魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語   作:ハピナ

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午前0時にこんばんは、だいぶ昔の調子が戻ってきたような気がするハピナです。

いや、多分戻ってないです……戻ったと言えるのなら絵も描ける筈。

まだそこまでは戻ってないですね、先が思いやられる……精進せねば。

今回は元々前後編だったお話が引き延び、3話構成になってしまった所の最後。

前衛たちの様子が気になる所ですが、今回は別の視点から始めましょう。

言葉にするなら『一方その頃』、そんな場面から物語の幕は再度上がります。



(37)儚げな裏で友情の行末[後編]

 

前衛の魔法使いたちが先陣を切って戦う一方で、魔男との戦闘で度が重い怪我人が出た事は、

念話を通じて後衛の役割を持つ魔法使いを指南する魔法少年にも伝わっていた。

 

 

橋谷「なっ、なんでしょう? 目も眩む様な……今の、激しい閃光」

 

中野「あれ、どうしたんだ海里? そんな顔して、驚くには過剰な気がするけど」

 

清水「……前衛の中で、重傷者が出たそうだ」

 

前原「重傷者? 聞いた感じ重要視すべき情報な割りには、誰とは分かってないんだな」

 

清水「どうやら、前衛の方は俺らが思った以上に厳しい状況になっているらしい」

 

 

考え込む海里の表情には、隠し切れない不安が滲み出ている……

 

離れた場所で戦う同士の苦戦は、一同に焦りと心配を生み出した。

 

その中には、今回自ら後衛を希望した絵莉もいる。

 

 

篠田「……あたし、利奈たちが心配だから加勢に行くよ!」

 

 

融合体の強さに前衛に関する情報量の少なさ、不確定事項の多さに絵莉は痺れを切らした。

 

 

清水「っあぁ!? おい、待て絵莉! 考えもしないで突っ込むのは危ねぇぞ!?」

 

篠田「考えてる時間があれば助けに行くもん!!」

 

橋谷「まっ、待って下さい! 気持ちは分かるけど、単独行動は、危ないです!」

 

 

前だけを見て1人突っ走る絵莉を俐樹が慌てて追いかける、

俐樹について行ったハチべぇが突然2人に呼びかけたのはその直後だった。

 

 

ハチべぇ((絵莉! 俐樹! 危ない、上から何かが来るよ!!))

 

篠田「えっ、上?」

 

橋谷「ぅ……え!? ロンサム・アンヴィー!!」

 

 

絵莉より先に、ハチべぇが言い示す物に絵莉は気がついた。

彼女の行動に早さは無い、ただ持っていた植木鉢を突き出す。

 

だが俐樹の魔法はそれだけでも充分だった、急激に植木鉢から伸びた蔦は絵莉の腹を括る。

 

そのまま後衛に引く、それは間一髪の回避……前を見れば、一同を遮る強固な傷害が2つ。

 

 

橋谷「だっ、大丈夫ですか!?」

 

篠田「大丈……ぅ、うわあぁ!? さっき倒した奴が2体も出てきたあぁ!!」

 

橋谷「融合体が、2体も!? でも、融合体はさっき、

扉を潜る前に、倒した筈じゃ……きゃっ!?」

 

 

突如の降臨に魔法少女たちが驚愕しようとも、融合体は容赦無くその不恰好な腕を振り下ろす!

 

本来なら魔法少女でもそれなりのダメージを受ける筈だが、そのダメージは通らなかった。

 

ほら、前を見れば魔法使いたちが攻撃を受け止めている。

 

 

清水「ちょ、オイ!? お前まださっきの怪我完治してないだろ! 無理すんな!!」

 

下鳥「無理はしなきゃいけない時があるのよ! 聞いた感じ、かなりマズイ戦況じゃないの?」

 

前坂「俺が『防御』の魔法で軽減してなきゃ、マズイのはお前だがな優梨」

 

 

そんな長たちの会話の傍、数夜の魔法の効果も付け加え2人がかりで攻撃を弾き返した!

他の後衛にいる魔法使いも後に続く、攻撃を弾いただけじゃ融合体は倒せない。

 

 

 

 

だが……これでは、後衛の魔法使いたちは先に進めない。

 

今までいなかった使い魔を融合体として召喚する辺り、合流させたくないという魔男の意思が見え隠れしている。

 

……事態は想像以上に最悪だ、前衛の魔法使いが全員やられてしまう可能性までもが見え隠れし始めた。

 

 

 

 

一方魔法で創られた巨大な机の下、懸命の治療が行われようがチョークは目を覚まさない。

 

知己の限界も近いらしく、千代子や紗良の励ましが無かったら正気を失っているだろう。

 

それは即ち孵化への直結、もう時間は残されていない……打てる手立ては1つがやっとだ。

 

 

月村「……そういえば、魔男が変に濡れていたのは貴方の魔法が原因かしら」

 

里口「私? うん、魔男を弱らせようと思って魔法で作ったジュースを振りかけたよ」

 

砥鳴「色が完全にヒトの飲み物じゃなかったけどねぇ……あれはもう、ジュースじゃなくて何かの薬だよ」

 

月村「貴方の作るジュースの効果は、対象を弱らせるだけ?」

 

里口「まだまだあるよ! 弱らせるのももちろんだけど、逆に強くするのもあるかな」

 

月村「……思い付きだけど私に考えがあるわ、その強化ジュースを1つ私に渡しなさい」

 

里口「強くするジュース? いいよ、予め作っておいたのがあるからあげる」

 

 

思考の末に芹香は唐突な要求を示したが、千代子はすんなり魔法のサイダーを差し出した。

急な要求に疑う様子を千代子は示さない、彼女が《騙されやすい》と言われる由縁だろう。

 

 

月村「瓶入りという事はジュース関連ならなんでも作れそうね、コップは可能かしら?」

 

里口「え、コップ? 作れるけど……飲むの!?」

 

月村「そんなわけないじゃない、頭が固いわね」

 

 

辛辣な言葉を飛ばしつつ、芹香は千代子からコップに入ったサイダーを受け取った。

 

炭酸の泡が浮かんでは弾け、その空気から爽やかさを感じ取れる程の新品。

 

宣言通り飲む事は無く、芹香は魔法少女衣装のポケットから折りたたまれた紙を取り出す。

 

 

上田「それ、確か芹香の『辞書』のページ……え、ちょっと!?」

 

 

それが彼女の言う考えだったのか、芹香はためらいなくジュースの中に紙切れを浸した!

コップ入りきらない分は指で押し込むなりして、全体をまんべんなく浸す。

 

 

月村「何か問題かしら? 話を聞いた限り、効果は()()()()()()()って予想しただけよ」

 

 

……さて、しばらくすれば芹香の予想通り、コップの中の液体は泡立って淡い輝きを帯びた。

 

中身を取り出せば不思議と濡れておらず、開けば抹茶色のインクで追記がいくつかされている。

 

取り出した後のサイダーは光を失い、炭酸の泡を放ちながら蒸発し消えていってしまった。

 

 

月村「里口さんと言ったかしら、魔法陣に関しての知識は持っている?」

 

里口「魔法陣? は、作った事無いかな」

 

月村「妥当だったようね、魔法陣を作りそうな魔法には見えなかったし」

 

 

芹香のキツい言葉に千代子は苦笑いで若干のショックを受けたが、

残念ながらそれが事実なのには変わりない。

 

折りたたまれたページを開いて伸ばせば、折り目さえキレイに無くなり元に戻る。

 

そして自らの魔力を持っているページに込めたのなら、芹香は魔法の呪文を唱えた!

 

 

「第二章! 滝の巻「探求」! 対象は魔男!」

 

 

その後魔法が発動して持っていたページが橙色に溶けると、柔らかな水流となって意思を持つ。

 

芹香が魔男の方を指差すと、芹香の腕を纏っていた水流は

微動だにしない魔男に向かって一直線に飛んで行った!

 

魔男の気に触れぬよう全体を膜となって覆ったのなら、やがて1点に集まり魔力を残して蒸発。

 

 

淡い橙色に光る箇所、そこは折れ曲がった人体を象る長針の心臓部。

 

 

砥鳴「おぉ!? 魔男の胸が、橙色に光った!!」

 

軽沢「うん、君の魔法が通じなかったから気持ちは分かるけど、

紗良はもうちょっと落ち着くべきなんじゃないかな」

 

里口「魔男の身体の中は機械みたいに入り組んでて、

調べる系の魔法は通じにくいって言ってたんだっけ」

 

上田「じゃあ、魔男のあの光っている部分は……魔男の弱点かな」

 

月村「察しが早いわね、つまりそういう事よ」

 

 

利奈の理解の早さに芹香の表情は緩んだが、その微かな笑みは一瞬にして終わった。

 

 

月村「問題は()()()()()()()()()()()()()()という事よ、倒し切れないわ」

 

軽沢「『倒し切れない』かぁ、何だか物騒な事を言うもんだねぇ」

 

月村「とぼけないでくれるかしら? 貴方も見たでしょう、

 

無傷同然の魔男の身体、まるで攻撃を無かった事にされたような有り様。

 

相当対策を練らなきゃ、逆に返り討ちにされるわよ? もっと頭を使って考えてちょうだい」

 

 

芹香の言う通り、生半可な攻撃を長々と続けていても無駄なのは前衛一同先ほど思い知った。

 

また下手に行動しようなら、チョークのような重傷者が出ないとは言い切れない。

 

だが突破口が出来たのも事実、状況は平行線なのか変化が出たのか……それは誰も分からない。

 

 

要するに、()()()()()()()()()()()()必要があった。

言葉にしてしまえば簡単だが、それが出来るのは数少ない。

 

 

上田「私、行くよ! 魔男の弱点は丸見えだもの」

 

月村「……利奈が?」

 

里口「上田さんが行くの? でも、この場にいるメンバーで上田さんしか行けそうな人いないもんね」

 

砥鳴「うん!! 上田さんの力があれば、あの魔男を倒せるかもしれない!!」

 

月村「待ちなさい利奈! まさか、貴方勢いで言ってないでしょうね?」

 

 

利奈は早速自分の武器である棍を2本用意したが、 その前に芹香が利奈を止めた。

 

利奈は全てを背負おうとしている、1度しかないチャンスや

チョークと知己の知った上で、全ての責任を。

 

芹香が納得する筈も無い、それは余りにも危険な賭けだ。

 

 

上田「違うよ芹香! 単純に、チョークをこんなにしたのが許せないんだ」

 

月村「……言わせて貰うけどそんなの建前でしか無いわ、他の安全策を考えるべきよ」

 

上田「チョークだけじゃないよ! 知己ちゃんだってこんなに苦しんでる、博師さんもそうだよ」

 

月村「いい加減にしなさい! 貴方がしようとしてるのは無茶でしかないわ!」

 

上田「でも! これしか方法は無い、これ以上誰も傷付いて欲しくない!!」

 

 

芹香が何と言おうが、利奈の意思は曲がる事を知らなかった。

 

だが芹香は口を止めない、『自分がどうなろうと勝てれば良い』……

利奈からそんな考えを感じ取っていたからだ、自身を無視する『自己犠牲の考え』だ。

 

しばらく2人の意見のぶつけ合いは続いたが、それは意外な形で崩れる事になる。

 

 

根岸「……ナチュラル、ハイタイムだ!」

 

里口「ナチュラルハイタイム?」

 

根岸「今思い出したの! 博師君の必殺魔法、悪い事を無かったことにする魔法」

 

 

この知己の思い出した情報には、流石に利奈と芹香も耳を傾けた。

知己が言う魔法、確実に今回の魔男と深く関わっている。

 

 

根岸「ナチュラルハイタイムって、確か……

 

悪い事を無かったことにした代わりに、その場所が一定時間脆くなるデメリットがあった筈。

 

魔力の消費量だって多いから、魔法を使った分だけ待ち時間が長くなるの」

 

月村「脆くなるデメリット……!? そんなの、全身に施してしまったら」

 

上田「魔男の身体全体、しばらくは普通より脆くなる! 決まりだね、芹香」

 

 

確かに知己の言う事が正しければ、利奈の突撃は大幅に成功率が上がる。

 

……が、同時に芹香が止める事にも限界が来てしまった。

 

利奈はどうしても行くつもりらしい、何かもどかしいそうな芹香に利奈は一言告げる。

 

 

上田「終わり良ければ全て良し、だよ! 私だって、生半可な考えでこんな事言ってないしさ」

 

 

それは結果を重視した芹香の考えに基づく言葉、それがこんな所で仇になってしまった。

 

当てはまっているが納得がいかない、そんな考えの不一致に芹香の脳内は錯綜した。

 

一言告げた利奈の笑みが強く残る……これが利奈なりの気遣いだ、

純粋なまでの彼女の優しさは、時に自己を犠牲にする残酷さがある。

 

 

利奈が自己犠牲を選んでしまったのは自分のせい?

芹香は不安を募らせ、喧嘩した事を深く後悔するばかりだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

魔男にはもう針の雨を降らす余裕は無い、その力は融合体を2体も生み出すのに使ってしまった。

 

それ以前にデメリットを含めない誤算の回復により、魔男の身体は軋んでいる。

 

それでも魔男は無情に時を刻み続ける、そこにヒトとしての考えは見受けられなかった。

 

無常はヒトの死も意味している、現状ヒトとしての博師は死んでいるも同然。

 

その様子はまるで機械のようだ、身体も心も成れの果ては時計仕掛け。

 

 

 

 

一定の間隔で刻まれていた魔男の身体、それを崩す要因にになったのは招かれざる客の猛攻。

 

 

 

 

里口「これでもくらえ! プリンス・ラパートの涙!」

 

 

突如魔男に向かって投げ込まれたのは、尾を引いた手の平程のガラス玉だった。

 

振り払おうとゼラチン質の針で叩いたらしいが、尾が切れたと同時にガラス玉は弾ける!

 

中に入っていた炭酸を含んだ液体、またしても彼女の作った液体が魔男全体にかかった。

 

 

里口((さっきのは柔らかくする効果だったけど、これは遅くする効果があるから動きが鈍る筈だよ!))

 

軽沢((そうみたいだねぇ、そんなに鈍くなるなら僕が攻撃しても大丈夫かな?))

 

砥鳴((いやいや、ここは上田さんに任せて私たちは魔男の触手? の動きを封じるよ!))

 

 

砥鳴「惑わせ! オータムデイタイムフィーバー!」

 

 

紗良がタンバリンを片手に若草色の魔法を使ったのなら、

紅葉や銀杏の葉の幻が舞うのと共に残像を身に纏った。

 

それは千代子と響夏も同じだった、3人は魔男を撹乱させる役に回ったらしい。

 

千代子は瓶を振り回しながら走り回り、響夏は鵺となって尾の蛇を揺らしながら空を掛け回った。

 

時の流れが狂った空間が点々とあるのに、こんなに動き回って大丈夫なのか?

 

そんな風に思うかもしれないが、既に芹香によって手は打たれていた。

 

 

ほら、床全体を眺めれば所々が橙色に輝いている。

 

どうやら、芹香が広範囲に先程の探求の魔法を再度一定範囲に使ったらしい。

 

器用な事に、輝きの強さで促進か抑制かを見分けられるようにしている。

 

 

今度も魔男の針を減らす戦法で戦っていたが、今回は魔法使い達の人数が違った。

 

 

月村((突っ込むわよ! 道を開けなさい!!))

 

木之実((ちょっと!? すごいスピードなんだけど大丈夫なのこれ!?))

 

上田((大丈夫! 私たち飛び慣れてるから!))

 

浜鳴((気分爽快、未体験なう!))

 

月村((……貴方たち、本当にしっかりしなさいよ?

この作戦には、『ロープ状の魔法具』が必要不可欠なのを忘れないで))

 

 

3人の魔法使いが魔男の気を引く隙を突き、利奈と芹香は飛行魔法で

上手いこと死角を通り、遂には魔男に気づかれずにすぐ近くに降り立った。

 

降り立ったのとほぼ同時に、ギャル2人はそれぞれの武器を召喚した。

美羽は蘇芳色のリボンで最上は柿色のベルトだ、彼女らはそれを魔男に投げて放つ!

 

絡め取ったのは魔男の両腕に当たる触手、ぐるぐると巻き付いて動きを止めた!

 

 

木之実「っぐうううう!! ちょ、なんなのこの馬鹿力!? マジあり得ないんですけど!?」

 

浜鳴「辛抱なう! だいぶ弱くなってこれなんだから、もう耐えるしかないいぃぃ!!」

 

木之実「ハァ!? マジで勘弁してよ! 面倒ってレベルじゃないんだけど!!」

 

 

美羽は最悪だと怒りながら嘆いてるようだが、この状況は流石にどうしようも出来ないだろう。

 

これで魔男の主な攻撃手段はほとんど防げた! が、明らかに長く持ちそうな状況じゃない。

 

狙った状況が出来上がったのなら、撹乱に回っていた千代子ともギャル2人と共にリボンとベルトを引いた。

 

現状4人がかりで魔男の触手を機能しなくしている状態だが、まだ1ヶ所残っている……!

 

妨害に対する抵抗とばかりに、魔男は残った触手で暴れ狂っている。

 

 

唯一残った魔男の攻撃手段の妨害、ここで芹香の出番だ!

魔男の前まで来て、急いで『辞書』を開き橙色の魔法を使う!

 

 

月村「第二章! 滝の章「凍結」! 対象は魔男!」

 

 

それは開き1ページに渡る大きめに描かれた魔法陣だった、細部まで線密に書き込まれている。

 

『辞書』から飛び出した2枚のページは空中で入り交じり、淡いオレンジの濃霧の塊になった。

 

芹香が魔男の方へ指を指したなら、濃霧はまるで生きているかの様に飛んで行く。

 

触手の束の根本にぶつかると、一瞬にして触手全体が氷漬けになってしまった!

 

芹香が『辞書』を通じて魔力を付加すればする程、氷の硬度は強固な物になる。

 

 

月村「流石に、キツいわね……大げさに騒いでると思ったけど、そうでも……なさそうね!」

 

 

一応凍りついてはいるのものの、凍り切らなかった部位が暴れ狂っている。

 

1人で抑え込むとなると相当キツいだろう……芹香の指差す腕は震え、額には冷や汗をかいている。

 

それでも芹香はこの方法を選んだ、まさか加勢が来るとは思わなかったらしいが。

 

 

月村「貴方、こんなところにいて良いのかしら? 重症者の護衛が役目の筈だけど」

 

軽沢「それなら利奈と桜色の子に任せたよ、こっちの方が面白そうだし」

 

月村「ここでもその呑気な態度が通じると思っている訳? あまりにも、楽観的、過ぎるわ」

 

軽沢「それに、正直キツいんじゃないの? どの魔法使いも、魔力の放出くらいは出来るよ」

 

月村「……勝手にしなさい」

 

 

芹香の態度は相変わらず冷ややかだったが、響夏の緩い風貌も特に変わることも無い。

 

響夏が『辞書』に両手をかざし集中をすれば、その手から淡い羊羮色の魔力が漏れ出た。

 

魔男は更なる拘束の強化に目覚ましの雄叫びをあげた、もう一切の身動きを許されていない!

 

 

根岸「今がチャンスみたいだよ上田さん、この白い男の子は私に任せておいて」

 

上田「うん、博師さんを()()()くるよ! 知己さんはチョークを守ってて!」

 

根岸「……博師君を、おねがい!」

 

 

知己の心は既に魔男を直視出来ない程に弱っていた、これ以上の無理は孵化に直結する。

 

チョークも未だに目を覚まさない、まともな治療を受けれていないのだからある種当然だ。

 

魔男の拘束状態だって長く持つ状態じゃない、どの面を取ってもこれは一刻を争う状況。

 

 

最早無駄に時間を使うことは許されない、利奈は魔男に向かって一直線に走りだした!

 

 

無茶な事に遅くなる床は避けているが、逆に早くなる床は自ら突っ込んでいる。

 

転ぶかと思われる行動だが、転ぶどころか上手いこと加速の糧にしてさらに早く走る。

 

結果、芹香の仮定を大きく上回る時間で利奈は魔男の元に到着した! 何故か少し斜めだが。

 

それを見た魔男は最後の抵抗と言わんばかりに、人体を象った針を時を無視し高速回転し始めた。

 

ヒトの感情は無いとはいえ、流石に死に対する恐怖は忘れ切っていないのだろうか。

 

 

上田「いっけええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

利奈も負けじと両手に持った棍で魔男にお得意の乱舞で攻撃した、一連の行動はとてつもない早い。

 

……()()()()()()だ、彼女の乱舞の早さは通常の数倍にも跳ね上がっていると言えた。

 

それは何故か? 床を見ればほら、芹香の魔法によって橙色に輝いている。

 

要するに、本来魔法使いたちの妨害になるはずの床を逆に利用し、利奈は加速をしているのだ!

 

それにしては適応が早いような気もするが、それが利奈の魔法少女としての才能。

 

 

脆くなった魔男の身体は攻撃される度に欠ける、弱点が露になるまでもう少し。

……そんな時だった、思いもよらない形で利奈が窮地に立たされてしまったのは。

 

 

砥鳴「おぉ……!? 魔男の身体が削れてる!! ダメージ入ってるよ!!」

 

木之実「ちょっとぉ~~、まだなわけ? もう押さえつけてるの飽きてきたんだけど」

 

砥鳴「飽きる飽きないの問題じゃないでしょ! もう少しの辛抱だよ!」

 

木之実「マジウケる、単に押さえつけるだけなのにマジになっちゃってさぁ……あ」

 

砥鳴「最後まで力一杯押さえつけ……あぁ!?」

 

 

美羽と紗良が押さえつけていた触手の束、力が僅かに抜けた一瞬の隙をついて1本だけ出てきてしまった!

 

その1本は鋭い刃を鈍く光らせ、一直線に自分に特に危害を加える対象へ向けた。

 

無論その対象は利奈だ、状況的に回避出来そうな余裕も無い……危ない!!

 

 

 

 

利奈は大怪我を覚悟した、自分を犠牲にしてでも勝利に近い道を選ぶ。

たった1つの油断によって作られた絶望的な状況……それを救ったのは、思いもよらぬ反応。

 

 

 

 

根岸「やっ……やめて、お願いやめて! 博師君!!」

 

 

 

 

それは魔力を一切使っていない声、それは心の奥底から放った渾身の呼び声でもあった。

 

感情を失っている筈の魔男、チョークの傍らにいるハチべぇは無表情ながらもその光景に驚いた。

 

利奈に向けられた明らかな悪意、その触手が……ピタッとその動きを止めたのだ!

 

空前絶後の意外な救済、その間にも利奈の乱舞は止まることを知らない。

 

そしてようやく見つける、微かな橙に輝く歯車だらけで機械仕掛けの心臓。

 

利奈は両手の棍を1つまとめ赤色の魔力を多めに込めたのなら、攻撃のタイミングを見極めた。

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

利奈が放った必殺の斬撃は見事魔男の心臓に当たる……が、機械仕掛けの心臓はとても硬い。

 

そこで利奈は工夫をした、下から振り上げる形で大剣を振り上げたのだ。

 

魔男の針は時計回りに回る、利奈は敵の挙動さえも勝利への糧にしたということだ!

 

 

上田「いっけええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

二の腕の筋肉が悲鳴をあげようとも、利奈は魔法少女の身体をフルに使って大剣を上へと上げる。

 

そして……魔男の拘束に限界が来るのとほぼ同時に、機械仕掛けの心臓はバギッを音を立てて割れた。

 

歯車やネジを散らして粉々に砕ける、そこから黒い魔力が吹き出したのは直後の話。

 

 

浜鳴「大成功なう! 早いと魔男から離れないとヤバいよ!?」

 

軽沢「どうやら上手くいったようだねぇ、後衛にも念話で逃げろって連絡いれとくか」

 

月村「利奈! 何をしてるの!? 早く貴方も下がりなさい!」

 

 

利奈は満身創痍で逃げるにも、それはふらふらとした足取りでとても遅いものだった。

 

元々は1度切りのチャンスの中で行われた作戦、プレッシャーや責任感もあっただろう。

 

芹香は黒い魔力が吹き出す勢いの強い中に危険だろうが飛び込み、利奈の腕を掴んだ。

 

 

月村「逃げるわよ!!」

 

 

利奈は返事をする元気も無かったが、芹香の目を見て確かに頷いた。

 

そのまま結界の外に向かって走り出す、途中で知己のところへよって一緒にベッドを押した。

 

知己は心配そうに後ろの様子を見ていたが、すぐに前を向いてベッドを押して逃げる。

 

逃げる内に後衛とも合流を果たす、どうやら融合体を2体とも倒せたようだ。

 

とにかく魔法使いたちは黒い魔力の放出から逃亡する、巻き込まれたら大変な事になる。

 

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

 

針の雨を降らしていた歪む宇宙も、心臓を砕かれ時さえ刻めない魔男も、

床に嵌め込まれた時計も全て吸い込み、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは、五割は濁った勿忘草色のソウルジェムと時計がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……泡沫の魔男を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

ハチべぇ「それは本当に正しい記憶なのかい?」

 

 

 

チョーク「だとしたら、それはとても嬉しい勝手だね!」

 

 

 

津々村「……ごめん、ありがとう知己」

 

 

 

月村「そんな必死にならなくて良いわよ、言いたい事はちゃんと伝わるから」

 

 

 

〜終……(37)儚げな裏で友情の行末[後編]〜

〜次……(38)人嫌いの改心と暖かな和解〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





やれやれ……長らく滞っていた部分が、やっと終わりましたよ。

本当に失踪なんてことにならなくて良かった、自分の事なのにまるで他人事ですが。

現状まだ執筆しか出来ていませんが、ぼちぼち他作品の感想も書く時間も取りたい。

今回の雑談は無しです。 ホワイトデー? ……知らない子ですね、記憶にありません。

それでは皆様、また次回。 次回は3月下旬にでもお会いしましょう。

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