本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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遅くなりました!
ごめんなさい!




二十一日目

11月●日

 

朝 10時 鎮守府正門

 

「…」

 

いつものように鎮守府正門で警備をする憲兵だが、雰囲気が以前とは全く違う彼の変化に多くの人が驚きと共に不安に駆られていた。

 彼の変化に艦娘達や提督はどうすればいいか考えるがこれといった案が出てこない。秋山隊員は1ヶ月の研修を終え、先日憲兵隊本部へと一度戻っており彼女もまた憲兵の変化を見て不安そうにしていた。

 

「あの…憲兵さん…」

 

「…なんでしょう電さん?」

 

「お、おはようございますなのです」

 

「おはようございます」

 

恐る恐る声を掛けてきた電に淡白な返事と挨拶を返し黙る憲兵。電は肩を落としトボトボと戻っていった。

 

「…」

 

残された彼の頭上には曇り空が広がっていた。

 

◇ 

 

昼 14時 鎮守府会議室 

 

「憲兵さんの様子がおかしいです」

 

そう口にしたのは提督だった。

 会議室に居るのは演習、出撃、遠征任務がない艦娘たちが集まっていた。

 

「挨拶は返してくれるけど…」

 

「私たちとまったく関わらなくなりましたね」

 

「あのお祭りの後ですよね」

 

各自何が彼をあそこまで追い詰めているのかを考える。

 

「あの時憲兵さん泣いてました」

 

吹雪が思い出したのは花火を見て静かに涙を流す憲兵の姿であった。あの時の彼の横顔は言葉にできないほどであった。

 

「…奥さんと子供を思い出したんじゃないですか?」

 

「それしかない…よね」

 

赤城の意見に同意する提督と一同。10年も前とはいえ、最愛の人とその人との間に出来た子供を同時に失った彼の悲しみと喪失感は想像もできない。

 

「榛名は憲兵さんに助けられました…だから今度は私が助けたいです。あの人の悲しみを和らげるなんてできないかもしれません…いやできないです。でも…それでも榛名はあんな悲しそうな憲兵さんを放っておけません!」

 

どん底から手を差し伸べてくれた相手が苦しんでいる。たとえ拒まれても、彼には元気にいてほしい。好きな人には笑顔でいてほしいと考えるのはおかしいことではない。たとえ偽善だとしても榛名は彼を救いたい。

 

「でも…どうしたらいいの…」

 

不安そうにそう口にする鈴谷。重い雰囲気が立ち込める室内でどれだけ考えても出てこない答えを探す一同。しかし、腕組をして考えていた提督が、私いいこと思い付いたとそう口にしたのであった。

 

 

 

夕方 19時 憲兵寮

 

「…」

 

 自室で資料を黙々と纏める憲兵。彼の頭の中で考えるのは彼女と子供のことばかりであった。どうして自分が生き残り、彼女と子供が死んでしまったのか。自分だけ幸せな日々を過ごすことなど許されるはずがない。

 

「…」

 

机の引き出しから写真を取り出しそれを見る。そこには夏の旅行に行った際、提督が撮ろうと言い皆で撮った写真だった。思い返せば彼女達と関わっていくうちに救われていたのは自分であることに気づく。彼女達の暖かさや、まっすぐな意思、思いやりは彼の凍りついていた心を溶かしてくれた。しかし、喪失感を和らげることができなかった。二年前の自分に戻ったようだと自嘲する憲兵。自分はここに居るべきではないのではないかと言う考えが頭を過る。椅子の背もたれに体を預け天井を見る憲兵であった。

 扉をノックする音が部屋に響く。何かあったのかと憲兵は立ち上がり部屋の扉を開ける。するとヲ級とイ級ブラザーズが居た。憲兵は不安そうに自分を見てくるヲ級やイ級の頭を撫でる。ぱぁっと明るい表情になる一人と二匹。するとヲ級が憲兵に紙と白い花を差し出してきた。そこには『いつも、ありがとう。げんきだして だいすき』と下手くそながらに一生懸命に書かれた手紙、そして白い花

 ヲ級は憲兵が元気がないのを見ており、自分に何か出来ないかと考えていたのだ。魚をくれる青年に聞いたとき、手紙を書いてみたらいいと言われ、憲兵や提督などには内緒で青年に字を教えてもらって手紙を作ったのだ。

 

「これは…手紙と…白いアザレア?」

 

「ヲ…」

 

憲兵は驚きもあったがそれ以上に言葉にはできない何かが込み上げていた。そしてヲ級を見ると照れているのか微笑んでいた。

 

「……あり、がとうござい…ます」

 

憲兵は込み上げてくるものに我慢できず涙を流す。先日流した涙とは違い、暖かい涙が出てくる。今まで我慢してきた分なのか憲兵は泣きじゃくる。ヲ級は驚いたのかあたふたとしており、イ級ブラザーズは憲兵の足元に寄り添っていた。

 数分後、何とか泣き止んだ憲兵。憲兵はヲ級の頭を優しく撫でる。そこへ電がやってきた。

 

「け、憲兵さん!あ!ヲ級ちゃんもイ級ちゃんたちもその…今から食堂に来てくれますか?」

 

 

鎮守府 食堂

 

「何かトラブルでしょうか?」

 

「憲兵さん…扉が空かないので開けてほしいのです」

 

疑問に思いながらも憲兵は食堂の扉のドアノブを回す。すんなりと回り室内へ入る。

 

「憲兵さん!いつもありがとう!」

 

クラッカーの音と共に提督の声が続き、艦娘達もありがとう!と憲兵を歓迎する。何事か分からず呆然とする憲兵を電と雷が手を引っ張り席へと促す。テーブルには憲兵が好きな好物が並んでいた。

 

「これは…一体…」

 

「その憲兵さんが元気が無かったので…元気付けようと…」

 

えへへと笑っている提督や艦娘達。憲兵は突然のことで驚いていたが、それ以上に自分を元気付けてくれるためにここまでしてくれた彼女達の思いやりにまた涙が出てきた。

 

「あ!憲兵さん泣いてる!」

 

「本当に…本当にありがとうございます…」

 

 憲兵はこんなにも素敵な人々に囲まれていることに感謝するのであった。

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

門番と一通りの業務を終わらせる

 

夕方

 

資料の整理

 

 

提督と艦娘の皆様にお疲れさま会をしていただいた。

 

一言

私は…本当にここに来てよかった。彼女が死んでから私は私ではなかった。でも、桜村の提督や艦娘の皆様、そしてヲ級とイ級たちのお陰で私は私を取り戻すことができた。だから…もう少し頑張ってみよう。前までの私を見たらきっと絵里に怒られそうだから

 

最後に本日は曇り後晴れ、鎮守府に異常無し

 

 

 

 




多くの感想、評価、アドバイスありがとう!そしてありがとう!

まだまだ募集していますのでよろしくお願いいたします!

憲兵さんが元気になってよかったよかった。シリアスが似合わないほのぼの作品なのでね…多分

あと、鉄血のオルフェンズ2期始まりましたね!(関係ないね)
え?鉄血で好きなキャラ?最近はタカキウノくんです

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