やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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四月十九日

前略。

昨日はせっかく見舞いに来たのに話の途中で帰ってもらって悪かったな。せめてカステラだけでも食わせてやりかったんだが、それが出来なかった事が悔やまれる。お前が病室を出て後少し経ってから雪ノ下たちと一緒に一色と小町も来たが、世間話を延々と聞かされたあげく各々好き勝手喋り一方的に満足した様子で帰っていった。どうやらここに来る連中はお前を含め何故か自分の事ばかりを話したがって俺の話を聞こうとしない様だ。まぁ一日中ベッドに寝転がっているだけなので大して話す事など無いし学校の話を聞けるので不満は無いがもう少し俺に興味を持ってくれてもいいんじゃないだろうか。なんだか奉仕部での俺の存在がじわりじわりと薄れ最後には溶けてなくなってしまう様に感じる今日この頃である。

 

こんな事を言われてもお前は自分の悩みで精一杯だろう。見舞いの時に多少話は聞いたが一色の件が解決したばかりだと言うのに次から次へと忙しい男だ。確か今年入学して来た中学時代の後輩の事だったか。そいつはずっと総武高に入学したらお前のいる生徒会に入ると言っていたが、先日の部活動説明会の後しばらく考えさせて欲しいと言ってきたそうだな。

要するに説明会を聞いて生徒会よりも気になる部活があったが、お前との約束の手前素直に他の部活に入りたいとは言えず悩んでいる、そんなところだろう。こんな事少し考えれば予想は付くのにお前は何をそんなに悩んでいるんだ。それにどちらかと言えばお前よりもその後輩の方が悩んでいる筈だろう。

 

まぁ俺には自分を慕う後輩なんていないしお前とお前の後輩がどれほど仲が良かったのかは知らないが、ぼっちである俺に出せる答えはひとつだけだ。たとえお前が高校に入学した後も後輩と繋がりがあり相手もお前の事をよく慕っていたとしても、そんなのは人生において一時的なもので時間と共に風化していく。まして通う学校がバラバラになったとなれば疎遠になる事も至極当然と言える。それに片方が相手の事を想っていたとしても、もう片方にとってはそこまでじゃ無いなんてこともざらある。つまり人間とはすれ違う生き物で、そうやってすれ違いを繰り返す事によって集団に囚われない立派なぼっちへと成長していくのである。

お前にできるのは後輩の成長を見守り、そいつの返事をしっかりと受け取る事だけだ。別に入らないと言っているわけじゃ無いし本当に生徒会に入りたいならちゃんと言ってくるだろう。まぁ部活動に集中したいなら生徒会なんて面倒な仕事はやらないのが普通だろうから変な期待をせずに待つのが賢明だろう。

 

話は変わるが、小町が三年生の女子に絡まれているのを見たそうだな。一瞬動揺してナースコールしそうになったが、その相手が細身で長身に加えて青みがかった長い白髪を後ろで一つにまとめていて、右目に泣きぼくろがあり不機嫌そうで人を寄せつけない雰囲気を放っていたと言うなら問題は無い。そいつは俺も小町もよく知る人物だ。確か川なんとかさんと言って小町の中学の頃のクラスメイトの姉でもある。多分普通に世間話していただけだろう。

去年のクリスマスイベントやバレンタインの試食会にも妹の付き添いで参加していたから顔を合わせてるはずだが、どうもお前はひとつの事に集中すると周りが見えなくなる様だ。そして相手が知り合いかどうかは忘れるのに特徴は細かく覚えている観察眼…どれだけ見てるんだ。細かすぎて気持ち悪くもある。

まさかとは思うがまだ一色にも似た様な事をしていないだろうな。お前の事だからそんな事していないと思うし、仮にしていたとしても真面目さ故の行動だろうと理解しているが少し落ち着け。冷静に行動しさえすればお前は立派な副会長だ。

 

 

草々

比企谷八幡

 

悩みに事欠かない副会長様

 

 

追伸

見舞に来た時本を見なかったか?あの日以来何処にも見当たらないので何か知っていたら教えて欲しい。


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