やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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失敗書簡(其の六)

四月二十七日

 

拝啓。

桜が散って新緑の眩しい季節となってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。時の経つのは早いもので、俺が入院してからもうすぐ一ヶ月が経ちます。明々後日には退院し、来月のゴールデンウィーク明けには無事学校に復帰できるでしょう。

 

この一ヶ月という、短い時間の中で色々な事があった。その間に何度も雪ノ下に手紙を書こうとしたが、書き上げる事が出来なかった。そして今回の手紙も、どうやら書き上げる事が出来そうにない。

俺はお前に、立派な手紙を書こうとしていた。その為に文通の練習もしたし、陽乃さんにお前の幼い頃の話を聞いたりもした(これはあまり手紙の参考にはならなかった)。そして何度も書いてみたが、どれも渡すに値しないものばかりだった。そんな事をして手をこまねいているうちに、先日の陽乃さん事件が起きたのだった。お前たちから謂れの無い非難を雨霰の様に受け、心身ともに疲弊し、もはや満身創痍だった。

しかし、それでも俺は書いた。そしてやっぱり挫折した。

俺は雪ノ下がうんと頷く様な手紙を書きたいと思っていた訳だが、そう意気込んで腕まくりをして机に向かうと、何だかヘンテコなものが出来上がる。それだけならまだいいが(よくはないが)、自分でも引くくらいに気色悪いものが出来たりもする。

なぜこんなものが出来上がるのか自分でも全く分からない。ひょっとして俺は“立派な手紙を書けない病”にかかっているのかもしれない。

 

入院当初の俺はもっと単純に考えていた。文通を重ねるうちに相手の言動を理解し、適切な言葉を選べる様になるだろうと。その伝達技術を洗練させれば万事解決であると。だが、世の中そんなに甘くない。俺にはできなかった。机に向かいペンを走らせると、途端に文章はヘンテコな方向へ逸れて行く。

原因を探り、改善しようと努力した。

しかしもう、万策尽きてしまった。

そういうわけで俺は立派な手紙を書く事を諦める。

この手紙も雪ノ下が読むに値しない手紙だと思う。

 

 

 

【反省】

 

現在、四月二十八日の消灯前。この一ヶ月の事を振り返りながら昨日書いた手紙を読み直してみたが、これは俺が思うに今までで一番まともな手紙では無いだろうか。

これまでの失敗書簡を全て読み返してみた。

最後にもう一度だけ雪ノ下に手紙を書くとすれば、どう書けばいいか。

ここに教訓を記す。

 

一、大言壮語しないこと

一、賢いふりをしないこと

一、他人のマネをしないこと

一、中ニ病を暴露しないこと

一、下手に褒めたり、卑屈にならないこと

一、立派な手紙を書こうとしないこと


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