ひきこもりな彼女と働く僕   作:烈火1919

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「ねえはたて、引きこもり生活も今日で何日目?」

 

「昨日、足が玄関の外に出たからまだ初日よ。人を引きこもりみたいに言わないでくれる?」

 

「足が玄関の外に出てなかったら今日で何日目になる?」

 

「えーっと……10日くらいかしら?」

 

「充分引きこもりだよね」

 

「失礼ね。私は紫外線に当たると体が炎に包まれて死んじゃうの。アンタは私が死んでもいいの?」

 

「大丈夫、はたては死なないと思うから」

 

「根拠は?」

 

「2週間前外出てたじゃん」

 

 

「2週間前の私の行動を覚えているなんて、とんだストーカーね」

 

「そういうはたては勝手に人の家に上がりこんできて生活してるんだから、ヒモみたいなもんだよね」

 

「ヒモじゃないわ、家事お手伝いよ」

 

「……手伝いなんてしてもらってないんだけど」

 

「可愛い笑顔を振りまいてあげてるでしょ?」

 

「さっきゲームで失敗して僕の机に八つ当たりしてたよね?」

 

「昔のことは覚えてないの」

 

 

「とんだ鳥頭だね」

 

 はたては目の前でうんうんと頷いている青年の顔面に蹴りを決める。めこり という擬音が似合いそうなほどめり込まれる足。

 

「はたて……できればパンツが見えるようにしてほしかったな」

 

「あれ?男は見せパンにそこまで興味ないって聞いたけど」

 

「興味ないことはないよ。ただパンツってチラリと見えるからいい、というのが個人的な意見かな。ほら、はたてのスカートも見えるか見えないかの瀬戸際でし

ょ?」

 

「まぁ……確かにそうね。けど、アンタのためにやってるわけじゃないからね?」

 

「ツンデレ?頬は染めてないけど」

 

「頬を染めてないならツンデレじゃないと思うわよ。そういうのが欲しいなら文に頼みなさいよ」

 

「文さん後でお金取るもん。一度逃げたことあるけど、あの時の文さん怖かったよ。笑顔で僕の胸倉掴んで 『べ、べつにお金が欲しいわけじゃないんだからねッ!?』とかいいつつ財布に入ってるお金全部取っていったもん。文さん凄いよね、表情と声色と行動がすべて違うもん」

 

「ごめん、そもそも文に頼んでやってもらったというだけで気持ち悪い」

 

「いや、けど文さん凄いよ。ちょっと冗談で『文さんって普段どんなパンツ履いてるんですか?って聞いたら『いつもノーパンですよー』って答えてきたからね。もうドキドキで午後の仕事ミスったもん。文さん小悪魔的だよね」

 

「それはダメでしょ。アンタが仕事ミスって給料減らされたら私のご飯のレベルが落ちるじゃない。好きなものも買えないし」

 

「人の給料で自分の好きなもの買うのやめてくれるかな?」

 

「じゃあ誰のお金で買えばいいの?」

 

「……自分のお金?」

 

「え……?アンタの給料って私のお金じゃなかったの……?」

 

「え?」

 

 

「え?」

 

 微妙に食い違っている二人の会話。はたては心底わからなそうな顔で困った風に青年に問う。

 

「アンタは私のために仕事をしてるんじゃないの?」

 

「自分の生活のために仕事をしてるんだよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 はたては首を傾げながら、話を整理するように額に指を置いた。そのまま、とんとんと探偵のように額を指で叩く。

 

 すくりと立ち上がり、青年の周りをぐるぐるぐるぐると回り始める。

 

 そんなはたてを目で追いながら、青年は困惑しながらもはたてに声をかけようとした瞬間──はたてが青年のほうに指を突き付けた。

 

「なるほど──ツンデレねッ!」

 

「頬染めてないからツンデレじゃないと思うよ」

 

「……頬を染めてなくてもツンデレは成立するのよ」

 

「流石はたてだね」

 

「ふっ、もっと敬いなさい そう──食べ物を献上するといいわよ」

 

「……お腹すいたの?」

 

「ちょっとだけ」

 

「それじゃ夕食にしよっか」

 

 青年が立ち上がり台所に行くと、はたてはその場で携帯を取りながら操作しはじめた。

 

『はたてー、手伝ってよー』

 

 勿論、はたてはその声を意図的に無視した。

 

 

           ☆

 

 

 とんとんと台所で青年が夕食の食材を切っていると、先程まで携帯弄りをしていたはたてがひょこひょことした足取りで青年の肩に顎を乗せながら手元を覗いてくる。

 

「今日の夕食なんなの?」

 

「野菜炒めと味噌汁、あとはご飯とたくあんだね」

 

「えー……、なんだか今日は貧相ね」

 

「まるではたての胸──冗談だよ、はたて」

 

「そういいながらヒジで胸を当ててくるの止めてくれないかな?」

 

 青年の脇腹を思いっきりつまみながら笑ってない笑顔でほほ笑むはたて。青年が包丁をもっている手と逆のほうをつまむあたり、はたても弁えているようだ。

 

 はたてにとっては大事な収入源にして、家事の全部をやってくれる人間。ここで怪我でもされたら大変である。

 

 脇腹摘みを継続したまま、はたては青年に聞く。

 

「そういえば、アンタ仕事なにしてるんだっけ?」

 

「ちょっとまって。 そんなことも知らないで家に押しかけてきたの?」

 

「いやまぁ、アンタだけが逃げもせずに私の取材受けてくれたし。こう……生活しやすそうかなー、と思って」

 

「はたて、記憶を捏造しちゃいけないよ。僕は配達の帰りだったのに無理やり捕まえて取材させたのがはたてだからね?」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

 青年の言葉にそのときの記憶を必死に掘り返すはたて。可愛い顔をゆがませて、必死にうーん、うーんと言いながら記憶を辿っていく。

 

「……あぁ!そういえば、そうだったわね!取材させてくれそうなお人よしを捕まえたのよ!」

 

「あの時のはたて、神社の巫女さんが僕にたかる時と同じくらい怖かったからね。流石に僕も引き受けずにはいられなかったよ。というか、それしか答えがなかったよ」

 

 油をひき、切った野菜をフライパンに投入しながら答える。それと並行して隣のほうで味噌汁を作ることも忘れない。

 

 そんな青年に、はたてはふーんと漏らしながら、

 

「迷惑だった?」

 

 と、聞いた。

 

「全然。家に帰ると誰かがいるのはうれしいかな。まぁ、家事をやってくれるととっても助かるんだけど」

 

 苦笑しながら男は笑い、それにつられる形ではたても笑う。しかし、次の瞬間、はたては真顔で言い切った。

 

「仕事はしないけどね」

 

 それだけいって、今度こそ台所を去るはたて。

 

 そんなはたてをチラリとみて、青年は首を傾げる。

 

「うーん、なにがしたかったんだろう?」

 

 そしてほどなくして、今日の夕食は完成した。

 

 

           ☆

 

 

 食卓にはふたり分の野菜炒めとご飯、味噌汁にたくあんがのっている。青年とはたては二人で手を合わせ食材に感謝しながら手を付ける。

 

 青年がお椀をもって白米を食べながら、たくあんを小皿によそっていると、向かい側にいるはたてが青年に話しかけてくる。

 

「そういえばアンタさ、ツンデレ系が好きなの?」

 

「うーん、ツンデレ系が好きってわけじゃないかな。どちらかというと、守矢神社の東風谷さんみたいな清楚な感じな人がいいなー」

 

「はっ……、アレが清楚ねー……」

 

 青年が箸を止めて、妖怪の山の頂で生活をしている外の世界からやってきた守矢神社の風祝の名前を出すと、はたては鼻で笑いながら青年をみる。その目は『頭おかしいんじゃないの……』そう言外に言っているようである。

 

 はたての視線に青年はむっと口を尖らせる。

 

「いやいや、少なくともはたてよりは絶対に清楚だと思うよ。それに東風谷さんは人里のファンが多いし、僕もそれの会員にはいってるし」

 

「男ってバカな生き物ねー。そんなことだと、いざ東風谷早苗と会ったときにいいように使われて終わるわよ?」

 

「……そういえば、一度東風谷さんと会ったときに知らず知らずのうちに僕が全部お金を払っていたような……」

 

「既に騙されてるじゃないの!?」

 

 たくあんをぽりぽりと食べていたはたてが、お人よしの青年に突っこむ。

 

 こんなことばかりしているから生活のレベルが上がらないのかもしれない。

 

「けど東風谷さんって基本的に優しい、やっぱり清楚なイメージがあるよ?たまにバイト先にも顔出してくれるけど、いつもニコニコ笑ってるし、僕とも会話してくれるし、それに可愛いし。ほんと可愛いは正義だよね。ついつい自腹でオマケしちゃったよ」

 

 たはは、そう軽快に笑う青年。そしてひくひくと頬が引き攣るはたて。

 

 はたてはこめかみを押さえたまま、一度大きく深呼吸して青年に鋭い視線を向ける。

 

「アンタ、自腹でオマケしてる時点でいいように使われてるわよ」

 

「えぇっ!?」

 

「いや、普通に考えればそうでしょ」

 

 やれやれ……、といった感じで頭を振るはたて。

 

「まったく……そんなことだから文にもカモられるのよ」

 

 

「違うよはたて。文さんはどんなことがあってもカモってくるから。平気でカツアゲしてくるから。僕の給料が入ったと同時にやってくるから」

 

「わかっててなんで対策たてないのよ……」

 

 そう言われた青年は、ちょっと困りながらきょろきょろと辺りを見回すと──向かい側のはたてのほうに擦り寄って、手をメガホンの形にしてはたての耳に囁いた。

 

「……文さん、僕にパンチラみせてくれるんだよ……」

 

「気持ち悪いこと耳元で囁くな!アンタはどんだけパンチラに弱いのよ!?」

 

「だ、だってあの可愛い文さんが僕のためにパンチラしてくれるんだよ!?あの笑顔が眩しい文さんが、小悪魔みたいな魅惑的な笑みでゆっくりゆっくりとスカートをたくし上げてくれるんだよ!?僕の要望に応えてくれるんだよ!爽やかなパンチラをお願いしますといったら、自分で風を吹かせてくれるんだよ!?お金あげるしかないじゃん!」

 

「アンタ生活のために仕事してるんじゃないの!?どう考えてもパンチラのために仕事してるようにしか見えないわよ!?」

 

 大声で言い合う二人。実に大人げない。はぁはぁ……、と大きく息をあげながら、ふと我に返った二人は何事もなかったかのようにご飯を食べだした。

 

「はたて……、いまの忘れてくれるかな?」

 

「ま、まぁ……アンタも男だしね。それにいまのは私のガラでもないわ……」

 

 野菜炒めをもそもそと食べながら二人とも黙ったままもくもくと箸を動かす。青年が味噌汁をすすると、はたてはたくあんをぽりぽりと食べる。しばらくそんな時間が流れた後、ふと何かを思い出したかのように青年がはたてに喋りかける。

 

「そういえば、東風谷さんで思い出したんだけどさ。東風谷さんって神様と二人で住んでるんだよね?」

 

「正確には神様が二人よ。だから東風谷早苗も含めると三人での生活になるわね。それがどうしたの?」

 

「いや……一度でいいからお参りしてみたいなー、っと思って。でも神様かー、うーん……怖い?」

 

「そういえばアンタは妖怪の山には立ち入らないわね。なんで?」

 

「だって椛さんが追いかけてくるもん。 初対面のときに面白半分でお手をしたのが間違いだったね。ところで、神様怖い?」

 

「まったく、あの生真面目な椛にそんなことするアンタが悪い。うーん……、怖い……かもしれないわね」

 

「なにそれ、どういうこと?」

 

「あんまり外出てないからわからないのよ」

 

「所詮はたてはひきこもりということだね」

 

「喧嘩なら買うわよ?」

 

 はたての言葉を聞いて、頭を下げる青年。妖怪と人間の力関係などとうの昔に決まっており、この二人もそれの例には漏れず、姫海棠はたてと青年でははたてのほ

うが圧倒的に強いのだ。この力関係を覆えすことができるのは、博麗神社の博麗霊夢ともう一つの人物くらいなものだろう。

 

 そんなこんなで二人で話しをしているうちに、夕食は全て食べ終わり青年がはたての分の皿もまとめて流し台にもっていく。

 

 はたてはその隙に食卓に置いてある急須に手を伸ばし、ふたり分のお茶を淹れて待つ。

 

 青年は蛇口をひねり、手ごろな器に水をためた後、スポンジと洗剤を使って後片付けを開始する。かちゃかちゃと食器と食器が軽くぶつかり合う音と、きゅっきゅとスポンジが食器を洗う音だけが室内に響く。

 

 ふたり分の洗い物は以外と早く終わることになり、青年はタオルで手を拭きながらはたての元へと戻っていく。そして置いてあるお茶を一口含む。

 

「うん、うまいね。今日のお風呂どうする?熱めにする?温めにする?」

 

「そうねぇー、熱めでお願い」

 

「はーい」

 

 体を反らし、首を回した後、青年はお風呂の用意をするためにその場を去る。

 

 今日も二人は平穏に一日を過ごすようだ。

 




文もいいけど、はたてもかわいい

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