オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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この小説を見るときは部屋を明るくして、カリスマEXを読み返してからみてね。

ちょっと壊れ気味


カリスマ(偽)

時間は少し戻り、アインズによるお願いとデミウルゴスによる交渉が終った少し後。

どちらも脅迫であるというのは気にしてはいけない。

 

漆黒聖典と風花聖典が精神を磨り減らしナザリックを後にしようと出口まで向かっている。

 

「んじゃ、仕上げといこう。クレマンティーヌ」

 

「はーい」

 

その集団を待ち伏せているオデンキングとクレマンティーヌの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長…。なんて説明するんですか?」

 

そう声を漏らしたのは漆黒聖典の第11席次。

 

「カタストロフ・ドラゴンロードも発見出来ず、挙げ句の果てにそのために持ち出すことを許された傾城傾国まで奪われたなんてどう説明すれば…」

 

出口に近付きやっとこの悪夢の墳墓から帰れると気を緩めた男は今度は帰ってからの事を考えて憂鬱になる。

 

「ありのままを説明するしかないだろう。あれは下手をしなくとも世界を滅ぼせる戦力だ」

 

逆に問い掛けられた隊長の方はなんてこと無さそうに言う。色々と吹っ切れたようだ。

 

「そ、そりゃそうですけど…」

 

「帰って私達がすることは謝罪でも責任を取ることでもない。このナザリック地下大墳墓がどれだけ脅威の存在かということを余すことなく伝えることだ。もし本国が情報を軽視した場合、犠牲となるのは町や都市といったものではなく国や周辺国家だ」

 

男は断言する。強いからこそ解ることがあるのだ。

自分一人だって都市を落とすことくらい時間を掛ければ出来るのだ。ならばあの化物達ならば言うまでもないだろう。

 

「しかし、問題は……む、」

 

隊長の歩みが止まる。

 

「隊長?」

 

何事かと隊員達が訝しがる。

 

「何か違和感が…避けろっ!」

 

突然叫び声を上げ部下に指示をする。そしてその声を受けた第8席次と第9席次もさるものである。急な指示にも焦ることなく、いきなり真横に現れた気配に構えを取る。

 

誤算があったとすれば相手の強さだろう。視認すら難しい疾さでそれぞれ右肩と左の太股に、行動に支障が出るほどの傷を負わされた。自分達に傷をつけ、通り過ぎ去った疾風の正体を見た彼等は驚愕した。

 

「おひさー。元気にしてたぁー?」

 

口の端を歪めた元同僚の姿がそこにはあった。

 

「クレマンティーヌっ…!?」

 

第9席次が思わずと言った風に名前を呼ぶ。

 

「あれー? 何驚いてるんだか。私が此処に居るってのは把握出来てたんじゃないのー?」

 

ニヤニヤと挑発気味に応えるクレマンティーヌ。非常に楽しそうだ。もともと弱者をいたぶるのが好きな彼女はこの久々の蹂躙を満喫していた、しかも隊長は別にして他の隊員達は今まで同格だった者達なのだ。優越感と嗜虐心で心がいっぱいになっていく。

 

いくら人生観が変わったと言っても、幼少期から築かれた人格はそうそう変わらないということだろう。クレマンティーヌ自身は随分と温厚になったものだと自画自賛しているが。

 

「貴様…よくもおめおめと我等の前に顔を出せたものだな…!」

 

隊員達は悔しげにクレマンティーヌを睨み付ける。そう、睨み付けることしかできなかったのだ。何故ならば今の一合で実力差が理解出来てしまったから。

 

「久しいな、クレマンティーヌ。この短期間で何があった? こいつらとこれほどの実力差は無かったと思うんだが」

 

だから気にしていないのは隊長だけだった。強くなって尚自分には届いていないと理解していたからだ。もともと隊を抜け出したこと自体も気にしていなかった。

 

追っているのも風花聖典であり、自分には関係ないと。だから気になったのは飛躍的に上がった実力の方だけだ。

 

「内・緒。まぁテメェには届いてねえのは自覚してんよ。そのうち首洗って待ってな」

 

一転、笑いが消え瞳孔が開き、口調まで変わったクレマンティーヌが威嚇するように隊長に言葉を掛ける。

自分を前にして余裕の顔を見せる男に、いつか殺してやると息巻いている。そんなクレマンティーヌに場の雰囲気にそぐわない呑気な声が掛けられる。

 

「あんま調子のると殺されるよ、クレマンティーヌ。今はまだ我慢、我慢」

 

《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》を解いたオデンキングがクレマンティーヌの傍によっていく。

 

隊長は11席次に目をやる。自分の感知能力でも気配が解らなかったこの男の実力を知るためだ。

その意味を理解し、11席次は震えながら隊長に頷きをもって伝える。こいつも格上だと。

 

「貴方もナザリック地下大墳墓の御方でしょうか?」

 

それを見た隊長はやっと拾った命を捨ててなるものかと慇懃な態度で尋ねる。

 

「ああ、クレマンティーヌと共にナザリックに居るもんだ」

 

所属する、とは言わないのはなるべく勘違いさせるためだ。別に嘘を言っている訳ではない、〈消防署の方から来たものです〉ばりの暴論ではあるが。

 

「はい、どうぞ」

 

隊長の方に向かってあるものを投げつける。それを見た風花聖典の隊員が声をあげた。

 

「そ、それは、叡者の額冠!?」

 

そう、オデンキングはある意図があって持っていても意味の無いこのアイテムを返却した。

 

「手ぶらで帰らせるのも可哀想だし、お土産にね。じゃあ俺達はこれで」

 

手をひらひらさせながら、ヤりたりないと不満そうにしているクレマンティーヌを宥めて去っていく。

残された者達はいったい何だったのかと疑問に思いながらも、叡者の額冠が返ってきたことに喜びを顕にする。

 

「これで、多少の面目は立ちますね」

 

「ああ…そうだな」

 

歯切れの悪い隊長に11席次は問い掛ける。

 

「どういう意図があるか解りますか?」

 

まさか、態々こちらのために叡者の額冠を返してくれた訳ではないだろうと誰もが思っていることを口に出す。

 

「おそらく…不安の払拭と、法国に対する飴の意味もあるのだろう」

 

「飴? 叡者の額冠がですか? 」

 

「違う。まず出てきた理由の方だが、これは此処の勢力が人間をきちんと受け入れているのを見せて法国が恐怖で暴発しないようにすること」

 

まず間違いないだろうと推論を続ける。

 

「飴の方は、クレマンティーヌの実力だ。この短期間であれだけ実力を上げた理由にこの場所が関わっていないというのは考えづらい。ならばそれを此方に見せ、戦力を飛躍的に増強させる手段がありますよと見せ付けたのだろうさ」

 

オデンキングが伝えたいことを完璧に看破した隊長。

 

「何にしても有難いことだ、本国への説明の材料が増えた。まあそれを見越しての事だろうがな。そしてついでに知略の方も侮るなよ、ということだろう」

 

力だけではなく、深い知性も併せ持った存在にますます畏怖を覚えた聖典の者達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴が終わった明くる日のこと。ナザリックでは今、転移してきて一番重要な会議が開かれていた。

 

 

「全員揃ったようだな」

 

オデンキングの声が部屋に響く。

 

「では、これより会議を始める」

 

 

 

 

 

 

昨晩にアルベドの下着に異常ありと報告を受けたオデンキングは一夜明けた今ナザリックの、冗談が通じそうな面子を集め会議を行っていた。

 

「尚、今回の会議にはソリュシャンちゃんとルプーちゃんに出席いただいている。理由は会議の内容で解るだろうから省略させてもらおう」

 

オデンキングは全員を見渡し、異論は無いようだと判断する。

 

 

「ではまず1つ目だ。昨晩から今日の昼にかけてアルベド、そしてその下着周辺を探るエイトエッジ・アサシンの集団から報告が入った」

 

オデンキングの言葉に全員が真剣に耳を傾ける。

 

「2つ目、これは皆が既に知っての通り今日アインズさんとアルベドがデートに出掛ける件だ」

 

2つ目の事実が判明した時はシャルティアが最大の警戒態勢に入ったがオデンキングの懇願により今は監視するだけにとどまっている。

 

「後者については申し訳ないが、俺の作戦のせいで間違いないと思う」

 

オデンキングがアルベド大作戦part3であったことを説明する。

 

そう、今は色々とやることが多いのにこんなアホな会議をしているのはアルベドが今日アインズとデートをするからだ。

 

そもそも人目につくアルベドが態々自分でこっそり洗濯をしていたのだ。つまり乾く暇も無いほど常に興奮していたということだ。

 

ばれない訳がない。

 

それでも今の今までシャルティアの襲撃が無かったのは、オデンキングが懐に詰めていたアインズの写真をばらまいたことで意識を逸らしたことと、それまではその平たい草原に影も形も無かった筈の巨大な胸についてオデンキングがPADは駄目だと説得していたためだ。

 

「どちらにせよ寝耳に水だったシャルティアが錯乱した時エイトエッジ・アサシンが早々に取り押さえたことは英断だったが、君達もシャルティアを責めることはしないでほしい」

 

こんな程度のことで友の最高傑作を失うのは御免被るオデンキング。

 

「重々承知してるっす、オーディン様。シャルティア様はナザリックが誇る階層守護者。こんな事で失望する者はこの場には存在しないっすよ」

 

オデンキングの言葉に即座に返答するルプスレギナ。

 

その言葉には90%の笑いと嗤いが入っている。実は腹黒ルプスレギナ。

 

 

 

「アインズ様ノ世継ギノタメトアラバアルベドヲ守ルノハ当然。御命令ヲイタダケレバスグニデモシャルティアヲ取リ押サエテ御覧ニイレマス」

 

全くシャルティアを信用していないコキュートス。

 

「うむ、君達がアインズさんの子供を欲しているのは私としても嬉しい限りだ(どうやって作るんだろ?)」

 

アインズをアルベドとくっつけるにあたって懸念していたことは、もはや気にしないことにしたオデンキング。

 

「話を戻すが、アルベドの下着の数はエイトエッジ・アサシンの話を聞く限り、総数117枚で間違いないようだ」

 

随分な数を持っていたアルベドである。

 

「そしてそのアルベドだが、以前エイトエッジ・アサシンが確認した時は―――精々1日10回程度の下着交換だったということが判明しているのだがな、おそらく今は30分に一回は替えていると思われる」

 

 

「アインズさんとのデートの時は更に消費が増えるだろうから、その時どう行動するのかは不明だ」

 

昨晩、報告の内容を吟味し話すことを纏めていたオデンキングはすらすらと話を進める。

 

「アルベドを付け狙う、シャルティアについては問題だらけだ。有象無象の弱者では速攻返り討ち。レベル80以上のモンスターを数体出しても数分の足止めで終わるだろう」

 

だが、とオデンキングは続ける。

 

「アウラちゃん、こちらの方は定かではないが妨害してくる可能性は低いだろう、安心してくれ」

 

マーレの目に安堵の光が宿る。

 

「…だが、だ皆のものよ。心して聞け。シャルティアよりも警戒すべきことがあるのだ」

 

いったいそれは、という目がオデンキングに向けられる。

 

「未確定の情報ではあるが、この中にアインズさんが思慕の情を持つ者が居るかもしれん」

 

全員に衝撃が走った。

 

「そ、それは信憑性のある情報なのでしょうか?」

 

デミウルゴスがオデンキングに問い掛ける。

 

「1%…と言ったところか。ペロロンチーノさんの知識にある、紳士達が誇る秘中の秘と呼ばれる性癖の存在。そしてここに居る一人が、日常的に着ていた女物の服のような装備」

 

オデンキングにはその性癖に心当たりがあった。

 

「もしそれがアインズさんの性癖であったならばおそらく〈男の娘萌え〉と云われる物であると思われる。精神錯乱系統の性癖だ」

 

ざわり、と場が揺れる。

それはそうだろう。例えどれだけ可愛くても男では世継ぎが生まれない。ましてや精神錯乱ともなればアンデッドの状態異常無効を打ち破っている可能性があるのだ。

 

男では孕むことなど出来ない。〈ユグドラシル〉どころか世界の常識だ。

 

「それで、だ。その情報を踏まえた君達の意見を聞いてみたい。各自、忌憚の無い意見を交わしてほしい。ソリュシャンちゃんやルプーちゃんにも発言してもらいたいな」

 

そうオデンキングが言ったものの自然と場の視線はマーレに向けられる。このナザリックで男の娘は彼だけなのだ。

 

「えっ、えっと、あの…」

 

その視線の意味をしかと理解したマーレは顔を真っ赤にして意見を述べる。

 

「あ、あの、アインズ様がそういう性癖だって本当なのかな…ボク、あの…」

 

マーレの様子は致命的に可愛かった。

 

「ほう。理由を聞かせてくれるか、マーレちゃん」

 

しきりにオデンキングが自分の股間の様子を窺う。まだ大丈夫のようだ。目覚めていない。

 

「だ、だってそうだとしたら…アインズ様は、へ、変態だってことに…」

 

至高の御方が変態だった。考えただけで不敬であるその可能性に部屋に居る全員が背中に寒気を覚える。

 

「そ、それにアインズ様がボクなんかを…」

 

俯くマーレ。

 

「フム、成る程な。だがマーレちゃん、あまり自分を卑下するものじゃない。マーレちゃんはぶくぶく茶釜さんが作った最高のNPCの一人だと俺は思う。充分魅力的だよ」

 

どうやらオデンキングも錯乱してきたようだ。

 

「え、あの…あ、ありがとうございます」

 

頬を染めながらお礼をいうマーレ

 

ハッと我にかえるオデンキング。自分はノーマルなのだと言い聞かせる。同性愛者になる可能性など1ミリたりとも残したくはない。

 

「解決案が見つからんな…。ウウム、どうしたものか」

 

全員が意見を出せずうろんな目をしている。何か言いたそうだ。

 

「…ソリュシャンちゃんはどう思う?」

 

ここまで殆んど沈黙を保ってきたソリュシャンに問い掛ける。

 

「私程度の者が意見など…」

 

悩む素振りを見せるソリュシャン。

 

「いや、今はどんな意見でも聞きたいんだ。もし考えがあるなら言ってみてくれないか?」

 

考えが纏まらないオデンキングはすがる気持ちでソリュシャンに視線を向ける。

 

「とりあえず今は1%の可能性を議論するより、デートとシャルティア様の件について議論すべきではないでしょうか」

 

誰もが思っていた事をはっきり言う。

 

「ですよね。はい、その通りです」

 

とりあえず冗談はここまでだと仕切り直す。

 

「さて、シャルティアの件については実は心配いらないんだ」

 

どういう事かと皆はオデンキングに物問いたげな視線を送る。

対してデミウルゴスはその一言で全て理解したようだ。ナザリック最高の頭脳はこんな無駄な議論でも発揮されるのだ。

 

「ぶっちゃけアインズさんになんか命令しといてもらえればいい。ナザリックの外で行う任務とか」

 

思い人からデートの邪魔だからと任務に出される。

シャルティアにとどめをさすような外道な意見に全員が確かにそうだと肯定の意を示す。

 

 

「あとは、デートの件か。これについてはやはりこっそり着いていって適宜フォローしていく形にするしかないんじゃないかな」

 

少し言葉を切って唇を湿らすオデンキング。

 

「下着はその中身はともかく、表面上は特に異常は見てとれないような服装を心掛ける。クレマンティーヌに聞く限り、中身がヤバイことになっていてもある程度まではセイキの守護者足り得ているようだし」

 

クレマンティーヌがオデンキングの視線を受け、うんと頷きを返す。

 

「となれば後は考えうる限りの非常事態に備え準備することにしよう」

 

デミウルゴスもさっさと終わらせてほしいといった風に納得の表情を見せる。他の守護者とプレアデス、セバスも同様だ。

 

「考えなし、と捉えられるかも知れないが俺はもはや同志であるアルベドと友であるアインズさんに幸せになってほしいんだ。彼等が帰ってきたときに仲睦まじくナザリックで過ごせるように」

 

その言葉にクレマンティーヌを除く全員が感動で声が詰まった。

 

この御方は、ふざけているように見えて、どこまでも、どこまでも我等の事を考えて下さっている。

 

我等が間違っていたのだ。ただ面白がって引っ掻き回しているだけだと思っていたなんてなんと愚かだったのだろう。やはりこの御方はアインズ様の友に相応しい。

 

感動している彼等にクレマンティーヌはドン引いていた。

 

「さて、じゃあとりあえずアインズさんのとこに行ってシャルティアの件について話すか」

 

あー楽しかったと、感動している皆をおいて部屋のドアを開けるオデンキング。

 

「……」

 

「……」

 

そこには好みにドがつくストライクな美少女が立っていた。

 

「……キイテタ?」

 

蚊が鳴くような細い声でオデンキングが問い掛ける。良く見れば足も震えている。

 

シャルティアが頷く。

 

「少し、お部屋でお話しいたしんしょう。 オーディン様」

 

 

 

 

 

ナザリックに来て初の、女の子のお部屋に誘われる機会は一番好みの美少女によるものだった。




お部屋で絞られました。


次話、デート回。

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