外の者にも優しくなっていた。
「に、してもー。部族を訪問していきなり結婚てどうなのさ? いままで話したこともない相手でしょ?」
乙女心に気になっていたことを問いかけるアウラ。何でもないことの様に尋ねたが実は興味津々である。
「ああ、そうだな…。俺も番のことについてはどうでもいいというか、さして気にしたこともなかったんだがな。クルシュを見た瞬間、雷に打たれた様な衝撃を感じたんだ。恋と言うものがあるならば間違いなくこれだと感じた。運命とやらを信じてもいい気分になったよ」
ここぞとばかりに惚気まくるザリュース。恋に落ちたときにのぼせ上がるのはどの種族も変わらないらしい。
「ふ、ふーん。そうなんだ、恋ってそういうものなんだ」
ザリュースの言葉に自分はどうだろうかと考えるアウラ。
主にはアルベドがいる、デミウルゴスやコキュートスは良き同僚ではあるがそういったことは感じた事はない。配下に男はいるが自分よりも弱い男はなんとなく嫌だ。
自分と同格かそれ以上で、一緒にいて楽しくお喋りできる存在。そんな者はいるわけないと、自分には恋愛など分不相応だったのだと気落ちした瞬間アウラの脳裏に一人の人間が思い浮かんだ。
「あ……オーディン様…?」
それは違うだろうと否定するものの、一度思い浮かんだ想像は中々消えず逆に広がっていく。
アウラ・ベラ・フィオーラ76歳。
恋愛初心者の彼女は勘違いを原料に、恋に恋する恋愛少女へと変貌を遂げていく。
エルヤー「」
今となっては描写すべきではなかったとすら思っている。
済まぬ。