オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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童心と道心と同心

静まり返る闘技場。

 

その中心で対峙している二人の内の一人、オデンキングは非常に感動していた。

少し予定とは違ったものの対戦相手と観客を驚愕に陥れることが出来たからだ。

 

かつての人生でここまで人の注目を集め、驚愕や感心をされたことがあっただろうか、いやない。

だから気付かなかった、全能感と優越感に酔いしれ観客の反応を見たいがために眼だけでチラリと周囲を確認をした隙に相手の攻撃が迫っていることに。

 

闘技場最強の名は伊達ではない。賞賛も驚愕も一瞬で呑み込んで、彼は何故か棒立ちしている対戦相手に一撃を叩き込んだ。

だがそれでも、渾身の一撃が決まっても、対戦相手は小揺るぎもしなかった。

 

「おっと失礼。今何かしたかな?」

 

異世界で最強になったら言ってみたいセリフTOP10に入る言葉を口にして更に感動するオデンキング。

ただ、いたぶる趣味などは全く無いので重症にはならないように気を付けながら魔法を発動する。

 

「終わりにしようか。受け取れ、光の龍の抱擁を。《ドラゴン・ライトニング/龍雷》」

 

ナザリックの闘技場で練習をさせてもらい、ゲームの時には出来なかった魔力の調整により威力を抑えた魔法を放ち勝負を決める。

それは音速を越える速度で相手を呑み込み、放った者の想像に違うことなく勝負を決する一撃となった。

 

オデンキングは《ライフ・エッセンス/生命の精髄》を使用し、命に別状は無いことを確認した後に片腕を挙げた。

 

 

 

その瞬間、会場が爆発したような歓声に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場の通路、闘う場所に通じるこの廊下でオデンキングは蹲っていた。

 

 

 

突然だが、人の意志とは本人の制御出来るものであるだろうか?

 

答えは否だ。人は内から溢れでる自分の感情を止めることなど出来ないし、出来ることは精々が表に出ないように抑え込む程度のものだろう。

 

周囲の人間に罵声を浴びせられれば表面上は平気なふりを出来ても傷付くのは当たり前で、親しい人に褒められれば嬉しくなるのも当然だ。

 

外的要因、生命の危機を乗り越えた男女がその興奮に勘違いして恋に落ちることもあれば、麻薬などによる偽りの幸福感を得ることもある。

人の意思とは、周囲の環境によっていくらでも揺らぐ。

 

ならば先程の試合で戦闘による精神の高揚、闘技場の熱気、観客の賞賛と驚愕の目をさらったオデンキングは冷静でいられただろうか? 当然否だ。

 

ぐるぐると身の内を回る興奮にかられ、アインズのことを全くもって笑うことの出来ないセリフをのたまったオデンキングを誰が責めることが出来ようか。

彼の精神は一般人なのだ、周りの熱気に当てられるのはある意味当然だ。

 

「ひっ、ひかりのりゅっ、りゅうっ! ほっ抱擁! うおぉーーっ!! 考えるな! 考えるんじゃない!」

 

だから闘いが終わり興奮が冷めて、通路で正気に戻ったオデンキングが恥ずかしさのあまり、悶えるのは仕方のないことだった。

その様は日常生活に於いて子供の頃の黒歴史がフラッシュバックした時のようである。

 

そんな彼に相方の声が掛けられる。

 

「控え室に帰ってこないと思ったら…。こんなところで何してるの?」

 

勝負は終わったというのに中々戻ってこないオデンキングを探し、クレマンティーヌがやってきた。

 

「おーい。どしたの?」

 

動かないオデンキングの背中をゆさゆさと揺らしながらどうしたのかと問い掛ける。

 

「うぅ…。もう駄目だぁ…」

 

心臓の辺りを握りしめながら苦悶の表情で唸っているオデンキングを見て心配になってきたクレマンティーヌ。もしかして相手の武器が当たった時にでも呪いをかけられたのだろうか? 

そんな考えが頭によぎり医者か神官に見せるべきかと悩み始める。

「うぅ。も、もう大丈夫。心配しないでくれ」

 

ゆっくりと立ち上がり気丈にふるまうオデンキング。

 

この男の戦闘に関しては全く心配することなど無いと思っていた。

ダメージをなんてことの無いようにふるまい無理をしているのがバレバレな彼の姿を見て、その意外すぎる光景にクレマンティーヌは胸がキュンとなった。

 

これぞまさしくギャップ萌えである。

 

「ほら、肩貸してあげるから。そっちは逆よ?」

 

ヨロヨロと歩き出し控え室とは逆の方に向かうオデンキングを引き止める。肩を貸しながら寄り添って歩くクレマンティーヌの顔には優しさの溢れる母性とでも言うべきものが宿っていた。

 

まさにクレママティーヌである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は闘技場に於けるVIP席とも言えるような場所。見晴らしのいいその場所は闘っている所がよく見え、戦闘の様子が手に取るようにわかる最高の場所だった。

 

そこに居るのはこの国の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。息抜きと人材の発掘のため闘技場にやってきたジルクニフは先程の闘いを見て観客達と同様に驚愕していた。

 

もっともその驚愕は顔には全く出していない。いちいち相手に悟られるような顔をしていては魑魅魍魎が蔓延り、生き馬の眼を抜くような政治の世界ではやっていくことなど出来ないからだ。

 

「ふむ、なんとも驚きじゃないか。前評判を覆す強い剣士であった挑戦者がよもやマジックキャスターとはな」

 

本来ならばマジックキャスターと戦士は相反するものだ。

戦士は闘う者、マジックキャスターは学ぶ者。

それぞれの道に手を出したところで中途半端にしかならないものだ。

 

膨大な学問とも言えるマジックキャスターの道は終わりなき探究の道でもあり、戦闘経験の有無が勝敗を覆すことはあるがやはり使える位階の差が実力の差というのも間違いではない。

 

戦士としての修行をするくらいならばマジックキャスターとして学んだ方が効率的なのは当たり前だ。しかし先程のマジックキャスターはその常識には当てはまらなかった。

 

闘技場最強の男ともなれば帝国が誇る皇帝の最強戦力、帝国四騎士にも勝るとも劣らない。その男と接近戦で拮抗し、強大な魔法を扱うマジックキャスター。

 

魔法に力を入れている国の皇帝だけはあり、ジルクニフは先程のマジックキャスターが使用した魔法の位階も把握していた。

 

「あれが底という訳でもなさそうだな。…じいを連れてくるべきだったか」

 

皇帝に親しげに呼ばれる男、それは帝国最高のマジックキャスターであり長き時を生きた伝説でもあり、歴代の皇帝の相談役でもあった。名をフールーダ・パラダイン。

 

彼は強大な魔法を行使出来ることに加えてタレントとよばれる能力の中でも稀少な、相手の使える魔法の位階を把握出来るという能力を有していた。

 

「なんにせよ一度会ってみるべきだな。おい、奴の都合を聞いて皇宮に招待する旨を伝えてきてくれ。くれぐれも失礼の無いようにだ」

 

配下の者に命じ男を招待し、次に会う際はフールーダを呼びつけておこうと画策するジルクニフ。

 

「さて、どのような餌を用意しておくべきか…。案外美女になびくただの俗物だったりしてな」

 

あれほどの強者がそんな訳は無いか、と自分の思考に呆れながらなんとしても帝国に引き入れるために策謀を巡らしていくジルクニフであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓の玉座の間。そこに座す死の支配者は今どうしたものかと悩んでいた。

それは最近赤ん坊の如く甘えてくるアルベドに―――ではなく、今ナザリックに近付いてくる冒険者達をどうするかについてだ。

 

「どう思う? アルベド、デミウルゴス。奴等の目的に想像はつくか?」

 

ナザリックにアンノウンが近付いてくると報告があった時点でシャルティアとコキュートスをそれぞれの階層に配置し、デミウルゴスを召喚しどうすべきかを話し合っているアインズ。

ちなみにアルベドはもともと傍にいた。

 

「今のところ目的の方は推測しか出来ませんが、正体については見当がついております」

 

心無しか疲れたような声で主の疑問に答えるデミウルゴス。

 

「ほう? 流石はデミウルゴスだな。いったい奴等は何者なのだ」

 

配下の優秀さに満足そうに頷きながらその正体を問う。

 

「は、風貌から見ておそらくはセバスの報告にあった王国のアダマンマイト級冒険者パーティ、蒼の薔薇かと思われます」

「なんだと?」

 

随分な大物がやってきたことに驚くアインズ。

 

「目的の方は推測でしか言えませんが…。カルネ村の件についてが1つ目。そして犯罪者の拉致が次いで高い可能性かと」

 

ただ冒険者が来ただけならばともかく最高クラスのパーティが此処を一直線に目指しているのだ、他には考えづらい。

1つ目は王国の戦士長から、2つ目は少し苦しいが逃がした野盗から何かしら掴まれたのかもしれない。

 

「フム…。前者ならばともかく後者だとすると敵対の可能性が高いか」

 

おそらくは、とデミウルゴスが同意する。

 

「実力の方はどうなんだ? あの漆黒聖典の男並ならば守護者を複数あてたいところだが」

 

「そこまでではないかと思われます。ただセバスによればあの中に居る、紅のローブを纏い仮面を着けたイビルアイという者はそこそこの強者の可能性があると」

 

戦闘メイド程度ならば倒せるかも知れませんと報告する。

 

「ふむ、ならば一応は守護者に対応させるべきか…」

 

そして誰に当たらせるかと思案したアインズだが、選択肢がほぼ無いことに気付く。

 

アウラは蜥蜴人の所へ出向いている、マーレは性格的に向いていない。コキュートス、アルベド、デミウルゴスは見るからに異形種、シャルティアは阿呆。

 

「困ったな。ウウム……不安は残るがシャルティアに任せるしかない、か」

 

結局そこに行き着いたアインズ。様子を窺いつつ、まずそうならば《メッセージ/伝言》でフォローしようと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うお、本当にありやがった」

 

蒼の薔薇の中でも漢女の中の漢女である、いかつい風貌をした女性ガガーランがナザリックの入り口を見て驚いていた。

 

「あの子の言うことだもの、間違いはないでしょう」

「そうだね鬼ボス」「ほんとだね鬼リーダー」

「…お前たち、もう少し気を引き締めろ」

 

王国存亡の危機とやらの原因と思われる建造物を目の前にしていつもと変わらない仲間たちに呆れるイビルアイ。

 

「そうは言ってもイビルアイ、貴女と私達が揃って危険なことなんてそうそう無いでしょ?」

 

小さな仲間を見下ろしながらラキュースが告げる。

 

このイビルアイという少女は蒼の薔薇でも別格であり、かつては「国墜とし」と呼ばれた伝説の吸血鬼だ。

 

紆余曲折あって今は自分達のパーティに所属しているが、彼女の実力は世界的に見ても比肩する者は極々少数である。

それこそ竜王や魔神が出てきたって皆でかかればなんとかなるというくらいには。

 

「取り敢えずどうするよ。丁重にもてなせってんならいきなりズカズカ入るのも不味いだろ?」

 

ラナーからは王国に招待してほしいと言われているのだ。反感を買うような態度はまずい。

 

「うーん。どうしようかしら、ノッカーなんか在るわけないし…」

 

悩む一同。

 

「取り敢えず〈すいませーん〉とでも声掛けりゃいいんじゃねえか?」

 

お気楽に言うガガーラン。

 

「あなたねぇ…」

 

何言ってるのよとジロリと視線をやるラキュース。

 

「すいませーん」「すいませーん」

「ってちょっと!!」

 

入り口に向かって呼び掛ける双子に突っ込みを入れる。そんなんで出てくる訳ないでしょうがと言おうとした瞬間。

 

「はーい。でありんす」

「嘘ぉっ!?」

 

絶世の美少女が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王国へ招待、でありんすか?」

「ええ。王女が貴女方を丁重にもてなしたいと」

 

驚愕していたラキュースだが、話を出来る人が出てきたのをこれ幸いと用件を伝えた。

 

「ふーむ、少々待ちなんし」

 

少女が《メッセージ/伝言》により誰かに連絡している。

おそらくこの建造物の主だろうか。その間仲間たちを見てみれば、イビルアイが少々警戒した目付きで少女を見ていた。

 

「イビルアイ、どうしたの?」

 

その問いには答えず、前に出て《メッセージ/伝言》を終わらせた少女に向かってイビルアイが問う。

 

「お前……吸血鬼か?」

 

問い掛けではあるものの確信をもって言い切った。アインズがアンデッドの気配を解るように、同族ならばこの距離にいれば一目瞭然だ。

 

「む…」

 

少し驚いた、というふうに少女がイビルアイを見つめる。そしてしばらく凝視した後、ようやく合点がいったという風に問いを返す。

 

「ぬしも吸血鬼でありんすね? 随分解りにくいようにしていんすが」

 

イビルアイの方も驚愕した。マジックアイテムで偽装しているため例え魔法で調べられてもそうそう気付かれることは無いためだ。

 

「同族故か…」

 

肯定の代わりに紅の外套と仮面を外す。

 

「此処は吸血鬼の拠点なのか?」

 

イビルアイはおそらく間違いないだろうと思った。

犯罪者の消失は血の確保、そしてどこまで広がっているか解らないこの建造物に吸血鬼が溢れているならば確かに王国の危機だと。

 

だが犯罪者をメインにして、痕跡を残していないということは交渉の余地は確かにある。

だから招待しろということか、と想像を巡らせたところで少女が問いに答えた。

 

「確かに吸血鬼はそれなりにいんすが拠点ではありんせん。ここはアンデッドの王、死の支配者である至高の御方が住むナザリック地下大墳墓でありんすよ」

 

自慢気に鼻を鳴らしながら無い胸を張る少女。そして次の瞬間、何か《メッセージ/伝言》でも入ったのか涙目になって頭を下げている。

 

「うぅ…」

「だ、大丈夫か?」

 

すっかり萎んでしまった少女に、先程の衝撃発言を流して慰めるイビルアイ。ハンカチを貸してやり顔を拭っているのを見ると仲の良い姉妹のようだ。

 

「も、もう大丈夫でありんすよ」

 

ようやく立ち直った少女は気を取り直して失敗を取り戻そうとする。

 

「ぬ、ぬしが仲間になっているということは蒼の薔薇はアンデッドに忌避感は無いということでありんしょうか?」

 

そうであってくれ、という顔で問い掛けてくる少女。一同は顔を見合せ頷き合う。

 

「あー、まぁ敵対する気がねえ奴に対してはこっちも何もしねえよ」

 

カガーランがすっぱりと答える。

彼女は見た目の通り正義感が強く、理不尽にさらされる亜人種の村が襲われていたりすれば義憤にかられ単身助けに行くほどのお人好しだ。

 

襲う気がなく、話が通じるのならばアンデッドだろうと受け入れる度量がある。他の仲間達もその発言に同意しているのを見て少女はホッとした様子では一息ついた。

 

「このナザリック地下大墳墓の主、アインズ様は特に人間に対して思うことはありんせん。話の詳細を聞きたいと仰っていんすので案内させておくんなまし」

 

そう言って少女は彼女達の返答を待つ。

 

「いいな? お前たち」

 

どうみても演技ではなさそうなので仲間たちに了解を得るイビルアイ。全員が頷くと少女は魔法を行使して黒い空間を作り出した。

 

「歩いていくと時間がかかりんす。玉座の間までは転移出来んせんがその前まではこれで転移させてくんなまし」

 

「て、転移の魔法か…?」

 

蒼の薔薇の全員が驚いていた。ここまで自由のきく転移魔法は見たことがないのだ。ティナとティア、イビルアイが限定的に転移は出来るものの、片手間にこのような魔法を行使出来ることは驚嘆に値する。

 

「ええ、心配ならば私から入りんす」

 

そう言って彼女は黒い空間を潜り姿を消した。

 

王国の危機。その言葉を思い出しながら彼女達は一人一人足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウラとザリュースの冒険withハムスケ 1

 

 

 

「そろそろ縄張りに入るぞ」

「うん」

「了解でござるよ」

 

アウラとザリュース、そしてハムスケが森の中を歩いている。何故そうなっているかというとそれはザリュースが所属している〈グリーン・クロー〉族の集落以外の部族へも話を通すためだ。

 

まずは一番話が通しやすい〈ドラゴン・タスク〉族から口説き落とすため二人と一匹は足を運んだのだ。

 

話が通しやすいとは言うものの、それは強者に限っての話である。〈ドラゴン・タスク〉族は蜥蜴人の中でも随一の武力を誇り、それ故に強者の意見には従うべしという風潮が強い。

 

ならばハムスケを従えるアウラの姿を見せればそれなりの効果はあるだろうとザリュースは考えたのだ。

例えそれに意味はなくとも最終的には自分が闘って説得してもいい。そう思うくらいにはこの小さな友人に友情を感じ、自分の強さに自信も持っていた。

 

そして縄張りに踏み込み敵意が集中する。いまだ手を出してこないのは見るからに強大な魔獣であるハムスケのおかげだろう。そしてこれ以上は手を出される、といったところでザリュースが名乗りをあげる。

 

「――俺はグリーン・クロー部族のザリュース・シャシャ。この部族を纏め上げる者と話がしたい!」

 

名乗りをあげた瞬間、敵意の視線に殺意が混じる。

このドラゴン・タスク族の中には食糧難による戦争でザリュース達グリーン・クロー族が滅ぼした部族の生き残りが混じっているのだ。その視線に全く気圧されず、ザリュースは族長が顔を出すのを待った。

 

そして名乗りから少しして、族長らしき者が姿を見せる。

 

その右腕は異様に太く、その尻尾は通常よりも随分と平べったい。ところどころに傷痕があり特に目を引くのは左手の指の間から半ばまで裂けた部分だ。

 

しかしなによりもザリュースが驚いたのは胸の焼き印である。〈旅人〉は元来部族の権力から外れた特殊な立ち位置となるものだ。

それが族長になるということは、つまり不満を黙らせるほどの実力者ということだ。

 

「よくぞ来たな。フロスト・ペインの持ち主」

「お初にお目にかかる。俺はグリーン・クロー部族のザリュース・シャシャ。用件は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用件と目的をザリュースがゼンベルと名乗った男に話している。その間、アウラは非常に不快な思いをしていた。

周囲から刺さる視線、ザリュースへの敵意もあるが自分への視線は声に出されるまでもなく意味が解った。〈何故余所者がここにいる? 即刻に立ち去れ〉そういう視線だ。

 

アウラはもともと我慢強いほうではない。それにカルマ値がデミウルゴスやアルベドほどには低くないとはいえマイナスに片寄ってはいるのだ。ザリュースのように礼儀と親愛を感じるならばともかく、圧倒的格下の存在からこのような視線を受け続けるのは苛立ちを感じる。

 

そして話が進みゼンベルという男がここは強さが全て、強さで語れなどと言った瞬間アウラは自重することを止めた。

 

「ねえ」

 

ザリュースとゼンベルがその声に反応してこちらを向く。

 

「なんだ、ガ―――」

「強さが全てなんでしょ? さっさとぶっ飛ばしてあげるからかかってきてよ」

 

周囲から恐ろしいほどの殺意が溢れかえる。だがアウラは気にもとめずにズンズンとゼンベルの方へ向かっていく。

 

「それとも……怖いの?」

 

その言葉を引き金に決闘が決まったもののその結果は当然の如くアウラの勝利である。

たった一発で沈められたゼンベルを見た部族の者達は、尊敬と畏怖を込め闇の妖精王と呼んだとかなんとか。

 

ちなみにその強さに惚れ込んだゼンベルはアウラの事をそれ以降、姐さんと呼んで憚らなかった。




ごめんエルヤーさん。出すつもりはあったんだけど時間がたりなかったよ…

ワドさんのクレママティーヌ、使わせていただきました。
あと妄想がすごく捗りました。感謝。

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