本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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最近寒くなってきたので皆さん体調には気を付けてください

本編です!


二十日目

10月**日 桜の日

 

夕方 17時 桜村神社

 

桜の日になり、村全体が光で溢れる日。人々が行き交い、話し声や笑い声、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。その中を元気な駆逐艦の娘達と変装したヲ級に手を引かれあっちへこっちへと引っ張られる憲兵。その後をゆっくりと話ながら着いていく潮、時雨、吹雪、電、朝潮そして鳳翔。イ級ブラザーズは吹雪と時雨の腕のなかで人形に扮して着いてきていた。

 

 

「憲兵さん!あれ食べたいっぽい!」

 

「憲兵さんおっそーい!」

 

「けんぺぇさん!リンゴ飴です!」

 

「ヲ!ヲ!ヲヲン!」

 

「レ、レディーは飴なんか…」

 

「憲兵さん!疲れてるなら雷がお茶を買ってきてあげる!」

 

「ハラショー」

 

「少し、待ってください」

 

もう三十路を迎えて体力的にも衰えが出始めたのか、憲兵はふらふらになりながらも駆逐艦達に振り回されながら屋台巡りをしていた。

 憲兵は人数分のリンゴ飴を購入し駆逐艦に配っていく。近くの休憩所で皆で座り美味しそうにリンゴ飴を食べる駆逐艦とヲ級。すると憲兵の隣に鳳翔が腰を下ろしペットボトルに入ったお茶を差し出してきた。

 

「お疲れさまです」

 

「ありがとうございます鳳翔さん…頂戴いたします」

 

「凄くお疲れですね」

 

「彼女達のパワーには着いていくのでやっとですよ」

 

ふふふと笑う鳳翔。憲兵はペットボトルのお茶をゆっくりと飲んでいく。疲れが幾分かましになり鳳翔と話をする憲兵。するとヲ級が自分が座っていた席から立ち上がり、鳳翔の前に立つ。そして食べかけのリンゴ飴を鳳翔に差し出した。

 

「ヲッ!ヲッ!」

 

「……どうしたのヲ級ちゃん?」

 

「一口どうぞと言っているのだと思われます」

 

「あぁ、なるほど…」

 

ヲ級は首を縦に振り鳳翔の口元へリンゴ飴を近づける。鳳翔はありがとうと言い一口かじる。そして次にヲ級は憲兵に差し出してきた。憲兵もありがとうございますと言い一口かじる。すると鳳翔がふふふと笑う。何かしてしまったのかと考える憲兵の耳に顔を寄せてくる鳳翔。

 

「間接キスですね…」

 

耳元でそう呟く彼女、そしてそのまま憲兵の肩に頭を預けも憲兵にもたれ掛かる。いつもは物静かな女性が急に大胆になる。攻めるときは攻めるのが鳳翔クオリティー。硬直し動かなくなってしまう憲兵。それを見ていた暁はその後鳳翔に弟子入りするのはまた別の話。

 

 

夜 19時 桜村神社の裏山

    

「横山殿!それと皆さん!こちらでございます!」

 

裏山から花火を見る場所に向かう憲兵達。すると先に来ていた提督や秋山隊員、そして他の艦娘が待っていた。憲兵は頭を下げながら敷かれていたブルーシートに腰を下ろす。回りには駆逐艦の艦娘達が座り、花火が始まるまでの時間を過ごしていた。

 アナウンスが流れ、花火が始まる。空を鮮やかに彩り、様々な形の花火が打ち上がる。来ていた村人や艦娘達は空を埋め尽くす火の花に目を奪われていた。

 

「綺麗…」

 

憲兵の隣に座っていた吹雪がそう呟く。そうですねと返事をする憲兵。憲兵は花火を見るのに夢中になっているヲ級の頭を優しく撫でる。

 

 

 

 もし…もし子供が生きていたらこの美しい風景を見せてあげられたのだろか?産まれてくるはずだった子供は…私に似て無口で、おとなしい子か、彼女に似て明るく元気な子か…どちらにせよこの花火を見せてやりたかった。

 愛する妻も、子供も…全てを失った。打ち上げられ消えていく花火の残り火に小さな男の子と手を繋いだ彼女の姿が見えたような気がした。待ってくれ…消えないでくれ。まだ伝え切れていないことが沢山あるんだ…さよならも、ありがとうも言えないまま…私の目の前から消えないでくれ。私を…一人にしないでくれ…

 

「憲兵さん?」

 

 ふと我に返り声の主を確認する。隣に座っていた吹雪さんが不安そうに私を見ていた。

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「泣いているんですか?」

 

何を言っているのかと思ったがふと頬をつたうものに気づき手で触れる。濡れていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「…えぇ、少し目にゴミが入ったみたいです」

 

何年振りだろうか…涙を流したのは…

 

ハンカチで涙を拭きまた花火を見る。

 

 

しかしもうそこにはもう彼女の姿は見えなかった。

 

 

花火大会も終わり、鎮守府の帰路につく一同。憲兵は疲れて眠ってしまったヲ級を背中に背負い歩く。その隣を提督が並んで歩いていた。

 

「綺麗でしたね。花火」

 

「えぇ…とても綺麗でした」

 

憲兵の雰囲気がいつもとは違うと感じた提督。

 

「…憲兵さん何かありましたか?」

 

「何でもありません」

 

きっぱりと言う憲兵。提督はそれでよしとはしなかった。

 

「嘘です。何かあったんでしょ?だから相談…」

 

「何もないですので…大丈夫です…」

 

それは明確な拒絶であった。提督はそれ以上なにも言わず憲兵を心配そうに見つめていた。

 

鎮守府に着いた後、憲兵は人を避けるように自室へと戻っていくのだった。その姿を多くの艦娘が心配そうに見つめているのに気がつかない憲兵だった。

 

 

本日の主な出来事

 

桜村のお祭り、花火大会に参加。

 

一言

 

絵里…私を憎んでいるのか…

 

 

最後に

 

本日も晴れ、異常なし

 

 




憲兵さんが病んじゃう?!
前半の鳳翔さんとのいちゃいちゃはどこへ…

感想、評価、アドバイス、誤字脱字などあればよろしくお願いいたします。


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