新田提督達が来る前日のお話。
朝 七時 憲兵家
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃいパパ!」
朝、笑顔で見送りをしてくれる私の妻と娘。本当にいい家族をもったものだ。妻は近所でも有名なくらいきれいだし、娘も目に入れても痛くはない。
「あ、あなた…その向こうでは気を付けてね?浮気はダメよ?」
「わかってるよ。僕が愛してるのは君だけだからね?」
「みおもパパ好きだよ」
「うん。パパも美緒が好きだよぉ」
そう言って娘の美緒を抱き上げる。ほっぺにちゅーとしてくる娘…あぁ、これで十年は戦える。絶対結婚なんてさせない。てか許さない。男が近づくことも許さん。捕縛する。
「今日休みたい」
「行きなさい」
ぴしゃりと妻に言われしぶしぶ鎮守府へとむかうのであった。
◇
朝 九時 執務室
「お疲れ様です提督」
「た、助けてくれ!憲兵さん!」
執務室を入ってからの提督の第一声が助けを求める声だった。状況を確認すると戦艦武蔵に押し倒されている提督の姿があった。思わずため息をついてしまう。この鎮守府ではいつものことなのだ。ここの提督はまぁ、かっこいいのだ。運動神経もよく、頭も良い。性格もよく見た目も多くの一般人の女性が振り向くような端整な顔立ちをしている。今年で25歳になるのだが女性の前ではかなり弱気なのだ。
「武蔵さん…離れましょう」
「む…仕方ない。また夜に来るとしよう」
「はぁ…」
しぶしぶと部屋から出ていく武蔵。提督は泣きそうな顔をしながら震えている。これが我が上司の欠点なのだ。女性が苦手どころの話ではないのだ。昔、襲われそうになったのが原因らしいのだ。
なら何故艦娘を指揮する提督になったのかと聞いたとき
『人を助けるのに理由はいらないだろ?私の祖父が昔海軍で働いていて、多くの人を救ったらしい。だから私もそうなりたいんですよ。全ては守れませんが、私の手の届く範囲は絶対に守りたい…そう思って海軍に来たので』
笑顔で答えた彼の顔は本当に良い笑顔だった。その時居た大淀さんがぽーっと提督を見つめていたのは内緒だ。
「ありがとうございます憲兵さん」
椅子に座り直す提督。とりあえず本日の予定を話していく。
「桜村から旅行で新田提督と艦娘が来るそうですよ」
「なに?!な、なら鳳翔さんも来るのか!?」
「え、えぇまぁ来ると思われます」
「そうかそうか…会えるかなぁ」
そう言って資料を纏める提督。彼は新田提督の鎮守府に配属されている鳳翔さんのことが好きらしい。以前新田提督と演習したときに何故か炊き出しをしていた鳳翔さんに一目惚れしたとか…こうティンと来たとか
「会えると良いですね」
「あぁ!さて今日の仕事を終わらせましょう!」
◇
昼 十二時 執務室
「お疲れ様です」
「おぉ!憲兵さん!見回りご苦労様です!どうですか?一緒に食事でも?」
ま、眩しい。何でこんな笑顔をできるんだ。私が今の妻を振り向かせるためにどれだけ苦労したか…神よどうして、この世界は残酷だ。
「艦娘達に囲まれるのが困るから誘ってますよね?」
「…ソンナコトナイゾ」
しっかりしてほしいものである
食堂
食堂へとやって来た提督と私だったが提督は食堂に入った瞬間挙動不審になる。
「…大丈夫ですか?」
「憲兵さん…離れないでくださいよ…」
周りを見ると提督を見つめる艦娘達。最近胃薬が手放せなくなったのは歳のせいだ。そうに違いない。
提督と席に座り食事を取る。日替わりランチを食べる提督。わたしは愛しの妻の弁当を食べる。手紙が入っているな…ふむ今日は美緒も手伝ったのか……何だと?!
「いつも思いますけど憲兵さんのお弁当美味しそうですね…一口貰っても」
「ダメです。これは娘が手伝って作ってくれたものです。私のものだ。私のものだ」
「あ、はい」
やらん!ついでに嫁にやらん!
◇
夕方 十七時
「憲兵さーん」
「夕張さん?どうかしましたか?」
正門の掃除をする私の元へやって来たのは夕張さんだった。嫌な予感がする。
「熊野さんと足柄さんとイクちゃんが提督に襲いかかってます!」
「助けてえええぇ憲兵さあああああん!」
「待ってください!熊野がぎゅってしてあげますわ!」
「待って!私と夜戦しましょう!」
「イクと気持ちいいことしよぉぉ!」
「いやあああああああああああ!?ヘルプ!ヘルプ!憲兵さああああああん!」
おかしな叫び声を挙げる提督を追いかける三人の艦娘。
これはまずいな
「今行きます提督!何とか持ちこたえてください!」
「無理無理!無理だぜこんなの!どうやって相手にすれば良い?!」
少しばかり提督の口調がおかしいがとりあえず熊野さんと足柄さんと19さんを取り押さえなければ提督が死ぬ。死にはしないと思うが追いかけてる三人の眼が少々危ない。提督を追いかける三人を追うために駆け出すのだった。
◇
夜 十九時 自宅
「つ、疲れた…」
へとへとになりながら自宅へと帰ってくる。あの追いかけっこはその後多くの艦娘も参加し大規模なものとなったが何とか鎮圧することができた。手伝ってくれた那智さんと夕張さんには感謝してもしきれない。わたしは提督に明日の予定などを報告をし、帰宅すると言うと行かないでくれと泣きつかれたが帰ってきた。許してください提督。ちなみに提督の部屋はオートロック式となっておりカードが無いと入れないものとなっているので夜はまぁ、安心です…多分。
「ただいま」
「おかえりなさいあなた」
出迎えてくれる妻。ぎゅっと抱きついてくる…癒されるなぁ…
「美緒は?」
「帰ってきてますよ。今日は学校の後にお友達と遊んで帰ってきたらしいですよ」
「へぇ~…それは男か?」
知りませんよもうとふくれる妻。かわいい。すると奥から美緒がおかえりなさい!と駆け寄ってくる。かわいい。ほんともう天使。あれ?私の家は天国なのか?
「パパ!今日のお昼のお弁当おいしかった?」
「うん!おいしかったぞ!」
私の返事を聞きえへへと笑う娘。
美緒の笑顔を見て本当に守れてよかったと思う。あの本土防衛戦での戦いは無駄ではなかった。守りきれたんだ。
「そういえば明日副隊長が配属されてる鎮守府がこっちに旅行で来るらしい」
「あら、そうなんですか?」
「多分引率で来ると思うからなぁ」
明日顔を出してみるか
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今回はギャグでした
もし、憲兵さんの奥さんと子供が生きていたらもっと表情豊かになってたかもしれませんね。