本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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遅くなってごめんなさい!

いやほんと…




番外編 憲兵と榛名 後編

 榛名と初めて会った日から一週間。その間憲兵は毎日のように彼女の元へと訪れた。彼は直接会うのは無理だと判断し交換ノートを医師の金元を通じて始めることにした。金元医師は反対していたが諦めず何度も頭を下げる憲兵に呆れながらも他の軍人とは違うと感じ始めていた。そして憲兵が持ってきた交換ノートを金元医師も仕方なく榛名へ手渡した。ノートを渡された榛名は初めのうちは読むことをせずに返していた。しかし、毎日のように今日の事や、町の話を書いてここへ持ってきてくれる憲兵の行為に申し訳無さを感じた榛名は少しずつ読むようになっていった。そして返事がないまま一方的な交換ノートを始めて二週間目でようやく返事が返ってきた。

 

『こんにちは』

 

たった一言だったが彼にとっては大きな一歩であった。この返事があった日はバディを組んでいる艦娘の鹿島に報告するほど喜んだ。

 それから毎日彼女との交換ノートでのやりとりが続いた。簡単な自己紹介や、病院での出来事。主治医である金元医師の顔が少し怖いなどを書くようになっていた。本当に少しではあるが病室でも怖がることもなく看護師や金元医師と笑って話ができるまで回復した。だが、軍関係者と会うのはやはり怖いと言っている。憲兵はどうしたらいいのかと頭を悩ませていた。

 

「…」

「どうしたんですか?難しい顔をしていますよ?」

 

ふと声を掛けらた彼は頭を上げる。視線を上げた先には首を傾げながらこちらを見つめている鹿島が憲兵を見ていた。彼はどうすれば彼女が艦娘に戻れるかを考えていたと鹿島に伝える。中々案が出てこず悩んでいる憲兵に鹿島が少し休憩するために外に出ては?と進言する。ここのところ働き詰めの彼への心配の言葉だった。

 

「外へですか……なるほど!」

 

憲兵はデスクの電話機に手を伸ばし、金元医師へ電話を掛ける。内容は一日だけでいいから榛名を町へと連れていく許可を取っていた。断られるかと思われたが金元医師からの返答は彼女が行きたいと言うのならいいと言う返事であった。

 

「私も…憲兵さんと…」

「何かいいましたか?」

「い、いえ!なんでもありません!」

 

 まさか聞こえているとは思わず、すみませんと頭を下げ部屋から出る鹿島であった

 

 

 

 電話があった翌日。金元医師はいつものように憲兵から受け取った交換ノートを榛名の元へと届けにいく。交換ノートを受け取った榛名は以前よりも生気を感じられるようになった。彼は憲兵の行動がここまで彼女の精神を安定させるとは思っていなかったため大変驚くと同時に中々やるじゃないかと感心していた。

 数分後、交換ノートを読み終えた榛名に金元医師は昨日憲兵と話した内容を伝えた。彼が町を案内したいと言っていると。数分考えた後、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「外に出てみたいです。この交換ノートには町の景色は勿論なんですが…笑顔で町を行き交う人の事も書かれています。榛名も…この交換ノートに書かれている所に出掛けてみたいです」

「それは憲兵と会うことになるが…」

「この交換ノートを書いている人ですよね?見てみますか?」

 

 榛名はノートのあるページを広げて金元医師に見せる。するとそのページには赤、黄色、橙色など秋の紅葉を代表する色彩で簡単だが、絵が描かれていた。初めて中身を確認した彼は少し驚いていた。あの男絵が描けるのかというのもあるが毎回この絵を描いているのかと。

 榛名は自身にとってその絵は初めて見る景色だと言っていた。艦娘として以前の鎮守府で長い間閉じ込められていた。唯一外に出れるのは出撃する時の海だけ。このノートには自分が知らない世界が広がっている。それを知りたいと医師に伝えた。

 

「こんなに暖かな景色を描ける人になら…榛名は安心できそうです」

「分かった…そう伝えておこう」

 

 こうして榛名にとって産まれて初めてのお出掛けとなるのであった。

 

  

 

「お、お待たせしました」

「…本日、護衛させて貰います憲兵です」

 

榛名が外に出たいと言った日から二日後、榛名は港町の駅前で待ち合わせしていた憲兵と出会う。あの絵を描いていた男性とは思えないほど大柄な男であった。最初に出会ったときのことを錯乱していた榛名は覚えておらず、今日が初めての顔合わせといっていい。榛名は金元医師から事前に憲兵について聞かされていたが

 

「…あの…」

「…何でしょうか?」

「……何でもありません」

 

 怖い。そう思ってしまう榛名。逆に憲兵もどう接すればいいか分からず黙り込んでしまう。目の前には涙目の少女。しかし、ここで何もできなければ後悔してしまう。何より彼女を艦娘としてでは無く、一人の女の子としてこの町を案内しようと考えていた。

 

「何かあれば言ってください。今日は艦娘では無く一人の女の子として、護衛では無く案内人として町を案内させていただきます」

「は、はい!」

 

では行きましょうと彼女を町へと連れていくのであった。

 

 

「わぁ…」

「ここはこの港町では『台所』と呼ばれる場所です。様々な地域から野菜や食肉などが揃えられており、この港で獲れた新鮮な魚も揃っています」

 

人々の活気に溢れた声、多くの人が行き交う光景を見て圧倒されていた。そこはあの暗い鎮守府の部屋とは違う世界が広がっていた。

 

「凄いです」

「ここはこの港町の中心部ですから」

 

そう話をしている二人に後ろから声を掛けてくる人物がいた。

 

「あれ?あんた艦娘じゃないかい?」

 

 後ろには荷物を抱えたおばちゃんが立っていた。憲兵はまずいと身構えるが次の瞬間にその必要は無いと判断した。

 

「え、えっと」

「あんた達のお陰でここに戻ってくることができたよ…本当にありがとう。そうだ!ちょっとこっち来な!」

「あ、あれ?」

 

おばちゃんに手を引かれていく榛名。ずんずんと進んでいくおばちゃんと榛名の後を何とか着いていく憲兵。するとおばちゃんがとある店へと榛名を連れてきた。

 

「あれ?母さんその子は?」

「あれだよ!ほら艦娘だよ」

「はぁ~この娘がか?」

「あんたこの子に揚げたてのコロッケやんな」

「あいよ!ちょっと待ってな娘さん!」

 

 突然のことに困惑している榛名を余所にコロッケを揚げるおっちゃんと中でそれを手伝うおばちゃん。憲兵は少し離れた場所でそのやり取りを見ていた。数分後、揚げたてのコロッケを持っておばちゃんとおっちゃんとが出てきた。おばちゃんは榛名にそれを渡す。

 

「ほら!熱々の内に食べな!おいしいから!」

「そ、そんな…お金も払ってないのに」

「いいのいいの!あんたはこの海を守ってくれてるんだろ?こんなコロッケじゃ足りないかもしれないけど感謝の気持ちだよ!」

 

 にっこりと笑いながら笑う二人。榛名はじゃあとコロッケをかじる。一口、二口と口にコロッケを運ぶ榛名。すると榛名の瞳からは自然と涙が流れていた。おいしいですと何度も言いコロッケを食べる榛名を見ておばちゃんは榛名の頭を撫でていた。

 

 

 おっちゃんとおばちゃんに別れを告げその後二人は様々な店を見て回った。その度に榛名は店の人や道行く人に感謝された。気づけば榛名の手には沢山のお土産があった。持ちきれない分は憲兵がそっと荷物を持ち運んでいた。楽しい時間はすぐに過ぎる。夕方になり町が橙色に照らされる時間。榛名を憲兵はとある場所へと連れていっていた。

 

「ここは…」

「…ここは私が貴方との交換ノートに絵で書いた景色の場所です」

 

榛名の眼前には、ノートの中でしか見ることが出来なかった紅葉で彩られた山々の景色だった。夕方と言う時間帯であるため夕日がより一層紅葉を鮮やかに染め上げていた。

 

「…綺麗」

「……」

 

しばらくの間黙って景色を眺める二人。すると榛名がゆっくりと口を開いた。

 

「憲兵さんの交換ノートのままでした…ここの町は活気に溢れていて、皆笑顔で…暖かくて…榛名は前の鎮守府が世界の全てだと考えてました。榛名はでき損ないの兵器。産廃だって…」

 

 あの提督が彼女に言ったのだろう。憲兵は悔しさから拳を力強く握る。もう少し早く…対応していればと後悔する憲兵。榛名に謝ろうと彼女の方へ向く。しかし彼の目に写ったのは弱々しい少女の姿では無かった。

 

「だから…死にたい…解体されて楽になりたいって思ってました…でも……私はもっとこの世界を見てみたいです!だから私を…『榛名』を艦娘としてこの町を…海を守れるように戻りたいです!お願いします!元に戻るのに時間が掛かるかもしれないですけど…ここで終わりたくないです!」

 

ーあぁ…何て強いのだろうこの子は…そこまで言われたら何がなんでも彼女を支えてやらねばー

 

「任せてください。

 

何があっても貴方を支えます。

 

何があっても見捨てはしません。

 

何があっても貴方を裏切りません。

 

何があっても貴方を守ります」

 

「約束ですよ?」

 

「えぇ…約束は破りません。私は憲兵ですから」

 

この後、約半年掛けて彼の支えと己の心で誇り高き金剛型三番艦榛名として立ち直ることが出来た彼女は自分を救ってくれた彼が配属される鎮守府へ向かうことになる。

 

 

 

 




鉄血のオルフェンズも後2話ですね…オルガァ…

次回作はかなり迷ってます!
票が別れているのでどうすれば…



本編の番外編で次はヤンデレ鈴谷と憲兵さんの話を書こうかな……

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