本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

25 / 48
旅行 一日目 夜、部下の告白

「どうしたの榛名?元気ないネー」

 

海で遊び尽くし宿で豪華な夕食も食べ各々部屋へと戻り時間を過ごす。金剛型の部屋では金剛と比叡はテレビを見ており、霧島は憲兵から貸してもらった本を読んでいた。榛名は窓の側の椅子に座り窓から見える海をぼーっと見ていた。海で遊んでいたときから榛名の様子が少しおかしかったのは金剛型の3人は気づいていた。夕食の時でも元気がないのも分かっていた。

 

「憲兵さんが居ないからじゃないんですか?」

 

霧島がそう聞くも榛名は首を横に振る。

 

「………榛名は大丈夫です。憲兵さんも久しぶりに羽を伸ばしたいんです。きっと……」

 

「でも珍しいですよね。憲兵さんが出掛けるのって」

 

「憲兵さんにもお休みが必要なんですよ」

 

他愛のない話で盛り上がる金剛型。時刻は午後9時を過ぎようとしていた。するとどたどたと誰かが走っている足音が聞こえたかと思うと勢い良く扉が開かれた。入ってきたのは息を切らした吹雪だった。何事かと思い心配して話しかける金剛と比叡。

 

「け、憲兵さんが大変なことに!」  

 

 

宿の玄関に降りると若い青年に肩を支えられ顔を真っ赤にした憲兵がたっていた。玄関に充満する酒の臭い。目の焦点もほとんど定まっておらずふらふらしている。

 

「すいません。副隊長が飲み過ぎてこのような結果に…」

 

申し訳なさそうに頭を下げる憲兵の部下。話によるとかなりのお酒を飲んだらしい。普段しっかりしている彼がお酒の量を考えずに飲んだことに驚く一同。提督は頭を下げながら加賀と赤城に憲兵を部屋へと連れていくように伝える。すると憲兵は側で見ていた比叡と目が合う。憲兵は加賀と赤城を振りほどき比叡を抱き締めた。

 

「絵里……ぼくは君になにも……して……やれなかったな。許してくれ………」

 

「ひ、ひえ?」

 

抱き締められた比叡は硬直。その場にいた全員が唖然としていた。

 

「ふ、副隊長!まずいですよ!」

 

我に返った部下は憲兵を引き剥がす。そして憲兵の部屋まで部下が連れていくのであった。

 

 

部屋に憲兵を寝かせ広間へと降りてきた憲兵の部下。多くの艦娘と提督が待ち構えており逃げられないなと悟った彼は加賀に促され提督達が座っている向かいの椅子へと腰かけた。

 

「本日はどうもすみません」

 

「いえいえ、こちらもお騒がせしました。それと比叡さんは大丈夫ですか?もし不快に感じられましたら艦娘保護法第20条艦娘に対するわいせつな行為をした者に対する処罰にのっとり心苦しいですが副隊長を処罰できますが」

 

「い、いえ不快だなんてそんなことないです!」

 

「そうですよ!むしろ私にばっちこいです!」

 

比叡が否定。鈴谷が最上に取り押さえられていた。それを見た憲兵の部下はよかったですと笑顔になった。そして少しお互いの鎮守府の話をしたあと提督がある話題を切り出した。

 

「あの……絵里って誰なんですか?」

 

その名前を聞いた彼の表情が曇る。すると知っておいてもらった方がいいだろうと部下は判断し話を始めた。

 

「十年前に副隊長には奥方がおられました」

 

その言葉を聞き唖然とする一同。提督は憲兵さんがケッコンカッコガチをしてるなんてと目をぐるぐると回していた。

 

「その奥方の名前が絵里さん。お二人とも仲が良く我々部下から見てもお似合いのお二人でした。本当に………副隊長が二十歳の時には奥方のお腹の中に新しい命も宿っていました」

 

彼は昔を思い出すように話をする。一同は話に聞き入っていた。

 

「副隊長は元々親が早くに亡くなっており孤児院で過ごしていました。その時に出会ったのが絵里さんだったらしいです。いつも一緒で副隊長は彼女がいない人生など考えられないと……なのに」

 

「なのに?」

 

「皆さん十年前の本土防衛作戦は知っていますよね?」

 

「えぇ、確か人類が初めて敗北した悲劇の海戦の二ヶ月後の防衛戦ですね。初めて私達艦娘と共同で戦った作戦でもありますね」

 

加賀の説明を聞きその通りですと答える部下。

 

「あの戦いに副隊長と私は参加していました。そして私達は生き残った。しかし………副隊長の奥方はその防衛戦の時に一人の少女を庇い亡くなったと…お腹の子供と共に……」

 

絶句する一同。愛した女性とその間に新たに生まれてくるはずだった子供が亡くなった。

 

「その後は皆さんのご存知の通り副隊長は憲兵隊として貴女方を守っています。恐らく副隊長の性格上守ってくれた貴女方を助けたいと思ったんだと思いますよ。意外かもしれませんがああ見えて副隊長はかなりのお人好しですから」

 

静まり返る居間。ほとんどの艦娘は泣いていた。最愛の人がそして子供が死んだことに対する同情だけではない。憲兵がその悲しさと虚しさに押し潰されそうになりながらも自分達に優しく接し、弱さを一切見せず前を向いて一歩ずつ進んでいる。

 

「わ、わたひにだきついたのは?」

 

涙でぐしゃぐしゃになった比叡が尋ねる。

 

「比叡さんが副隊長の奥方にそっくりなんですよ。元気で家族想いで、失礼ですが空回りしたりするところまで」

 

「ぞうなんでずね」

 

居間には泣く声がしばらく続いた。

 

 

「ごめんなさい。情けないところを見せてしまいました」

 

目を赤くしながら頭を下げる提督と艦娘達。部下はこちらもすいませんと頭を下げる。

 

「副隊長のために皆さんが泣いているのを見て不謹慎ですが安心しました。こんなにも素晴らしい方々に思われているんですね。さて、私はそろそろ失礼します。これからもよろしくお願い致します」

 

そう言って自身の家へと帰る部下であった。

 

あそうだと玄関で立ち止まる部下。

 

「ああ見えて副隊長って結構もてるんですよ。こうなんて言いますか……乙女心をくすぐるような人なので。皆さんも気を付けてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイス等々よろしくお願い致します。

因みに本作の舞台になっている桜の村はモデルがあります。
日本海側の村と言うよりかは町ですが香住町と言うところです。とてもいいところで住んでいらっしゃる方々も優しく気さくな方が多いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。