それでは、どうぞ!
……バイトくんがほとんどPっぽいことしてますがツッコまないでください。
シンデレラプロジェクトで出た三人の欠員を補充するために武内さんが動いてくれている。
そして先程、武内さんがその枠を埋める一人を連れてきて今、目の前にいる。
「こんにちわ! 私、島村卯月って言います! 一人前のアイドルになれるように精一杯頑張ります!」
「武内プロデューサーと共に島村さんのサポートをさせていただきます。島村さんは元気一杯で良いですね」
「はい! 元気の良さだけは誰にも負けないつもりです!」
ニコニコと笑顔でそう宣言した島村卯月という少女に、僕も当然笑顔で対応する。
「きついことや辛いことが少なくない業界です。だけど島村さんはその素敵な笑顔を忘れないようにしてください。きっとそういった状況になった時に貴女を奮い立たせてくれるはずですので」
分かりました! とこれまた元気一杯で返事をしてくれる少女。これをじっ、と見つめて、
ーー彼女に、似ている。
不意に、そんなことを思った。
「あの、どうかしました?」
言葉に我に返ってすぐに笑顔を作り直す
「ああ、すみません。つい見惚れてしまって……流石は武内さんが笑顔を理由に連れてきただけはあるな、と思いました」
咄嗟に吐いた言葉が口説き文句のようになってしまったのは少し失敗だ。アイドルという立場にある少女にそういった言葉をかけるのはよろしくない。特にこの子とは今日が初対面だというのに?
「え、えへへ……なんだかそう言われると恥ずかしいですね」
島村さんは頬を少しだけ赤く染めて俯いてしまった。ひょっとしたら軽い男だと思われるかもしれないと考えたが、杞憂で済みそうだ。
……この程度で顔を赤らめるとは異性に対してあまり耐性がないのかもしれない、なんてどうでもいいことを考えてしまったのは心の中にしまっておこう。
「島村さんは残りのメンバーが決まるまでは今まで通りレッスンをこなしてもらいます」
「あ、はい! レッスン大好きなので頑張ります!」
ふん、と可愛らしく意気込む島村さん。どうやらやる気は十分過ぎるほどあるらしい。
しかしやる気だけで大成する世界ではない。少しだけこの子の将来が不安になる。
「もし島村さんがよろしければ今日のレッスンは僕が見てあげましょうか? うちのアイドル達が実際にやっているレッスンをしようと思うんですが」
「いいんですか!?」
「もちろんです。島村さんの実力も見てみたいですし……軽めのメニューでも今まで貴女がやってきたものよりキツイですがよろしいですか?」
「やります! やらせてください!」
ふむ、本当にやる気はあるようだ。それなら話は早い
「着替えてからレッスン場に向かってください……っと、レッスン場の場所は分かりますか?」
「はい! 大丈夫です!」
その言葉に安心し、自分もジャージに着替えるべく、部屋を後にした。
ーーーー
「……それで、迷子になってしまった、と」
「ごめんなさい……あんまり同じような部屋がありすぎて……」
いつまで待ってもレッスン場に来ないことを不審に思い、もしかしたらと思って探しに行ったら案の定、彼女は迷子になっていた
「今日ここに初めて来たばかりの島村さんを放っておいてしまった自分にも責任はありますが、分からないことを分からないままにしてしまった貴女にも責任はありますからね?」
「はい……ごめんなさい」
謝る彼女は先程話していた時よりもかなり小さくなっていた。まるで小動物のように縮こまっているように見える
「……まぁ、最初に言ったように僕にも落ち度がありますからそれ程気にしないでください。次から気をつければ良いだけの話ですし」
そうフォローしてみても、納得できないのか「でも……」とか言っている。さて、どうしたものかと少しだけ考えてから、
「それなら今の失敗をこれからやるレッスンで挽回してください」
これならどうだ。
「っ、はい!」
凹んでいる様子から一転、島村さんは最初と同じように大きな声で返事をした
「言っておきますけど、キツイですよ?」
「が、頑張ります!」
少し圧をかけてみてもそれに向かってくる気概はある、と
さて、島村卯月という少女のお手並み拝見といきますか。
「それではレッスンをスタートします」
ーーーー
レッスンを開始してから約一時間後、
「ふむ、とりあえず今日はこのぐらいにしておきますか」
「は、はひ……」
「疲労を残さないようにストレッチをしっかりしておいてくださいね。必要であればマッサージを受けに行ってください。明日以降、筋肉痛でもがき苦しみたいというのであれば別にしなくても良いと思いますが」
「ひっ!? や、やります!!」
疲れ切って座り込んでいた少女は慌てて体勢を立て直して、クールダウンを始めた。少し脅しすぎたかもしれない。
ーーらしくない。
辛そうな表情のまま、クールダウンに励んでいる島村卯月をじっと見つめる。
似ているのだ。『彼女』に。
当然ながら見た目ではない。中身が、似ているのだ。
「島村さんは……」
「? なんですか?」
「……いえ。今日はお疲れ様でした。よく頑張りましたね」
ーーどうしてアイドルになりたいのか、という不意に湧いた疑問を飲み込んだ
「えへへ……これぐらい、へっちゃらですよ」
辛そうな表情だが、確かに笑って彼女は言った。
きっと島村卯月には確固たる目標があるのだろう。だからこんな理不尽(僕がやらせたのだが)なトレーニングにも耐えられるのかもしれない。
そんな時、熱い……と、呟きながらTシャツをパタパタとさせているのを見て、
「タオルや着替えは……持ってきているわけないですね。急にレッスンさせてしまったわけですし」
仮にも年頃の女の子である彼女が汗の処理もできないというのは苦痛だろう。僕は持ってきていた鞄の中から小さめのハンドタオルを取り出して、
「これ、島村さんが嫌でなければ使ってください。言っておきますけどまだ使ってませんから綺麗ですよ」
「あ、ありがとうございます……」
「何か飲み物でも買ってきましょうか?」
「そこまでしてもらわなくても大丈夫です。だいぶ、落ち着いてきたので……」
「なるほど。それならもう少しレッスン頑張ってみますか? 本当はあと一時間程やる予定でしたので」
「えぇ!?」
「冗談ですよ」
反応があまりに予想通りすぎたのでついからかってしまった。新人をいじめすぎては本来のトレーナーに怒られそうなのでこれぐらいにしておこう。
島村さんの息が整い終わるまで大人しくしていよう、と壁にもたれかかるようにして待っていると、何か言いたそうにこちらを見ていることに気がついた。
「何か?」
「あ、あの。そういえばお名前を聞いていないと思って」
「ああ。名乗っていませんでしたね。僕の事は気軽に『バイト』と呼んでください。別に呼び捨てでも何でも構いませんから」
そう伝えると案の定、島村さんの頭には?マークが沢山浮かんでいた。初対面の人間は大抵、こういう反応をしてくれる。これが密かに面白い。
「あだ名の様なものだと思ってください。他の方もそのように呼んでくれていますから」
ようやく息が整ったらしい島村さんを連れてレッスン場を後にする。この後は少し離れた更衣室に連れて行ってからこの子と別れるつもりだ。
「でも、本名も知りたいんですけど……」
「あいにくと中二病をこじらせ過ぎてしまいまして。本名を忘れてしまったんです」
「中二病……? ふふふ、何ですかそれ」
楽しそうに談笑しながら並んで歩く。島村さんが早くここに馴染めるようにしてあげるのも僕や武内さんの仕事だ。
「改めてよろしくお願いしますね。えっと、バイトさん?」
ーーそう言って微笑む少女が再び、彼女に重なった。
違う、と自分に言い聞かせるように僕は一度目を閉じる。そして次に目を開いた時にはいつもと同じ笑顔を作っていた。
「こちらこそ。これから一緒に頑張っていきましょう。島村卯月さん」
いかがだったでしょうか?
ちなみにアニメと今回の矛盾は島村さんが初めて346プロにやってきた時はしぶりんと一緒だったという部分でした。
それはそうと、まだ話数も少ないのにたくさんの評価を頂いてとても嬉しいです! 作者のモチベーションに直結するというのがはっきり分かったので暇な時にでも感想、評価等お願いいたします!
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
……次回はきっと346の青い彗星の出番ですね。