魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語   作:ハピナ

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( -。-)スゥーーー・・・ (o>ロ<)oコンバンハアアアアアアアア!!

(;゚∀゚)<(じゃないこんにちはだ!)

(>∀<)<(多分いつものハピナですよ!!)


2月でもまだまだ寒い北国、今年も桜は5月かな……w

2月だってのに全然暖かくならないですね!

それどころか昨日は吹雪レベルの雪が(ry

フローリングの床がとても冷たいです。


おっと、この辺で閑話休題。


前回はなにやら、不穏なフラグが立ったような気がします。

とうとう『花の闇』という言葉がリュミエールの耳に入りました。

これだけ念入りに探しても、まだ持ち主が見つからないのか?

『ボトルシップの持ち主』『白目が黒目で黒目が白目』……

次々と浮かび上がる要素、これらの答えは一体どこにあるのやら。


さて、この辺で物語の幕を上げましょう。

舞台は言わずともわかるだろう、冬だ。

雪も降らず空は晴天、青々とした空が印象的な日。


(11月14日~:編集中)



(18)逃避の荒波と瓶の主

あぁ、今日も寒そうだ。

 

外は説明するまでもなく、ここはいつもの寒い校内だ。

 

変わった事と言えば……今日はいつもよりは暖かく、

コートを羽織るまでではないという事ぐらいだろう。

 

リュミエールが落し主探しを行っているなんて話が広まり、

最近の花組では落し主探しがよくわからないブームになっている。

 

リュミエール達も、そこまで積極的に行動しなくても

協力してくれる生徒が現れ比較的情報が集まりやすくなって……

 

まぁ、ある程度は楽になった。

 

学校の落し物が花組によって減った状況に、

花のクラス担任はとても喜んではくれたが……

 

 

何故か、肝心のボトルシップの持ち主が見つからない。

 

 

ここまで話が広まったなら、自分から名乗り出てもいいはずだ。

 

それなのに、見つからない。

 

これはどういう事なんだろうか……? 兎にも角にも落し主は続く。

 

探してみてはいるものの、見つからないまま時間は放課後。

 

 

吹気「これ、上田さんのじゃない?」

 

 

ふと、帰りの会が始まる前、利奈は声をかけられた。

 

それはちょうど、荷物を片付け帰り支度が終わった所。

 

学生鞄にうずめていた顔を上げたなら、

そこには細身の消しゴムを差し出した生徒がいた。

 

 

上田「……ん? 私のだ、どこに落ちてたの?」

 

吹気「教室の隅っこに転がってたよ」

 

上田「あぁ机から落っことしたのか、私。

ありがとう、これで細かいとこまで消せるよ」

 

篠田「風香! 先生来たよ……あれ、利奈の行消し用の消しゴムだ。

そういやさっき利奈は探してたもんね、風香が見つけてくれたの?」

 

吹気「絵莉おかえり、その辺に転がってたよ。

 

……ん、『行消し用』? 上田さん消しゴム何個持ってるの?」

 

上田「5個だよ」

吹気「多い! ちょ!? 多い!」

 

「みんな席につけ、帰りの会始めるぞ!」

 

上田「あっ、先生来たよ。 2人とも席に戻らないと」

 

吹気「……あ、うん。 そうだね、早く帰りたいし」

 

篠田「っああぁぁ!? 帰りの準備忘れてた!!」

 

吹気「いつもの絵莉だ」

 

上田「準備を忘れた!? 大丈夫なの?」

 

吹気「席近いから私が手伝うよ」

 

篠田「ありがとぉ~~! 風香が天使に見えるよぉ~~!」

 

そうと決まれば、絵莉と風香は急いで席に戻って行くしかない。

日直のあいさつはもう1人の日直がこなしてくれている。

 

わたわたと2人は利奈から遠い席で帰る準備をせっせとする中、

利奈は学生鞄から筆箱を取り出し、消しゴムを閉まって元に戻した。

 

さて、起立の声。 立ち上がって礼をする。

 

とっとと帰りの会を終わらせて、早く帰ろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

寒空の中の普通の帰り道、利奈は雪を踏みしめながら

リュミエール本部を目指して滑らないよう歩いていた。

 

足元のまっさらな雪を見つめ、

それを踏みしめる音を聞きながら

無心で大通りを歩いて行く……

 

 

ふと肩を叩かれ、振り返ったならそこには海里がいた。

懸念が無くなって表通りを歩くようになった利奈は

海里とも帰り道が途中まで一緒になったのだ。

 

「今日も勉強おつかれ」と明るい声で言われたなら、

利奈は笑顔で「海里もおつかれ」と返す。

 

それを聞いた海里は急に、ばっと利奈と反対方向に顔を向ける。

 

赤面で口を手で覆った……利奈はどうしたんだろうと思うだけ。

 

 

上田「え、今日は集まらないの?」

 

 

帰り道を共に歩きながらリュミエールについて話をしていたが、

本部に行くつもりだった利奈に海里は今日は違うと告げた。

 

 

清水「そういう事になるな。

 

芹香と蹴太はいつもの塾で、絵莉からはクインテットの方で

次の休みに池宮である(男性アイドル)のライブについて、

交通機関とかも兼ねた予定を組むんだとよ。

 

俺もそのボトルシップについてなんか頭の隅に引っかかるんでな……

ちょっと整理してみる、曖昧な情報が多いんでな」

 

上田「情報を?」

 

清水「おう、脳内整理ってやつ」

 

上田「すごいなぁ……私そんなにたくさん知らないもん」

 

清水「頭ん中の許容量が多いってだけだよ」

 

 

その許容量が気になった利奈は、いくつかの題を投げかけてみた。

自分なりに、ちょっと難しいのも混ぜてみる。

 

 

上田「お父さんが鹿児島県民」

清水「火本(ひもと) 徳穂(のりお)、自称は魔法侍」

 

上田「抹茶チョコレート」

清水「里口(さとぐち) 千代子(ちよこ)の好物だな、使う魔法は『飲料』の魔法」

 

上田「実は黒帯」

清水「それは山巻(やままき) 唐輝(からて)、一年の時に空手の型を競う大会で優勝した実績を持ってる」

 

上田「優勝!? 唐輝さん優勝してたの!?」

 

清水「してるぜ、その時の優勝の盾も学校に飾ってあるな。

……利奈、その様子だと知らなかったろ?」

 

上田「うん! 知らなかっ……あ」

 

清水「俺に情報で勝とうなんざ、10年は早いな……利奈なら5年か?」

 

そう言って海里は利奈を見てニヤリとして笑った。

利奈は明らかに悔しがっている、その素直な反応の可愛いこと。

 

何年早いかを増やすのではなく減らす当たり、海里の優しさが垣間見る。

 

 

清水「っと、この辺で利奈とは別の道か。

冬の夜道は暗いし寒い……気をつけて帰れよな」

 

上田「ありがと、またね海里」

 

清水「おう! また明日な」

 

海里は利奈に手を振り、分かれ道の先の曲がり角に見えなくなってしまった。

 

 

その先、海里は小さなお店のショーウィンドウに寄りかかった。

ガラスに照らす柔らかい灯りが、海里の影を雪に写す。

 

清水「……やっぱ気づいてないのか」

 

『海里』……何をきっかけに、利奈はそう()()()()()呼び始めたのだろうか?

いくら頭の中を探ろうとも、その答えになりそうな情報はなかった。

 

当たり前だ、そうなるきっかけは海里の意識が虚ろな時にあったのだから。

 

今は、その声を思い出すたびに自らの強い鼓動を1つ1つ、実感をしていくだけだ。

 

白い吐息をそっと吐き、晴れた暗めの寒空を見上げる。

 

街明かりに星々が負ける中、ほんの少しの星と人工衛星が静かに夜空で輝いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

利奈はそんな海里の心情なんて知らない。

本部によらず、普通に自宅への帰路につく。

 

猛吹雪に慣れてしまった体は、コートや手袋の防寒の力を借りてるけど

その気温にすっかり慣れていた。 この位の寒さ、なんのその。

 

今日は吹雪かない、それはありがたい。

 

風が吹くか吹かないで、体感温度はかなり変わってくるからだ。

 

風に吹かれた雪の粒は、不意に瞳に入って来たり

息を吸った口の中に入ってきたりと、色々と不意打ちがひどい。

 

風が無いなら、頭や肩に雪が積もるだけ。

 

 

上田「今日も見つからなかったなぁ……」

 

 

利奈はハチべぇのいないサブバックから赤い水玉の巾着を取り出し、

ハンカチに包まれたボトルシップを手にした。

 

キラキラと輝くジェルの海は、街灯の光を淡く乱反射する。

 

ため息交じりに吐く吐息、その色をぼんやりと見た。

 

まるでボトルシップの中のヨット、その白い帆のようには白くない。

 

 

……ん? ()()()()

 

 

上田「あれっ?」

 

矛盾に気がついた利奈は再び息を強く吐いたが、

その空気交じりな水蒸気は白くなる事なくその存在を現さない。

 

 

 

 

ふと、頬に暖かな熱気を感じた。

 

こんな鳥肌が立つ程に寒い中では、起こるはずもない熱めの熱気。

 

あったとしたら異常気象、その要因が気になってくる。

 

 

 

 

上田「なんで温かいんだろ? 屋台でもやってるのかな……」

 

 

ボトルシップをしまって進む先、そこで起こるは好奇心。

 

熱気を感じる方へと進む利奈、大通りから外れ路地裏を進んだなら……

 

そこには広く空けた場所があった。

 

さしずめ、古い大きめの建物を取り壊した跡地と言った所だろう。

 

そこは本来、たくさんの雪が積もっているべき場所……

 

しかし、そこは砂利が混ざった茶色の土が剥き出しになった状態でそこにあった。

 

 

空き地周辺だけが雪が積もっていないのか?

 

いや、そんな都合の良い話が現実に存在する訳がない。

 

溶けたのだ、熱によってその周囲だけ。

廃材の山の頂上に存在する、()()()()()から発せられる熱で。

 

 

上田「魔女!?……違う、これ魔男だ」

 

 

利奈の言う通り、そこにあったのは魔男の結界のエンブレムだった。

 

ひっくり返った3つの勾玉が、円を作らず手裏剣のような形を象る。

 

穴が空いているはずの真ん中、花びら全てが縄模様なアヤメの花が、

一輪だろうが迫力ある狂い咲きをしていた。

 

 

おっと、何故利奈はこれが魔男のエンブレムだとわかったのだろうか?

 

せっかくの機会だし、今一度説明しておこうか。

 

判断材料となったその秘密、それはエンブレムの形にある。

 

魔女のエンブレムは不気味だが可愛げな雰囲気だったり、

形状が丸型や花型だったりと丸みを帯びた物が多い。

 

そのエンブレムを引き立てる様々な種類のモチーフも、

ハートや星などが多く使われていてどこか女の子っぽい雰囲気。

 

例外として黒板の魔女のような四角い形なんかもあるが……

『鋭角が少ない』と言ったらわかりやすいだろう。

 

トゲトゲとかギザギザが少ないのだ、あったとしてもその数は少ない。

 

 

一方魔男のエンブレム、こちらは逆にクールだったり

かっこいい雰囲気だったりと可愛げな雰囲気とは程遠く、

 

形状も直線を多用したような丸くない異形が多い。

 

比較的丸い形をしたのもあるが、その形状はイガグリのようだったりと

やはり魔女のエンブレムに比べたら『鋭角が多い』と言えるだろう。

 

引き立てるモチーフも、1種類だけであとは直線曲線を駆使した

複雑な彫り込みがあったり、はたまたシンプルだったりする。

 

全体的な印象としても、やはり男性向きという雰囲気だ。

 

 

まぁそういうことで双方のエンブレムには大きな違いがあるって事だ。

 

花組の中でも魔女や魔男との戦闘の経験が特に多い利奈が、

ちょっと前に気がついてリュミエールに広めて

一同で伝えても大丈夫と判断して海里が花組に広めたというわけ。

 

エンブレムの形なんて一見どうでもいい要素に思えるが、

魔女と魔男ではかなり違いが出てくる為、これも戦闘で大切な判断材料だ。

 

 

さて、利奈が今回の魔男の元の身体、抜け殻を見つけたようだ。

 

周りに誰もいない事、人の気配の無さを確認したのなら、

赤いスカーフを4枚作り出して1つに丸めて握りしめ魔力を込める。

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

赤色の光を放ったかと思うと、利奈の手の中のスカーフは

ふわっふわの枕に布団に敷布団……抜け殻保護のレベルが

日に日に上がっているような気がするのは気のせいだろうか?

 

もちろん、一般人から抜け殻を隠す為のカバーだって忘れない。

 

それらは抜け殻を優しく包んで寝かせ、一番奥のガラクタの後ろに隠す。

 

 

上田「誰もいないって事は魔力を使い過ぎたのかなぁ……早く助けてあげなきゃ!」

 

 

指輪のまま魔法を使っていた利奈だったが、

これををソウルジェムに戻して声をあげる。

 

 

上田「変身っ!」

 

 

利奈の掛け声を合図にソウルジェムが赤色の光を放つなら、

その姿をよく見慣れた赤い魔法少女に変えた。

 

いつもの赤い奇術師……ん? いつもとはちょっと違う、言うなら亜種。

 

上田「え、あれっ?」

 

今の格好を言葉にするなら……

 

 

長袖だったタキシード風の上着は袖が無く、二の腕まである絹の長い手袋。

 

ミニスカートは動きやすいショートパンツに形を変え、ハイソックスは短くなる。

 

長いブーツも短くなって素足が見える程で、

その肌の白さが利奈のインドア派を物語っている。

 

頭の片側に乗っていたシルクハットは巨大化し、利奈の頭をすっぽりと覆った。

 

長々と伸びる赤い髪は結ばされ、下向きの2本結びで着飾った。

 

 

まぁ簡単に言えば、いつもより露出度は高めといった感じだろう。

いわゆる、季節感を取り入れた衣装チェンジ。

 

 

上田「可愛いけどちょっと寒いなぁ……早く動いて体を慣らそう。

 

 

アンヴォカシオン!」

 

 

『ちょっと』と言う辺り、魔法使いの体はそれなりに異常気象には強いらしい。

こんな寒い中、半ズボンというのは……考えただけでも鳥肌が立つ。

 

まぁ、とにかく今回のソロ狩といこうか。

 

利奈は慣れた手つきで棍を1本召喚し、警戒しながら結界に入っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

……聞こえるのは、不思議な和風の賑やかさ。

いつのまにか過ぎ去った、淡く儚い祭りの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目に聞こえる和風の笛の音……

骨まで響く太鼓の音……

鳴るのは、不思議で和風な演奏。

 

 

見渡す先は祭りだった。

普通の数倍のでかさはある屋台は、

自分は幼子に戻ったのでは? と

錯覚をしてしまうほど。

 

錯覚を打ち消すのは大きめの丸い砂利道、

隙間から儚げに咲く菖蒲の花。

屋台に寄り添うようにそこらじゅうに咲いていた。

 

 

青みを帯びた紫で統一された、

よくわからない文字の店名な

屋台の数々。同じ店はない。

 

屋台は懐かしいものばかり。

たこ焼き器に鉄板と綿あめを作る機械、

フライヤーにクレープ焼き器まである。

 

その品々は紫がかった物ばかりだが、

品揃えは豊富なようだ。

 

 

結界の中は菖蒲の祭り、

悪い点はうるさいまでに響く

よくわからない和風の演奏位か。

 

 

上田「暑い……夏みたいにじりじりする。

風吹いてるみたいだし、この格好で良かった」

 

暑がる利奈の言う通り、

その結界の中は例えるなら『夏』。

蒸し暑いでかく汗は、

利奈の手袋に吸収されたり

肌の上でやんわり蒸発したりした。

 

蒸発した汗は、体内にこもる熱を

身体から追っ払ってくれる。

 

利奈の魔力は結界に入る前に

この気候を感じ取っていたのだろうか?

いやはや、魔法とは便利な物だ。

 

 

上田「あんまり怖くないな、

そんなに絶望しないで孵化したのかな」

 

ふと、ギリギリ手の届く位置にあった

ふわふわとした薄紫の綿あめを

もぎゅっとむしり、試しに口にして……みた!?

こら、天然! それ魔男の作ったお菓子だよ!?

 

上田「美味しい、ぶどう味だ!」

 

……美味いんかぁ〜〜い。

しかも手、べたついてないじゃん。

結構質の良い綿あめだな、

ちょっと食べてみたいとか思っちゃったわ。

 

脱いだシルクハットを当てたなら、

面白いように巨大な綿あめは

吸い込まれてその帽子の中に

ひゅぽっと収納されてしまった。

 

 

どうやら孵化して間もないというのは

本当に間もなかったようで、

特に周辺の物に不吉な細工はない。

 

全体の不気味さもちょっと控え気味。

ふむ、利奈の言う通り

そんなに絶望しないで

孵化をしてしまったと思われる。

単なる『完全な魔力切れ』だろう。

 

まぁ、使い魔の姿が

見当たらないのが気になる。

警戒は解かない方がいいらしい。

 

 

上田「私より大きい物もしまえちゃうのか、

このシルクハットどうなってるんだろ」

 

強いて言うならそれが『魔法』だ。

不可能を可能にする不思議な魔法、

きっとどこかにそのシルクハット

独特の空間でも保持しているのだろう。

きゅっと被り直し、先へと進んだ。

 

 

しばらくそんなに入り組んでいない、

巨大な屋台に挟まれた砂利道を歩く利奈。

まぁ屋台といっても、食べ物だけではない。

 

 

覚えているだろうか?

水槽に泳ぐたくさんの金魚、

やってみたけどポイが脆い。

 

覚えているだろうか?

並ぶ銃と鉄皿のコルク弾、

打ってみるけど的が重い。

 

覚えているだろうか?

思い出せば懐かしい物ばかり。

白ヒモのくじに、オモチャ屋さん。

 

あれ欲しいこれ欲しいと言ったが、

何度、親にダメだと言われた事か。

だからこそ、買ってもらった

いくつかの物はとても大切で、

時には一生の宝物になるのだろう。

 

祭りの記憶も、それに近い。

 

 

おっと、進展があったようだ。

不意に和風の音楽が小さくなる、

まるで『何か』が来るから静まり返る、

気の利いたゲームのBGM。

 

目を向ける先、それを見た利奈は

持っていた棍をきっちり構えた。

 

 

驚異的なジャンプ力でポンポンと、

着地時に硬い太鼓の音を

出しながら、飛び跳ねながら、

太鼓を模したそいつらは

道の先からやってきた。

 

プロペラ状に設置された、

どうやら腕らしい伸縮するバチは、

高速回転で当たったら痛そう。

 

 

膜鳴の使い魔、性質は間奏。

 

 

頭の周囲を囲む大量の黒い瞳が、

祭りに入り込んだ異質なお客を

細部までじっくりと捉える。

穴が空いていない勾玉の模様が、

空いた口のようでどこか不気味。

 

無限ではない、魔男という生物の体力。

永遠にその響きを続けるために、

使い魔は休憩中のその間を繋ぐのだ。

まぁ、今はその演奏は見当たらないが。

 

 

使い魔はバチの腕を

尋常じゃないスピードで

回転させながら、利奈襲いかかる。

 

たくさんいるそのうちの1匹が

利奈の目の前までに迫ったが、

棍の素早い一撃に弾き飛んで

屋台の壁に鈍い音を立てて激突をした。

 

 

さて……始めようか、久々のソロ狩。

 

 

利奈のゲーム脳が、起動した。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

目指すは結界の最深部、魔男のいる空間だ!

 

 

勢いをつけて走りこむ道中、

軽快な太鼓の音を立てながら

利奈に突っ込んできたが、

攻撃の仕方が端的で対した事ない。

 

こんなの棍を2本も使うまでもない、

手軽な1本の乱舞で充分だ。

とはいってもやはり数は数、

本来多人数でやる事を

1人でやってるんだから

手は抜かない方が良さそうだ。

 

利奈の動きは身軽なもので、

時には倒した使い魔を踏み台に、

屋台の壁を蹴り出すなりして

若干不安定な砂利道を走り抜けた。

 

上田「やっぱり数が少ないな、

これなら一気に行ける!

やあああぁぁぁっ!!」

 

進む先から現れる使い魔の数も、

段々とその数を減らしていく。

順調な戦況と共に、利奈は先へと突き進む。

 

 

結界も中盤に差し掛かる頃、

太鼓を模した使い魔は

もう姿を現さなくなった。

 

どうやら倒し切ったらしく、

一旦息を落ち着かせて

冷静に周りを見渡してみた。

 

周囲は相変わらず屋台だったが、

なんだかおかしくなっている。

なんというか……1つ1つの屋台が

融合してしまっているようだ。

 

鉄板とクレープ焼き機の鉄が

ぐんにゃりと繋がってしまったり、

フライヤーの中でたこ焼きが

何個も揚げられてたりと、

色々と混ざってしまっている。

 

揚げたこ焼きなんて胃がもたれるだけ、

袋に入ったポテトはぶどう味?

……なんじゃそりゃ、食べたくない。

 

青みの紫がかった光景も、

不気味な色味が増してきている。

砂利道の丸石も歪な色が混ざる。

 

 

上田「なんか、これぞ結界!

って感じなってきたなぁ……

早く魔男を見つけなきゃ」

 

利奈は周囲確認兼休憩を終えて、

歩きという名の早歩きを再開した。

いや、本人は早歩きをしている

つもりはないらしい。

1つ1つの歩幅がでかいのだろう。

 

しばらく進んでいくと、

上空に何やら鳥? のような

空飛ぶ生物が見えてくる。

どこかに進んでいるようで

地上には見向きもしない。

 

次に向かう先はその方角だろう。

一本道だったのが入り組んできた頃、

このタイミングでの異変はラッキーだ。

 

右、左、次はまっすぐ。

そんな感じで先へ先へと進んで行くと……

 

 

?「くっ、来るなぁ!!

来るな来るな来るなああぁぁ!!」

 

 

上田「っ!? 何!?」

 

唐突に響く悲鳴、考えもしなかった第三者。

道の先から走ってくるのは、

まるで時計のような魔法使い。

 

逃げる事しか頭に無いのか、

本来指す事で攻撃するランスを

ぶんぶんと振り回している。

 

相手は空飛ぶ使い魔、

適当に振り回したんじゃ

まず当たるわけが無い。

 

 

膜鳴の使い魔、役割は集客。

 

 

飛べそうにない勾玉型の羽を持つ鳥……

それでも空を飛ぶ、だってこれは鳥だもの。

無茶苦茶だと思うかもしれないが、

魔の物は大抵無茶苦茶だろう?

 

菖蒲色の羽毛、腹に刻まれるは

太鼓の金具のような模様、

その尾はまるで菖蒲の花びら。

 

ちゃんと鳥をしている辺り、

ほぼ生まれたての魔男の

実力の無さを物語っている。

 

それなりの魔法使いでも

戦えば倒せそうなものだが……

何故か、彼は逃げている。

 

 

上田「落ち着いて!

使い魔をちゃんと見て!!」

 

利奈の声に少年はハッとなって

軽く飛んで後ろに振り向き、

狙いを定めてランスを突き出すと

ドスンっと使い魔を串刺しにした。

 

狙いも的確、込める力も良し。

なんだ、戦えるじゃないか。

何故逃げていたのだろう?

 

立ち止まった少年を狙い、

使い魔は矢のように

ビュッとくちばしを突き刺そうと

突っ込んだらしいが、

それは前線に出た利奈の棍によって

弾き飛ばされ防がれた。

 

まだ少年は怯えたような表情だが、

小さめな使い魔は数が多く

狙ってくるのは利奈だけではない。

これ以上逃げるのは許されないらしい。

 

?「う、うぅ……っえええぇぇぇいっ!!」

 

刺して払って刺して払って……

一突きという名の一撃で使い魔を倒した後、

払う事による遠心力で使い魔の死体を抜き、

再び次の使い魔を突き刺す。

 

一連の動作は見事な『乱舞』となっていた。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

空中にいる使い魔を、

見知らぬ魔法少年を守りながら

戦うというのはキツイもので

利奈は両手に棍を持ち、

猛スピードで乱舞を放つ。

 

上田「たあああぁぁぁっ!!」

?「もうやだあああぁぁぁ!!」

 

棍とランス、双方の乱舞は

空飛ぶ異形の鳥の数を減らしていく。

辺りに響くのは笛の音のような、

高い高い断末魔だけだ。

 

 

?「これで……最後っ!」

 

ドスンッ! 最後の使い魔を突き刺す、響くのは断末魔。

 

【Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaa!!??】

 

……ビュッとランスを払うなら、ぐちゃっとその死体は崩れ潰れた。

 

 

?「っはぁ! ハァ……ハァ……」

 

上田「大丈夫? すごい数だったね」

 

少年はランスを砂利道に突き立て、

肩で息をしてぜーぜーいった。

 

技術があるのに体力がない……

逃げてばっかりだったのだろう。

逃げる技術だけが上がったのか。

 

?「……自分、に」

 

少年は苦い顔でなにか言おうとしたらしいが、

先に利奈が彼に声をかけた。

 

上田「逃げていたのには

なにか理由があるんだね?

 

でも聞かないでおくよ、

多分複雑な理由だと思うから。

 

私空気読めないから、

その真意は絶対にわからない。

 

でも、今は前に進もう。

ここから出るには結界の主を、

魔男を倒すしかない」

 

?「関わらな……え?」

 

上田「立てる?」

 

?「あ、あぁ、立てます」

 

なにやら利奈の言葉に驚いた様子だが、

その理由は今の利奈にはわからない。

 

ただ彼のランスを持っていない手を

棍を手放した片手で取り、

立ち上がる手助けをするだけだ。

 

?「魔男なんですか?」

 

上田「多分ね、入口のエンブレムが

魔男みたいだなって思ったから」

 

?「そう、なのか……」

 

ほんの僅かだったが、

彼のランスを握る手が

強くなった様に見える。

 

?「……本当は戦うなんて事

自分は全力でしたくないけど、

アンタ以外に魔法使いはいなさそうだし、

相手が魔男なら……戦えない事はない」

 

上田「ありがとう、じゃあ行こうか!」

 

返事は無いが、少年はほんの少しうなづく。

利奈はその様子を確認すると、

使い魔の死体が転がるこの場を後にして

先へと進んで行った。

 

さっきとは違うゆっくりとした歩きだ、

無意識に少年のペースに合わせているのだろう。

 

少年は利奈を盾にでもするような動きで

1mくらい後ろをついて行った。

 

なんか盾って嫌な表現だが……

まぁ、利奈からしたら

ついて来るだけ幸せってやつかな。

 

 

再び不気味になってきた祭りの

ちょっと入り組んだ砂利道を進むなら、

その先に鳥居を見つけるだろう。

 

その中央には扉があり、

周辺の鳥居内の空間は

石を投げ込まれたての水面の様に

激しく、ゆらゆらと歪んでいた。

 

魔男は、この先にいるらしい。

 

上田「準備はい」

?「早く終わらせよう」

 

後ろを向いて声をかけようとした利奈だったが、

それをはじき返す様に少年は強く回答する。

 

上田「い……うん、わかったよ。

早く終わらせて帰ろうか」

 

どちらにせよ逃げていたのだ、彼は。

利奈は彼の為にも今回は素早く倒そうと

自分の中で目標を立てた。

 

 

否定的な態度に怒ろうとは、

利奈は微塵も思わなかった。

 

その逃げの体制、感じる恐怖。

それはどこか昔の利奈と重なり、

その辛さが利奈にはよくわかった。

 

でも、それは完全ではないと思っている。

何故なら辛さは人それぞれで全部違う、

結局本人にしかそれはわからないんだから。

 

 

上田「行くよ!」

 

?「……うん」

 

やっと出た声のボリュームは、

ようやく普通といった感じか。

その声に利奈は思わず笑み、

少年はその様子を不思議そうに見た。

 

さて、菖蒲が描かれた

和風のふすまに手をかけたなら、

勢いをつけてピシャリと開けた。

その先に広がるのは盆踊り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんどん太鼓、鳴る太鼓。

眼下に咲き誇るは菖蒲の花。

お客もいない孤独な祭り、

切なさ香る菖蒲の祭。

 

歪な色の砂利の地面にそびえ立つ、

3段重ねの巨大なやぐら。

下がる垂れ幕はシルエットが踊る柄、

そんな舞台の上に彼はいる。

 

 

その姿を大雑把に言うのなら、

なんとか赤牛と言える程だろう。

 

複雑に折れ曲がった角の、牛の頭を2つ持つ生物型。

太い四足は人間の足、変色して異質を放つ。

腹には漆黒の皮が張られ、

木製の胴体の大体真横中間にある

球体がついた腕が轟音を鳴らす。

音の追い打ちをかけるのはバチの尾、

2本の腕と1本の尾の3本で

うるさいまでに音を鳴らし続けた。

 

 

太鼓の音は響く音、

強く張った膜から振動は鳴る。

 

 

膜鳴(まくめい)の魔男、性質は轟き。

 

 

誰も聞きやしない音を響かせる、

うるさいまでの自己主張を響かせる。

 

 

だが、ずっとそれが続くわけにはいかない。

魔男疲れて休憩をしたが、

間を繋ぎとめる使い魔はもういない。

 

湧き上がるのは怒り……

その矛先は、結界に侵入した

招かれざる客へと向けられた。

魔男はやぐらから飛び出し、

利奈達の方へ突進して来る。

 

?「ひいぃぃ!? こっちに来る!!」

 

上田「君! 飛行魔法は使える?」

 

?「へっ!? と、ととと飛べるけど

操作がまだ完璧じゃないよ!

適性型って言われたけどよくわからない!」

 

焦っていたのか尋常じゃない早口だったが、

知ってる単語ばかりな上

頭の回転がはやい状態での

理解は容易な物だった。

 

上田「そのランスにまたがって飛ぶんだね?」

 

?「そっ、そうだけど」

 

上田「私の魔法でサポートする、

とにかく飛べれば十分だよ。

 

 

アンヴォカシオン・アロンジェ!」

 

 

利奈は手に魔力を込めて

2つの魔法を同時に唱えたなら、

鉛筆程の小さな棍が生成された。

 

軽く操作するなら、

少年の持っているランスの

後ろの方に巻きついた。

 

上田「これで大丈夫……っ!?」

 

?「うわっ!?」

 

一定のスピードで走っていた魔男、

ドンッ! と腹についた太鼓を叩いたなら、

急な加速をして2人に突っ込んだ!

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

利奈は咄嗟に棍の箒を作り出し、

少年がしっかり握りしめていた

ランスを片手に上に飛んだ!

 

?「わっ!? ちょ、急!

 

 

キキメイコライザー!!」

 

 

2人がかりの飛行魔法は、

たやすくとは言わないが

魔男の不意打ちを回避した。

 

空中で少年は利奈の手を借りて

ランスを使って空中にとどまる

自らの飛行を整えたが、

利奈はハッとなって慌て出す。

 

上田「ごっ、ごめん!

咄嗟に引っ張っちゃって……」

 

?「強引、次から気をつけろ」

 

言ってることが冷たいが、

どこか無理をした冷たさで

利奈は違和感を感じながら反省した。

 

そんな中、魔男は地面を飛びもせず

やかましい音を鳴らしながら

猛スピードで走り続けた。

単純で戦闘に工夫がない……

まぁ、魔力切れにより孵化した魔男なら

強さはこんなものだろう。

 

無駄な魔力使わないうちに、

とっとと戦闘を終わらせてしまおう。

 

上田「どう戦いたい?」

 

?「どうって……戦いたくない、

出来れば後ろに回りたい」

 

だからさぁ……まぁ、正直でよろしい。

これをマイナスに受け取らないのが

利奈のすごいところだろう。

 

彼女は『池宮の精神』が誰よりも強いのだ、

自分が受け取れなかった分まで……ね。

 

上田「教えてくれてありがと、

じゃあ後衛はよろしくね!」

 

利奈は棍の箒に乗ったまま、

手に持つ1本の棍をしっかり握りしめて

魔男へ向かい加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「リュミエール……

ただの馬鹿溜りじゃないのか?

 

何なんだ彼女は……変な人だな。

 

 

サンデードライバー」

 

 

空中で両手に魔力を込めて

パンっと両手を叩いたなら、

魔力の火花が別タイプのランスが生成され、

彼の周囲をファンネルの様にまとうだろう。

 

利奈から距離をある程度置き、

その矛先を魔男に向ける。

 

?「この状況、自分逃げればいいのに……

気でもくるったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ始めよう、孤高の奇術。

祭りに終わりの時を捧げ様ではないか。

 

いつもとは違う涼しげな衣装、

じりじりとした暑さなんて

慣れでとっくの昔に忘れてしまった。

 

腹太鼓をやかましく響かせながら、

魔男は本来の意欲を忘れ

祭り会場にみたてた空間を暴れまわった。

 

それでも、立ち向かう1人の魔法少女はひるまない。

轟きに屈せず、利奈は宣言するだろう。

 

 

Tu es prêt?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Bmoooooooooooooooooo!!!!】

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「……っ!?」

 

少年はその戦いっぷりに驚いていた、

戦場に立たないどころか

ほとんど逃げる彼は、

利奈の様子なんか知るわけない。

 

魔男も早いものだったが、

それについて行き乱舞をする、

魔男の腕や突進と一戦を交える

利奈の素早さも尋常じゃなかった。

 

魔男の腕が利奈をおもいっきり

殴ったかと思えばそれはかわされ、

逆にその腕にダメージを与えた。

 

突進が加速したかと思えば、

逆にその加速を利用して

2つの頭をフルスイングで殴る。

 

隙を見て時折ランスを投げつけるが、

利奈に当たることなく魔男刺さった。

それどころか、ちゃんと刺さるように

魔男を誘導している様にも見える。

 

【Nmoooooooooooooo!!??】

 

……ふむ、かなり圧縮された

木製の本体に傷が増えてきた、

この辺が頃合いだろう。

 

上田「全体が満遍なく傷ついてるのに、

お腹の辺りだけ傷が少ない……

この魔男の弱点は『太鼓』かな。

 

 

クグロース!」

 

 

両手に棍を握りしめて魔法を使うなら、

その棍は太さを一回り程増して

魔力の容量が普通より増える。

 

?「あっ……!」

 

少年は勘でわかったのだろうか?

いや、これは別っぽいが……

今は理由はわからない。

 

咄嗟に残ったランス全てを投げ、

魔男の足首全てを捉えた。

そのまま地面に張り付けにし、

身動きが取れないようにする。

 

上田「ファインプレーだよ!」

 

利奈はそのまま高出力の魔力を

持っている棍に注ぎ込み、

赤色の刃を作り出す。

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。

赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

その赤々とした刃を

おもいっきり振りかぶって、

向けた先の魔男にぶつけた!

 

ザンッ! っと斬撃音が響き、

魔男の腹についた太鼓を削ぎ落とす!

 

魔男はガクガクと痙攣したかと思うと、

切られた腹の空洞から黒い魔力が噴き出し、

頭を揺さぶる程のでかい断末魔をあげた。

 

上田「ゲーム、クリア……っわ!? うるさい!」

 

利奈は耳を塞いで距離を置き、

その結末を見届ける事にした。

少年はただただ呆然としている。

 

その勢いは止まる事を知らず、

高くそびえ立つやぐらがぼやける程に溢れた。

ひっそりと咲く菖蒲の花は、

今となってはもう見えない。

 

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

並ぶ不気味な屋台たちも、

腹にでかでかと穴が空いた魔男も、

歪な色の砂利も全て吸い込み、

結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは、

濁りなき菖蒲色のソウルジェムと

太鼓がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……膜鳴の魔男を救った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

雪は降る、容赦無く降る。

気がつけばガラクタの山は白く薄く雪が積もり、

むき出しの茶色の地面も白い雪に包まれた。

 

そのど真ん中にはカバーがかけられた

妙なガラクタとも言えない物体があるが……

 

 

「この辺に妙な結界があったって本当?」

 

「あぁ、ちらっと変な魔力を

感じたやつがいるらしいぜ」

 

「確か、この辺よね……」

 

2人の魔法使いが魔男がいた場所を見つけるが、

すでに魔男は誰かに倒されており

エンブレムさえそこにはなかった。

 

「何だこれ?」

 

そのうちの1人が物体を見つけたなら、

かけられていたカバーをがばっとめくった。

そこにいたのは寝かされた男子、

枕元にはソウルジェムがある。

 

「……って、菖蒲!? 菖蒲じゃねぇか!!」

 

「うそ、菖蒲君!?

でも菖蒲君は特訓があるからって

先に帰ったはずじゃ……」

 

「と、とにかく起こそうぜ!

誰か倒した後みたいだしな」

 

 

菖蒲という少年が息を吹き返す頃、

変身をといた2人の男女は

物陰からその様子を見届け、

帰路を歩く最中だった。

 

膜鳴のグリーフシードは利奈の手の中に。

 

上田「あの人、名前も菖蒲って言うんだね」

 

?「…………」

 

上田「……無視はちょっと傷つくかなぁ」

?「名前なんてどうでもいい」

 

上田「ふぇう!? うぅ……」

 

?「……さっきとは大違いだな、アンタ」

 

上田「へ、そう? 自覚無いんだよね」

 

?「二重人格か? 変な奴」

 

上田「多分違うと思うよ……あれ?」

 

ふと、利奈が変身を解いた彼を見るなら、

頭の片隅にあった記憶が

バチっと脳裏に映るだろう。

 

 

あれは確か、おとといの夕方……

 

 

『ニット帽にマフラーと暗い灰色のコート……』

 

 

上田「ああぁぁ!!」

 

?「ヒエッ!? な、なんだよ急に」

 

上田「おとといぶつかった人だ!

あっ、そうだもしかして……!」

 

利奈は彼の事を思い出すと、

持っていたバックの中から

ボトルシップを取り出し、

厳重な包みを解いて彼に見せた。

 

?「……!!」

 

彼は相当驚いたような顔をして、

利奈から何も言わずに

ボトルシップを受け取った。

かなり大事な物だったのか、

すがるような様子でそれを握りしめる。

 

上田「良かった、落とし主が見つかって。

探しても見つからなかったから安心したよ」

 

利奈はホッとしたような表情で

一連の結果を見たが……少年の様子はおかしかった。

 

?「アンタらの……せいで……!」

 

上田「……え?」

 

 

?「アンタらのせいだ!!

知ってたよ、リュミエールの誰かが

ボトルシップを持ってた事!

持ち主を探してた事なぁ?

 

目立つの嫌だってのに……!

大々的に探しやがって……!!

 

ふっざけんな!!!」

 

 

上田「…………」

 

?「どうせ弄んでたんだろ?

花組なんかどいつもこいつ……も」

 

少年は安心した事で湧き上がった怒りを、

そのまま全部利奈にぶつけた。

返ってきた反応は少年の予想を反し、

暴言は途中で止まってしまう。

 

 

利奈は……泣いていた。

 

 

上田「ごめん、なさい……」

 

静かにこぼれる大粒の涙。

少年は怒るとでも思っていたのか、

反応に明らかな動揺が見える。

 

?「な……なんでアンタが泣いてんだよ」

 

上田「そんな風に苦しんでるなんて、知らなくて……

そのボトルシップすごく大事な物だったのに、

わた、私、わた……し……!」

 

 

利奈が泣いている様子を

少年はただ呆然と見ていたが……

しばらくして、声をかけた。

 

?「……アンタ、本当に変な奴だな。

さっきから自分はわざと嫌味な対応したが、

 

何故、一切怒らない?

 

何故、自分を責めるんだ?

 

……泣くなよ、見苦しい。

落とした自分にも落ち度はあった」

 

上田「……でも「津々村だ」え?」

 

津々村「なっ、名前だよ!

まだ言ってなかったろ?

津々村(つつむら) 博師(ひろし)、2年花組在籍。

 

……わっ、わわわ悪かったよ!

泣かせる気はなかっ、たんだと思う。

 

素直にありがとうとは言わないけど、

アンタが見つけなきゃ一生雪の中った」

 

……なんだそりゃ。

 

途中から内容も微妙で

支離滅裂になっていたが、

その必死さは十分伝わる。

 

利奈はコートの袖で目元を拭い、

熱を持ったまぶたで微笑むだろう。

 

上田「上田 利奈です。

名前教えてくれてありがとう、博師さん」

 

津々村「やっ、やめろよ!

お礼とか慣れてないんだ!

自分はもういくよ!」

 

博師ははずかしさもあってか

その場から逃げるように去ろうとしたが、

利奈はそれを引き止めた。

 

上田「まっ、待って博師さん!

ソウルジェム浄化してないよ!」

 

慌てて博師の左手を掴むなら、

その中指にはまった指輪を見る。

自然で柔らかな水色の石には

4分の1程が穢れている。

 

利奈は膜鳴のグリーフシードで

博師のソウルジェムを浄化しようとしたが、

博師は利奈の手を振り払う事で

何故か浄化を拒否した。

 

津々村「いいよ、浄化しなくても。

 

 

……どうせ孵化するもんだから、これ」

 

 

上田「……え?」

 

一瞬、利奈は背筋が凍ったかと思った。

博師の最後の言葉、妙に暗い。

まるで絶望でも吐き出したような言い方だ。

 

だが、深入りは出来ない。

絶望は簡単に他人に見せる物ではないからだ。

出来る事があるとすれば、触れない事だけ。

 

津々村「じゃ、自分は行く。

後で自分のグリーフシードで浄化する。」

 

上田「あぁ……うん、気をつけてね」

 

博師は笑いはしなかったが、

最後にちゃんと利奈の目を見てうなづいた。

そのまま夜の暗い小道に消えて行く。

 

 

帰路につく中……利奈の心境は複雑だった。

ボトルシップの持ち主が見つかった喜び、

持ち主の絶望を見て何も出来ない悲しみ。

 

今の利奈にはどうしようもできない。

会ったばかりだからなのもあるが、

もっと深い、暗い何か……

簡単には触れられない何か。

触れてはいけない暗闇が、

利奈を拒んでいる気がしたからだ。

 

かつて、同じような『闇』を持っていた

利奈だからわかる彼の心情。

簡単には明かせない闇……

今出来るのは、その闇が滅びへと

向かわないように祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((ひぃ〜〜ろぉ〜〜しぃ〜〜!!))

 

津々村((……何ですか?))

 

((いやぁ、またグリーフシードが

足りなくなっちゃってさぁ?))

 

((不足なう〜〜!))

 

((ちょっと『収穫』させてくれない?

ぜんっぜんグリーフシード足りないの!))

 

((ピンチなう〜〜!

すぐに来てよ、あの場所!))

 

津々村((……トモちゃんには

何もしてないんでしょうね?))

 

((流石に約束は守るって!

実際、知己より質良いし?))

 

津々村((…………))

 

((早く来てよ〜〜暇なう!))

 

津々村((わかりました、今行きます。

 

 

今日は……いつもより、

上手く絶望できそうだから))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてボトルシップの持ち主は見つかり、

いつしか落とし主探しのブームも

収束へと向かって行った。

 

不真面目達はしなくなったが、

真面目達にこの習慣は身についたようで、

これは1つの活動として

後にポスターも作られたらしい。

 

 

そうして利奈は出会った。

人嫌いの勿忘草の魔法少年、

あからさまに戦闘を嫌う

逃避の荒波に出会ったのだ。

 

逃避の荒波は瓶の主。

ハッキリと喜ばなかったものの、

彼のボトルシップの扱いを見れば

その喜びようが明らかである。

 

となると……この時点で

ある事が明らかになるわけだが、

今それを述べるタイミングではない。

 

 

さぁ、次の朝を迎えよう。

リュミエールに事の収束を伝えなければ。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「ははは……その時は世話になるぜ」

 

 

 

上田「うん、ありがとう」

 

 

 

地屋「ん〜〜あ〜〜……

ここで考えても全然わからねぇな」

 

 

 

下鳥「確かに、決定的な証拠ね」

 

 

 

〜次……(18)逃避の荒波と瓶の主〜

〜終……(19)被る黒と病弱少女〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




……まず最初に、利奈の消しゴム複数持ち、実話です実話w
実際大量に持ってました私……まぁそんなの自慢にもなりませんが。


まさかこの季節に祭りの話が
出るとは思っていないでしょうね (・∀・)ニヤニヤ
目の前にいる皆様、驚いたでしょう?

雪○クと言われたら負けますが(オイ
ん? 私ですか? 残念、
札幌と私の地域は程遠い。
……行きたかったな (´-ε-`;)


閑話休題、ちょっと今回の魔男について
お話しをましょうか。

膜鳴(まくめい)』という聞きなれない単語、
これは本来『膜鳴楽器』という
主に太鼓を示す言葉から
もじったまぁ『準俗語』なんです。

もっと専門的に言うなら……
強く張った膜状のものの振動に
よって音を発する楽器の総称。
大部分はたたいて音を出す太鼓の類。

うん、便利だコ○バ○ク(殴


雑談としても魔男の話題、
今回は『祭り』について語りますね。

お祭りかぁ……小さい頃は
家族でワイワイ妹と手をつなぎ、
賑わう屋台並びの中を歩いたものです。

その時の『すっぱいカスタードワッフル』が
1番記憶に残っていますね。
当時の私自身はなんとも思わず
半分位食べてしまったのですが、
父親に分けたら「捨てなさい」ですよ。
どれだけ私の胃は強いんだろう……

当時の妹は綿あめが特に好きで、
片手に私の手、もう片方は綿あめ
というスタイルが主でした。

私自身手がべったべたになるので
綿あめはあまり好きじゃなかったのですが……
うん、食わされてましたね妹に。
私が食べると笑うのが可愛いんだこれがww

……というのが、古い記憶。
今祭りに行くとしたら1人で行きます、
帽子を深々を被って顔を隠してね。

1人で祭りも結構楽しいですよ?
好きな物食べて好きな事して、
うちの地元の祭りは
バイクサーカスなんてやってるんで
かなり充実しています。

終いの果てにお気に入りの屋台の
おばちゃんに顔を覚えられました。
そりゃ覚えるわ毎年だものww

去年ももちろん行きましたが、
今年も行くつもりでいますよ?
最近はお手伝いの家族とかがいて
会話が弾むってもんです!

……流石に「いつも1人なの?」って
手伝いのオカンに言われた時は
その頭かち割ってやろかと思いましたが。

(#・∀・)<(どうせ1人だよ悪かったな!!)


さて、今回はこの辺で。
次回はある意味でですが、
事態の大きな進展を行います。

次回の第19話で『花の闇』の
もっと深い所までわかるでしょうね。
まぁ、皆様の考察と推理力次第ですが。

それでは皆様、また次回。
(。>∀<。)ノシ<(マッタネー!!)

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