「では、そういうことでよろしいでありんすか? オーディン様」
私室にて花の咲いた様な笑顔でオデンキングに確認するシャルティア。
「お、おう。任せてくれ。第2夫人の座は間違いなくシャルティアを推しておくよ」
シャルティアに計画を聴かれ、色々と絞られたオデンキングは彼女の私室で一つあることを約束させられた。
「はあ…。アインズ様。あんな大口を愛してしまわれるとはなんてお可哀想でありんしょうか。きっと何か卑怯な手を使ったに違いありんせん」
よよよ、と泣き崩れるシャルティア。彼女はオデンキングの必死の説得によってついに第1夫人の座を諦めたのだ。そのかわり第2夫人については全面的に協力することを約束させた。
「まあまあ、シャルティアだってアルベドに負けないくらい魅力的だって。こういう事は巡り合わせもあるもんだ、愛する人が1人なんて決め事はないんだからチャンスは幾らでもあるさ」
慰めつつシャルティアの機嫌を良くしていくオデンキング。最近少し調子に乗りすぎたと、先程の折檻を思いだしもっと自重しようと決心する。
「オーディン様…。ああ、オーディン様が死体でありんしたら…」
シャルティアが恐ろしいことを妄想する。いくら愛されようが流石にそれは嫌だ。
「そうでありんす! 血を吸わせておくんなまし、オーディン様! 同族になるんなら問題ありんせん!」
良いことを思い付いたとばかりに提案するシャルティア。
「アホか! 下級吸血鬼になるだけだろーが!」
ああ、ペロロンチーノよ。何故彼女をこんなアンポンタン吸血鬼にしたのだ、とオデンキングがかつての友に脳内で文句を言う。
「まったく。そういやそろそろ二人が出発する時間じゃないか、ちゃんと監視…じゃなかった見守らないと」
先程の自重する決心は何処にいったのだろうか。
「妾も付いていくでありんす」
アルベドを認めたとはいえ、それはそれ。当然のように着いていくことを決めたシャルティア。
「…ちゃんと抑えてくれよ?」
暴走してもオデンキング一人では止められないのだ。
「心配ありんせん。フフ…フフフ…」
全く安心出来ないオデンキングであった。
「あ、ユリさん。ソリュシャンちゃん何処にいったか解る?」
廊下を歩いていたユリ・アルファに声をかける。
追跡や監視をするにはソリュシャンの能力がうってつけなため協力を依頼しようとしているのだ。
「オーディン様。ソリュシャンとセバス様は王都にて任務でございます」
「ありゃ、そっかー」
なんとも間の悪いことだと残念がるオデンキング。
「アインズ様もアルベドも感知能力は大したことありんせん。私達だけで大丈夫でありんすよ」
「お前が言うか…」
シャルティアの感知、索敵能力はナザリック最低クラスだ。
「それより早くしないと二人が行ってしまいんす」
「それもそうだな。ユリさん、アインズさん達は今何処に?」
出発予定時刻まで後10分ほどだ。そろそろ不味いとオデンキング達はユリに二人の所在を確かめた。
「アインズ様とアルベド様は既に出発されました。30分ほど前でございます」
ユリは二人に無情な事実をつきつけた。
「え?」
馬鹿な、早すぎる、とオデンキングはその理由を考える。
「ま、まさか…」
そして真実に辿りついた。
「アルベド様から厳命をいただいております。オーディン様とシャルティア様には行き先は伝えるなと」
そう、全てはアルベドの掌の上で遊ばされていただけだったのだ。会議の存在をシャルティアにそれとなくリークしたのも、時間を勘違いさせることも。
「やられた…」
「あ、あんのクソビッチィーッ!」
そこにいたのは哀れな敗残者の二人だけだった。
アルベドは今、人生で一番の幸せの絶頂にいた。
なんといってもアインズと二人きりのデートだ。
外見の都合上人目につくところではデートにならないため人気のない森の中―――トブの大森林の少し開けた部分でアインズと逢い引きしていた。
地元の人も足を踏み入れないこの森に、何故かファンシーでメルヘンチックな二人で座るのに丁度いい切り株。
職人が計算して出来たような木々の隙間から溢れる幻想的な木漏れ日。恋人の逢瀬に理想的なこの場所は当然アルベドプロデュースの造られた空間だ。
そう、アルベドはあわよくばここで一発決めるつもりだった。
「静かでございますね、アインズ様…」
「ウム、そうだなアルベドよ」
男女が寄り添っている。柔らかい日差しが優しく辺りを差し、鳥の鳴き声だけが遠くから聴こえてくるような暖かい光景。まさに恋人の逢瀬だ。
それが骸骨と悪魔でなければだが。
そしてついに女の方が我慢出来ないといった様子で――――――
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ナザリックでオデンキングとクレマンティーヌに割り当てられている客室。今二人はベッドの上で今後のことについて話し合っていた。
「流石にそろそろ帝国に行きたいなー。えらい先伸ばしになっちゃったし」
当初の予定では帝国で稼ぎまくっている筈だったが随分とナザリックで世話になってしまった。此処の住人達とも仲良くなれて楽しいことがいっぱいあったのは確かだが―――
「まぁ今のディンちゃんと私ってただのヒモだしねー」
「だよなー」
そうなのだ。客人と言えば聞こえはいいがぶっちゃけ特に何もしていないこの状況は一般的にはヒモと呼ばれる状態だろう。規模は桁違いだが。
「それにナザリックにゃ人間社会に紛れ込んで情報収集出来る子は少ないからな。セバス達が王都に行ってんなら俺達が帝国で情報収集と金稼ぎするのもありだろ」
スレイン法国との件もありオデンキングは既にナザリックが自分の本拠地に近い意識でいたし、ナザリックの者達もそれを受け入れていた。
「いいんじゃない? 私はディンちゃんに付いていくだけだしー」
クレマンティーヌは色々と目的は変わったが結局オデンキングと共に生きていくと決めていた。生存本能が刺激された結果なのかどうかは不明である。
「んじゃーアインズさんが帰ってきたら伝えるか。アルベドもここまでいったら充分だろうし」
「はーい。んっ…」
夜は更けていく。アインズとアルベドはまだ帰らない。
深夜、アインズの私室にて。
「えらく帰り遅かったですねー。デート上手くいきました?」
「ええ、まあ…」
心なしかゲッソリとしているアインズ。
「俺達、明日此処を出て帝国を探りがてらある程度の地位までは昇ろうと思ってます。法国だって一枚岩じゃないだろうし周辺諸国の情報と金がいる場合もあるでしょうし」
定期的には帰ってきます、と続ける。
「ええ、解りました。ただ高レベルの存在もそこそこ確認してますし、危なくなったらすぐ帰ってきて下さいね」
アインズも友と別れるのではなく仲間が情報収集に行く、といった意識なので特に引き留めはしない。
「ん? 今日何か見つけたんですか?」
少し言葉に違和感があったアインズに気が付き問い掛ける。
「ええ、トブの大森林の奥でレイドボスみたいな樹と戦いました。結構強かったんでレベル80前後はあったんじゃないかと」
デートを邪魔されたアルベドが防御主体のジョブ構成にも関わらず叩きのめしました、とアインズが苦笑いする。
「うーん、何だかんだで結構高レベルの存在が居るもんだ。やっぱ庶民の情報だけじゃあまり当てになりませんね」
「ですから、くれぐれもお気をつけて」
「はい。アインズさんも頑張って下さいね、アルベドのこととか」
ハハ、と渇いた笑いで返すアインズ。
「あと、一つだけ言っておきたいことがあります」
急に真剣味を帯びたオデンキングにアインズも姿勢を正す。
「あの時は慌ただしかったので突っ込まなかったんですが…」
「あの時、ですか?」
首を捻るアインズ。慌ただしかったといえばあのスレイン法国の部隊が来たときだろうかと思い当たった。
「宝物殿の領域守護者って」
「あーあーあー! 聞こえません! 聞こえませんとも!」
小学生の様に、無い耳を塞ごうとするアインズ。あれは黒歴史なのだ、触れられるだけで聖属性ダメージ全開だ。
「Wenn es meines Gottes Wille!!」
「ヤメロォ! というか何でそんな流暢に喋れるんですか!?」
結局明け方まで語り合っていた二人であった。
おまけ
「そ、それでどうなったでありんすか!」
「それはもう、アインズ様のウールがゴウンゴウンして…くふー!」
「くぅ…。妾もゴウンゴウンしたいでありんすぇ…」
淑女の会話も明け方まで続いたそうな。
エイトエッジ・アサシン「すごいな…」「うお、あんなとこまで…」「というか護衛付いてるの知ってるよな?」「そういうプレイか…」「ありだ」「うむ」