魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語   作:ハピナ

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長らくお待たせしました、どうまとめようか迷いに迷っていた鈍足のハピナです。

とてつもなく時間がかかってしまい申し訳無い、
やっと前章をどう終わらせるかの目処が立ちました。

今回明らかになるのはいよいよ黒幕、その正体は一体誰なのでしょうね?

まぁ誰も予測してないと思いますが、一応ヒントになるような違和感は各話に巻いてあります。

もちろん、何故そいつが黒幕なのかって切り札もね。

その他にも色々あるのですが、その辺りは今回を読んで見てからのお楽しみ。

本当にここまで長かった、いよいよ花の結束を阻む要素を明らかに出来ます。


それでは、物語の幕を上げましょう……あぁ、この辺は私自身も待ち遠しかったです。




(43)無心な裏切りと真の闇

いつも通りの寒がりな朝、空から降り注ぐ雪も既に見慣れた。

 

空を吹けば白い吐息が雪を押し出す、そこには最早面白味が感じられない。

 

池宮でも特に寒い西地区、海里は入り組んだ廃墟と空き家の群れの中を歩いていた。

 

 

清水「メモの場所は……このビルを入ってすぐか、なんか陰気臭い場所だなオイ」

 

 

その中でも一際物騒な雰囲気を放つ廃墟ビル、その前に海里は来ていた。

 

手には千切られたチラシを持っている、そこには何も書かれていないが……

 

どうやら文字の形にインクの色が反転しているようだ、なんと不思議な事やら。

 

 

ビルの中に入ると元は何かの会社だったようで、なかなか広々とした内装だった。

 

その反面辺りは散らかっている、崩れた瓦礫や粗大ゴミがそこら中に転がっている。

 

どうやら海里が今いる場所はエントランスのようだ、受付の机には1人の少年が寝転がっていた。

 

 

……彼は呑気な者で、コートを毛布代わりにして昼寝をしていた。

 

 

清水「時間通りに来たぞ、話ってのをしようぜ」

 

ハチべぇ「数夜、君が待っている人物が訪れて来たようだよ」

 

清水「ハチべぇ? お前ここにいたのか、てっきり利奈と一緒にいると思ってたんだが」

 

ハチべぇ「数夜に見張りを頼まれていたんだよ、彼の眠りは深いからね」

 

前坂「ふわあぁ……何だ、真面目側じゃない割には時間通りに来たのか」

 

 

数夜は海里が来たのを目で確認すると、起き上がって目元を擦った。

 

最初はゆるゆるだった彼の雰囲気だが、一息つくなり一気に重い物に変わる。

 

言葉で言うなら前者は《面倒くさがり》な数夜で、後者は星屑の天の川としての数夜だろう。

 

 

前坂「話の続きと言ってもな……そうだ、まずお前が知ってる事がどれだけ正しいか試してやる」

 

清水「会って早々随分と上から目線だな、ここで話そうと提案したのはお前なんだが」

 

前坂「悪いな、俺は《面倒くさがり》……途中で話すのに飽きてしまうかもしれないなぁ?」

 

 

当然今の彼は《面倒くさがり》に寄ってる訳が無い。

 

だが、どうやら海里から話を始めなければ話すつもりは無さそうだ。

 

数夜はそれ以降何も喋らなくなり、膝の上に乗るハチべぇの毛づくろいを始めてしまった。

 

だが逆に海里は考えた、寧ろこれが攻勢に立てるチャンスなのだと。

 

仮にも海里は花組においての『情報屋』だ、彼には情報屋としてのプライドがある。

 

 

清水「そこまで言うなら話してやるぜ、お前に喋らす前に一から十まで喋っちまうからな!」

 

前坂「喋りたいならどうぞ? まぁ、ほとんど合っていないと思うが」

 

ハチべぇ「彼は情報屋だよ数夜、いくつかの事項は当てられてしまうだろう」

 

前坂「……相変わらずどっちの味方か分からないな、ハチべぇは」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ」

 

 

ハチべぇは何を考えているかそれは分からない、何故ならハチべぇはいつも無表情。

 

 

清水「じゃあ話させてもらうぜ、途中で寝たりするんじゃねぇぞ」

 

前坂「大事な話をする時に眠ってしまう程、俺は落ちぶれたつもりは無いんだけどな」

 

清水「なら遠慮なく核心から話そうか、お前の魔法の正体……()()()()()()()だろ」

 

 

その話を海里がした瞬間、今までハチべぇを撫でていた数夜の手が止まった。

 

 

前坂「……その心は?」

 

清水「理由は2つあるぜ」

 

前坂「言ってみろ、どうせ間違ってるだろうが」

 

清水「1つはお前が以前一度だけ見せたソウルジェムだ、あれはかなり妙だったからな」

 

前坂「あぁ、こいつの事か」

 

 

そう言って数夜は額に着けていた男物のティアラを外して海里に見せ、再び額に嵌めた。

 

真ん中で黒みを帯びた宝石が付いていた、それは暗く光を通さない。

 

これが数夜のソウルジェムだろうか? その間にも、海里の話は理由を述べ続けた。

 

 

清水「どんな魔法かって選択肢が膨大過ぎる疑問を考える前に、

まず穢れが溜まり切ったソウルジェムがどうしたら孵化しないかを考えた」

 

ハチべぇ「通常ソウルジェムは穢れが溜まり切る事で孵化をするからね、

それは魔法使いにとって逃れられない運命と言っても過言ではいだろう」

 

清水「普通はそうだな、それが普通ならだが」

 

前坂「普通ならか、俺は普通じゃないって事になるな」

 

清水「いや? 逆に考えたってだけだ、どうしたらソウルジェムに穢れが

溜まり切った状態でもそのままでいられるのかってな」

 

前坂「安直な考えだな、要するに何が言いたい?」

 

 

海里はその時ニヤリと笑い、数夜が持っていたティアラの宝石を指差した。

 

 

清水「簡単な話だ、お前のそれは逆に()()()()()()()()()()()()()だと考えりゃ良い」

 

前坂「あり得ない話だ、ソウルジェムの性質を変えるにはそれ相応の魔法が必要になる」

 

清水「それがお前の魔法って訳だ、ただ単純にソウルジェムの性質を反転させただけのな」

 

前坂「第一『反転』の魔法は俺の魔法だという証拠が無い、

他の魔法使いが『反転』の魔法を所持している可能性は捨てられん」

 

清水「それがお前が使っていた『防御』の魔法の原理だったとしたらどうだ?」

 

前坂「……!」

 

清水「攻撃を与える側と受ける側、両者のダメージ量を反転させたと言っても辻褄は合う。

何だったら他の連中に聞いても良いぜ? 特にお前が『防御』の魔法を使ってる場面をな」

 

 

一通り聞くにかなり数夜を追い詰める内容に見えるが、数夜は何故かまだ笑えた。

 

 

前坂「ククク……足りないねぇ? お前が言ってるのは所詮証言の塊に過ぎない、

それを証明する何か物質としての証拠が無けりゃあ俺は認めない」

 

 

それを聞いた海里はすかさず、何も無い宙から小さな瓶が付いた写真を取り出した。

 

 

清水「その証拠があるとしたら、お前はどう考えるんだろうなぁ?」

 

前坂「デタラメを言うな、そもそも『形なき魔法』に証拠が残るはずが」

 

清水「魔法を使った痕跡があるとしたらどうだ?」

 

前坂「っ!? 待て、なんだその写真は」

 

清水「見覚えがあるみてぇだな、お前が思った通りこれらは同じ魔方陣を写した写真だぜ。

ポスターの裏、長机の下、瓦礫の影、廃墟の壁……色んな場所にあるからな」

 

前坂「確かにどれも同じ魔方陣だが、俺とは無関係だ」

 

清水「ならこれはどう説明する? 学校の奴には紙の切れ端、逆に廃墟の奴はチョークの粉」

 

前坂「調べ方が入念にも程があるな、だからどうしたんだ?」

 

清水「切れ端にはotel……掠れているが、切れ端の柄の豪華さからも分かるのはホテルの資料だ。

しかも一部が少し焦げちまっているな、池宮で火事で閉業したホテルと言ったら限られる。

要するに今俺たちがいるこの場所だ、数年前に厨房から発火して大火事になったこのホテル」

 

前坂「……恐ろしい奴め」

 

 

語られる推理を数夜は否定しつつ嘲笑いながら聞いていたが、

海里の話が続くにつれてその口数は確実に減っていた。

 

 

清水「この魔方陣を最初はこれを通じ自在にワープする、

『転移』の魔法だと思ってたんだが……そりゃ違った」

 

前坂「根拠は?」

 

清水「まだ分からねぇのか? 写真に対応する小瓶の中身は、どれも全部どれかと対になっている」

 

前坂「つまり、それもまた『反転』の魔法だと」

 

清水「そういう事だ、反論はあるか? まぁ、俺の分析でこの魔方陣から

分析できた魔力の色は()()()だったのが決定的になっちまうけどな」

 

前坂「……その分析が正しいという保証は? お前が出来たのは魔力自体の感知だった筈だが」

 

ハチべぇ「その時は僕も立ち会ったよ、証拠が欲しいなら

海里の改良した魔法具のコンパスを見ると良いと思うよ」

 

 

そうハチべぇが海里の発言を保障した途端、数夜は黙り考え込んてしまった。

 

どうやら手詰まりのようだ、魔法での証明をされてしまったらもうどうしようもない。

 

次の手とばかりに海里はコンパスに魔力を込め始めた、この廃墟にも例の魔方陣は存在する。

 

 

 

 

その時だった……今まで撫でていたハチべぇの首根っこを鷲掴み、強く投げ出したのは。

 

 

 

 

ハチべぇ「ぎゅっぷぃ!?」

 

 

 

 

潰れたような声で鳴いてハチべぇは投げられたが、瓦礫への激突は免れた。

変身した海里によってその身体を受け止められたのだ、流石反応が早い。

 

 

清水「オイ何しやがる!? 気でも動転したか!!」

 

 

海里は数夜を怒鳴りつけたが、数夜にはあまり聞こえていないようだ。

 

それどころか笑っている、今までにないくらい不気味な笑い方。

 

そして再び海里を見た、その目は子供とは思えないくらい殺気で溢れている。

 

 

前坂「……あぁ、そうだ! 俺が使うのは『反転』の魔法で大正解だぜ。

メンバーの目を反転させたのは俺だ、ソウルジェムの性質を変えたのも『反転』の魔法だ。

呪い関しては心当たりが無い効果があるが、そんなことは最早どうでも良い。

あまりにも多くを知り過ぎたんだよ、お前は……だから、悪いが()()()()()()

なあに、俺の罪なんか既に犯してるも同然だぞ? 元からこの世に希望なんか持っちゃいない」

 

 

そう物騒な事を口走ると、数夜は持っていた奇妙な杖を床に落とした。

 

 

清水「っ……! やっぱりその杖はフェイクだったか、

魔力を込める動作が無いから妙だと思ったんだ!」

 

 

先手は数夜だった、拳を叩き込むが海里はそれを受け止める。

 

最初の数倍は重いと感じるだろう、どうやら数夜は本気で殺しにかかっているらしい。

 

その後も蹴りも入り混じった攻撃が海里に襲い来る、海里も本気で戦わなければやられてしまう。

 

 

前坂「そう来るか、まぁ……殺されそうになればそうもなるわなぁ!!」

 

 

数夜の攻撃のほとんどは急所狙いの危険な攻め、海里の攻撃は気絶を狙った攻め。

 

ハチべぇは魔法使い同士の戦闘を見つつ、巻き添えをくらわないよう移動を続けた。

 

踏み抜いた小石が砕け、逸れた拳は空を切ろうとも次の攻撃の重しとなる。

 

所々魔力が篭った攻撃が見える、無駄な魔力を消費しないのは強い魔法使いの証拠だ。

 

両者一歩も手を抜かない、手を抜けば数夜は気絶するし海里は死ぬかもしれない。

 

 

前坂「いい加減諦めろ、お前がどうしようが俺はお前を殺す」

 

清水「そうはさせねぇ! こちとらお前とは話してぇ事があるんだぞ!!」

 

前坂「っ……いい加減、諦めろと言っている!!」

 

 

数夜は遂に海里の服を捉えて投げ飛ばそうとしたが、

海里は地面に足を付けて屈んだ姿勢から蹴りを狙った。

 

しかしそれが当たる事は無い、当たらなかった代わりに数夜には隙が出来た。

 

その隙を狙って海里は力を弱め、ある一点わ狙い拳を振りかぶった!

 

 

清水(以前俺の手違いで利奈のソウルジェムに衝撃を与えた事があった、

もしその時の反応が魔法使いであるこいつにも適応されるとしたら……!)

 

 

咄嗟に思いついたフェイントも入れた二段構えのパンチ、

その拳は先程数夜がちらつかせていたティアラの宝石に見事命中する!

 

額を殴られ数夜はよろめいた、力を弱めたのは宝石を割らない様にする配慮だったらしい。

 

そりゃそうだ、ソウルジェムに手を出すのは魂を傷つけるのと同じなのだから。

 

 

……が、数夜はニヤリと笑い体制を立て直して海里の首筋を狙って蹴りを放った!

 

 

清水(なっ!?)

 

前坂「まんまと引っかかった様だな? 敵相手にソウルジェムを素直に見せる訳ねぇだろうが!!」

 

清水(……っ!!)

 

 

まるで宝石を殴られた影響など出ている様子は見られない、

どうやら先程数夜が見せたティアラは偽物だったようだ。

 

海里のソウルジェムは首の横に付いている、このままでは数夜の蹴りが命中するだろう。

 

だがその蹴りも当たる事は無かった、何故なら命中したのは別の物質。

 

 

前坂「……羽!?」

 

 

それは海里が片翼だけ出現させた魔力の翼だった、

数夜の不意打ち同然の蹴りを受け止め力任せに振り払う。

 

だが無理に放ったカウンターだったのか、海里と数夜は互いに大きくよろけてしまう。

 

まぁこの2人だけなら、すぐに直せるただの大きな隙に過ぎない……2()()()()()()だが。

 

 

 

 

((もう駄目だね、最初から殺すつもりは無かったでしょ))

 

 

 

 

ずっとタイミングを狙っていたのか、海里の背後にに何者かが急接近する。

この汚い手に海里は気づくのが遅れ、その者の手は海里の首筋を狙った。

 

 

前坂「っ!? よせ!!」

 

 

青ざめた顔で数夜も絶叫すり、このままでは海里のソウルジェムが破壊されてしまう……!

 

 

 

 

その時だった、空を切る音を立てて何かが海里に向かって突っ込んで来たのは。

 

 

 

 

急な展開か混ざった結果、その場には4人の魔法使いが倒れこむ状況になった。

 

 

前坂「……は? ちょっと待て、何がどうなってる」

 

ハチべぇ「『花の光』がやってきたようだね、海里はエントランスの隅にいるよ」

 

前坂「エントランスの隅?」

 

 

ハチべぇが前足で指差す方を見ると、そこには壁に激突した海里がいた。

 

 

清水「ってて……って、ええぇ!?」

 

上田「痛た、速さだけ考えて飛んだらこうなっちゃうんだ……間に合って良かった」

 

清水「オイ! 大丈夫か利奈!?」

 

 

その傍らには赤き魔法少女……何故か利奈が倒れていた、手には棍の箒を持っている。

 

どうやら猛スピードでこれに乗って空を飛び、海里目掛けて突っ込んだ様子。

 

海里は目の前で倒れている命の恩人を抱き起す、

利奈はなんとか立てたが強い衝撃で少しの間動けそうにない。

 

 

下鳥「どうやら間に合ったようね、先に行かせて正解だったでしょう?」

 

月村「どうかしら……俐樹、利奈の身体を治療してあげて」

 

橋谷「はっ、はい! 治療ですね、任せてください!」

 

篠田「大丈夫かな? あたしから見れば海里もケガしてそうだけど」

 

白橋「利奈も海里も大丈夫だと思うよ! 魔力の乱れも感じないからね!」

 

中野「とにかくみんな変身だけでもしておこう、何が起こるか分からない!」

 

 

どこから駆け付けたのか、その場にはリュミエール一同全員が出揃っていた。

何人かそうじゃない人物もいるが、出揃ったのは事実である。

 

 

前坂「どうしてここにいる事が分かった? この場所この時間を知る由も無いはずだが」

 

 

理由を探して数夜は入って来た者達を観察すると、柱の後ろに隠れた1人の人物が目に入った。

 

 

武川「ええっと、あれぇ? オイラなんか、大変な状況に巻き込まれたっぽい?」

 

篠田「もう! 気をつけてね、途中で帰らないって言ったのは光なんだから!」

 

前坂「……なるほど? 月の情報屋か、案外あなどれない者……だな」

 

 

ふと数夜はその場に膝をついた、かなり本気で戦ったらしく魔力を消耗していた。

 

奇妙な杖を呼び寄せ支えにして立つが、肩で息をしているようにも見える。

 

その傍らには優梨がいた、彼女の目線は何故か数夜を見ていない。

 

 

 

 

その目線の先にいたのは意外な人物、本来この場にいるはずのない人物だ。

 

 

 

 

下鳥「さぁ、どう弁解してもらおうかしら? 魔法忍者の古城(ふるき)忠義(ただよし)さん」

 

 

 

 

微笑む優梨が見る方向、そこには黒茶の魔法少年が大の字になって倒れていた。

 

忠義が優梨の声に気がついたかと思うと、彼は跳ね起き辺りを見渡す。

 

偶然通りがかったのだろうか? そう考えるのが普通だ、何故なら一見全く関係の無い人物。

 

 

古城「ヨッコラセっ……あ、もしかして止まったでござるか?」

 

下鳥「止まった?」

 

古城「魔法使い同士本気の戦いを見て驚いたのでござる、

何せ得る事が出来るのは魔力の無駄な消費でござるよ!」

 

篠田「あれっ? あの人って確か」

 

中野「徳穂とコンビを組んでる忍者だったね、でもどうしてこんな所にいるんだ?」

 

古城「通りすがりの正義の忍者でござる、無駄な殺生は避けるべきでござるよ!」

 

武川「おぉ! なんか漫画のキャラにいそうな活躍だ、オイラ感動したかも!?」

 

 

忠義と光のノリは見るからにベクトルが近い、雑談を始めれば長く楽しく続くだろう。

 

古城「それじゃあ拙者は失礼するでござる、早く仲直りするでござるよ!」

 

 

そう言って忠義はその場から立ち去ろうとしたらしいが、

その前に腕に鞭が絡まった為に移動を止められてしまう。

 

 

古城「どっひゃあ!? なっ、何するでござる!?」

 

下鳥「待ちなさい、貴方大事な事を忘れているわよ?」

 

古城「忘れてる事? いや、そんな事は無いでござるが」

 

下鳥「弁解よ、海里を殺害しようとしたのはどう説明するつもりかしら?」

 

古城「拙者が!? いやいやいや、咄嗟だったからあんな風になっただけでござるよ!」

 

下鳥「飽くまで偶然だったと言うのね?」

 

古城「そもそも、拙者にはリュミエールのリーダーを狙う理由が無いでござる」

 

 

忠義はわけがわからないと言った様子だが、優梨はそれに対して溜息をついた。

 

 

 

 

下鳥「この際ハッキリ言うわ、貴方が裏で様々な悪事に関わり暗躍していた事を認めなさい」

 

 

 

 

強気の姿勢で優梨は言ったが……それは誰しもが予想しない、驚きの発言だ。

忠義自身も顔を引きつらせている、これはあまりにも突発的な告発だ。

 

 

清水「暗躍だと? 忠義が関わってるとは思えないんだが」

 

下鳥「貴方達は表ばかり調べていたのだから、分からないのはある意味当然よ。

その代わり、私は別の方角から『花の闇』について調べさせて貰ったの。

そうしたら分かったわ、彼が暗躍していたのなら全てに合点が行くとね」

 

古城「何が何だかサッパリでござる、噂されていたのは呪いでござろう?

拙者が扱うのは忍法でござる! 呪術なんて扱えないでござるよ」

 

下鳥「貴方自身呪いなんて使えないのは分かっているわ、

でも別の魔法には()()()()()()()()()()()()()があった様ね」

 

上田「別の魔法……?」

 

古城「呪いに細工出来る効果? そんな魔法は持ってないでござる!」

 

下鳥「忍法『暗き曇天の煙幕』、流石に自分の魔法の事くらい知ってるわね」

 

古城「お? よく知ってるでござるね、曇天の煙幕は敵を惑わす目くらましの」

 

下鳥「『幻惑』の魔法の、でしょう?」

 

 

優梨は遮る様に効果を言ってみせた、言いかけだった忠義の言葉は止まってしまう。

 

 

白橋「幻惑って言うと、えっと……コンランしちゃう?」

 

橋谷「こっ、混乱ではなく、人を惑わす事を指しているのですよ」

 

下鳥「貴方、呪いをかける瞬間に同行して幻惑をかけたんじゃないかしら?

証を付けるだけの筈の呪いを、証が付いている間は希望を感じ辛くなると錯覚させた。

利奈が『濁色の魔力噴出』と呼んでいる現象は、数夜と貴方の魔力が混じった魔法……

それが、呪いをかけられた者が強力な希望によって解けるからじゃないかしら?

濁色の魔力が煙状なのも、元は煙幕だったと考えれば辻褄が合うわ」

 

前坂「…………!」

 

下鳥「まぁ、要する魔法に一種の催眠術ね」

 

古城「何を言ってるでござるか? 拙者の煙幕にはそんな効果は無い、全部憶測の話でござる! 」

 

 

確かに優梨の言っている事は今のところ憶測の話だが、彼女の表情は余裕だった。

 

その言葉を待っていたかのように、優梨は衣装のポケットからジップロック付きの袋を取り出す。

 

中身は穴の空いた革製品の切れ端だ、一緒に折り畳まれた紙も入っている。

 

 

下鳥「利奈、貴方がこの前戦った魔女を覚えているかしら?」

 

上田「この前……もしかして、今じゃ逃避の魔女って呼ばれてるあの?」

 

下鳥「よく覚えてるじゃない、これはその時に手に入った物よ」

 

清水「特に舞や博師が活躍したって聞いてるぜ、その時は魔法忍者もいたようだな」

 

古城「確かにいたでござるが、その切れ端と何の関係があるでござるか?」

 

下鳥「大アリよ、この切れ端についた液体をご覧なさい」

 

古城「液体? 赤黒い液体なのは分かるでござるが、乾いてしまってるでござる……っ!?」

 

 

忠義はその液体について何かに気がついたらしく、一瞬だけたじろいだ。

 

それだけ意味があったのだろう、これが優梨が示す最初の証拠。

 

利奈にも心当たりがあった、彼女は液体が飛び散る瞬間を目の前で見ている。

 

『ガラスの破片と共に血飛沫の如く中の赤黒い液体が飛び散り、

その液に浸っていた安物のワンピースが吹き飛んだ』

 

 

それは魔女が討伐された瞬間の出来事、その時広範囲に渡って液は飛び散ったのだ。

 

 

下鳥「色んな物が汚れてしまって大変だったわね、それは服だけじゃなくて武器も同じ」

 

古城「革製品……なるほど、浜鳴最上の武器でござるか」

 

下鳥「よく知ってるじゃない、武器整備の時にその時のベルトのを貰ったのよ。

こっちで調べた結果、主成分はアサガオの種に含まれる成分だと分かったわ。

含まれてる魔力はほんの僅か、分析も難しい隠蔽工作には最高の魔法ね」

 

古城「口から出まかせでござる! そもそも、子供にそんな調べ方出来るとは思わないでござる」

 

下鳥「あら、何だったら分析結果を印刷して来ても良いわよ?

詳しくは言えないけど私の家業は医療関係なの、この位頼めば簡単に分かってしまうわ。

何なら美羽に聞いても良いわよ、貴方の煙幕を喰らった途端思考が鈍くなったと聞けるわよ」

 

 

言うならば圧倒的包囲網だ、必要な証拠は出揃っている……

ここまで来るのにどれほどの時間がかかったのやら。

 

アサガオの種といえば、摂取する事で幻覚作用を起こすという意外な効果を持っている。

 

それを魔力で微調整したのだろう、魔力消費を極限まで抑えた最高の幻惑魔法だ。

 

 

古城「もう、分かったでござるよ! 隠してて悪かったでござる、

忍法『暗き曇天の煙幕』は確かに、幻惑の効果を持っているでござるよ」

 

清水「それじゃあ認めるんだな? 呪いに細工したって事を」

 

古城「それとこれとは全く関係ないでござるよ、変に解釈しないでござる」

 

清水「……何ィ?」

 

古城「幻惑の魔法に催眠の魔法、聞くからに妖しい響きでござるよ!

何かあった時に拙者が怪しまれるのは一目瞭然、そういうのを避けたかったでござる。

呪いだの何だの言っているでござるが、第一『花の闇』とも呼ばれた悪徳組織である

『星屑の天の川』に加担する理由がこの正義の忍に何処にあるでござるか?」

 

 

敢えて幻惑の魔法である事を認めたと言わざるを得ない、確かに一番の問題はそこだ。

 

『星屑の天の川』と古城忠義の繋がりが全く無い、その痕跡すら見つかっていない。

 

ぶつけられた正論に海里は言葉を詰まらせたが、そこに言葉を繋ぐ者がいた。

 

 

下鳥「確かに、その辺りには一番手間取ったわね……でも、その言い訳もそれまでよ」

 

古城「言い訳? 拙者が言っているのは間違いの無い正論でござ」

 

下鳥「あらあら、ならこれを見てもそんな口が聞けるかしら?」

 

 

優梨は切れ端を一旦しまい、今度は別の物を取り出し忠義に見せた。

一見ただの油粘土の塊だ、これがどんな意味を示しているのやら。

 

 

古城「……なんでござるか? そのガラクタは」

 

下鳥「誰かさんが設置した盗聴器よ、魔法も使っていて随分手が込んでいるわね」

 

篠田「ホントに機械なの? なんか、あたしには油粘土の塊にしか見えないんだけど」

 

上田「確かに機械だよ、私もこの目で確認したから」

 

白橋「修理してる所が凄かったんだよ! こう、配線がバビョーンってなってて」

 

 

あまりにも抽象的な直希の説明はさておき、優梨は次の説明に入った。

 

 

下鳥「海里、この盗聴器を分析してみてちょうだい」

 

清水「え? 俺が分析するのか、作った奴の魔力しか出ないと思うが……」

 

下鳥「いいから、分析してみなさい」

 

 

そう強く主張をする優梨、海里にその依頼を断る理由は無かった。

 

まだ彼の中には疑問が残るらしいが、とりあえず盗聴器に対する魔力の分析を始める。

 

海里は空中から青々としたコンパスを取り出すと、それをしばらく盗聴器にかざす。

 

 

清水「……は? どういう事だ?」

 

 

一瞬海里は何かに驚いたような様子をみせたが、すぐ冷静になり結果を話した。

 

 

清水「主に確認出来たのは菜種油色の魔力だったが……

何故か、ほんの微量だけ()()()()()が見て取れたぞ」

 

月村「黄緑ですって?」

 

上田「黄緑って言ったら、俐樹ちゃんが黄緑色の魔法少女だけど……」

 

橋谷「わっ、私ですか!? でもその塊は今初めて見ましたし、触れてもいません!」

 

上田「それは分かってるよ、どうやって付いたのかが分からないの」

 

 

さらに疑問が増えてしまったかと一同は思ったが、優梨は何故かそれを聞いて微笑んだ。

 

 

下鳥「ところで俐樹、貴方には回復魔法があったわね?」

 

橋谷「うぅ……はい、魔力で回復効果のある花の蜜を作ることができます」

 

下鳥「その蜜は全て同じ物かしら?」

 

橋谷「いえ、人の症状によって成分の割合を変えているので……

同じ物は無いと思います、私が蜜を調べれば誰にあげた蜜か分かるかと」

 

古城「……!!」

 

 

その時、何かに気がついたら忠義の表情は一瞬だけ凍りついた。

それ以外は素知らぬ顔だったが、優梨はその隙を見逃さない。

 

 

下鳥「そういえば貴方、以前冷水の飲み過ぎでお腹を痛めた事があったわよね?」

 

古城「……確かに、一度拙者の相方の紹介で世話になった事があるでごさる」

 

下鳥「なら少なくとも、蜜を調べれば貴方が盗聴器に触ったという事は明らかになるでしょうね」

 

 

側から見れば会心の一手……だが、忠義は何故か呆れたかのように溜息をついた。

 

 

古城「やっぱり、そう言うでござるか……単なる偶然でござるよ。

掃除当番で掃除をした時にでも付いたんでござろう、第一拙者には機械系の技術が」

 

下鳥「あらあら、貴方の実家は電気屋じゃなかったかしら?

この盗聴器も貴方の家に商品としてある設計図に随分そっくりのようだけど」

 

古城「じっ……か!? ちょっと、拙者は寮生活でござるよ!?

ここと拙者の実家までは調べに行くのにどれだけ距離があると」

 

下鳥「池宮以外にちょっとしたコネがあるだけよ、それに……

この際ハッキリ言わせてもらうわ、貴方知りもしない筈なのに

どうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

古城「それ、は……」

 

 

優梨の言う通り忠義以外の初見たちは皆、粘土のようだということしか分からない。

 

それなのに、忠義は初見にもかかわらずそれをガラクタだと言い放った。

 

優梨が長い時間をかけて見つけた証拠も証言も完璧、最早言い逃れは叶わない。

 

 

下鳥「貴方たちが表の問題に取り組んでくれて助かったわ、

その分だけ私は裏の問題に取り組む事が出来たのだから」

 

上田「……優梨」

 

下鳥「さあ、これ以上はどう弁解するつもりなのかしら? 魔法忍者さん」

 

 

その優梨の言葉が告げられた後、この場は忠義の言葉を待つ静寂に包まれる。

 

 

 

 

そして……次の瞬間、忠義は壊れたかのように高らかで不気味にに笑い出した。

 

 

 

 

どうやら、優梨の言っている事は間違いではないらしい。

 

手のひらで顔を覆ったまま笑いが落ち着いたかと思えば、その隙間からギョロリと瞳がを見た。

 

まるで発狂でもしたかのような豹変っぷりだが、忠義の場合は本性を現したと言える。

 

 

古城「あぁ〜〜あ、バレちゃたのかぁ? 僕ってば、結構頑張ったつもりなんだけどな」

 

下鳥「……その分だと、その『忍者口調』もわざとやっていたようね」

 

古城「こっちの方がバカっぽくて逆に怪しまれないと思ったのさ、

実際全くに近い程怪しまれなかった……この布を巻いただけの服装も、ね!!」

 

 

忠義は語っていた言葉を途中で一旦止めると、自らの忍者の衣に手をかけた。

 

そうすると、忍者の衣は黒茶の魔力の淡い閃光を散らして消える。

 

どうやら覆う形で隠していたようで、そこには別の衣装が存在していた。

 

それはほぼ黒で構築された剣士の衣装、片手には大きな鎌を召喚し肩に抱える。

 

一言で言うなら中世の『死神』だ、そこには忍者の面影など全く無い忠義の姿があった。

 

 

古城「ネタバレついでに教えてあげるよ! 前に前坂数夜が絶望の魔法使いとか言ってたけどさ」

 

清水「……確かに一度言っていた事はあったな、お前の場合盗聴器から聞き出したんだな」

 

古城「あれって、寧ろ僕の事なんだよねぇ? この群青野郎はただの操り人形(マリオネット)ってわけ」

 

清水「なっ!?」

 

前坂「…………」

 

 

忠義かネタバラシをする間、数夜は俯いたまま何も喋ろうとしない。

そこには驚くような仕草もない、どうやら元から全てを知っていたようだ。

 

 

古城「一時期スパイがどうたらこうたら言ってたような気もするけど、

多分それも僕なんじゃない? 隠れて盗み聞きを繰り返してたし。

みんな騙されやすくって笑えるよ、『反転』の魔法を『絶望』の魔法だって勘違いしてるもん」

 

上田「じゃあ、本当に『絶望』の魔法を使えるのは……!」

 

古城「やっぱり察しが早いねぇ、そう! この僕だ、まぁ上手いこと隠してたけどね?

表面上では魔法侍と行動するお茶目な魔法忍者、真の姿は『星屑の天の川』サブリーダーさ!」

 

月村「まるで無意味ね、そこまでして得た物は何一つ無いわよ」

 

古城「意味ならあるよ? だって、僕が望んでいるのは『絶望』だもん!」

 

 

半端笑うようにしてそう告げる忠義、これには流石に強気で食って掛かった芹香も言葉を失った。

 

 

中野「……何がどうなったら、そういう考えに至るんだ」

 

古城「だってさぁ、自分が悪い事をしたってのにのうのうと笑っているのはおかしくない?

時には名前を隠して嘲笑う、誰が笑ったかなんて全部は分かりっこない。

ならぜ〜〜んぶ絶望させるしかないよねぇ? そうすりゃいつかは根絶やしに出来るじゃん!」

 

橋谷「そっ、そんな事の為に私やトモちゃんは呪いで苦しめられたのですか!!」

 

古城「呪い? あぁ違う違う、呪いは確かに前坂数夜がかけた奴だよ」

 

橋谷「そんなの嘘です! 嘘つきです!!」

 

 

珍しく俐樹は今までされた仕打ちもあってか怒り狂っているが、

忠義はまるで相手にしていないという様子で呪いについて説明しだした。

 

 

古城「そもそも僕、結局のところ呪い自体には細工をしてないんだよねぇ」

 

下鳥「何ですって?」

 

古城「ありゃりゃぁ! 流石にここまでは分からなかったみたいだな、

散々裏に回ってシラベマシターって言ってたのに穴があるもんだね」

 

前坂「……『幻惑』の魔法」

 

古城「へぇ? まぁ、呪いをかけた張本人なら分かっちゃうかな。

そうさ! 数夜が呪いをかけたのと同時に、僕も幻惑の魔法を()()()()()の話さ。

『この呪いは希望を感じにくくする効果がある』って、そんな暗示をかけてね。

笑っちゃうよねぇ? 僕自身は絶望の魔法なんで微塵も使ってないのに、

呪いをかけられた者は勝手に絶望して孵化していくんだからさ!」

 

 

忠義はまるで、楽しかった思い出話でも話すかのように笑いながら話している。

 

だが彼の話す内容はえげつない、どれも精神を傷つける残酷な話ばかりだ。

 

その中で彼が示す事柄は1つだけ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

古城「結局は、数夜がやった事には代わりないんだよねぇ?」

 

 

 

 

その言葉を告げた忠義は、今日一番の不気味な笑みだった。

悪に染まった邪悪な表情、それが忠義が一番言いたかった事だろう。

 

 

上田「……勘違いも、甚だしいよ!」

 

古城「あれあれ? リュミエールのエースが花の闇を庇っちゃうわけ?

そんな事無いんだよなぁ、呪いがソウルジェムを穢す根元になったのは間違いないし」

 

上田「なら、()()()()のソウルジェムが黒いまま保たれていたのは何故?」

 

前坂「…………!」

 

上田「『反転』の魔法だけじゃ孵化までには至らない!

もし呪いをかける瞬間全部に細工を出来る程尾け回していたのなら、

貴方の『絶望』の魔法が引き金になったとも言える!!」

 

 

要するに、結局最後は忠義が直接手を下していたという事だ。

 

確かに利奈の言う事は正論だ、数夜が孵化せず魔法少年のままでいられるのが証拠。

 

その証拠は果てしなく揺るぎない……それはかつて利奈が怯えていた相手、

利奈は魔法少女を通して確実に心身ともにその強さを増している。

 

 

 

 

古城「……僕が、手を下した? 犯人と同じように? 兄さんが散ったみたいに?

違う、僕は犯人とは違う! 僕は被害者だ、僕が仇を打たなきゃいけないんだ!!

黙れ! 黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ……うるさい! ボクハワルクナイ!!」

 

 

 

 

元々発狂しているような人物が幻想に苦しみ暴れ狂う、もはやそれは本物の狂気だ。

 

目は虚ろで食いしばった唇からは血を流し、まるで思考に喰われるように忠義は苦しむ。

 

次の瞬間……忠義は弱々しいが、また笑った。

 

 

古城「興醒めだ、これでゲームオーバー……用済みのキャラはここで穢し尽」

 

前坂「まっ、待て!!」

 

古城「……あ? 何出しゃばってんのさ、黙ってろって言ったじゃん」

 

 

念話での指示を受けたのか今まで一言め喋らなかった数夜だが、

忠義が行動に出ようとすると痺れを切らしたかのように声を荒げた。

 

 

前坂「お前の標的は俺だろう、それ以上の攻撃は単なる悪事になる」

 

古城「はぁ? 今更どうしたって悪者は悪者なんだよねぇ、犯罪者が何を言ってるのさ?」

 

前坂「……なら」

 

 

揺らぐことの無い忠義の意思、そんな彼の前で数夜は何故か変身を解いた。

 

その手には黒いソウルジェムが握られている、それは絶望で保たれる反転した魂。

 

それを忠義の前に差し出す、彼は本気だった。

 

 

 

 

前坂「その鎌で、俺のソウルジェムを破壊すれば良い」

 

 

 

 

清水「……なっ!?」

 

下鳥「何を馬鹿な事を言ってるの!? 止しなさい!!」

 

前坂「これで満足だろう忠義、お前は兄の仇とする者を討てる……だから、絶望を重ねるな」

 

 

数夜の目は真剣そのものだが、忠義は一瞬驚いただけでその覚悟を笑った。

 

 

古城「いやぁ君の自暴自棄もそこまで来ちゃったもんだねぇ、自ら殺され祈願?

お前に口出しされる筋合いは無いね、主菜(メインディッシュ)は最後に食べる物だもの!

だから……まずはそこの女からだ、そいつは何故か僕達の事を知り過ぎている」

 

 

そう言い切ったその時、忠義は不意打ちで優梨に目掛け持っていた大鎌を振った!

 

飛ぶ魔力の刃はひたすらに黒い、まるで闇そのもの……絶望そのもののような斬撃。

 

不意打ちだからか見事に斬撃は命中した、ソウルジェムに黒い魔力が絡み付く。

 

 

 

 

だが忠義の狙いは外れた、何故かって? 何故なら、優梨は庇われたからだ。

 

 

 

 

上田「っうぅ……!」

 

下鳥「利奈!? 貴方なんて事を!!」

 

上田「大丈夫、こういうのは慣れてるから……っあぁ!?」

 

古城「ぷっ、あっはっはっは! 馬鹿じゃないの!? 体力が無くて庇う事しか出来てないじゃん!」

 

前坂「……待て、何か様子がおかしいぞ」

 

 

 

 

利奈はじわじわ思い出してしまっている、花組での最初の立場。

 

 

 

 

それがどんなに黒く暗い感情だったか、光届かない事に諦めを感じたか。

 

 

 

 

あぁ、これが『絶望』か……心が強く軋む傷みに、利奈は悲鳴を荒げた。

 

 

 

 

上田「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

下鳥「何よ、これ……っきゃ!?」

 

橋谷「利奈! 優梨!」

 

清水「っくそ!! 古城お前! 利奈に何しやがった!!」

 

古城「……ははっ、何だこの黒い魔力の量? こんなのは見た事ない、普通じゃないよ」

 

中野「海里! 無理だ、一旦離れなきゃ巻き込まれる!!」

 

 

優梨は噴き出す黒い魔力の勢いに吹き飛ばされ、廃墟の壁に叩きつけられた。

 

利奈の元へ行こうとした海里は、蹴太にかなり強引に廃墟の外へ連れ出される。

 

芹香、絵莉、俐樹の3人で手分けし優梨を外へ連れ出す傍、辺り一帯が衝撃で揺れた。

 

ギリギリになって数夜と忠義も外に出る、数夜の肩にはハチべぇがいる。

 

魔法使い達は皆様々な表情をしていたが、ハチべぇはこんな時でも無表情だ。

 

 

 

 

ハチべぇ「利奈が孵化をするのはこれが初めてだったね、やはり彼女には素質があったようだ」

 

 

 

 

激しい劣等、渦巻く感情……助ける者はもういない。

 

作り出した逃げ場(自室)も、今となれば無意味。

 

聞こえる他人の声でさえ、頭を揺るがし苦しい。

 

頭痛が収まらない、吐き気が収まらない、苦しさが収まらない。

 

涙なんて、流しすぎてとっくの昔に忘れた。

 

頭を掻きむしって嗚咽を吐いて、延々と湧き出る劣等に苦しめ続けられる。

 

苦しみの果て、孤独の果て、絶望の果て……

 

ふと頭をぐしゃぐしゃに掻き乱すのをやめ、胸の辺りに弱々しい光を見た。

 

 

 

 

その時、彼女のブローチはパキリと音を立てて壊れた。

 

 

 

 

純粋な赤が美しかったはずの彼女の魂は、限界を迎えていた。

 

真っ暗な魔力が噴き出そうともなんとも思わない、そこには柔らかで暗い感情しかない。

 

今は、体から意識が離れることによる安らかな眠りに身を任せるだけだ。

 

 

 

 

これが、『絶望』。

 

 

 

 

そう考える思考さえも、黒い魔力の中に沈んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Ladies and gentlemen, boys and girls!

 

晴れ舞台に1人舞台、孤独の果てに絶望した魔女の悲しげで楽しげなショーが始まる。

 

そこは赤々しく、鮮やかな世界観。

 

巨大な棍がが乱立する世界の中、その中心にポツリとある巨大な巨大なサーカステント。

 

入り組んだ内部の最新部にある華やかなステージ、観客席には可愛いお客さんがたくさん!

 

 

私は自慢のうさ耳を軽く動かし、リボンを整えて見てくれるお客さん達に一礼をする。

 

始まるよ? 楽しいショーが始まるよ?

 

大人も子供も男も女も、みんなみんな……()()()()()

 

 

孤高の魔女、性質は自己実現。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

月村「冷静になりなさい! ……っ、貴方の腕を再度見るの!!」

 

 

 

前坂「無理もない、あの攻撃の激しさに前例は無かったからな」

 

 

 

武川「ほげええぇぇ!!? ぅお、うおあああああ!!!」

 

 

 

下鳥「……ごめんなさい、最後の最後で最悪の事態になってしまったわね」

 

 

 

〜終……(43)無心な裏切りと真の闇〜

〜次……(44)赤き孤高の少女[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、魔法使い一同にとっての絶望の幕開けはいかがだったでしょうか?

えぇとても楽しみにしておりましたとも、主人公を孵化させるこの瞬間を!

……えっ、黒幕が明らかになるのは楽しみではなかったのかって?

それももちろん楽しみでしたよ、ここまで書くのに苦労しましたもの。

ですが利奈の孵化はそれを上回ります、孵卵器にでもなった気分ですね。


前章については、大体50話を目処に終わって後章を迎えるでしょう。

前章の名前は『花の結束』、それが現実となる……予定です、ハイ。

最大のネックはやはり黒幕です、自分で書いておいて彼に頭を悩ませています。

まぁ、どう対処するかは7割ほど決まってますがね……まずは彼女を救わないと。

需要は無いですがいつもの挿絵も入れます、その方が私と読者様のイメージが合い易いのでね。


さて、今回はこの辺で一旦おしまい。

ここからまた長い執筆期間に入りますが、気長に待っていただけると幸いです。

次回は今回の直後から始めましょう、主人公の孵化なので今まで以上に頑張って書きます!


それでは皆様、また次回。


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