4月○日
朝 8時 鎮守府正門
「お花見…ですか?」
「はいなのです!」
正門で警備をしている憲兵の元にやって来たのは駆逐艦電だった。電は憲兵が最初怖かったが話してみるといい人で、勉強を時々見てもらったりしている。そんな彼女が言うにはなんでも今年の桜は今までで一番咲き誇っていると村人から聞いた提督が皆でお花見をしようと言い、開催することになったらしい。場所は鎮守府から少し離れた近所の公園でするということであった。
「そうですか。楽しんできてください」
「はいなので……憲兵さんは来ないのですか?」
「はい」
それを聞いた電の表情が曇る。1人彼を置いて行くのは可哀想だと考えたのだろう。何時も鎮守府の警備やゴミ拾い、また提督や艦娘への本部からの資料を見やすい様にまとめてくれている。休むこともない。年中無休。演習などでその事を話すと他の鎮守府の艦娘達はそこまでしてくれるのか?と言うほどである。確かに他の憲兵達は艦娘や提督を守ろうとするがそこまでの雑務はしない。行事には参加するし、休みも貰ったりする。この憲兵が異常なのである。
「電は憲兵さんとお花見したいのです」
「……………すいません」
行かないと言うのが分かり、電はとぼとぼと帰って行った。すごい罪悪感を感じながらも自身の任務を放棄することはしない彼はまた警備に勤しむのだった。
◇
「憲兵さん!」
電が帰ってから10分もしないうちに今度は正規空母を二人、赤城と加賀を従えた提督が来たのだった。
「どうしてですか?」
「何がでしょうか?」
主語が抜けているので何の事を問われているのか分からない憲兵。首を傾げ少し考えるが思い当たることが全く出てこない。
「花見です!」
「花見のことは知っていますよ。楽しんできてください」
「はい!…じゃなくて!憲兵さんも来るんです!」
「行きません。鎮守府の警備をしないといけませんので」
頑なに来ようとしない憲兵。そんな彼をやれやれといった感じで見ている加賀。赤城は手に持っているうま○棒を食べる。提督は一歩憲兵に近づく。
「他の子は先に行ってます。電ちゃんとても残念そうでしたよ?『憲兵さん来ないって言ってたのです』って」
「………電さんには申し訳ないことをしました。では次回は参加するようにしますので」
それでも動こうとしない憲兵。提督は仕方ありませんと言い片手をあげた。何をしようとしているのか分からない憲兵はただ見ているだけだったが次の瞬間、両腕をしっかりと加賀と赤城に組まれていた。
「な、何をするんですか?!」
「強制連行です♪大丈夫です。鎮守府は妖精さん作の監視カメラと警報器で守られていますので」
「許しは請いません恨んでください」
「行きましょう憲兵さん!」
「は、離してください!」
振りほどこうとするもかなりの力で腕を組まれているため動けない。力ずくで抜けようと考えるが艦娘に怪我をさせることは許されない立場なので力も出せない。鼻唄を歌う提督。その後を憲兵を拘束した加賀、赤城がついていく。ずるずると引きずられていく憲兵であった。
◇
昼 13時 鎮守府付近の公園
桜が咲き誇る公園。そこではこの村を守っている鎮守府による花見が開かれていた。間宮、鳳翔が作った弁当だけでなく、近くの民家の人たちからの差し入れもあり豪華なものとなっていた。
「ささ、憲兵さん飲んでください」
手に持った紙コップに注がれる酒。酒を注いでいるのは水上機母艦の千歳だった。酒の入った紙コップを見て顔をしかめる。
「一応勤務中なのでお酒はちょっと………」
「私が入れたお酒は飲みたくないのね……」
よよよ、と嘘泣きをする千歳を見て少し困ったようにする憲兵。仕方なく酒を飲むことにする。口の中に広がるほのかな甘味と苦味。つんと鼻を突くような感触。
「うふふ…おいしいですか?」
「………はい」
紙コップ一杯で顔を少し赤くする憲兵を千歳はかわいいわねと言いながら見ていた。しばらくして千歳はヒャッハーさんにつれていかれ一人になり少しホッとする憲兵。
「え、えっと憲兵さん」
すると蒼龍がおかずやおにぎりを乗せた紙皿を持ってきた。後ろの方では別のシートに座った飛龍や赤城、翔鶴がニコニコしながら見ており、加賀は瑞鶴と何やら話していた。
「と、隣いいでしゅか?!」
「えぇ、構いませんよ」
噛んだことを深く追求せず隣のシートの桜の花を少し払う。失礼しますと憲兵の隣に座る蒼龍。少し距離が近いような気もするが特に気にしない憲兵。
「楽しんでますか?」
「えぇ、来ないつもりでしたが来てよかったですよ」
そう言ってお酒を飲む憲兵。いつもとは少し違う優しい雰囲気を纏っているその姿を蒼龍は見つめていた。そして意を決し行動に出る。
「あの……これどうぞ」
卵焼きを差し出す。鳳翔曰く、憲兵がよく昼食で卵焼きを食べている姿が目撃されていると聞き、憲兵さんの為に蒼龍が作ってきたものだった。
「ありがとうございます。しかし、お箸がないですね……」
そう言って立ち上がった憲兵の服の袖を掴む蒼龍。少し顔が赤くなっており、座っているので必然的に上目遣いになる。
「私のがあるので……」
「……しかし」
「嫌ですか?」
少し涙目の蒼龍を見て渋々座る憲兵。笑顔になる蒼龍。
「では箸を」
「あ、あーん」
卵焼きを差し出してくる蒼龍。以前食堂で赤城相手に逆であるがこのようなことがあったと思い出す。憲兵は少し考えるが待たせている蒼龍が可哀想になり仕方なく食べさせてもらうことにする。
「失礼します」
「あっ……」
卵焼きを口に含む。甘味と卵の深い味が口に広がる。
「どうですか?私が作ったんですけど」
「美味しいですよ」
「よかった………」
すると何を間違えたのか憲兵のコップの酒を飲み干してしまう蒼龍。憲兵はそれに気づき止めようとするも既に飲み終えていた。飲み終えた彼女は顔を赤くしぼーっとしていた。異常に気づいた憲兵は直ぐに水をコップに注ぎ手渡す。すると蒼龍は憲兵と目があった瞬間に抱きついてきた。
「そ、蒼龍さん?!」
「えへへ…けーんぺーいさーん」
何とか手に持っている水をこぼさずにバランスをとる。ほっとしていた彼の胸に顔を埋めて頬擦りをする蒼龍。引き離そうとするもがっちりとホールドされており抜け出せない。お腹辺りには彼女の大きい膨らみが押し付けられるがそれどころでは無い憲兵は必死に振りほどこうとする。空母娘たちはそれを見て固まっており、駆逐艦達は顔を真っ赤にしていた。軽巡洋艦や重巡洋艦はガン見しており、戦艦達は空いた口が塞がらない。提督はそれを見てぷるぷる震え叫ぶ。
「な、な、なにしてるのー!?蒼龍ちゃん!なにうらやま………んん!憲兵さん困ってるでしょ!離れなさい」
蒼龍を引っ張るが離れようとしない。
「やー!」
「ぐぎぎぎ」
―――
――
―
10分後やっと憲兵から蒼龍を引き剥がすことに成功する。憲兵の上着を蒼龍に渡すとそれを抱き締めたまま眠ってしまった。
「憲兵さんも気を付けないといけないですよ!」
「すいません」
「もう!私といてください!そうすれば安心です」
提督はすとんと憲兵の隣に座る。そして憲兵の肩に自分の肩が触れそうなところまで近づいてくる。
「………提督」
「なんですか?」
「近くないですか?」
「蒼龍ちゃんは良いのに私はダメなんですか?」
先程のは事故だと何度も説明したが納得してくれない。もう考えるのはよそうと考える憲兵だった。
◇
暫くして、提督と話をしている憲兵の元に電がやって来た。
「憲兵さん」
「電さん……朝は傷つけてしまい申し訳ありませんでした」
そう言って立ち上がり頭を下げる憲兵。電は必死に顔をあげてくださいと言う。それでも頭を上げようとしない憲兵。お酒がまわったのだろう。いつもとは少し違う憲兵。
「なら……お願いを聞いてほしいのです」
電は少しもじもじしながらそう切り出す。私にできる範囲であればと言い頭を上げる憲兵。
「ひ、膝枕をしてほしいのです……… 」
「いいですよ」
「えぇ!」
何故か提督が驚いていた。何時もの憲兵ならやんわり断るはずと考えていたからである。憲兵の隣に座り失礼するのですと言い、頭をゆっくりと膝の上に乗せる。少し固いが中々の心地に目を細める電。すると憲兵は電の頭をゆっくりと撫で始めた。
「はわわ!」
「…………」
どこか物寂しげに、慈しむような表情で頭を撫で続ける憲兵。そんな彼を見ていた提督は何時もとは違う憲兵を不安そうに見ていた。
◇
夜 20時 憲兵寮の自室
お花見も終わり部屋に戻ってきた憲兵。提督や艦娘たちに誘ってもらいありがとうございますと頭を下げ部屋へと戻ってきた。
ふと棚の上に飾ってある写真を見る。
「………………」
そしてそれを倒し見えないようにした。
◇
本日の主な出来事
朝
電さんと会話をする。
昼
提督様にお花見へと連行。千歳さんや蒼龍さんと交流する。少しのアクシデント発生。
電さんに膝枕をする。
一言
私にも子供がいれば、電さんのように甘えてくれただろうか………らしくもない……
最後
本日も晴れ、鎮守府に異常なし
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