ひきこもりな彼女と働く僕   作:烈火1919

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 某日、今日も今日とて青年はバイトを終えはたてが待つ自分の家へと帰宅する。

 

 いつもと変わらない日常ではあるが、今日は二点ほどいつもと違うところがあった。一つ目は青年が右手に下げている袋いっぱいの食材、そしてもう一つは青年の表情である。青年はとても嬉しそうなニコニコとした表情を浮かべながら元気よく家の戸を開けた。

 

「ただいまー!」

 

「おかえりー。あら、その手にぶら下げてる袋は?」

 

「ふっふっふ……、これをみるがいい!」

 

 玄関まで迎えにきたはたてが、青年がぶら下げている袋に興味を持ち指さしながら説明を求めると、青年はあくどい顔をしながら袋の中身をはたてに見えるように大きく両側に開いた。

 

「えっ!?ちょ、これどうしたの!?」

 

「店長や慧音さんがくれたんだ。いやー、バイトを休まずに寺子屋の子どもたちに優しくしてるといいことあるね!」

 

「うーむ……、裏がありそうで少し怖いわね……。なんせ騙されることにかんしては人里一といっても過言ではないあんただし……」

 

「はたて……、そこまで心が穢れているなんて……僕は悲しいよ」

 

「う、うっさいわね!穢れてなんかいないわよ!」

 

 青年が悲しそうな顔ではたてを見ると、はたては少しだけ怒った顔をしながらそう反抗した。顔が少し赤いところをみると心当たりでもあるのだろうか。

 

「しかし……、結構な量をくれたみたいね。一人じゃ絶対食べきれない分量よ」

 

「それははたての分も入ってるからだよ。知らないの?はたては僕のバイト先では有名だよ。『僕の家で生活している美少女鴉天狗がいるって』」

 

「あら、あんたのバイト先はよくわかってるじゃない。まぁ、超絶美少女でもいいんだけど──」

 

「皆が間違えるといけないから、ちゃんと『僕の家でぐーたらしてるヒモな美少女鴉天狗』だって教えておいたよ」

 

「バイト先で私の悪口いってないでしょうね?」

 

「言ってたらどうする気?」

 

「骨を二・三本……」

 

「いってないから大丈夫だよ、はたて」

 

 青年は骨が大事なので嘘をつくのだった。

 

「慧音さんは僕のことが心配なのか、しょっちゅう安否を確かめてくるんだけどさ。僕がはたてに手を出さない限り大丈夫だと何度言ってもダメなんだよね。ほんとあの人は心配性だよ。逆に店長なんかは、さっさと死ねみたいなことたまにいってくるかな。死んだら死んだで閻魔様と会えるからいいんだけどさ」

 

「やめてよ。あんたが死んだらまた働かないといけないじゃないの」

 

「はたては僕のことを人間として見てない節があるよね。どう考えてもサイフとしか見てないよね」

 

「そ、そんなことないわよ!?……半分サイフで半分人間みたいな……」

 

「新しい妖怪の誕生だね」

 

 靴を脱いで玄関から台所へ移動する。袋からたまねぎ、たまご、にんじん、きゃべつ、しゅんぎく、白菜、しいたけ、もやし、そして豚肉を取り出す。隣にいるは

たてに青年は問いかける。

 

「ちょっとずつ使っていくか。それとも思い切って鍋でもするか。はたてはどうしたい?」

 

「鍋にしましょう。あ、少しずつ残していく形で」

 

「はいはい。 それじゃカセットコンロとか持っていってくれるかな?」

 

「えー……」

 

「いや、それくらいはしようよ」

 

「まぁ、今回だけね」

 

 唇を尖らせて鍋とカセットコンロ、その他をもっていくはたて。そんなはたてに苦笑しながら、青年は包丁とまな板を取り出し、手ごろな大きさに切っていく。使う食材はきゃべつ、しゅんぎく、白菜、しいたけ、もやし、そして豚肉。たまごとたまねぎは今回は使わないことにした。

 

「……豚肉を選んでいるあたり、慧音さんも偉いよなー」

 

 なんせ家には鶏肉を使うと落ち込んじゃう鴉天狗がいるんだし。

 

 そう思いながら、青年は手ごろな大きさに切り終えた食材をもってはたての待つ食卓に移動する。そこでははたてが必死に鍋を沸かしている最中であった。

 

 しかしそれがなかなかうまくいかずに、はたては少しイラつきながら何度も何度も回す。青年は溜息を吐いて横から火を点けた。

 

「……できたのに」

 

「知ってるよ。今日はお腹すいたから早く食べたかったんだ。ごめんね、はたて」

 

「まぁ、それならいいけど」

 

 そっぽを向くはたてに青年が謝ると幾分か機嫌を取り戻すはたて。

 

 青年はその間にお椀の用意と、ご飯をよそぐことにした。小皿を二つ取り出し、ご飯をふたり分よそぐ。

 

 鍋が沸騰する間に雑談することに。

 

「そういえば、文さんってさ取材のためなら何でもするんだっけ?」

 

「まぁ、大抵のことはするわね。紅魔館に潜入したりとか、博麗神社のありえない所に隠れていたりとか。あぁ、一度永遠亭の取材で捕まって酷い目にあったとは聞いたわね」

 

「それじゃ……えっちなこともしてくれるのかな……?」

 

「それはないわね」

 

 はたての無情な言葉に青年はがっくりと肩を落とす。

 

「パンチラしてくれるんでしょ?それで妥協しなさいよ」

 

「あ、そうだね。文さんのパンチラみれるから別にいいや。流石文さん」

 

「そんなんだからカモられるのよ」

 

 沸騰した鍋に食材を投入する青年。それを黙ったままみているはたて。と、思いきや何かを思い出したかのように青年のほうへと顔を向ける。

 

「そういえばポン酢は?」

 

「あ、忘れてた。ちょっとまって」

 

 立ち上がりポン酢をとりに台所へ戻る青年。がさごそと台所を探ったのち、一つのビンを持って戻ってくる。

 

「おまたせ」

 

「んー。 そういえばあんたってさ、結構女の子の知り合い多いよね」

 

「文さんの年齢って女の子じゃないよね。どう考えてもババアだけど、そこらへんはどうカウントすればいいのかな?」

 

「見た目女の子だから女の子でカウントすればいいんじゃない。というか、文を出すってことは言外に私のことも言ってるのよね。ほんとあんたは一日一回私に喧嘩売らないと死ぬ病気にでもかかってんの」

 

「でも外の世界ではロリババアというのも流行ってるらしいし……。文さんやはたてはロリじゃないから違うか。紅魔館のレミリアさんとかがそれに当てはまるかも」

 

「あそこはねー……。あんた、紅魔館との面識あるの?」

 

「いや、メイド長の十六夜さんと門番の美鈴さんくらいかな。後の人達は写真でみたくらい。うちは洋菓子だからね、女の子が多い紅魔館は常連さんなんだ」

 

「あら意外。あそこは自分で作るかと思っていたのに」

 

「材料がないとはじまらないでしょ。 十六夜さんは主に材料を買いに来るんだよ。後は試食ということで何品かたまに買うくらい」

 

 鍋をみると既にいい具合に煮えていたので、はたての小皿を取って白菜としゅんぎく、もやしにきゃべつ、そして豚肉を入れ手渡す。しいたけはもう少し煮えないと食べれそうにない。

 

 青年は自分の分の小皿に野菜と豚肉をいれて、ポン酢をかけて食べる。

 

「うん、おいしいね」

 

「これはおいしいわね。 毎日こんな感じで食べたいものだわ」

 

「いいものは稀に食べるから、おいしさがより増していくんだよ」

 

「はいはい、そういうことにしておいてあげるわ」

 

 ふー、ふー、と熱を冷ましながら二人で囲む鍋。

 

「そういえば、さっき女の子の知り合いが多い。とか言ってたけど、僕の場合は知り合いは多いかもしれないけど友達ではないから、実際のところ微妙なところだよね」

 

「知り合いと友達の間には結構な溝があるしねー。あんた基準の知り合いと友達の例をあげてみなさいよ」

 

「うーん……、友達は霊夢さんかな。んで、知り合いは十六夜さんかな」

 

「あれ?文は?」

 

「文さんはいじめっ子……みたいな。こう……友達なんだけど、胸を張って友達とは言い辛いというかなんというか」

 

 青年の言葉を聞いて、不覚にも納得してしまったはたて。はたての脳裏には、いつもニコニコ笑顔で自分をネタにするあの陽気な鴉天狗の姿があった。

 

「あ、でも友達とは言い辛いということは……なんか背徳感的な感じがして逆にえっちな気がしてきた」

 

「そんなことだから文にころっと騙されるのよ」

 

「でも……文さんならなんかご褒美とかもらえそうじゃん?」

 

「それがパンチラでしょ」

 

「やはりパンチラからレベルアップはしないのかな」

 

「するわけないじゃない」

 

「ノーパンの文さんがいつも通り僕にパンチラして、実はノーパンだからアレな雰囲気になってそれから……みたいな展開には?」

 

「ねーよ」

 

 青年の夢が広がる妄想を一蹴するはたて。既に顔はうんざりしており、ジト目で青年のほうをみていた。

 

「そもそも文はそんな頻繁にパンチラしてないでしょ」

 

「そういえばそうだった。お金払わないとダメだった。なんなんだろうね、文さんのあの鉄壁スカート」

 

「幻想郷の女の子には標準装備なのよ」

 

 はたてからそう言われた青年はどこか納得がいったかのような顔をして食事を続ける。

 

「椛さんって、なんであんなに怖いの?」

 

「椛が怖いんじゃないわよ。椛はあんたのことが嫌いなだけよ。生真面目で仕事熱心なんだから」

 

「はたてと逆ベクトルの人だね。椛さんって発情期とかあるのかな?」

 

「文がなんとかするでしょ」

 

「文さんと椛さんか……。これはなかなか……」

 

「……おいそこの煩悩。人の友達で卑猥な妄想してるとぶっとばすわよ」

 

「けど、椛さんだとあんまり妄想できないよね」

 

「そもそもするな」

 

 はたてに怒られた青年は、心なしかしゅんとした顔で食べ続ける。鍋の中は既に野菜も8割方消えており、豚肉に至っては残骸すら残っていない。青年もはたても肉

は好きなほうなのだ。そして、鍋の中で残っている野菜を具体的にいうとしいたけと白菜であった。

 

 二人の手が止まる。

 

「はたて。はたてはしいたけが好きだったよね。どうぞ」

 

「あんたもしいたけ大好きでしょ?いつも頑張ってるお礼よ。食べさせてあげる」

 

 はたては惚れるような笑顔を浮かべたまま、しいたけを箸でつまみ青年の口の前にもっていく。

 

「はい、あーん」

 

「くっ……!」

 

「はい、あーん」

 

「…………!」

 

「さっさと口あけろ」

 

「……はい」

 

 笑顔のままドスの利いた声で脅された青年は観念し口をあける。そこにはたてがしいたけを投げ込み、自分は残った白菜をおいしく食べて、ごちそうさまと手を合わせた。

 

 青年の顔は苦虫を噛んだような顔で、それと対照的にはたての顔は眩しく輝いていた。

 

「ほらほら、私が食べさせてあげたのよ?それだけでおつりがくるでしょ?」

 

「うー……、そうだけどさー。苦手なものは苦手だし……」

 

「はいはい、そんなこといってたらしいたけの神様がカチコミにくるわよ。あ、今日はさっぱりしたいからよろしくねー」

 

「はいはい。あー、まだ咽喉に残ってるよ」

 

 風呂を沸かしにいく青年を手を振りながら笑顔で見送るはたて。

 

 どうやら二人とも、しいたけが少し苦手のようだ。

 




青年、煽り検定一級。なお、それ以外は雑魚のため虐げられる存在である。
火に油を注ぐことに関しては幻想郷の中でも上位に位置する。

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