魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語   作:ハピナ

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どうも皆様! 1ヶ月ぶりのハピナですよ、4月から大変な日々を過ごしてました。

何せリアル本格的な仕事が始まった訳で、慣れるのがこれまた大変……貧血が振り返した()

本当に時間がかかったのは40話ですが、その前に39話をお届けしましょう。

39話は登場人物増加の回、新参からお久しぶりまで選り取り見取り取り揃えてますよ!

それでは、1ヶ月ぶりの幕を開きましょう……おっと、少し埃が被っている。



(39)増える花々と小さな踊り子

 

空を見上げれば照りつける太陽、珍しく雲一つ無い晴天からは暖かな日光が降り注いだ。

 

既に降り積もる真っ白な雪は光を反射して輝いている、

いつしか気候が暖かになれば輝きを通り越して溶けるだろう。

 

雪が積もり残る程の寒い中で雪を踏みしめ走る生徒達、向かう先は第三椛学園の校門。

 

どうやら遅刻ギリギリだったらしく、生徒達を見てもなお教師は校門の扉を閉めようとする。

 

そんな厳しい教師の手がある者を見て止まった、生徒達は逃げるよにして駆け込んで行く。

 

 

「先生おはようございます!!」

 

「おはようっす!!」

 

「あっ!? コラ! お前ら遅刻だぞ……ったく、

着席時間はとうの昔に過ぎているのになんて奴らだ」

 

?「ありゃりゃ、今のはあたしのせいか? 悪かったな先生」

 

「いや、君が謝る事は無いよ……それよりも、また君が学校に来れるようになって嬉しいよ」

 

 

教師は見ているだけではなく手を貸す、その生徒は松葉杖で車から降りる所だったからだ。

 

若干雪に足をとられふらついているが、それでも少女は力強くその場に立った。

 

その少女は奇跡の少女、車椅子を強いられていたにもかかわらず

驚異的な回復スピードで治療の大半を終えて今ここに立っている。

 

 

車道「ちぃ~~っす先生! 久々に車道舞が登校して来たのぜ!

あぁ、あたしの事は構わないのぜ? 先生は気にせず自分の仕事をして欲しいのぜ」

 

「大丈夫なのか? 車道」

 

車道「平気平気! これでもキツいリハビリして来てるんだから、簡単に転びはしないのぜ」

 

 

幸いにも、校内の雪は朝当番の生徒達に雪かきされて少ない。

 

適当にやる生徒が多ければ雑になるが、今日は真面目な生徒が多かったらしい。

 

両脇に挟んだ松葉杖をしっかりと拳で握り締め、弱い足を支えながら先へと進んで行った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

朝の会が始まる前の、教室が温まる前のちょっと寒い自由な時間。

 

花組に段々と統一感が生まれたおかげか、前程の耳触りな騒がしさは減って来ている。

 

そんな中には利奈もいた、泡沫の魔男との戦いから数日は立っている。

 

何日か立てば流石に疲れは取れる、利奈の顔色は明るく晴々とした様子だ。

 

何故ご機嫌かって、今の利奈は芹香との雑談を楽しんでいるからだ。

 

互いに共通の話題が見つかったらしく、この2人にしては長い時間念話が続いている。

 

利奈は豊富な知識で多彩な言葉を語り、芹香はそれらを時には抑制しまとめながら話を進めた。

 

一度噛み合えば取っ掛かりがなく回り続ける歯車だ、やはりこの2人は相性が良い。

 

それも含めて花組一同が先生が来るのを待っていると、突然教室の扉が力強く開いた!

 

 

車道「久しぶりなのぜぇ~~! みんな元気してたか? あたしはこの通り回復したのぜ!」

 

 

そこには松葉杖にもたれかかる舞の姿があった、歯を出して笑い呑気に手を振っている。

 

入院していた筈の彼女が何、故この場にいるのか?

 

驚きと歓声の中で沸く花組一同、そんな中で舞に近付いたのは2人の生徒。

 

 

車道「おぉ! 力強に八雲もいる……そりゃそうか、お前ら仲良くしてたか?」

 

地屋「舞!? 舞じゃねぇか、入院してたんじゃなかったのか?」

 

車道「とっくの昔に退院してるのぜ! 一時期、奇跡だの何だのと騒がれたけどな」

 

空野「退院したなら連絡くれれば良いのに、僕も力強もみんな心配していたんだよ?」

 

車道「ちょっとしたサプライズって奴だのぜ!

それに、リハビリ期間中はそれどころじゃなかったのぜ」

 

 

力強と八雲は手を貸そうとしたらしいが、舞は自分で出来るとお礼を言って断った。

 

自分の席に戻る直前、舞は力強と八雲に自分の指にはまっている指輪を見せた。

 

その鈍色の宝石はキレイな状態を保っている、その後は力強く拳を握り締めた。

 

 

車道「それに、あたしはちょっと休み過ぎたのぜ!

そろそろ貢献とかしておかないと、置いてけぼりになっちまうのぜ」

 

 

『何もしない分には穢れる事はない』とされるソウルジェム、入院中でも舞は大丈夫だろう。

 

とはいえ、舞は舞なりに思う所はたくさんある。

 

自分が入院している間、自分だけ何も出来ないというのは辛い面もあっただろう。

 

元々現役でレーサーとして活躍している彼女だ、活躍を求めるのは選手としての本能。

 

舞が自力で席に座りリュックサックを降ろす頃、ちょうど花組の担任が教室に入って来た。

 

 

「みんな早く席に着け! 時間はとうの昔に過ぎているんだぞ!」

 

 

担任の言う通り既に席に座るべき時間は過ぎている、

窓際にいた生徒も廊下側にいた生徒もみんな席に戻った。

 

 

「今日はみんなに花組の新しい仲間となる転校生を紹介する、入っておいで!」

 

 

担任は出席簿を教卓に置き、教室の前の扉に向かって声をかけた。

 

すると、教室に第三椛学園では見慣れない生徒が扉を開けて入って来た。

 

黒板に置いてある白いチョークを手に取り、徐にフルネームを書く。

 

 

 

 

一部の花組の生徒はかなり驚くだろう、何故なら名前は初めてだが姿は知っている人物。

 

 

 

 

チョーク「白橋(はくばし)直希(なおき)です、今日からここ第三椛学園でお世話になります!」

 

 

 

 

彼はにこやかに笑ってみせた、頭には白髪を隠すかのように黒いバンダナが巻かれている。

 

チョークは『白橋直希』と名乗ることにしたらしい、

なら彼の事は白橋か直希で呼ぶのが正解だろう。

 

舞といいチョーク基直希といい、今日は何かと花組に新たな人物が訪れる日だ。

 

 

「白橋君は録町さんの後ろに座りなさい、新しい席が用意してあるからな」

 

白橋「はいっ! 小林先生!」

 

録町「また面白そうな人が来たもんだね、よろしく! 転校生」

 

 

転校生が注目を浴びながら移動すりや中、席に着く彼に最初に話しかけたのは花奏だった。

 

直希は明るく振る舞いながらもやはり緊張があったらしく、若干その動作は固い。

 

花組の担任はそんなのには構わず、朝の会での連絡を淡々と始めた。

 

ただでさえ話をちゃんと聞かず騒ぐ生徒もいる、早めに終わらせないとキリがない。

 

……と思ったらしいが、いつもより数分も残して朝の会は終わってしまった。

 

特に担任が何か特別な指導をしたわけでもないのに、生徒の間にまとまりが生まれている。

 

真面目な生徒はそのままに、不真面目な生徒は割りと話を聞いている。

 

まぁ、お喋りも無くちゃんと話を聞いてくれることに越したことはない。

 

担任は不思議に思いながら出席簿を手に、そのまま花組の教室を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

授業が退屈かは教える教師の力量と、生徒たちのやる気に深く関係する。

 

午前の授業は言うまでもない、いつも通りの平凡な時間が過ぎた。

 

時間を進めてお昼休み、リュミエール一同はお客を何人か迎えていつもの理科室に来ていた。

 

 

車道「いやぁ〜〜しっかし、まさかあたしが帰って来たタイミングで

転校生がやってくるなんてのは流石に驚いたのぜ! なぁ直希」

 

白橋「うん! 舞と僕ははじめましてだったかな? えっと、鈍色で車の魔法少女さん」

 

車道「っははは! 初対面にしては随分と知ってるみたいなのぜ、

なら、仲良くなるには面倒な自己紹介も取っ払って話が早いってもんだぜ!」

 

 

舞と直希は互いに初対面だったが、元々フレンドリーなせいかすぐに打ち解けた。

 

最初は直希の様子を見て心配そうな顔をしていた俐樹だったが、

直希が明るく振舞っている様子を見届けて安心したらしい。

 

さて、ただでさえ移動にも苦労する舞が何の目的も無しに古校舎に来た訳ではない。

 

 

上田「そういえば、海里はそんなに驚いてなかったよね? 2人共急に来たのに」

 

清水「チョー……直希の場合は俐樹から事前に相談を受けてたからな、舞は驚いたが」

 

橋谷「えぇ、今のところ花組でどう振る舞えば無難なのかを少々」

 

車道「あたしは言ってなかったのぜ、まぁ驚かすつもりだったから当然なのぜ」

 

清水「やっぱりそのつもりだったのかお前は……」

 

 

苦笑いをしている海里に対し、舞は若干嬉しそうに豪快に笑ってみせた。

 

その様子は男っぽいを通り越してもはや男だ、なんと《男勝り》なことか。

 

まぁそれだけ笑える元気を取り戻せたということだ、元気ならばそれで良し。

 

 

その後の舞は主に海里から自分がいない間、どんなことがあったかを一通り聞いた。

 

 

車道「唇、居場所、鋭利、泡沫……聞いた限り、たくさんの魔法使いの孵化しちゃったのぜ。

 

様々な問題と数々の事件かかぁ、あたしがいない間に色んな事があったもんだぜ!

 

みんな揃ってなかなかの苦労人なのぜ、あたしもその時に手伝えれば良かったのぜ……」

 

 

入院を強いられた身体だったとしても、舞は自分が長い間何も出来なかった事を気にしていた。

 

思わず口からため息が零れる、考えれば考える程悩む内容はいくらでも湧き出た。

 

その思考の負の連鎖を遮ってくれたのは、舞の長らくの友人にして今日の客人。

 

 

地屋「そんな暗くなるなよ舞! やっとまた通えるようになったってのによ」

 

空野「そうだよ、これから僕らと一緒に貢献してけば良いよ!」

 

車道「これからねぇ……ネガティブになっちまってるが、今からでも間に合うのぜ?」

 

地屋「貢献することに期限なんてねぇよ! なぁ八雲」

 

空野「自分で活動してなかったんじゃないんだし、気にすることないんじゃないかな」

 

 

そんな感じで舞は力強と八雲に励まされたが、まだちょっと気にしている様子。

 

力強や八雲の見舞いのおかげで魔法を練習をする余裕はあったらしいが、

しばらく活動してなかったブランクのせいか、飛行魔法はまだ使えないと彼女は言った。

 

そんな舞の発言から近い内に裏山で魔法の練習をする事になる、

最近は魔法に慣れて魔女や魔男との実践ばかりだったので練習は久しい。

 

さて……海里たちが舞と話す間、利奈たちは直希と話をしていた。

 

直希曰く舞に対して隠しているつもりは無かったらしい、今日来ると決まったのは最近なんだとか。

 

 

上田「じゃあ転入って形で学校に入るために、今まで何かしてたって事なのね」

 

白橋「うん! 俐樹に教えてもらいながら、たっくさん勉強したんだよ!」

 

橋谷「ほとんど、直希さん自身の力で、習得したんですけどね」

 

白橋「俐樹はすごいんだよ! 教え方とても上手でさ、英語なんかすぐに覚えちゃったんだ!」

 

橋谷「とてもは余計です……色々教えてみたのですが、

どうやら、直希さんは言語を覚えるのが得意みたいです」

 

 

俐樹の言ってる事は正しく、直希はこの理科室に国語辞典と英和辞典と和英辞典を持ち込んだ。

 

分からない事や気になる事があれば辞典で調べて学ぶ、

言葉に関する繰り返しのその行為に苦は感じないらしい。

 

その学びっぷりは芹香も驚きだ、今の彼女はもう目にクマが出来る程の勉強はしていない。

 

 

月村「全く……隠すつもりが無かったとしてもよ、教えてくれたって良かったじゃない」

 

橋谷「すっ、すみません! 準備が忙しいのと、緊張で……話す余裕が無くて」

 

上田「実際に体験した訳じゃないけど大変だって分かるよ、

今まで学校に行った事が無い人を学校に入れるんだもん」

 

白橋「俐樹があんまり緊張して眠れない様子だったから、

せめてリュミエールのリーダーにだけでも話したらって言ったんだ」

 

篠田「そこまで気にしなくても大丈夫だと思うんだけどな、

まぁそれが俐樹の良い所だってあたしは思うよ!」

 

 

利奈や絵莉の言葉に気持ちが少し楽になったのか、俐樹の表情に微笑みが見えた。

 

『白橋直希』という名前は彼自身が決めた名前らしく、

まず直希の戸籍の取得に時間がかかったんだとか。

 

他にも制服や教科書など気になる事は多々あるが……まぁ、その話はまた今度。

 

今日の集まりでは主に2人の歓迎に時間を注ぎ込み、問題解決に関してはあまり話さなかった。

 

『浄化格差』や『濁色の魔力の噴出』と言った気になる問題はあるが、

それらはまた後日に話す事になりそうだ……まぁ、今日の場合は仕方ない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間を進めて青空が橙色を帯び始めた頃、利奈は自分の家に帰って来ていた。

 

今は自室にて荷物整理をしている、利奈のバックから出て来たハチべぇは背伸びをした。

 

しばらくしてやっと荷物整理が終わり利奈はベッドに寝転がったが、

嫌に合致したそのタイミングで自室のドアがノックされた。

 

ベッドから起き上がった利奈が扉を開けると、そこには利奈の母親がいた。

 

何やら疲れたような顔をしている、ハチべぇはいつの間にやら何処かに隠れたらしい。

 

 

上田「お母さんどうしたの?」

 

「利奈、悪いけど今日は代わりに流兎を迎えに行ってちょうだい」

 

上田「流兎の? そっか、今日は流兎の……いいよ、

お母さん今日お仕事があった日で疲れてるんでしょ」

 

「助かるわ利奈、今日はちょっと具合が悪いの……部屋で寝ているわね」

 

上田「あぁ、お母さん布団に入ったら整えるよ」

 

 

利奈の母親は今日仕事があったらしく、今日は特に疲れた様子だった。

 

利奈は母親を寝室に連れて行って寝かせた後に自室に戻り、

私服に服を着替えてバックに少なめの荷物とハチべぇを詰めた。

 

防犯用のスマートフォンは、校門を出た時点で既に電源を入れている。

 

休憩をして少し時間を潰せば、流兎を迎えに行くのにちょうどいい時間帯になった。

 

利奈はそのまま自室を出て家を出発し、見慣れた道を進んで行く。

行き先は流兎が週3で通うバレエ教室で決まり。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

流兎と言うと、それは上田(うえだ)流兎(ると)の事だ。

 

利奈の5歳下の妹で、明るいがやんちゃで何をしでかすか分からない破天荒な性格。

 

姉の利奈とは血の繋がった姉妹にしては仲が良く、

その相性はシスコンの一歩手前と言われたほどである。

 

そんな流兎は習い事としてバレエを習っている、幼い頃からやっているその腕前は上級クラス。

 

週3回はのレッスンはいつものこと、利奈が代わりに迎えに行くのは珍しい事だが。

 

 

上田「ここだよハチべぇ、私の妹が通うバレエ教室『池宮バレエアカデミー』」

 

ハチべぇ「人気が多い所にある建造物のようだね、

これだけ人通りがあれば魔なる物も寄り付かないだろう」

 

上田「そういえば、中央地区……特にこの辺りで魔女か魔男の気配はする?」

 

ハチべぇ「心配しなくてもそのような気配はしないよ、

君は上田流兎を迎えに集中すれば良い」

 

上田「ありがとう、なら今は流兎の事だけ気にしていようかな」

 

 

夕焼けの空の下で見慣れた街並みを歩いて約30分、着いたのはコンクリートの丈夫そうな建物。

 

1階はエントランスや空き部屋が並び、2階に大きな鏡とバーに控え室。

 

そんな建物に利奈はやって来た、ちょっと早く来てしまったらしく人が少ない。

 

癖である早歩きがまずかったのだろう、利奈は建物の壁にもたれかかって時を待つ。

 

しばらく上の空で待っていると、不意に利奈は意外な人物に声をかけられた。

 

 

浜鳴「……あれっ、上田さんじゃん! 遭遇なう、何してるの?」

 

上田「えっ!? えっと、練習が終わった妹を迎えに……」

 

浜鳴「あぁ流兎ちゃんの事? 待機なう! 中に入りなよ、外にいたら風邪引いちゃう」

 

 

利奈がここで会った最上の姿は、学校とは明らかに違った。

 

髪はがっちり後ろで1つのお団子に縛り上げてあるし、メイクも最低限に収めている。

 

どうやらこのバレエ教室の生徒で間違い無いらしい、最上の姿はそれらしい格好だ。

 

建物の中に入ると、そこにはソファーやら自動販売機やら様々な物が置いてあった。

 

差し詰め、バレエを習いに来た生徒や迎えに来た親御さんの待機場所と言った感じだ。

 

まぁ、利奈のような例外もたまにいるが。

 

中に入ってソファーに座ればそこはフカフカ、向かいに最上も座ってきた。

 

 

浜鳴「上田って何か聞いた事あるなって思ったけど、

やっぱ上田さんの妹だったんだね! 驚きなう!」

 

ハチべぇ((最上、君はこのバレエ教室に通う生徒なのかい?))

 

浜鳴「あぁハチべぇもいたのか、ご丁寧にバックの中に収まっちゃって……収納なう。

 

あたしは上級クラスの夜の部に通ってるよ、まぁこの時間にしか学生じゃ通えないけど。

 

流兎ちゃん達とは入れ替わりなう! 今は早く来ちゃったから待ってる感じかな」

 

上田「早く来たって事は、浜鳴さんも家が近いんですか?」

 

浜鳴「近距離なう! 通ってる回数、あたしの家が3本の指に入る多さだからねぇ」

 

ハチべぇ((最上はバレエとの因果関係が深いのだろう、

それが君の魔法少女姿に現れていると僕は思うよ))

 

浜鳴「ハチべぇって何でもかんでも魔法少女に繋げたがるよね、執念なう」

 

 

ハチべぇは何処でも変わらないが、このバレエ教室での最上は学校とは違って見える。

 

根っからのギャルと言える程のメイクと性格をしている彼女、

それが今では話しやすいバレエ教室の生徒となっている。

 

利奈が見ていなかっただけだろうか? 今の最上は学校とは違い、別の人物の様にも見えた。

 

 

浜鳴「そんな敬語でなくていいって! 緩和なう、もっと気軽に話しなよ」

 

上田「あぁ、うん……ごめん、ちょっと人見知りな所があって」

 

浜鳴「理解なう! 分かってるって、そんな積極的じゃないってのは誰が見ても分かるよ」

 

上田「えっと……浜鳴さんってバレエ習っていたんだね、魔法少女姿もバレエ衣装だったし」

 

浜鳴「あたしの姉も妹もそうだよ、一家相伝なう! まぁバレエが好きなのもあるかな」

 

上田「バレエが好きなんだ、流兎も言ってたなぁ……踊るのが好きだって」

 

浜鳴「それになりたかったのもあったんだよ? 目標なう!

いつかはプリマになるって、それが目標で目指していたんだ!」

 

上田「()()()()()()? なんか、昔の話みたいな言い方だね」

 

浜鳴「……! あ、いや……あはは、対したことないよ! 気にしたら敗北なう」

 

 

それは利奈にしたら単純に気になった事だったが、最上は一旦話に間を置いてしまった。

 

肩に背負った大きなカバンから水筒を取り出しお茶を飲む、

利奈は近くにあった自動販売機からアルミボトルのホットココアを買った。

 

話はそのまま休憩に変わるかと思われたが、ここでハチべぇが話に余計な水を差してきた。

 

 

ハチべぇ((最上の言う通りそれは対したことは無いだろう、

君はもうその目標を達成出来ないと判断したんだからね))

 

 

突然ハチべぇが告げた爆弾に思わず最上はむせてしまった、

飲んでいたお茶が気管に入ってしまったらしい。

 

利奈が最上の背中を軽く叩くが、それでもハチべぇは語ることをやめなかった。

 

そりゃあハチべぇは何とも思わない、何故ならこの生物は感情を持ち合わせていない。

 

 

ハチべぇ((どうしてそんな反応をするんだい? これは君が僕に言った事じゃないか))

 

浜鳴((だからって……KYなう!))

 

ハチべぇ((君はバレエダンサーとしての努力の末に、これ以上伸び代は無いと告げられ絶望した。

 

そこで君は同じくバレエダンサーとして練習を積み重ねる、

妹の浜鳴(はまなり)楽照(らて)に自身に置けなくなった君の希望を置く事にした。

 

だから君は契約時の願いを、『妹を世界規模で活躍するバレリーナにする』

という事にして、君はその魂に誓ったんじゃ無かったのかい?))

 

浜鳴「いい加減にして!!」

 

上田「浜鳴さん、声が出てる!」

 

 

利奈に言われなければ、最上はさらに苦渋に歪む独り言を連発していただろう。

 

かなりの声量はあったが、運良くレッスン中に流れる音楽が2階に届くのを妨害してくれた。

 

最上は言葉を空気と一緒に飲み込み、とにかく一旦は落ち着いた。

言われてしまった物はしょうがない、最上はそう思ったのか利奈に別の話を始めた。

 

 

浜鳴((過去話、なう……才能が無いって言われたんだ、長い間散々頑張ってきた挙句にね。

 

今まで何のために頑張ってきたんだって思ったよ、

これ以上頑張っても無駄だなんて……辛辣なう。

 

それでもまだ続けちゃってるってことは、ヤケでギャルになった事みたいに中途半端って事))

 

上田((中途半端って?))

 

浜鳴((そう、そのまんまの意味……あたしは、どっちにもなれなかった中途半端な人間なんだ。

 

バレエダンサーにも、ギャルにも……ギャルの知識や格好だって

美羽や優梨に教えてもらわなきゃちゃんとしたのにならなかった。

 

この口調だって、なるべくギャルっぽくしようって昔に癖を付けたんだ……定置()()、ってね 。))

 

 

そう言って最上は頬を指でつついた、 最上の口調は元からこうだったという訳ではないらしい。

 

最上にも利奈が知らないような様々な事情がありそうだ、

積み重ねた努力が崩れ落ちたのが1番大きいと予想はつくが。

 

彼女は自分の事を中途半端な人間だと思っているらしい、

諦めている辺り自分に対して絶望しているようだ。

 

 

上田「……そっ、そんな事無いよ!」

 

 

最上は自分の事を話し出した途端暗いまま……そう思った利奈は思わず、声を出していた。

 

 

浜鳴「……意外なう、上田さんにそう言ってもらえるなんて思わなかった」

 

 

最上は言葉通りの事を思ったらしく、反応は小さいが利奈の言葉に驚いていた。

 

 

上田「じゃあ、なんで浜鳴さんはまだバレエを続けてるの?」

 

浜鳴「バレエを? そりゃあ、まぁ……単に好きだからかな、継続なう」

 

上田「それで良いと思うよ!」

 

浜鳴「それで良い……って?」

 

上田「だって、頑張ってきた事は無駄にはなってないんでしょ?

 

好きな事として、バレエを続けることが出来ている……

私は、それだけでも頑張った価値があるって思うんだ。

 

この前魔男と戦った時だってそうだよ! 頑丈そうなベルトを鞭みたいに使って、ええと」

 

 

利奈は言葉を探しながら必死に話をしている様子だった、相変わらず話すのが下手だ。

 

それでも利奈が言いたい事は伝わっていた、言葉を選ぶ頭はちゃんとしているらしい。

 

伝わる内容はどれも優しさに溢れている、気が緩んだ最上は思わず笑ってしまった。

 

 

浜鳴「もういいよ、理解なう! 上田さんが言いたい事は大体伝わったよ、ありがと」

 

上田「ごめん、上手く話せなくて」

 

浜鳴「逆にその話し下手な感じが面白いと思うけどね? 予測なう!

 

そりゃあ優梨も上田さんの事を気にいるよ、話してて飽きないもん。

 

上田さんって優しいんだね、ちょっとは楽になった気がするよ」

 

 

そう言って最上は利奈に微笑みを見せる、先程の苦しみは少しは緩和されたようだ。

 

利奈もその笑顔を嬉しく思う、その時にハチべぇがまた何か言おうとしたらしいが……

飲みかけで蓋を閉めたココアと一緒に、思わずバックの中にしまいこんでしまう。

 

最後に『わけがわからないよ』だなんて言いたかったらしいが、

バックの中にご丁寧にしまわれてその言葉はくぐもって終わる。

 

 

 

 

さて、待っている時間が30分を過ぎそうになった頃になると、

小学生くらいの生徒たちが階段を降りて1階にやって来た。

 

利奈の後から来た親御さんたちが自分の子供を出迎える、

親子はお喋りでもしながら自分の車に向かうだろう。

 

人の波が過ぎ去ってからやってくる生徒たち、彼女らはバレエの事を話しながら降りて来た。

 

どうやら優秀な生徒の集まりのようで、子供なのに優雅な雰囲気さえ感じ取れる。

 

そんな中、利奈を見つけるや否や話をやめて利奈に駆け寄ってくる生徒がいた。

 

 

「あれ、お姉!? 何でお姉ちゃんがここにいるの!?」

 

「驚き過ぎよ流兎、自分の姉くらい驚かないで対応しなさいよ」

 

「あはは……ごめんごめん、いつもはお母さんが迎えに来てたからさ」

 

 

優雅な雰囲気を投げ飛ばしてでも利奈に走り寄る生徒、それが上田流兎だった。

 

きっちりと縛っていたはずのお団子の髪は若干緩み、鼻の頭や首元に汗が見える。

 

流兎は利奈に荷物を持ってもらい背伸びをしたりして甘える一方、

付き添いらしいもう1人の女の子は流兎に対して厳しいように見えた。

 

 

上田「おかえり流兎、その子は?」

 

流兎「友達の楽照だよ! すっごい厳しいんだけど、その分踊りもすっごく上手なの!」

 

楽照「べっ、別にそんなんじゃないんだからね!

浜鳴楽照です、池宮バレエアカデミーへようこそ」

 

流兎「お姉ちゃんと一緒にいるのは……あぁ、楽照のお姉ちゃん!

そういえば、お姉さんの年頃はこれからレッスンだっけ」

 

浜鳴「夜のレッスンな……ぅん! 中学生はこの位の時間帯から、大人はもっと遅いんだよね」

 

 

どうやらこの教室での最上は口調を変えているらしく、時々最上の言葉は詰まった。

 

普段のギャル言葉はやめる所が、最上のバレエに対する真剣さが伺える。

 

後は軽い雑談をしてそれぞれの行動という感じになったが、

その前に流兎はこれだけは言いたいと一同を引き止めた。

 

 

上田「ん、どうしたの流兎?」

 

流兎「ちょっと!? なんであの事言わないの楽照、悪い事じゃないじゃん」

 

浜鳴「あの事?」

 

流兎「楽照ってば変なんだよ、さっき次のバレエの発表会で

主役になったって言われたのに誰にも言わないんだもん!」

 

楽照「流兎!? ……そ、そんな対したことないわよ、そこまで大きな公演じゃないし」

 

 

流兎は言っても良いじゃんといった様子で笑っているが、楽照は顔を赤らめて焦っている。

 

色々と行動が遠回しだが、楽照は要するに恥ずかしがり屋なのだろう。

 

そして、そんな楽照の嬉しい知らせを心から喜んだのが楽照の姉だった。

 

 

浜鳴「本当なの楽照!? 今度の公演って行ったら、結構大きなバレエ発表会じゃない」

 

楽照「まぁ……事実上のプリマかな、別にそんなすごい事じゃないんだからね!」

 

浜鳴「楽照が、プリマ……!? おめでとう楽照!!」

 

 

あまりの嬉しさに最上は楽照に抱きついてしまって、

楽照はこれからレッスンだろうと言って先に行く事を促す。

 

 

浜鳴「ごめん楽照、流兎ちゃんもまたね!

上田さん、今日は話が出来てすっごく良かったよ!」

 

 

ご機嫌な様子で最上は階段に足を踏み出した、もう暗い感情なんか1ミリも感じない。

 

零れそうな嬉し涙を最上は流さないよう貯める、泣き顔を仲間や先生に見せるわけにはいかない。

 

最上の心は晴々として希望に満ち溢れいた、今日はいつもより上手く踊れるだろう。

 

 

 

 

そんな時だった……綿菓子の様な煙状で濁色の魔力が、最上の片目から激しく噴出したのは。

 

 

 

 

1階と2階を繋ぐ階段が、まるで火事にでもあったと勘違いする程に噴出している。

 

利奈は驚愕の声を飲み込んだ、その理由は流兎と楽照が無反応だったからだ。

 

やはり魔力は特殊な例でもない限り一般人には見えない、

最上もそれを分かってるらしく一言だけ念話が届いた。

 

 

浜鳴((うっ、上田さん……極秘なう))

 

 

最上の声も表情も引きつっているが、場所が場所だ。

 

今一般人だらけのこのバレエ教室で、魔法使いの騒ぎを起こすわけにはいかない。

 

そんな事になっているとは露知らず、流兎は利奈の腕を強めに引いた。

 

 

流兎「お姉! ボケっとしてないで早く帰ろうよ、もうお腹ぺこぺこなんだってば!」

 

上田「あぁ、うん……ごめんね流兎、今日の晩御飯はスーパーで買って帰るよ」

 

流兎「じゃあ好きなお弁当選んで良いの!? やったぁ! 今日は豚丼にしよっと」

 

楽照「あまり自分のお姉さんを乱用しないの……

私は真っ直ぐ帰るわ、また次のレッスンで会いましょう」

 

流兎「うん、またね楽照ちゃん!」

 

 

外は夜が近くなり暗くなり始めているが、流兎と楽照の表情は明るい。

 

なんだかんだ言って2人はまだ小学生の子供なのだ、これ位明るい方がちょうどいい。

 

そんな感じで利奈も流兎を連れて帰るだろう、今日の晩御飯を何にしようか考えながら。

 

 

裏で魔法使いが様々な事にあってようが、一般人にはいつもの慣れた日常でしかないのだ。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

山巻「わあぁ!? ちょ、ちょっと! どっ、どんどん魔女との距離が離れてくよ!?」

 

 

 

ハチべぇ「探していた魔女が移動を始めたようだね、結界と共に僕らから離れている」

 

 

 

古城「それなら拙者に任せるでござる! あのすばしっこいのを大人しくさせるでござるよ!」

 

 

 

車道「それじゃ、出発するのぜ! 舌を噛まないよう気を付けるのぜ!」

 

 

 

〜終……(39)増える花々と妹は踊り子〜

〜次……(40)逃げの依存と感じぬ希望〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……さて、久々の日常回はいかがだったでしょうか?

登場人物盛りだくさん、舞も仮ですがやっと入院生活を脱し復帰出来たようです。

何気に花組の担任の名前が明らかになりましたが、まぁそんなことは小さな進展に過ぎない。

逆に大きな進展は何かと言えば、やはり利奈に妹がいた事が明らかになった事でしょう。

チョークも新たに人間としての名前を得たことですし、
物語はいよいよ佳境への道のりを本格的に進み始めたのです。


39話にちなみ、改めて皆様にお礼を申し上げます……くだらないシャレなのは気にせず。


もうしばらく台本形式は続いてしまいますが、
どうかもう少しだけこの形にお付き合い下さい。

それでは皆様、また次回。 次回はかなり文字数が多くなってしまってます、ご了承ください。

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