大尉とオーバーロード   作:まぐろしょうゆ

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(∪^ω^) わんわんお!


カルネ村お食事会

遠見の鏡の操作をワチャワチャと頑張っているモモンガを、

ただ黙って見守り続ける大尉とセバス・チャン。

最初は、

『そんなに見ないで欲しいのですが…』

と〈伝言〉で大尉に抗議していたモモンガだったが今では鏡に夢中だ。

そうこうしてるうちに操作のコツを掴んだようで、

 

「お見事でございます」

 

セバス・チャンが静かに拍手し主を賞賛する。

大尉も無言、無表情で拍手をしてやるとモモンガは、

えへへ、とわざわざ〈伝言〉で照れ笑いをしてくるのだった。

この若い髑髏のリーダーは褒められるのが大層好きらしく、

大尉が僅かでも賞賛系統の行為をすると

見るからに動きのあちこちに喜びが溢れ出る。

 

「ん?」

 

モモンガが何かに興味を惹かれたようで鏡を見入る。

やや離れた背後に立つ大尉もはっきりとモモンガと同じ光景を見ていた。

人と人の殺し合い。

何ともありふれた光景で、特に目新しさはない。

銃火器による殺傷よりも非効率的だが、

感触と実感は楽しめそうで……そして何より見ていると腹がへる。

といった感想しか出てこない。

そういえば最近、大尉は人間(ごはん)を食べていないのだ。

メイド達はしきりに食事を勧めてきたが、

環境の激変に対応するのに忙しく普通の料理で手早く飯を済ませていたので、

鏡に写る晩餐会の如き光景に腹の虫が誘われる。

 

ぐぅー、と大尉の腹が鳴いた。

その音にハッ、なって振り向いたモモンガは、

 

「………………………行きましょう大尉。 食事会です!」

 

そういえばバタバタしてましたもんね~、と言いながら勢い良く席を立つ。

大尉が人間を食いたがっているのを察して、少しの良心の呵責も起きなかったどころか、

当然だろう…という発想がすらすらと出てきて、

自分もまた虐殺劇を見て僅かな動揺もないと気付いて少し驚いていた。

が、そんなことはおくびにも出さない。

(俺だけじゃないんだ……化け物になっても大尉がいてくれる。

 大尉も一緒に化け物になってくれているんだ)

という共感と連帯感と仲間意識が、モモンガから孤独感を払拭していた。

 

「セバス、一部を守備に残し主だった者に”食事会”の準備をさせよ。

 この村を大尉の食卓とすると私が決めた。

 アウラのフェンリルと……そうだな、ルプスレギナも呼んでやれ。

 大尉はワーウルフ………一匹狼など無粋の極み。

 我が友にしてお前達の至高の主に相応の饗応をせよ」

 

カルマが善性に傾いているいぶし銀の執事は、

出来ることなら人間を助けてやりたくもあったがモモンガと大尉の為とあれば

比べる天秤など何処にもない。

全ては至高の御方々の為に………精々良き餌となってくれと願うばかりだ。

短く力強く頷いた彼は足早に退出し、

二人の主の為に最高のセッティングをしようと心を弾ませた。

 

「それでは大尉。 暫く下拵えをするので、ちょーっと待っててくださいね」

 

ニコニコ笑顔に見えるドクロ顔が転移門を出現させ潜っていくと、

その姿は吸い込まれて消えた。

待て、と命令されたのでとりあえず待つ大尉だが、

遠見の鏡をモモンガの見よう見まねで操作しリーダーを見守る。

万が一……ということをあり得るし油断は出来ない。

 

「……………」

 

しかし、どうもその万が一すら起き得ないらしい。

やはりというか、初見で鏡越しに理解できたことだがレベルが違いすぎる。

闘争には成り得ずとても戦いは楽しめそうになく、

この者達は食い散らかされる餌に過ぎない。

モモンガのデス・ナイトが鎧兵士達を一方的に嬲る様を見て

闘争の空気を完全に失っていた大尉だが空腹感は変わらない。

ジッと鏡を見ていたらコンコンと扉をノックする音が聞こえて、

 

「お待たせ致しました、大尉様。 お食事の容易が整いましてございます」

 

執事長が言った。

鏡を一瞥してから大尉が扉を開けてやると、

執事の左右にはズラリ…と守護者と戦闘メイド達が控えていて、

 

「あちらの転移門へお進み下さい」

 

と赤髪の人狼少女が大尉をエスコートした。

セバスとデミウルゴスの視線に促されて、

歩き出した大尉の後ろにピッタリとアウラが付く。

(モモンガ様の肝いりの御命令……

 大尉様に失礼が無きようしっかりエスコートするのですよ、アウラ、ルプスレギナ。

 これは試金石……モモンガ様は大尉様が二人を娶ることを望んでおられる。

 真の友誼で結ばれたお二人だ。 友の子を見たいと思うは必定!

 大尉様のお眼鏡に適えばその寵を頂くことになんの障害もない。

 なんとも名誉なことだ! 男の私でさえ嫉妬してしまいそうな幸福!

 モモンガ様の願いでもある。 二人共しっかり大尉様の愛を勝ち取り子を孕むのだよ!)

至高の御方に子が生まれればこれはナザリックにとって盆と正月が一緒に来たようもので、

親友の大尉が子を設ければモモンガも腹をくくるかもしれない。

いや、そもそも友に妻帯を勧めるのならモモンガ本人も満更でもないに違いない。

丸メガネの奥の瞳を輝かせた悪魔。

彼の心中をモモンガが聞いたのなら

「え、いや、ただ狼つながりで……その方が大尉の人狼捕食RPが捗るかと思っただけで」

軽い気持ちだったんだよ、なんで大尉の奥さん候補になってんの!

ついでになんで俺までそういう話に!?

と遠い目になるだろうが、

セバスから伝言を聞いたデミウルゴス達は、

とりあえずバンザーイ、バンザーイと心の中で諸手を挙げた。

勿論、アルベドとシャルティアの二人は万歳三唱どころではなく、

(ぃやったぁぁぁぁぁぁいよっしゃあああああ!!)

と超ガッツポーズであったのは言うまでもない。

アウラに続いてアルベドが、デミウルゴスが……

そしてプレアデスの全員がその後に続き、

それをシャルティア達お留守番組が

ハンカチを噛みしめそうな勢いで悔しがりつつ見送る。

ナザリックのお見合いお食事会が……、

カルネ村の虐殺劇が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルネ村の少女エンリと、その妹のネムは異形の魔道士に命を救われ、

最初こそ怯えていたが(本当に助かったのかも…)と思い始めていた。

しかし、喉から重低音の唸り声を響かせる

巨大な白狼が悠然と四足で大地を踏みしめ、コチラにゆっくり歩いてくるのを見て

(ああ、私達は食べられるために生かされたのだ)

と被捕食者の本能が悟った。

白狼に寄り添うように左右に同サイズの大狼が付き従っていて、

左のケモノには金髪褐色の男装のダークエルフ美少女がまたがっている。

 

「あぁ、たまらないっす! その顔! いい顔っすよぉ…ポイント高いっす」

 

「あはは、ホントだね。 君ってとぉーーーっても幸運だよ。 名誉だよ!

 至高の御方に生きたまま食される栄誉……噛みしめるんだよ?」

 

人語を解する狼と少女が、どこか恍惚とした表情で言うと、

中央に佇む…一際優れた美しい毛並みと威容を纏う白狼が、

裂けた口を笑うように開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだ! なんなんだ、あの化け物!」

 

激しく息を切らせながら、青い顔で走り続ける男が森を行く。

もう方角なんて分からない。

とにかく彼は必死に走っていた。

もうスタミナなんてないが、足を止めることは死を意味する。

何が何だか分からずに混乱する思考の中で、

ただそれだけははっきりと理解していた。

 

「はっ、はっ、はっ! ふ、振り切ったか!?」

 

汗だくで疲れきった顔を少し後ろに向けると、

よそ見をした瞬間に疲労が溜まりきった足はもつれて木の根につまずく。

情けない悲鳴と鈍い衝突音を響かせて、

焦燥した彼は受け身も取れずモロに転び、

 

「う……く、くそ」

 

すぐに起き上がろうとしたが、

彼はフッ、と気づく。 自分に樹木以外の影が覆いかぶさっていることに。

グルルルル……、

と喉を鳴らす巨獣が3頭、音もなく突然自分を囲っていた。

 

「あ、あ……あぁぁ……! た、たすけ……て!」

 

スレイン法国の陽光聖典。 その隊長、というエリート街道を邁進していた自分が。

瞬間的に精鋭の部下達が碌に抵抗も出来ずに狼に食い殺されて、

白狼に一目見られただけで恥も外聞もなく逃げ出した。

明らかに只の獣ではない。

目があっただけで自分は食われる側だと認識させられる赤い目。

生物の本能が逃げろと叫んだ。

だが今、逃げ切れられずにまたも恥も外聞も捨てて命乞いをする。

 

「た、助けて……! 助けてくれ! お、俺なんて食ってもうまくないぞ!

 いやだ! いやだぁぁぁ! 助けてくれええええ!!!」

 

叫んだ瞬間、

 

「フェン、右足」

 

少女の麗しい声と共に狼が駆け出して、

 

「ぎゃ、ぎゃああああっ!!」

 

ニグンの右足を噛み千切らぬ程度に噛み付いてブンブンと振り回す。

右に左に忙しくアーチを描いて地面に叩きつけられる頭から素っ頓狂な叫びが響く。

グジュルッ、と噛み千切られて勢いのまま宙に放られたニグンを、

 

「大尉様、見てて下さい!」

 

元気よくジャンプしたルプスレギナがキャッチした。

 

「あがっ! があああ!! だずげ――」

「――たまらん声っすね、うひひひひ♪」

 

同じように左足を加減して噛み付いた彼女は、

徐々に噛みつく力を強くしつつ上空、高らかに人間を投げて…

それを追って跳躍し見事に宙で左足を噛み千切る。

両足から血を撒き散らすニグンはそのまま地べたに墜落し

踏みつけられたカエルのような声を出す。

ひぃひぃ言いながら血の線を土に引きつつ這いずり逃げようとするニグンを、

 

「まだ結構元気だね! 良かった良かった。

 もっと大尉様の目を楽しませてよ! あはは」

 

フェンの上から眺めるアウラが機嫌良さそうに言った。

木漏れ日に反射して銀に光る白狼は静かにその”嬲り”を見ているだけだ。

大尉としては別に嬲るつもりもないし腹も膨れたので参加はしないが、

ナザリックの部下達の鬱憤晴らしにはなっているようなので黙認する。

彼が参加しない最大の理由は、

一口でも口をつけたらそのままグール化してしまうからだ。

それはちょっと困る。

這いずる彼は他の餌と違って階級が高そうで、

群れ全体の安全のためにも食い殺すのはまだ早い。

そして大尉のその考えは、

ルプスレギナは少々怪しいがアウラは正確に理解しているらしかった。

(大尉様が無様な人間の滑稽な姿に見入っている! 喜んでくれてる♪)

と思い込んでいるアウラもその点ではハズレであったが、

一応暇つぶしにはなっている。 大ハズレでもない。

 

「どこ行こうっていうんすか~?

 大丈夫っすよ………失血死しないよう回復はしてあげますから!

 もっともっと大尉様のために生き延びるっす」

 

にんまりと笑う獣が、ニグンと同じ速度で彼を追う。

 

「ひ……く、くるなぁ! もう嫌だ! 助けて、助けてくれぇ!!」

 

至高の人狼は静かにそれを見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルネ村を中心にしっかりと“囲み”を敷いている。

大尉の生き餌を逃さぬためだ。

モモンガは、大尉に満足してもらうためのディナー……

いや、この日の高さならばランチだろうか。

を提供するためにしっかり者の家令に命じて、

そして各守護者とプレアデス達が万全の態勢でそれに臨んでいる。

馬でコチラに接近していた騎士の集団も、

陽光聖典とか名乗った連中も、皆等しく大尉に食べてもらうんだ。

大尉はきっと喜ぶぞ。

モモンガの心はウキウキに湧いている。

そしてその喜びはナザリックの者ならば皆同じにするもので、

全員がこの追い込み猟を活き活きとした顔でこなしていた。

 

今、モモンガの足元にはこの周辺で唯一の生きた人間、ガゼフが転がっていて、

四肢は千切られていてイモムシのように蠢いている。

最低限の治療を施され失血死と、ついでに猿轡で自害も防がれている。

彼はリ・エスティーゼ王国の王国戦士長……

とか何とか言っていたので情報源になるだろうと

大尉は彼には口をつけなかった。

なので生かしておいてもグールになったりはしない。

手足をもいで首根っこを咥えてモモンガに差し出した大尉を見て、

モモンガも「あー、情報源ってことですね?」と理解した。

(大尉まだかなぁ……)

身を捩る足元の人間を熱のない空洞の目で観察して時間を潰す。

そのうちに、

 

「あっ、大尉!」

 

狼形態の大尉が人間を咥えて戻ってきて、

ポイッ、とゴミを投げ捨てるようにそれを首で投げる。

丁度ガゼフの真上に落下したそれは、

同じように四肢を千切られた男であった。

 

「お口に会いませんでしたか?」

 

それを見て言うモモンガに静かに首を横に振って白狼が答えた。

 

「彼も情報源に?」

 

今度は首を縦に振る白狼。

正直、モモンガとしてはありがたい。

ナザリック全体のことを思えばこの未知の世界の情報は欠かせない。

兵士へのファーストコンタクトはモモンガにとってドキドキものであった。

彼らの強さがユグドラシルにおけるLv100相当だったり、

一方的に殺されていた村人達がそれに匹敵する強さだったりも視野には入れていた。

かなり警戒しつつ、だが大尉へ食事をおごる情熱で頭がいっぱいだったモモンガは、

とりあえず心臓を潰してみたりデス・ナイトを作ってみたり恐る恐るだったが、

結果はこれである。

この世界は”弱い”。

だが、それでもナザリックの絶対的安全を確保する為には情報は少しでも多いほうがいい。

(気を使わせてしまった!

 ううう……くそ、次はもっとリラックスして食事を楽しんでもらうぞぉ)

そう思いつつ、

 

「ありがとうございます。 折角の大尉からの御厚意ですし………、

 ニューロニストのとこに送るのはどうでしょうか」

 

わざわざ残してくれた大尉の優しさに甘える。

あくまで大尉の善意であるので、

ちゃんと彼の意見にも伺いを立てる律儀なモモンガであったが、

白狼はあっさりと頷いて了承し、話は極めて迅速に片がついた。

周囲に展開していたデミウルゴスらがモモンガと大尉の下に集うと、

かき集めた全ての死体の残骸と共に皆で地下大墳墓へと帰還する。

 

帰宅し、私室の椅子に深々と腰掛けたモモンガは真っ先に、

ああそれにしても……と思う。

(大尉すっごいモフモフだったな……………。

 頼めば触らせてくれるかな……頬ずりとか、はやり過ぎか。

 ああ、でも…………モフモフだったなぁ)

純白の狼のぬいぐるみでもアルベドに作ってもらうか。

そんな埒もないことを考えているモモンガだった。

 


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