本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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遅くなりました。




旅行 出発

8月◇€日

 

朝 7時 鎮守府門前

 

「憲兵さんは私の隣!」

 

「私の隣になるんです!」

 

「ぽい~」

 

「鈴谷、おちついて!」

 

「勘弁してください」

 

ぐいぐいと憲兵の手を引っ張る鈴谷と大和。夕立は大和、最上は鈴谷を止めようとしていた。今日は海へ行く日で3泊4日の旅行になり、大本営からの許可も貰い全艦娘が行けるのだが、憲兵が移動中のバスでどこに座るかで争っていた。

 

「埒が空かないわね」

 

「蒼龍参加しなくていいの?」

 

「あうぅ………」

 

傍観していた瑞鶴はからからと笑い。飛龍は蒼龍の背中を押していた。

 

「出発の時間まであと少しなのに………」

 

ここはグッと我慢した提督。今すぐ憲兵に飛び付きたい衝動を抑え何とか統率をとる。流石は飛び級で卒業しただけのことはある。やるときはやる提督なのだ。その提督の姿を見てうっとりする金剛。そして憲兵さんは補助席に座ってもらうことにし、補助席の番号が書かれたくじを引いて決める。真ん中の席になるので二人の艦娘に挟まれる形になる。

 

「では憲兵さんどうぞ!」

 

そう言ってくじを差し出してきた提督。憲兵は早く決めなければと思いさっとくじを引いた。

 

「五番五番!」

 

鈴谷が祈るように手を合わせる。そして憲兵の口から番号が発表された。

 

「三番ですね」

 

「ええええええ!」

 

残念そうに肩を落とす鈴谷。隣になった両名はというと

 

「よかったね榛名!」

 

「は、榛名はだだだいじょうぶでふ!」

 

比叡が声をかけるが大丈夫ではなかった。

 

「おぉ!よかったじゃん蒼龍!」

 

「あわわわわ」

 

ニヤニヤする飛龍。顔が真っ赤になった蒼龍だった。

 

 

今回は40人バスを2台呼びそれに乗り込む。憲兵は最後に鎮守府の戸締まりを妖精さんたちと確認し乗り込んだ。

 

「では、失礼します」

 

そう言い席に座る憲兵。

 

「は、はひ!」

 

「榛名は大丈夫です!」

 

すると憲兵が座ると同時に膝の上にシュノーケルと浮き輪を装備したヲ級とイ級ブラザーズが乗る。

 

「ヲ!ヲ!ヲヲン!」

 

「キュー!」

 

「ギュー!」

 

憲兵は優しく頭を撫でながら初めて、この鎮守府に来て初めてほんの一瞬だが笑ったのだ。

 

「……………?」

 

多数の視線を感じふと辺りを見渡すと車内の艦娘そして提督がポカンとした表情で見ていた。

 

「…………憲兵さんが笑った」

 

「え?」

 

無意識だったのだろう。指摘されて初めて微笑んでいたことを知らされた。提督は嬉しそうに微笑む。

 

「やっと笑ってくれましたね。ここに来てからずっとかなしそうな顔してましたから」

 

「憲兵さん笑うと可愛らしい顔するんですね」

 

近くにいた吹雪も微笑みながら憲兵を見ていた。

 

「…………少し寝ます」

 

「照れてる憲兵さんかわいい!」

 

指摘され恥ずかしくなった憲兵は帽子を深く被り直し顔を隠す。しかし、この恥ずかしさは嫌いではない。そう心で呟く憲兵だった。

 

 

「………憲兵さん」

 

隣ですやすやと寝息をたてる憲兵を見る榛名。お話ししようと考えていたが起こすのは可哀想だと思いただ見ることしかできない。でも肩が触れ合いそうな距離に憲兵さんがいる。そう思うと顔が熱くなるのがわかる。今考えれば憲兵さんには助けられっぱなしだなと榛名は思う。榛名は以前鈴谷と同じ鎮守府に居た。当時は提督に気に入られておらず体罰をよく受けていた。それにより榛名は精神的に参っていた時に、立ち直らせてくれたのが彼だった。はじめはとても怖かったが接していく内に外見は怖いが根は優しい人だと。そして何より毎日のようにカウンセリングや生活面でのサポートをしてくれる憲兵に思いを寄せるのには時間が掛からなかった。側に居てくれるだけで安心できる人。

 

そんなことを考えていた榛名に憲兵が寄りかかって来た。思考が停止する。隣に座っている比叡はおぉ~と声をあげており何人かの艦娘からの視線が榛名に突き刺さる。視線の中には提督も混じっていた。

 

少しの間だけ…今だけは彼を独り占めしたいと思う榛名であった。

 

 

憲兵は目覚めると同時に榛名に寄りかかっているのに気付き謝罪をする。榛名は大丈夫ですと微笑んでくれたのが救いであった。憲兵が目を覚ますと同時に何故かカラオケ大会が車内で開かれる。提督はノリノリで歌っており、金剛とデュエットしていた。隣に座っていた蒼龍が憲兵に歌わないですか?と聞いてきたのが彼の運のつきだった。多くの艦娘が聞きたいと言い出した。しかし、憲兵は渋っていたが多くの艦娘の気分を損ねるわけにはいかないと思い歌うことになってしまった。

 

「一曲だけです」

 

そして憲兵は歌い出した。

 

綺麗な声。日頃の憲兵からは考えられない声だった。歌の内容は亡くなった女性に想いを伝える歌。周りが忘れても自分は忘れない。季節がどれだけ過ぎようと君を忘れない。

記憶のなかに君を描く。それだけでもいい。悲しくそして優しい歌。

 

歌い終わり拍手に包まれる。すごい!歌がうまい!称賛の声が多く憲兵はほっとする。すると憲兵の膝の上で聞いていたヲ級だけが憲兵の頭を撫ではじめた。イ級ブラザーズも憲兵の足元で憲兵に体を寄せていた。

不思議に思った憲兵だが何故か『彼女』が側にいるように感じるのだった。

 

 




今回、憲兵さんに歌わせた歌。わかった人いるかな?

かなり古いです。

評価ありがとうございます!
それとお気に入りが増えていてとても嬉しいゾイ!

就活で投稿スピード落ちますがよろしくお願いいたします。

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