魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語   作:ハピナ

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こんばんは、10月に入ってちょうど1日が立ったハピナです。
最近暗くなるのが早くなり、寒くもなってきました。

はい最高でs(殴 ……失礼、自分夏よりは涼しげな秋や冬の方が好きですね。

えぇ、何よりも蚊がいませんし(最優先事項)


さてと、前回のあらすじとしては利奈以外の目線から話を進めて行きましたね。

結果的に最近様子がおかしかった芹香に何があったかがわかりましたが、いかがでしたか?

彼女がアドバイスを受けたのは意外な人物、どんな意図があったのか或いは……謎が多い。

最後の方も1人の魔法少年が孵化したりともう散々な展開です! これからどうなる事やら。

それではとっとと幕を上げますか……始まりは夜が開けて次の日そこは通い慣れた校内。



(34)無知な少女と歪む苗

 

昨日と変わらず今日も騒がしい、それどころか毎日こんな調子だと言っても間違いではない。

 

それがこの学校の校内だ、各クラスから生徒たちの賑やかな音が溢れかえっている。

 

利奈はいつものように登校して来た、扉を開けておはようと言えば周囲から返ってくる。

 

そして自分の席に着いて荷物整理……今日は芹香の所に寄らない、()()()()

 

逆に芹香は何やら考え込んでいる様子だった、昨日といい彼女なりに考えているんだろう。

 

空いてしまった距離、出来てしまった溝……初めての亀裂に利奈は明らかな戸惑いを見せていた。

 

何か2人にはきっかけが必要だ、一時的に距離が縮むような出来事が。

 

 

何の変哲も無く、結局花組の担任がやって来て朝の会が始まった。

 

日で変わる日直の掛け声……起立、礼、着席。

 

普段通りのいつもの朝だ、何か起こるとすればもう少し先の話になるだろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

気にする程の出来事も起きずお昼になった、利奈の現在地は別校舎にある理科室。

 

卵型のソウルジェムを手のひらで転がして弄ぶ、調子の不調が気になっている様子だ。

 

芹香の姿は今日も無かった、また勉強をしている? 今頃どこにいるのやら……

 

まぁ、結局リュミエールを抜けなかっただけありがたい話だと思えばポジティブになれるだろう。

 

そんな中でリュミエールに新たに入ってきた情報があった、今までに無い別パターンの話。

 

 

清水「『浄化格差』だと?」

 

篠田「うん、何でかわからないけど……最近ソウルジェムの浄化に差が出来てるみたいだよ」

 

中野「えっ? 同じ場で魔なる物戦いなら、穢れの度合いは同じになるんじゃないか?」

 

清水「いや、本来はヒトの魂を物質化した物だ。 個人差が出るのはある意味当然だな」

 

武川「量産型グリーフシードについては解決したのにねぇ……変な話だよ」

 

清水「……お前って魔法使いだっけか?」

 

武川「『魔法使い』じゃないよぅ! オイラは天下一品の『漫才師』なのさ!」

 

 

もはや扉をノックもせず自然に会話に入る光、思わず海里もある種のため息をついた。

 

 

『浄化格差』……海里の言う通り、浄化の度合いに差が出るのは当然の結果だ。

 

全く同じだなんてあり得ない、戦いの激しさや魔力の使用量から差が生まれる。

 

だが『浄化格差』という話題が出来上がるとなると……何かがあるのは確実だろう。

 

そんな新たな問題も耳に入らず、利奈は1人意識が別の所に行ってしまっていた。

 

いわゆる『上の空』という状態だ、それに最初に気がついたのはまだ発言をしていない人物。

 

 

橋谷「りっ、利奈さん? 大丈夫……ですか?」

 

上田「……えっ? あぁ、大丈夫だよ? ほら、こんなに元気元気!」

 

橋谷「あっ、えっと……むっ、無理はしない方が良いと思いますっ!!」

 

 

最後の方で俐樹は力んでしまい裏声になってしまった、顔を赤らめオロオロしている。

 

失敗したと思い込んで恥ずかしがっているが、下手な言葉よりは真剣さが伝わる。

 

無表情同然だった利奈の顔にも少し笑みが見えた、多少は気が楽になったらしい。

 

 

上田「そうだ! チョークさ、そっちの家でどんな感じで過ごしているの?」

 

橋谷「チョークさん、ですか? とても真面目な方で、テーブルマナーの覚えも早いんですよ」

 

上田「テーブルマナー?」

 

橋谷「あっ、私の家は礼儀作法に厳しいんです……最初は戸惑っていましたが、今は大丈夫です」

 

上田「俐樹ちゃん家って礼儀正しいんだね、うちでもそこまでやってないや」

 

 

俐樹の話を聞く限り、チョークは俐樹の家でも上手くやっていけてるみたいだ。

 

利奈は安心をする、最近は学校もあって会えていなかったが……元気でいるらしい。

 

頭も賢く知識はあるので、少し学力を整えればここの中学に転校する事も可能だとか。

 

彼も()()魔法使いとなる時が近々来る、その訪れまで心待ちにしていよう。

 

……さて、俐樹との雑談を一通り終えた辺りで利奈も『浄化格差』の話題に気がついた。

 

 

上田「ん、『浄化格差』? 3人で何の話してたの?」

 

篠田「最近出てきた話題だよ! 浄化に格差が出来たって話をしてたの!」

 

清水「それじゃ伝わらんだろ……ソウルジェムをグリーフシードで浄化した時に、

明らかにその浄化量に差が出てしまってるって話だ。 利奈は何か心当たりはあるか?」

 

上田「心当たりは特に無いかな、それどころじゃ無かったってのもあるし」

 

清水「あぁ……それなら無理もねぇ、次に俺たちが調査するとしたらこの案件だな」

 

中野「橋谷さんもおいでよ、そこで1人でいるのは寂しくない?」

 

橋谷「ふぇっ!? ぁ……えっと、ありがとう、ございます」

 

 

そうして6人で同じテーブルに向かって椅子に座り、『浄化格差』について話を始める。

 

……が、やはり前情報が無いのか話が一向にまとまらない。 話題の概要が分かった程度だ。

 

『花の闇』の案件も落ち着いたかと思えば、また新たな問題……波乱万丈とはこの事。

 

 

 

 

根岸「……ここでいいの?」

 

灰戸「君が探していた溜まり場はここで間違いないよ、僕は何回も来ているからね」

 

根岸「別校舎に集まっていたのね……ありがとう、連れて来てくれて助かりました」

 

 

昼休みが半分くらい過ぎた辺りで、不意に理科室の扉がノックで鳴った。

 

出迎えたのは相変わらず発言が少ない俐樹、扉を開けて驚いたような顔をした。

 

それはかつての同志……『苗』という被害者だった2人、そして互いに少ない友人。

 

 

橋谷「はっ、はい、何のご用意で……トモちゃん!?」

 

根岸「俐樹、久しぶりぶりだね! 俐樹がリュミエールに入ってから

あまり会わなくなっちゃったけど、元気そうで良かったよ!」

 

橋谷「私も会いたかったですよ! 最近は色々と忙しくて、なかなか会えませんでしたね」

 

 

喜びで会話が弾む2人、悪意無く蚊帳の外になってしまった八児は先に理科室に入る。

 

 

武川「およ? 灰戸じゃんか!」

 

灰戸「『灰戸じゃんか!』じゃないよ! 用も無いのに勝手に入ったらダメじゃないか」

 

清水「そんなに怒るな八児、そこまで重要な話はしてねぇし今は構わねぇよ」

 

灰戸「うん、僕の事は名前で呼んでくれないかな? それ位の情報はあるよね?」

 

清水「へぇ? まだ気にしてたのか、もうお前の名前バカにするやつはいねぇぞ?」

 

 

……そこの情報屋2人、周りが引くからにこやかにわらいながら

背後に虎と龍が見えそうな気迫を立てるのはやめなさい。

 

 

篠田「知己ちゃんだ! なんか口調も前よりしっかりしてるね!」

 

上田「確か……元はもうちょっと、語尾が滑るような喋り方だったね」

 

根岸「頑張って直したんだ、たまに戻っちゃうけどしっかりしなきゃって思って」

 

 

ここまで言った知己だったが、唐突に語られていた言葉は止まってしまった。

 

何かを思い出してしまったような顔でうつむく、その表情は暗い顔をしている。

 

立ち直る様子が無い……思い出した内容が悪い事じゃなきゃこうはならないだろう。

 

 

橋谷「トモちゃん……何か、辛い事でもあったんですか?」

 

根岸「えっ? あっ、あぁ……うん、その事でちょっと相談に来たんだ」

 

灰戸「最初僕も相談に乗ってあげたんだけど、魔法使い関連の悩みみたいなんだ」

 

 

早速話を聞きたい所だが、この場では少し人数が多いような気がする。

 

とりあえず楽に会話が出来るようまずは女子だけで固まり、話を聞く事にした。

 

女子だけなら4人だけだ、残る男子は教壇周辺にでも集まって別の雑談でもする。

 

 

 

 

橋谷「トモちゃんには魔法使い関連の悩みがあるんでしたね、何があったんですか?」

 

 

最初は優しく言葉をかける俐樹、慣れた相手なのか言葉の最初の方が詰まる事は無い。

 

 

根岸「えっと、私の仲の良い男の子の事なんだけど、最近様子がおかしくて……」

 

篠田「男友達? もしかして恋バナだったりして!?」

 

上田「そんな楽しげな話でも無さそうだよ……明るい話だったら良かったんだけどね」

 

橋谷「その男友達ってもしかして、博師君の事ですか?」

 

根岸「……! やっぱり俐樹ならわかっちゃうか、そうなんだけどさ」

 

 

どうやら図星だったらしく知己は苦笑いをしたが、その後も彼女は悩みを話し続けた。

 

 

根岸「最近ずっと暗いままで……何というか、全然笑わなくなっちゃったの」

 

篠田「ずっと暗いまま? 相当何か嫌な事でもあったのかなぁ……」

 

根岸「聞いても『大丈夫』の一点張りだって言うの、顔色も悪くて絶対大丈夫じゃないのに」

 

上田「本人は何も言わないのか……なら逆に、知己さんが何か気がついた事は無いの?」

 

根岸「えっ、私が? そういえば考えた事無かったな、私が気がついた事……」

 

 

かなり心配していたのだろう、自分がどう思ったかなんて考えた事無かったらしい。

 

知己はしばらく考え込んだ、自分なりに今までの記憶を辿って記憶を思い起こす。

 

しばらくして……心当たりが見つかったらしく、知己は無意識から帰ってきた。

 

 

根岸「……そういえば、最近博師君のソウルジェムを浄化しても全然にキレイにならないな」

 

橋谷「えっ、キレイにならない? 使用途中のグリーフシードだったからですか?」

 

根岸「ううん、雑魚級だけど数少ない新品のグリーフシードでだよ!

でも新品だった筈なのに、思いの他多く使っちゃったみたいで……」

 

 

……ふと利奈が違和感に気がつけば、目線だけ女子達の方に向けている海里に気がついた。

 

海里は利奈の目線に驚いたらしく、赤面で慌ててそっぽを向いた。

 

案の定灰戸から悪気ないツッコミが入り2人の間で火花が散る、この2人はぶつかりやすい。

 

光はともかく蹴太が大変、溜まり場である理科室において彼らを止めるのは蹴太だからだ。

 

さて、男子たちの様子が落ち着いた所で利奈の頭に念話が来る……海里からの念話だ。

 

 

清水((……すまん、結局そっちの話を盗み聴きするような形になっちまったな))

 

上田((うぅん、大丈夫だよ。 それより……気になったんでしょ? 今の知己さんの話))

 

清水((察しが早くて助かる、根岸の話によれば津々村博師と

『浄化格差』については深い関わりがありそうだからな))

 

 

恥ずかし気な焦りは優しさによって救われた、とりあえず念話を終えて話の輪に戻る。

 

 

根岸「博師君がグリーフシードを使う容量も大きいし、

何故かソウルジェムが穢れやすくなった気がするの」

 

篠田「原因がわかったら楽だけど、わかってたらここには来ないか」

 

橋谷「直接本人に聞けないとなると、注目をして様子見をするしか今は手段が無いですね」

 

上田「確か、知己さんは博師さんと一緒でチーム入っていないんだっけ?

グリーフシードが足りなくなったらまたここに来ればいいよ、貯めて置いたのがあるからさ」

 

根岸「へっ!? あっ……ありがとう、実はちょっと足りてなかったんだよね」

 

 

グリーフシードを分けて貰えるのは予想外だったらしく、知己は驚いたような顔をする。

 

まぁ彼女が驚くのも無理もない……最近はグリーフシードの数が減っている。

 

同時に入手難易度が上がっている、と言われているのが近況であるからだ。

 

さて、申し訳なさそうに自らの指輪をソウルジェムに戻して見せた知己。

 

その色は完全にキレイとは言えない位少し濁っていた、分かりやすく言えば10%位か。

 

 

篠田「……えっ? ソウルジェムに穢れが溜まったまま過ごしてるの!?」

 

根岸「絶望さえしなきゃ、何もしない状態で穢れが溜まる事は無いから。

ちょっとだるい感じはするけど、日常生活を送るのに師匠は無いのよ」

 

上田「ごめん、勝手にだけど知己さんのソウルジェム浄化するよ。

穢れが溜まったまま活動するなんて、私には考えられない!」

 

 

いわゆる『正義感が強い』という感情だろう、利奈は早々に行動に出た。

 

手元にシルクハットを出すと、中に手を突っ込んで1つのグリーフシードを取り出した。

 

雑魚級で使用途中の品だ、こんな品でも10%程の穢れを浄化するのは容易く出来る。

 

利奈が知己のソウルジェムを手に取ることなく、そのグリーフシードを当てる。

 

すると少しの穢れはあっという間に浄化されて、本来の桜色の輝きを取り戻した。

 

 

根岸「わっ!? す、すみません! グリーフシード貴重になってきてるのに」

 

上田「人助けの為にケチったりはしないよ、そんな謝らなくても大丈夫」

 

橋谷「トモちゃん、ソウルジェムキレイになりましたが、具合の方はどうですか?」

 

根岸「……うん、最初よりは気分が良い感じはするよ。 浄化してくれてありがとう」

 

篠田「とにかく! その子に関しては様子見だね、また困った事があればあたしたちが聞くよ!」

 

 

 

 

その後は女子のトークでもすると、終わり頃にちょうどチャイムが鳴った。

 

昼休みの終わりだ、皆持ち込んだ荷物などを片付けてそれぞれの教室に戻って行く。

 

悩める少女は本当に何も知らない、その暗さの奥に潜む毒が彼女を守っていることも。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

帰り道、利奈は日替わりのパトロールもあって道を外れて寄り道をした。

 

今日は賑やかな商店街、これだけ明るい雰囲気なら安易に孵化する事はあまり無い。

 

元は芹香が担当する区域だったが……真面目な事に、代わりにやっているつもりなのだろう。

 

 

 

 

まぁ、そんな勘違いもすぐに思い込みだとわかる事になる。 何故なら2人は互いに真面目だ。

 

 

 

 

上田「やっぱりこの辺にはあまり出ないなぁ……あっ! すみませんぶつかってしまって」

 

月村「構いませんよ、別に穢れをしている訳でもな……っ!?」

 

上田「……芹香?」

 

 

買い物目的の主婦や老人で溢れかえる人混みの中、偶然にも2人は再会してしまった。

 

会うべきでなかったタイミング、最後あんな別れ方をしたなら固まるのも無理はない。

 

……さて、この商店街が芹香の担当になっている理由を考えた事があるだろうか?

 

思い浮かぶ理由、きっと正解は記憶に新しい。

 

利奈が今いる場所……芹香の住む家はこの商店街にある、()()()()()担当だったのだ。

 

 

ハチべぇ「何故2人共この場において固まっているんだい? 久々の再会じゃないか」

 

 

空気を読まず言葉をぶち込んできたのはハチべぇ、芹香の鞄から顔だけ出した。

 

 

上田「……えっと、私は日替わりのパトロールを芹香の代わりにしてたの」

 

月村「おかしいわね、私も今パトロールしていた所よ。 何故あなたはこの辺りにいるの?」

 

上田「最近全然来ないし連絡も無いから、一応代わりにしておこうと思って……」

 

月村「私がサボりですって? そんな事する訳無いじゃない……説得力が無いわね」

 

「「…………」」

 

 

2人は会話を試みてみるが、やっぱりどこかギクシャクしてしまっている。

 

そもそも利奈は元々話すのが得意ではないし、芹香は無駄話をするのがあまり好きじゃない。

 

互いに変に気を使ってしまっている、この滞りは何とかならないものか……

 

そんな時だった、利奈と芹香が常に身につける指輪が点滅の光を発したのは。

 

点滅するソウルジェムの光の意味、それはここからそう遠くない場所での孵化を示す。

 

 

ハチべぇ「誰かが孵化をしたようだね、その光ならここからそんなに遠くはないよ」

 

月村「遠くはないって……は? 表通りって訳じゃないでしょうね!?」

 

ハチべぇ「ぎゅっぷぃ!? 君の言う表通りにはいないみたいだよ! 離しておくれ!?」

 

 

芹香は鞄からハチべぇを取り出し、攻め立てでもするかの如くハチべぇを揺さぶった。

 

相当慌てていたらしい、ハチべぇの声にハッとなって芹香はハチべぇを手放した。

 

一方の利奈は光が示す先を探している……見つけた先は確かに路地裏へと続く建物の間。

 

 

上田「こっちにいるみたいだね、路地裏……灯りになる物なんて持ってたかな」

 

月村「そんな物探していたら、いつ一般人に被害があるかわからないわ!

ついてきなさい、この辺は熟知しているから暗闇でも道は分かる!」

 

上田「……えっ、ちょっと芹香!?」

 

 

芹香は利奈の腕を掴むと、そのまま人混みを突き進んで行った。

しばらくして明るみは無くなり、街灯も無い暗がりが一体を包む。

 

路地裏、未だ回る換気扇やちゃんと蓋がしまったゴミ箱が立ち並ぶまるで裏の世界。

 

利奈にとっての頼りは道を指し示す魂の指輪と、腕を引いて少々強引に導く少女。

 

利奈は……正直な所、内面で嬉しく思っていた。

 

普通ならわざわざ手なんか取らずに1人で行ってしまうだろう。

彼女は芹香に必要とされている、今もしっかりと腕を掴んでいる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

篠田「うぅ……ちょっと無茶しちゃったかな、雑魚級だったら良いんだけど」

 

ハチべぇ「この魔力の量は雑魚級とは言えないね、気を引き締めた方が良さそうだよ」

 

篠田「うえぇ!? あたし1人じゃ無理って事じゃない! 夕方のこの辺にいる魔法使いは……」

 

 

訪れた商店街の正面玄関から入らず、脇の小道から商店街に入って行く絵莉。

 

指輪の点滅具合から魔なる物の方角を判断し、街灯がまだついてない道を走った。

 

彼女がリュミエールの他に所属するチーム、クインテットは雑魚級を見つけ5人で戦闘中だった。

 

だが近辺で別の誰かが孵化したと、わざわざハチべぇが戦闘中に知らせてきたのだ。

 

絵莉はクインテットの中でも前衛でもない後衛でもない中間、

だからこうして他4人に魔女を任せ結界を抜け出す事が出来たのだ。

 

文字通り偵察に来た訳だが、まさか見つけた相手がボス級だとは思わなかったらしい。

 

何とも運が悪い……走ってる途中で十字路に差し掛かったが、ここで絵莉の幸運が来た。

 

 

篠田「もうちょっとで目的地に……ってうわ!? あれ、利奈? それに月村さんも!?」

 

月村「無駄話をしている時間は無いわ! あなたもついてきなさい!!」

 

篠田「へ!? 無駄話どころかまだ話もしてない……ちょ、ちょっとまって!?」

 

 

何というか……焦りの勢いが強すぎる、利奈を握る反対の手で絵莉の腕を掴み走り出した。

 

ちゃっかりハチべぇは利奈の右肩にしっかりと捕まっている、そこが定位置なのか?

 

いると気がついた利奈はついていくのに集中しているらしく、状況を飲み込むのは後かと知る。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

しばらく芹香に引っ張られるがままに進む先、そこには1件の廃墟があった。

 

3階立ての大きめのアパートのようで、おかしな箇所は1ヶ所に絞られた。

 

あちこちに黒く焼け焦げた部屋がいくつかある、窓はガラスが取り外され人の気は無い。

 

 

ハチべぇ「どうやら3階の最奥の部屋で誰かが孵化したようだよ、強い魔力を感じ取れるね」

 

上田「うわっ、真っ黒! あんなに真っ黒じゃ、火事でもあったのかな」

 

月村「……この辺じゃ有名な話よ、アパートの老朽化でコンセントから発火した事件。

両親が死んで息子が取り残されて、その子の親友も間も無く行方不明」

 

篠田「ニュースで聞いた事あるよ! 火事は知ってるけど、

なんで月村さんはそんな細かい所まで知ってるの?」

 

月村「私の姉の友人でもあったのよ……捜査は今でも続いてるはず、多分だけど」

 

上田「それであちこち焦げてるんだ、何で今も解体しないで残ってるんだろ」

 

ハチべぇ「3人共早く向かった方が良いんじゃ無いかい? 通行人がそろそろ来そうだよ」

 

 

ハチべぇの発言に3人はハッとなる、誰もいない内に急いでアパートへ入って行った。

 

老朽化したアパートと言っても、落下防止が隙間だらけの鉄柵という訳ではない。

 

案外しっかりしたコンクリート、しゃがんで進めば外から見える事は無いだろう。

 

一体で焦げ臭い匂いがする……燃える材質は相当激しく燃えたらしい。

 

コンクリート製の階段を上がり、3階に着いたところで利奈はその異様さを感じ取った。

 

 

 

 

とてつもなく重苦しい雰囲気……感覚でわかる黒い魔力、今度の相手はかなり手強い。

 

 

 

 

一番奥の部屋の前に3人で固まって中の様子を見る、先陣を切ったのは利奈だった。

 

 

上田「……っ!?」

 

篠田「利奈? どうしたの……えっ、何これ?」

 

月村「これは思った以上に深刻ね、こっ……ここまで酷いのは初めて見たわ」

 

 

芹香でさえ動揺を隠せなかった、それ程までに3人の目の前に広がる光景は衝撃的だった。

 

風で吹き飛ばされたかのように荒れた部屋、それらは焼け焦げた物ばかり。

 

そして部屋全体を覆い尽くすエンブレム……とは呼べない程にひん曲がったそれらしき模様。

 

なんとかそれが波を中心にしたエンブレムだと分かったが、

部屋全体に張り巡らされたエンブレムはマークと言い難い。

 

室内に手を差し出せば、揺らぐ様にして段々とその姿が滲んで消える。

 

もはやこの部屋自体が結界への入口になっているというのが、過言どころか正解だ。

 

念のため利奈はリュミエールに、絵莉はクインテットに念話で応援要請をしておく。

 

 

上田「念話終わったよ、しばらくしたら皆集まって手伝いに来てくれるって」

 

篠田「……なんか、久しぶりで懐かしい感じがするね! 前も3人の時あったの覚えてるよ!」

 

月村「この状況でニヤニヤ出来る余裕とはご立派ね、分けてほしいくらい……言い過ぎかしら」

 

上田「芹香はその位毒舌があった方が芹香らしいんじゃないかな?」

 

月村「ちょっと、それどういう意味よ」

 

 

利奈、絵莉、芹香……確かに絵莉の言う通りこの3人は過去に共同して戦った事がある。

 

覚えているだろうか? 『運転の魔女』、デパート・エタンの地下駐車場。

 

その時の面子が今揃っているのだ、違うところがあるとすればハチべぇの存在か。

 

 

ハチべぇ「3人とも準備は良いかい? この先は、魔力的にも今までで1番辛くなるだろう。

 

僕の経験上でもここまで強力なのは見た事がない、少しの気の緩みが命取りだ。

 

利奈、芹香、絵莉、それでも君たちは前に進むかい?」

 

 

先に進むに当たって魔法使いとしての覚悟を聞いたが、既に3人は変身を終えていた。

 

 

月村「ここまで来て今更戻るとでも思ったの? あなたの考えも浅はかな面があるのね」

 

篠田「先に入って、使い魔だけでも数を減らしておけば他のみんなが楽になるよね」

 

上田「前衛は私が引き受ける、みんな行くよ! 強かろうが弱かろうが私たちは引かない!」

 

 

意思の強い3人の言葉を聞き届けるもハチべぇは無表情、ただ静かにその瞳を閉じた。

 

改まって利奈は前を向き、揺らぐその先へと進む……芹香と絵莉も後に続く。

 

そしてその場から誰もいなくなった、いるとすれば焦げた部屋の片隅に寝転がる抜け殻か。

 

 

 

 

眼下に広がる光景、淡い水色と桃色に黄色も混じって広がる空を滲ませた。

 

異世界の宇宙に浮かぶのは……ストップウォッチ? 簡素な数字しか表示しない。

 

能動的に足場はそれぞれ動き回る、法則はあるが思考は他に働きかけている。

 

 

 

 

泡沫の魔男、性質は無常。

 

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

篠田「……見た感じだとすっごい強そうだよ、どうしよっか?」

 

 

 

月村「呼んでもいないし別に困ってもいないわよ、甘く見てもらったら困るわ」

 

 

 

根岸「いっ、移動って!? どこに行けばいいの!?」

 

 

 

上田「いっけえぇ!! 一気に押し出せええぇぇ!!」

 

 

 

〜終……(34)無知な少女と歪む苗〜

〜次……(35)儚げな裏で友情の行末[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





実を言うと滑り込み予約投稿って言うね、予約したの数時間前だよ(白目

次回よりボス級の魔女・魔男戦となるので、前後編が入ります。
文章量的に長くなる傾向にあるので、ご了承下さいませ。

さて、誰が孵化してどのような魔なる物が出るのやら……イラストの方も腕が鳴ります。




雑談は定番、これは決定事項……嘘です、最初の形式崩したくないだけです(´・ω・`)

今回は最近のイラスト事情について話しますか、自分はアナログオンリーですね基本。

いやパソコンを使っても良いのですが……そもそもおじいちゃんパソコンだし、
試しで買ったペンタブが扱いずらい上に数週間で寿命が来たのでもう嫌ですonz

最近は100均で売っているシールに目を付け始めました、特に丸シールがお気に入り。

切ったりするのが大変ですが、ペンで塗るより明確な模様が着けれるので私は好きですね。

36話で出てくる魔なる物のイラストにも使用しています。
是非、小説を読む際の参考にして下さいな。

正直デジタルに出来そうにはありません、これからもアナログで描いていきます\(^o^)/




それでは皆様、また次回。 ネタ切れの脅威が迫っていますが、何とか頑張ります……ハイ。

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