その日、冒険者パーティ「漆黒の剣」はトブの大森林近郊でゴブリンやオーガの討伐を行っていた。
これらのモンスターの討伐を行いギルドへ討伐証明部位を持ち帰る事である程度の褒賞金を得ることが出来るためである。
目ぼしい依頼もなく、懐が寂しくなってきた低位の冒険者の貴重な収入源であるこの活動を未だ銀プレートのパーティである「漆黒の剣」は恒常的に続けている。
それは褒賞金のためであり、そしてパーティの目標でありパーティ名そのものでもある「漆黒の剣」のためでもある。
かの十三英雄の一人「黒騎士」が持っていた4振りの剣の名前が漆黒の剣であり、それを追い求め得ることが目標である彼等はそんな伝説とも云える宝物を得るに足る実力を有しているかというと―――否定せざるを得ないだろう。
だが彼等はそれを自覚しており今は無理でもいつかもっと強くなり4人で夢を叶える、そのためにモンスターとの戦闘も積極的に行い経験を得ているのである。
つまり今日も今日とて経験とお金のためにモンスターをシコシコと狩っているのだが、ちょうど前日から数えて通算16匹目のゴブリンを討伐したところで上空から謎の声が舞い降りた。
最初に気付いたのはレンジャーでありパーティにおける「目」の役割を持つルクルットだった。
「たっ助けっ」
ちなみに気付いた1秒後には謎の声の主は地面と激突していた。
パーティ「漆黒の剣」は硬直していた。当然だろう。上空からなにかが猛スピードで落下してきたと思ったらそれが人間だったのだから。
「だっ大丈夫ですか!?」
「いや、大丈夫なわけねえだろ…」
マジックキャスターのニニャが駆け寄り安否を確かめようとする傍ら、ルクルットが至極当然の台詞を返す。
さっきのスピードで人間が地面に激突して大丈夫だったら化け物だろ。
そんな心の声がニニャ以外の3人で共有された瞬間、今度は驚愕がその心を埋め尽くす。
「おぁっ…ーーーっ!」
落下した男がうめき声をあげつつ上体をむくりと起こす。
「良かった、無事だったんですね。怪我は有りませんか?」
まず無事なことに突っ込めよお前はいつから天然キャラになったんだ。
とまたもやニニャ以外の3人の心の声が一致したところで全員が墜落した人物のところへ駆け寄った。
この一事をもって見てもこのパーティのお人好しさが見てとれるだろう。
粗野で粗暴な者が少ないとはけして言えない冒険者稼業において、いきなり空から落ちてきた不審者をまず心配して駆け寄るなどお人好しが過ぎる。
むしろベテランの冒険者から見れば無用心にも程があると嘲笑の対象となるかもしれないレベルだ。
とはいえそれが「漆黒の剣」であるし、そんな人情味の溢れているところがギルドにおいてシルバープレートながらも信頼され期待されている理由でもあるのだろう。
「あっ、と…すみません。いや、ありがとうございます」
戸惑いながらもしっかりとした足取りで男は立ち上がる。
「いえ、それより怪我はありませんか? すごい勢いで地面とぶつかってましたけど…」
「ええ、特に体に支障は無いようです」
さっと体全体を確認した後、男は安堵した様子で頷く。
「サービス終了の時間がきたと思ったらいきなり景色が変わるわ変な感覚になるわで散々でしたよホントに。延期かなにかですかね? まったく最後なんだから、もちっとしっかりしてほしいものですよね」
何を言っているか全くわからない。今度こそ4人全員の心が一つになった。
「あー、無事だったみたいだし取り敢えず自己紹介でもしないか? 俺はペテル・モーク。このパーティ「漆黒の剣」のリーダーをやっている」
精悍な顔つきをした好青年が自己紹介を始める。
「俺はルクルット・ボルブ。パーティじゃレンジャーを任されてる」
少し軟派な印象の男がウィンクを決める。
「あ、えと、僕はニニャと申します。マジックキャスターで後方支援を担当しています」
肌の白い中性的な容姿の少年がペコリと頭を下げる。
「ダイン・ウッドワンダーである。宜しく頼むのであるよ」
いかつい見た目をしているが優しい笑みで人を安心させる雰囲気をもった男が独特な口調で握手を求める。
「あ、はい。オデンキングです。私もマジックキャスターのジョブを取っています…っ」
ここにきてオデンキングは酷い違和感の正体に気付いた。
アバターの表情が動いている、口が動いている、匂いを感じる、土の一粒一粒まで再現されている、どれも〈ユグドラシル〉では有り得ないことだ。いや〈ユグドラシル〉どころか体感型のRPG全て含めてもこれは有り得ない。
「(それにさっきからのこの方達の態度も含めて、これはまさか、いや、有り得ない、だが俺は、まさか―――)」
混乱しながらもオデンキングが出した結論は
(ユグドラシルのキャラのまま異世界に転移してなおかつこの世界の人々はユグドラシルよりかなり貧弱で相対的に私は神levelではっきりいって単騎で世界を滅ぼせるような強者で今邂逅しているのはメタ的に私の最強さを確かめさせる方達でついでにこの美少年はよくある男装美少女で明確なフラグ的なものがあって、よって今俺はすばらしい異世界LIFEの入口に立っているのでは―――)
多分に妄想が増し増しであるが奇跡的な直感によりおおよその現状を把握したオデンキングであった。
基本ギャグ進行です。