本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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旅行 二日目 散歩 星空

釣りを終えた憲兵はしばし休憩したあと街をゆっくりと見て回りたいと思い、少しばかりのお金を持ち周辺の街へと繰り出した。古い町並みを歩いて進んでいく。多くの観光客などで賑わっているお土産物屋や地元の人たちの話し声が聞こえる商店街。憲兵は町並みを眺めがら目的もなくただ歩く。ふと花屋があるのに気づき足を止め眺める。ひまわりや朝顔をはじめ、夏を代表する花が色とりどりに咲き誇り鮮やかに店を彩っていた。立ち止まりそれを眺める憲兵に気づいた店員の女性が近づいてきた。綺麗な黒髪で10代半ばの少女だった。憲兵はそっと頭を下げ綺麗に咲いていますねと店員に話しかけた。少女もありがとうございますと微笑む。

ふと憲兵の目に入ったのはポツンと置かれた寄り添うように咲いている二つの白い花だった。

 

「あれは…エーデルワイスですか?」

 

「ご存知なんですか?」

 

「えぇ、好きな花なので…確か花言葉は『大切な思いで』と『勇気』だった気がします。夏の開花なのに暑さに弱いのでかなり育てるのが難しい花なんですよね」

 

「詳しいんですね」

 

「好きな花なので…しかし、現物を見たのは初めてです」

 

「そうなんですね…ならこんな話は知ってますか?」

 

 

昔、とある登山家の男性が山を登っていました。男性は山を登る途中に一人の女性と出会います。それはそれは美しく綺麗な女性でした。男性はその女性に恋をしてしまいました。しかしそれは叶わぬ恋でした。なぜならその女性は地上へ降りてきた天使だったからです。しかし、男性は叶わぬ恋と知っていても彼女を諦めることができませんでした。そして男性は「どうかその美しい姿を見る苦しみから救ってください」と祈りました。すると女性はその場に白い一輪の美しい花を残して消えてしまいました。女性は男性に美しい白い花を残し天界へと帰ったのでした。

 

 

「……………」

 

「私、このお話が大好きで毎年育てるのが難しいと知っていてもエーデルワイスを育ててるんです」

 

そう言って微笑む少女。憲兵は黙って話を聞きエーデルワイスを見る。見事に咲くその花は自分が愛した女性を思わせる。

物思いにふけている憲兵に女性は植木から一輪のエーデルワイスを新たな鉢に植え替え憲兵の元へと持ってきた。

 

「よかったら貰ってください」

 

「いけません。せっかく大切に育てた花なのに」

 

「いいんです。私の話を聞いてくれたので感謝の気持ちです」

 

そう言って憲兵にエーデルワイスを渡す。ありがとうございますと頭を下げ憲兵はその花屋を後にするのだった。

 

 

 

「お帰りなさい」

 

散歩を追えた憲兵が、宿に戻ると提督が待っていた。憲兵はただいま戻りましたと頭を下げる。すると提督はもじもじとしながら何かを言いたそうにしていた。

 

「あの…憲兵さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「よかったら今晩出掛けませんか?二人で」

 

それを聞き硬直する憲兵だった。

 

 

「わぁ!星が綺麗ですね憲兵さん!」

 

「そうですね」

 

夕食を食べ終えた後、二人は宿の近くの砂浜へ出ていた。提督は夜空を見上げる。夜空には沢山の星が輝きその一つ一つが光を放っていた。

 

「綺麗ですね」

 

「はい…」

 

夜空を見上げる憲兵を気づかれないように見つめる提督。無表情だがどこか悲しげに見える憲兵。奥さんと産まれてくるはずだった子のことを考えているんだろうかと提督は思う。二人腰を下ろし夜空を見る。二人の間には言葉は無く、ただ静かな時間が流れていく。

 

「提督はどうしてこの世界に来たんですか?」

 

唐突に憲兵が話しかけてきた。提督は驚きながらもどうして提督になったのかを話はじめた。

 

 

「憧れの、人がいるんです」

 

提督はゆっくりと話始めた。

 

「実は、十年前の本土防衛戦で戦闘に巻き込まれているんです。当時八歳だった私は親と避難してたんですけどはぐれてしまって…その時に深海棲艦の砲撃が近くの建物に当たって建物が崩れてきたらしいんです」

 

待ってくれ…

 

「その時助けてくれた人がいたらしいです。名前も顔も性別も分からないんですけど…私は気絶していてなにも覚えてないんです。私は助かったんですけど私を助けてくれた人がどうなったのかはわからなくて…親も戦闘が終わってから病院で私と逢ったのでその人を見てないって…探したけど見つからなくて」

 

まさか…

 

「私はあの時助けてくれた人みたいに誰かを守る仕事がしたい。そう思って提督になりました。続けていればいつかきっと逢えると思って。それでお礼が言いたくて」

 

そう言って照れながら話す彼女。

 

「ありがとうございます。あなたのお陰で私は人を守る仕事ができていますって言えるように…これからも頑張っていきたいと思ってます」  

 

恐らく彼女が身命を賭して守った女の子は提督なのだろう。彼女が守った女の子は立派に多くの人の命を守りながら折れず、真っ直ぐと歩いている。

あの時の彼女の行動は間違ってはいない。恐らく私がその場にいたら私もそうしただろう。彼女を失ってから一時期はどうして命と引き換えに赤の他人を助けたんだ。見捨てたら良かったと考えたこともあった。でも…今こうして彼女が守った女の子は彼女のように人を守りながら意思を継いでくれている。これほど嬉しいことはないだろう。

 

「助けた人も誇らしいでしょう。小雪さんが立派に国を、人を、そして艦娘を守っているのを…」

 

「ふぇ…今小雪って」

 

「そろそろ戻りましょう」

 

「は、はい!」

 

絵里…君が守った女の子をこれからは私が守っていく。見ていてくれ。

 

 




心が折れそうだ…

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